百二十六話 ダークエルフ

 暫くして、キャネラスがダークエルフを連れて戻ってきた。


 おぉぉ。来たよ来たよ。

 キャネラスには悪いが、もう俺はダークエルフに首ったけ。


 彼女の身長は百六十センチは超えているか?

 その右頬上部には特徴的な銀フェイスガードが嵌められていた。


 銀色な長髪に、銀彩色の瞳。

 赤い色彩が銀に混ざり輝いているのは変わらない。

 銀仮面があるので、左の顔しか分からないが、青白い肌がとても似合っていて、超絶に綺麗で美しい……。

 見たことないが、楊貴妃も負ける絶世の美女と言えよう。

 横長なエルフ耳も素晴らしい。


 前回と同様、首には窮屈そうな奴隷の証拠としての黒い首輪が装着されている。


 前に着ていた装備はビキニアーマーとガーターベルト類の装備だったが、今回は両肩を露出したノースリーブの朱色の厚革服を身に着けている。


 服と言うより、防具服か。

 背中から足へ延びる燕尾服のような形だ。

 朱色の厚革の表面には、黄色、赤、黒の糸で独特の模様が刺繍されてあり、銀糸で綺麗に周りが縁取られている。


 防具の品としては高級な物だと判断できた。

 そして、何度も思うけど、やっぱり肌が綺麗だ。


 両肩から見える青白い肌は……綺麗な湖を感じさせる。

 厚革服の内側には薄い襤褸布を着ているようだ。


 ただ、鎖骨が首輪のせいで見られないのが残念か。


 腰には金糸で彩られた黒ベルトの剣帯があり、そのベルトには二つの長剣が繋がっていた。

 二本の長剣はこないだ装備していた長剣と同じ鋼鉄製と思われる。


 だが、そんな長剣より、その内側にあるモデルのような長い両足に、自然と目が行ってしまう。


 太股まで履いている黒インナーが良いなぁ。

 妖艶な雰囲気で、そそられるね。


 靴はこないだと同じロングブーツ。

 足先の甲が赤黒い革で構成されたフィット感ある大人のグラディエーター柄のロングブーツを履いてる。

 一見、サンダルのようだが、アンクルと膝は赤革で包まれているのでロングブーツ系だと分かる。


 ……美人ダークエルフを連れて、ソファに座るキャネラス。

 ダークエルフは荷物が入っている手さげ袋を持っていた。


「……シュウヤさん。では取引を開始します」


 机の上に書類と筆記用具の羽根ペンとインクが順番に置かれる。

 ポーション入りの瓶とナイフのセットが最後に置かれた。


 ダークエルフはソファの横で、両膝を折って座り、首を上げて胸を突き出すようなポーズを取る。


 これ、全てを任せます。という感じのポーズだな。

 俺も金を用意しよ。


「わかりました。金を用意します」


 アイテムボックスから大白金貨三枚と白金貨五十枚を取り出し、机に置いた。


「では、先程、説明途中で止めていましたが、続きのお話を致します。彼女はダークエルフ。それだけでも貴重な人材ですが、実はもっと希少なる存在なのですよ」


 希少か。


「珍しい存在ですか」

「はい。――見せて差し上げなさい。この方が貴女のご主人様となるのですから」


 キャネラスは俺の横で胸を突き出すようなポーズを取っているダークエルフへ命令している。


「はい」


 ダークエルフはそう静かに返事をすると、顎を上げていた首を下げ、ゆったりとした動作で俺を見つめながら自身の顔に嵌めている銀のフェイスガードを取り外した。


 おぉ? 美しい蝶々だ。


 頬、右の頬にフェイスガードで隠す必要なんてないぐらいの、美しい銀色に輝くアート的な蝶々が皮膚の表面に描かれてあった。


 彼女の指が、その頬にある銀蝶マークへ触れると、その蝶々が生きてるように蠢く。

 しかも、その触れた指先に銀蝶が移り煌めく輝きを見せながら甲の部位へ銀蝶が羽ばたいて移動していた。


 手の甲の上を、枝に見立てたように止まると、銀蝶が留まる。

 銀色の蝶模様が手の甲に誕生していた。


 移動している銀蝶にも驚きだが、その妖艶な仕草にグッとくるものがある。

 しかも、頬にある蝶の印からは、魔力が強く放出されていた。


『閣下、お気をつけください。頬にある蝶々から非常に強力な魔力を感じます。あの銀仮面は魔力を抑える特殊な物だったのですね……』


 ヘルメが視界の隅に現れ忠告してくれた。


『そうらしいな』

『しかし、彼女はあの頬にある蝶々以外からは、魔力を外に漏らしていませんので、優秀なのは確実です』


 確かに、魔闘術はマスターしているように思える。


『そのようだ。ごく僅かな、魔力の移動もスムーズ』


 美しいダークエルフの肢体を見つめながら感想を言う。


『はい。このような方が何故、奴隷に……』

『さあな』


 デフォルメ姿のヘルメは疑問符を浮かべて、くるくる回りながら消えていった。

 訝しむように視線を細めてると、キャネラスがフォローしてくる。


「……主人には攻撃できないので、ご安心を。そして、彼女の頬に宿る銀蝶は、エクストラスキルなのですよ」


 まじか、キャネラスが厳かに説明してくれた。

 エクストラスキル。


 俺も四つ持つ、あのエクストラスキルか。


「エクストラスキルですか……」

『さすがです。最初から見抜かれて、超優秀な者を部下に選んだのですね』


 視界から消えたヘルメが消えたまま念話してくる。

 選んだのは、たまたま、なんだけど。頬にある銀蝶が印か。


「えぇ、はい。その効能については直接お調べになってください。それと話が少し変わりますが、南マハハイム地方以外の遠い国、特に北方諸国、その地方領によって、奴隷といいますか種族によっては問答無用に殺されたり連行される場合がありますので、注意が必要です。旅をするうえでは必須なので覚えておいてください。……では、シュウヤさん、そのナイフで、この奴隷が装着している首輪に血を垂らしてもらいます」


 ダークエルフは顔に銀フェイスガードを嵌めて隠すと、また長い首を見せつけるように顎を上げて、胸を突き出していた。


 手の甲にあった銀蝶模様は消えている。

 それより、血が必要なのか。


「……それは絶対しなきゃ駄目なの?」

「はい。奴隷売買の基本です」


 果たして、俺の血で契約できるのか? そんな不安が頭に過る。


 俺は光と闇の属性を持つ身だからね。


 あの首輪はどう考えても闇属性。

 俺の血は光属性も含まれている……。

 壊れちゃったりして……。


 ギルドカードのように純粋に血に含まれた魔力に反応しているなら、大丈夫だと思うんだけど。


 躊躇していると、


「……どうしました?」


 キャネラスが聞いてきた。


「……いや、この首輪がどうなるのかなとね」

「従属の首輪ですね。シュウヤさんの血に内包された魔力に、首輪にある闇の魔宝石が反応して、闇魔法が作動するだけですから」


 なるほど、血じゃなく魔力なら、大丈夫かな?

 ま、壊れたら壊れたで、何とかなるだろう。


 ナイフは平凡で魔力を感じない。


 やっちまうか。


 ダークエルフの首輪の上で、自らの指をナイフで傷つけ、血を垂らした。


 首輪に俺の血が垂れた瞬間。

 首輪の中心点にあった黒曜石が強く光る。


 その光を凝視。


 光は小さい黒曜石の全体へ広がった。

 その光っている黒曜石の表面から小さい魔法陣が浮かび出す。


 次々と、小さい魔法陣が、黒曜石の表面に浮かび、バリアのように縦に重なった。

 薄い平らな魔法陣が三重に展開されてから、その魔法陣たちが黒曜石の中へ折りたたまれるように沈み込み消えていく。



 吸い込んだ首輪は、黒曜石ごと、パカーンと真っ二つに割れ壊れた。

 ダークエルフの薄青色な素肌と鎖骨が露出。

 しかし、その首下の綺麗な皮膚の中に、黒色と濃緑色の小さい蛇のようなモノが染み込むように浸透していくのが見えた。


 あれ、蛇だけど魔力の塊か?

 皮膚の中を魔力蛇が泳ぐように消えていく。


 やがて、皮膚の表面に黒環が盛り上がった。


 黒環の中心部には小さい薔薇? 

 薄い花のようなモノが幾つも浮かぶ。

 不自然さはない。黒環のマークだ。

 まるで、前々から皮膚に刻まれて最初から黒環の印が胸の上にあったかのようにも見える。


 無事に成功したようだ。


「――ゴホッゴホッ」


 えっ、ダークエルフは苦し気に息を詰まらせてしまった。

 失敗?


「黒曜石が変な壊れ方をしましたが、まぁ、大丈夫です。これは契約時に必ず起こる事柄なので気にしないでください。それと、シュウヤさん。その傷がある指へ、このポーションをお使いになってくださいね」


 これで指の傷を治せ? 

 放っておいても治るのだが。

 と、もう傷は塞がった。

 が、要らぬ疑いを掛けられてもアレだ、ポーションを飲んで誤魔化す。


「後はこの書類にサインして終了です。特別な書類なので、この奴隷は人頭税も免除されます。奴隷のサインも必要ですが、まだ、共通語の字が完璧ではありません。ですので、彼女は拇印で結構です」


 非課税らしい。

 他にも定型文が用意されロボット三原則のように主人の命令は絶対、主人を害さない、自らの身体保全を全うする。

 羊皮紙の書類にはそんなことが書かれてあった。


 魔力も感じないし、高級な羊皮紙だ。

 その紙に羽根ペンでサイン。

 苦しみを終えたダークエルフもインクに浸けた指で拇印を押していた。


「おめでとうございます。これで、契約は完了しました。もう彼女は、主人であるシュウヤさんには逆らえません。命令に逆らえば自然と首が絞まり苦しみます。その辺りの匙加減は、胸にある首輪の印に手を触れたら直接弄れますので、ご自由に設定してください。因みに一番軽くしても、かなりの苦しみが彼女を襲うことになります。更に、主人と距離が離れても、居場所は分かるようになっていますし、仮に主人が死ねば、自動的に奴隷も死にますので、裏切りは絶対に起こらないのです」


 キャネラスは笑顔満面のうきうき顔で、それらを語ると、代金の大白金貨を袋に詰めて書類の写しをアタッシュケースじゃないが頑丈な革鞄に仕舞っていた。


 俺も書類をアイテムボックスの中へ入れておく。


 腕輪の操作を終えた直後、買ったばかりのダークエルフが、俺の真横まで近付き、片膝をついて跪く。


「――ご主人様。わたしを買って頂きありがとうございます。これからもよろしくお願い致します」

「お、おう」


 美人さんが、急に間近へ接近してから、その、ご主人様か。

 少し、動揺しちゃった。


「シュウヤさん。そのダークエルフが持っている荷物、身に着けている所持品も全て込みの値段ですから、ご自由に堪能しちゃってくださいな。あ、早速お楽しみになりたいのでしたら、奴隷商館へ向かう時間は空けてからにしますか?」


 客の扱いが上手いねぇ。

 というか昼には冒険者ギルドへ向かうから、奴隷商館はまた後日だな。


 迷宮にどれぐらい日数が掛かるか分からないし、また今度にしよ。


「……すみません。他の奴隷も見たいのですが、今日は他の用事を思い出したので、また後日、ここに来てもいいでしょうか?」

「はい。どうぞどうぞ。わたしもシュウヤさんに見合う高級奴隷を探しておきますから、いつでもいらしてくださいな。ここには布印があれば、いつでも入れますので」

「分かりました。キャネラスさん、その時はよろしく」

「ええ、是非とも、またのお越しを」


 キャネラスは目尻を下げ語る。

 俺は席を立ち、超美人なダークエルフを見つめて、


「……では、行こうか」

「はい、ご主人様」


 ご主人様か。

 何か、本当に柄じゃないんだけどね。


 でも、俺をご主人様と呼ぶな。とかの、ありきたりな命令はしない。

 ダークエルフを連れて玄関を出る。


 黒猫ロロはまだ戻ってこない。

 この花が咲く庭のどこかにいるはずなんだが……。

 ついでだ、彼女とも話をしておきたいし、少し歩く。

 石道を外れ、庭の芝生や花が広がる敷地へ入っていく。


 早速、花が出迎えた。

 大輪で美しい芙蓉の花、凄く綺麗だ。

 白い花の中には少し紅くなっている花もある。


 これ、酔芙蓉という花だっけ。

 一日しか咲かない花で、朝が白く夕方にはピンク色に染まるとか。


 異世界でも地球と同じような花は咲くんだな。


「……それで、君の名前は?」


 立ち止まり、美蓉の白花をダークエルフの銀髪と重ねて聞いていた。


「……ご主人様がお決めになることです」


 彼女も俺のすぐ後ろで立ち止まり、跪いてそう述べる。

 名前を決めろか。お決まりな言葉だが、このダークエルフだって過去には名前があったはず。


「君にだって過去はあるだろう?」

「はい……」


 彼女は仏頂顔で返事をしている。

 ここで優しく〝嫌なら答えなくていい〟とは言わない。


 もう俺の奴隷なのだから。


「聞かせてもらおうか」


 視線を下げていたダークエルフは顔を上げて、嫌そうに渋面を作ると、すぐに無表情となった。

 そのまま美しい唇が動く。


「……はっ、わたしの名はヴィーネ・ダオ・アズマイル。【地下都市ダウメザラン】出身。【第十二位魔導貴族アズマイル家】の次女であり、地下都市ダウメザランでアズマイル家繁栄のために生活をしていました。しかし、神羅月の第三週目、【第五位魔導貴族ランギバード家】と【第十一位魔導貴族スクワード家】の二家の連中によって卑怯にも貶められ争いになり、アズマイル家は敗れさりました。その結果、わたしは捕まり地上、蓋上の世界へ放り出されることに……その地上で拾われたのが、マグル、人族の奴隷商人でした。それから幾人かの奴隷商を渡り歩き、キャネラスのもとへ辿り着きました。そして、地下オークションという大規模なオークションで、わたしを高く売るために、キャネラスのもとで色々な経験を積み重ねていたのであります」


 名前はヴィーネ・ダオ・アズマイルか。

 地下都市ダウメザラン出身……。


 第十二位魔導貴族アズマイル家次女。

 もしかして、貴族の次女と言うことは、元、深窓の令嬢だったり?


 魔導貴族の権力争いで敗れて、地上へ追放か。

 彼女が住んでいた【地下都市ダウメザラン】の名前と、地上を蓋上と言ったり、人族をマグルと言ってたのは……。


 地下生活をしいられていた時、その地下で偶然出会ったドワーフのロアが話していた言葉と符合する。


 ダークエルフの社会形態には少し興味がある。


 ま、詳しくは後々ゆっくりと聞いていけばいいか。

 名前は過去と同じヴィーネにしよ。


「……ヴィーネ。と呼ぶけどいい?」

「……はぃ」


 ヴィーネはさっきよりも拒絶反応的な表情を作っていた。

 眉間を寄せて、顔は斜に構えているが、ハッキリと侮蔑の表情が見てとれた。

 あまり喜んでないが、いいや。


「よし、名乗っておく。俺はシュウヤ・カガリ。Cランク冒険者だ」

「……はい」


 ヴィーネは目を細めて、俺の力を測るように観察してきた。

 魔力を目に留めている。魔察眼だ。


「ヴィーネ。魔察眼は使えるようだな?」

「はっ、はい」


 少し、銀の瞳孔が広がり縮む。

 瞳孔の周りにある赤と銀が混ざった虹彩が動いていた。

 前にも俺の魔察眼は見ていたはずだけど、驚いてるのか?


「そう、緊張するな。ヴィーネも迷宮へ潜っていたと聞いたが、迷宮は何階層まで進んだんだ?」

「四階層まで進みました」

「ソロでか?」

「いえ、キャネラスが用意した手練れの冒険者と複数の戦闘奴隷たちがいました」


 そりゃそうか。商品に傷がついちゃまずいもんな?


「なるほど。俺はまだ二階層までしか進んでないや。それと、基本、冒険者だから、その際は一緒に潜ってもらうよ?」

「はい。お任せください」


 銀色の細い眉は微動だにせず。

 ヴィーネは自信を感じさせる口調だ。


「それと、相棒兼ペットな使い魔の黒猫ロロがいる。今はこの辺りを散歩してるはず……」

「――にゃぁ~お、にゃおぉぉん」


 お、丁度良く。黒猫ロロの声が響いた。

 その相棒はっと――松の樹木に似た背丈の高い樹木の枝に登っていた。


 ライオンキングごっこか?

 

 何やってんだ。ずっと前にも同じことをやっていた気がする。

 お前は、俺が好きな劇団○季に入って演劇をやりたいのか?


 と、小一時間問い詰めたくなるが我慢した。


「あの木に登っている黒猫ロロが相棒&ペットで、名前がロロディーヌ。略してロロだ」

「はい。可愛らしい猫ですね」

「うん。お~い。もう戻ってこい」

「にゃ」


 黒猫ロロは俺の声が聞こえたのか、耳をピンッと可愛く動かし短く返事をすると、高い木の枝から飛ぶように跳躍。


 着地際に触手を地面に伸ばし衝撃を殺していた。

 そのまま伸びていた触手を首元へと収斂。

 短くした触手の先端を、豆のように丸くしたまま、走り寄って来るや肩に跳躍。


 相棒の鼻息が少し荒い。

 が、肉球から感じる相棒の可愛い体重が、たまらない。

 ヴィーネは、黒猫ロロの首から出ている小さい触手が不思議なようだ。

 

 黒猫ロロの首元から小さく出ている触手の先端を注視している。


 黒飴的な触手、触手の裏側にも桃色の肉球があるから、桃味的な飴玉か?

 クリームパン色だから、ミニクリームパンか! そんな気持ちのまま、相棒に、


「ロロ、新しく仲間になったヴィーネだ」

「にゃおっ、にゃあん」


 黒猫ロロはポンッと猫足を上げて俺の肩を叩く。

 ヴィーネに向けて挨拶をしていた。


 黒猫ロロの顔付きと声の質から『我輩のが先輩にゃ、よろしくにゃ~』と、いった感じの挨拶だろう。


「可愛い猫は、言葉が分かるのですか?」

「にゃ? ンンン、にゃあっ」


 なんか抗議している。俺の肩を三回連続で叩いてた。


「そうだよ。ただの使い魔じゃない。神獣でもあるんだ。姿も今のような小さい黒猫から大型グリフォンサイズまで伸縮自在。触手も攻撃可能な骨剣が付いているし、牙や脚先にある爪も強烈だ。それに、口から王級並みの火炎ブレスを吐ける」

「……そ、それは凄すぎます。ロロ様なのですね」


 ヴィーネは驚き震えて、恐縮するように黒猫ロロを一瞥してから頭を下げては、片膝を地面へ突く。


「にゃ」


 俺の説明にドヤ顔なロロさん。


「そういうことだ。それと、ヴィーネ立ってくれ」


 彼女は頷くと立ち上がる。


「はっ」

「人前、外で行動するときは、跪くのは控えめにな」

「はいっ、わかりました」


 長い細眉が少し動き、頭を下げていた。


「うん。部屋内とか二人きりの場合は好きにして構わない。それじゃ、外に歩きながら話をしていこう」

「はい」


 ヴィーネは手さげ袋を持っていたが、その袋から弓と矢筒を取り出し、手さげ袋をリュックのように扱い背負っている。


 あれ背曩でもあるのか。

 それに背曩の腰辺りの横に、弓を引っかけて収められるようになっている。


 さて、ヘルメにも報告しとこ。

 まだヴィーネには常闇の水精霊ヘルメのことは内緒にしとくつもりだ。

 ヘルメに意識して語りかけた。


『ヘルメ』

『はい、閣下』


 くるくるっと回りながらヘルメが視界に登場。


『話は聞いてたので分かっていると思うが、ヴィーネという、ダークエルフが仲間になったから、よろしく』

『はい。了解です』

『ヘルメのことはまだ話してないが、近いうちに話すかもしれない』

『分かりました。いつでも飛び出せますので』


 コクコクと頷く、デフォルメ姿のヘルメちゃん。


『わかった、消えていいぞ』

『はっ』


 視界から消えるヘルメ。


 念話でヘルメと会話をしながら、ヴィーネと一緒に花が綺麗な庭を通り石道を歩いて敷地の出入口へ向かっていく。


 丁度、石門から外へ出たところで、口を動かしていく。


「これから冒険者ギルドへ向かう。仲間と待ち合わせなんだ。だから、早速で悪いけど、その仲間とパーティを組んで一緒に迷宮に挑戦してもらう。それと基本ルールは“命を大事に”だ。俺は大丈夫だから、自分の命を大事にね。最後に、パーティメンバーとは礼儀正しく接し、俺の許可なく勝手に人を殺さないこと」


 何が起きるか分からないので最後のは重要だ。


「分かりました」


 頭を下げ返事をしているヴィーネを見てから聞いていく。


「それで、ヴィーネはどんな戦い方がメインなんだ?」

「わたしはこの腰にある二剣がメインですが、遠距離から弓、風魔法、雷魔法、闇魔法。エクストラスキルの<銀蝶の踊武>による支援及び幻術が得意です」

「へぇ、色々できるんだな。まずは、その支援と幻術のことを詳しく教えてくれ」


 ヴィーネは誇らし気に語っていく。


「はい。エクストラスキルの<銀蝶の踊武>は手で頬の銀蝶を触ることから始まります。その触れた手で“手印”を組み、発動する魔法のようなスキルです。支援スキルが<銀蝶揚羽>。これは指定した周囲に銀蝶揚羽の祝福を施し対魔法防御を上げる効果があります。一方、幻術スキルは<銀蛾斑>。斑模様の銀蝶を指定したエリアへと無数に発生させます。この幻術範囲に入った者たちは、人、モンスター関係なく、幻覚を見ては方向感覚を失い、やがて、五感の感覚を奪われ戦闘不能に陥り、最悪は死に至ることもありえます」


 うへ、五感を奪うとは強烈だな。

 さすがはエクストラスキルだ。


「凄い。ヴィーネは近接から遠距離まで何でもこなせるということか」

「はい」


 即答。さすがは高級奴隷。戦闘は自信があるようだ。

 顔半分からの表情だけど、戦闘経験が豊富そうな印象を持たせる。


 あくまでも印象だ。

 銀仮面のフェイスガードには目の部分に穴が空いているので、彼女の瞳孔は見えているけど、表情は分かり辛い。


「……俺も話しとこう。――これがメイン武器。魔法の属性が“主に”水属性だ」


 歩きながら、魔槍杖を右手に出現させる。


「そして、左手で鎖が使える」


 左手も斜めに伸ばし、手首の因子マークから軽く<鎖>を射出させて、鎖の先端を動かした。


「近距離から遠距離まで対応できる」

「……さすがでございます」


 ヴィーネの銀仮面が無い左半分の表情からは、明らかに動揺の顔色が見てとれた。

 武器が突然現れては、消えるのだから当たり前か。


「ヴィーネ、不安か?」

「い、いえ。さっき見せて頂いた、武器はいつでも呼び出せるのでしょうか?」

「そうだ――」


 また、右手に魔槍杖を出し、片手で紫の金属棒を縦回転させて、弄ぶように扱ってから消失させる。


「御見逸れいたしました」

「いいねぇ。美人からの誉め言葉……」

「……ご主人様の実力を拝見したのですから、当然です」


 彼女は、目を細めて底冷えするような冷笑を浮かべていた。


 何か、トゲがある感じする。

 力を試したいような。青白い皮膚に、銀色の細眉。

 心の中なんて分からないし。

 彼女の内実は、不満たらたらなのかもな……。


 でも、命令違反したら首が絞まるらしいし、あの胸上にある黒環で調節できるようだから、少し試してみるか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る