百二十七話 仲間紹介

「ヴィーネ、その首輪を弄るから胸上げて」

「は、はい」


 ヴィーネは叱られると思ったのか、声が小さくなり、首を上げる。


 彼女の胸上にある環に手を当てれば弄れるんだよな……。

 綺麗な鎖骨に目が行くが、黒環へ手を当てた。

 その瞬間、黒環を左か右か回せるような感覚を覚える。

 なるほど、これを右にメモリを回すようにすれば苦しみが増し、逆に左へ回せば苦しみが軽くなるようだ。


 可哀想だから、左へ一回まわしとこ。


 ヴィーネは軽くしたことを分かっているらしい。

 疑問符を浮かべて俺を見ている。

 それと、即座に軽い罰を与える場合は黒環を上に引っ張りあげれば息が止まるらしい。


 えげつない魔法。よくこんな魔法を開発できたもんだ。

 だけど、そんなことはどうでも良い。

 俺は俺だ。利用させてもらう。

 ヴィーネの気持ちがどうあれ、裏切らないのは重要だ。


「完了。いいよ。楽にして」

「……はぃ、首環絞めの段階が低くなりましたが、よろしいのですか?」

「良いんだよ。命令を違反しないで模範的な態度で接してくれるなら、それでいい。ヴィーネを虐待したい訳じゃない。ま、俺は女好きなんでね。お人好しと思ってくれて構わない」

「……はい」


 笑顔だが、まだ冷たい印象だ。

 面従腹背という言葉が浮かぶ。

 ヴィーネが裏切ったら……この世界に流通している奴隷の従属システムを信用するならば、彼女は裏切らないとは思うけど、もし、従属のシステムが作用しないで、俺の命を狙おうとする女だった場合は……殺すか、放逐か。


 彼女は優秀そうだからな、俺にはヴァンパイア系の<眷族の宗主>があるので<従者>の一人になって欲しいけど。


 俺のことが単純に嫌っている場合だけなら、キャネラスのもとへ返して、解放しちゃうか。

 別に金も戻らなくてもいい。

 ま、今はあることないことの妄想をしても仕方がない。


「……それじゃ冒険者ギルドに急ぐよ。ロロ――」

「にゃ」


 肩にいた黒猫ロロは軽く鳴いて、地面へ跳躍。

 地面に小さい足で降り立つと、むくむくっと黒猫から黒豹の姿へ大きく変化させ馬獅子型のサイズへ変身を遂げる。


 馬獅子型黒猫ロロディーヌの上へ飛び乗り、触手の手綱を掴む。

 その掴んでる触手手綱の先端が首筋に張り付いた。


 一方で、ヴィーネは黒猫ロロの変化に驚いたのか、腰から剣を抜こうとしている。

 突然だから驚いているようだ。

 しょうがないか。指摘はせず、呼ぶ。


「……ヴィーネ、後ろか前に乗れ」

「……はっ」


 彼女は気を取り直すように頭を軽く左右に振ると、馬に乗るように跨り前に座った。

 そんなヴィーネを後ろから抱くように触手を持つ。


 馬獅子型黒猫ロロディーヌは進み出した。


 ヴィーネの尻から背中までが密着している。

 役得、役得。この銀髪……綺麗だな、サラサラしている、くんくんっと黒猫ロロの真似じゃないが匂いを嗅いでしまった。

 なんか独特のバニラ系な香りが鼻をくすぐる。

 細長い首のうなじだし、魅力的だ……血管からの脈音が聞こえて、血を吸いたくなる。


 良い女の匂い。

 しかし、ヴィーネが身体を少し動かして、嫌そうな態度を取った。


 ハァハァして、匂いを嗅いでいたのが、バレていたらしい。

 鼻の下が伸びたような顔を浮かべていたかも。

 褒めたつもりで、開き直る。


「良い匂いなんだな?」


 素の感情を漏らす。


「……ア、リガトウゴザイマス」


 うへ、片言だし、こりゃ確実に引いたな。


 まぁいいさ。

 おっぱいでも揉んどこうかと思ったけど、変態紳士を貫いた。


 馬獅子型黒猫ロロディーヌは順調に走り駆ける。


 喋り辛くなったので、無言を貫いた。

 ヴィーネの顔をわざわざ見るのをアレなので、綱手触手を動かして操作している振りをしていく。


 黒猫ロロとは<神獣止水・翔>で感覚を共有しているからか、俺の気持ちが分かっているようでいつもより速度を出してくれた。


 その結果、冒険者ギルドにはすぐに到着したのだが……。


「おい、ヴィーネ大丈夫か?」

「……は、はぃぃ」


 尋常じゃない速度だったようで、彼女は面を食らったようだ。

 馬獅子型黒猫ロロディーヌから、上手く地面に降りられずに、足がつんのめって倒れてしまっている。


 急ぎ肩を抱えてあげたけど。

 体が震えてるし、長耳がしゅんと萎れている。膝もがくがくだ。


 う、ちょいエロ……。


「歩けるか?」

「ハイ、面目なく、すみません……」


 力なく語る彼女。すぐに立ち直ったけど。

 今日迷宮に行く予定なのに大丈夫か、不安になる。


「……それじゃ、中へ入るぞ、仲間が一人待っているはずだ」

「え、一人ですか?」

「そうだよ、元々、俺とロロだけだったし、こないだ、たまたま迷宮内で助けた一人の冒険者とパーティを組むことになったのさ」

「……分かりました」


 何か、不満気な顔だ。

 ま、戦いを実際に見れば分かるだろう。

 いつもの子猫な姿に戻った黒猫ロロは不思議そうに顔を浮かべては、下から俺とヴィーネの会話を見ていた。


 奴隷であるダークエルフのヴィーネには周りから視線が集まる。

 やはりそれなりに目立つらしい。


 そんな彼女を連れて冒険者ギルドの中へ入っていく。


 黒猫ロロも足もとから歩いてついてくる。

 さて、エヴァは何処かな?

 相変わらずギルド内部は混んでるので、探すのも一苦労だ。


 車椅子なので、すぐに分かると思うが……。


 ボード内をくまなく探す。

 おっ、いたいた。

 CとBのボード間に、ポツーンと車椅子に座った黒髪の女性。

 周りの冒険者たちは彼女を避けているのか、近寄らずに誰もが無視していた。

 遠くから話しかけてみる。


「エヴァっ、昨日ぶり」

「シュウヤ! ……少し待った」


 その途端、周囲の冒険者から一斉に視線が集まる。


 だが、そんなことよりエヴァの髪型が変わっていたことの方が重要だった。

 ロングな黒髪だったのにミディアムになってる。


「すまんすまん」


 と、片手で謝るポーズを取りながら近寄っていく。

 ヴィーネと黒猫ロロも後ろからついてくる。


「ロロちゃんも元気?」

「にゃお」


 黒猫ロロは嬉しそうな声を出して、エヴァの股上へジャンプ。

 股の上に座り、甘えるようにエヴァの顔を見上げていた。


 エヴァは革鎧の上着に緋色のロングワンピースを着ている。

 解放感があるマキシワンピ。鎧と合うね。

 黒猫ロロが股の上に飛び乗っていたから少し膝上が捲れて、金属足が見えていた。


 黒猫ロロもエヴァの髪型が変わったのが気になるのかな?


「ここが好きなの? ふふ」


 優しく微笑むエヴァ。

 色白な細い手で黒猫ロロの頭を撫でている。


「それで、エヴァ。後ろにいるのが、俺の奴隷であるヴィーネ。今回一緒に戦ってもらう予定だ」

「ん、――わかった」


 エヴァは黒猫ロロを撫でながら、視線をヴィーネに送る。


「エヴァ様。初めまして、ご主人様の奴隷ヴィーネです。よろしくお願いします」


 ヴィーネは慇懃な態度でお辞儀をする。

 礼儀作法はしっかりと教育されているようだ。


「ん」


 エヴァは言葉少なく、笑顔で頷く。

 俺が奴隷を持っても当たり前という顔付き。


「それじゃ依頼を選ぶとして、何がいいと思う?」


 ボードへ視線を移し、二人に聞いてみた。


「ん、依頼も受けるけど、食材集めがしたい」


 食材集めか。

 エヴァは店用の食材が欲しいのか。

 こないだ奢ってくれたし、材料補充のためかも。


「店用かな?」

「そう。だから、依頼報酬、お金少なくなる……」


 気不味そうに語るエヴァ。


「俺は構わないが――」


 視線をヴィーネに向ける。


「ご主人様のご意向のままに」


 ヴィーネは特に意見はないようだ。

 奴隷だし、当たり前っちゃ当たり前か。

 あ、中型魔石は依頼とは別に貰っときたいな。


 俺にとってアイテムボックス拡張は地味に超重要ミッション。

 あのガンセットも気になるし。


「……なら、俺も個別に欲しいのがある。中型魔石が個人的に欲しい」

「ん、了解」


 エヴァは素早く、了承。


「それに、ギルドで依頼を受けるにしても、食材分を集めればいいんだろう?」

「大量になるけど、大丈夫?」

「あぁ、平気だ。俺のアイテムボックスなら、まだ余裕があるし、ドントコイ」

「わたしもアイテムボックスには、まだ余裕がある」


 エヴァと互いに笑顔でアイテムボックスを見せ合う。

 俺は腕輪型、エヴァは箱型。


「ご主人様、わたしも荷物は持てます」


 ヴィーネも背中を見せてアピールしてきた。


「その背曩か。なら大丈夫そうだな。それでエヴァ、その食材とは、どのモンスターなんだ?」


 エヴァは頷き、視線をボードへ向けながら口を開く。


「ん、三階に湧いているモンスターCランク化け大茸ビッグマッシュルームの全身素材。同じく三階のBランク青蜜胃無スライムの全身素材。そのスライムが湧く近辺に育つジグアの木金魚の収集。これもBランク収集だけど、周りにスライム以外のモンスターも倒すことになるから大変」


 茸はそのままだが、スライムが食材になるんだ。

 それに、ジグアは、あの謎な食材か。


 木金魚、木の魚なのか?

 確かジグアは牛蒡に大きな葡萄のような白身が沢山付いていた……。


 収集だから、生えているのを取るのだろうけど、味と同じで全く想像がつかない。


「そのジグアの周りに湧くモンスターとは何?」

「オークやゴブリンの他だと、主に樹魔トロント甲殻回虫ロールキルギンが湧いている」

「なら、オークやゴブリンも倒すとして、トロントとロールキルギンもギルドで討伐依頼を受けとくか」

「ん」


 エヴァは当然という感じに、頷く。


「食材はどれぐらいの量が欲しいんだ?」

「キノコは百個。スライムは五十個。ジグアは十個は欲しい」


 百個か。そんなに湧くのなら大量に狩ればいい。


「なら依頼とは別に化け大茸ビッグマッシュルームを百匹、青蜜胃無スライムの五十匹を倒せばいい。ギルドでの依頼も化け大茸ビッグマッシュルーム討伐百匹と、青蜜胃無スライム五十匹の討伐依頼を受けちゃおうか。合計、二百匹と百匹を倒すことになるけど」

「賛成」


 エヴァは即答。


「それじゃ、纏めると、ギルド依頼は全部で四つ。化け大茸、青蜜胃無、樹魔、甲殻回虫の四つ討伐依頼だな」

「ん」


 コクンっと頷くエヴァ。


「討伐数の合う依頼を探そう」

「探す」

「はい」


 皆でボードを確認していく。


 依頼主:アテナイ商会

 依頼内容:Cランク“化け大茸”ビッグマッシュルームの全身素材。

 応募期間:無期限

 討伐対象:“化け大茸”

 生息地域:迷宮三階層

 報酬:百匹、金貨十五枚。

 討伐証拠:全身素材。魔石は除外。

 注意事項:三階層の一帯に多数出現報告あり。

 備考:各地に輸出されるほどの有名な食材モンスター。大量に湧き、その湧く速度も早いので報酬は極端に下がる。


 依頼主:マレリアン大商会

 依頼内容:Cランク“樹魔”トロント全身素材。

 応募期間:無期限

 討伐対象:“樹魔”トロント

 生息地域:迷宮三階層

 報酬:五体、金貨一枚。

 討伐証拠:胴体のみで可。魔石は除外。

 注意事項:三階層の一帯に多数出現報告あり。枝を伸ばし攻撃してくる。

 備考:迷宮に生えている樹木型モンスター。


 依頼主:マレリアン大商会

 依頼内容:Cランク“甲殻回虫”ロールキルギン全身素材。

 応募期間:無期限

 討伐対象:“甲殻回虫”ロールキルギン

 生息地域:迷宮三階層

 報酬:十体、金貨三枚。

 討伐証拠:全身素材。魔石は除外。

 注意事項:三階層の一帯に多数出現報告あり。樹魔トロントに共生する形で湧いている。小さいが甲殻を回転させ突進してくるだろう。

 備考:表面に甲殻を持つ硬いモンスター。内臓が薬になる部分を持つ。虫のように脚が複数ある


 依頼主:王国美食会

 依頼内容:Bランク“青蜜胃無”スライムの全身素材。

 応募期間:無期限

 討伐対象:“青蜜胃無”

 生息地域:迷宮三階層

 報酬:五十匹、金貨二百枚。

 討伐証拠:全身素材。魔石は除外。

 注意事項:三階層の一帯に多数出現報告あり。魔法系が弱点。物理属性に耐性あり。胃で溶かすように攻撃してくる。湧く速度は遅いが数が多い。強敵なので注意が必要だ

 備考:複数種確認され、どれも珍味食材。


 四つとも簡単に見つけることができた。

 ボード下にある小口から、その依頼木札を拾い取る。

 ヴィーネとエヴァは俺に追随した。


 何れも三階層ぐらいから出現するモンスターのようだ。

 既に、エヴァは三階へ到達したことがあるということ。


「エヴァは三階に行ったことがあったんだな?」

「もちろん、ある」

「俺は初だ。ヴィーネは四階まで進んでいたのだろう?」

「はい。ですが、四階の一部分だけです」


 エヴァは車椅子をくるっと回し、ヴィーネの方を見上げる。


「ん、優秀」

「ありがとうございます」


 エヴァは紫の目を向け、ヴィーネを褒めていた。

 俺は横からエヴァの少し揺れている髪型を改めて拝見。

 サイドの毛を捻り流して、コンパクトにしている。


「エヴァさ、髪型変えたんだ」

「ん」


 エヴァは指摘されたのが恥ずかしいのか、若干、頬が赤くなっていた。


 女が髪を切る時は、何かしら動機があると言うけど、何かあったのだろうか。


 ロングも良かったけど、ミディアムも似合う。

 顔が余計に小さく見えるし、美人がより可愛くなった。


「似合っているよ。何か切っ掛けでもあったの?」

「ん……ありがと。切っ掛けは、ある。それはシュウヤとパーティ組んだこと」


 俺かい。黒猫ロロも“そうだ”と言わんばかりに猫足をぽんっと叩く。

 エヴァのスカート上から股上を叩いてアピールしていた。


「それは光栄だね」


 俺の言葉を聞いて、エヴァはキョトンとしたが、


「ん、冗談。気分転換」


 クスッと笑っていた。

 少しコケたくなったよ。

 その代わりに、エヴァの股上でごろりと横になる黒猫ロロ


 なんか羨ましい。


「そ、そうか。それで、他に依頼を受けなくて――」


 気を紛らすようにボード前へ視線を向けると、そこには見知った顔が見えた。


 杖を持っているし、あれは小柄なレベッカ。

 腕には鉄魔の腕輪を嵌めている。

 こないだ宝箱からゲットしたやつだ。


 金髪に蒼色シャツ。肩にはポンチョ系黒ケープ。

 腰には幅広なチェーン付き黒帯ベルト。


 格好はあまり変わってない。


 彼女の周りには誰も居ない。

 また、ソロで頑張ってるようだ。


 もう、俺を狙っていた闇ギルド【梟の牙】は潰したし、俺とパーティを組んでも大丈夫な、はず。


 べネットが言っていた仮面をつけた集団が気になるが……。

 まぁ、そんなことを心配していたら前に進めないし。

 誘ってみよっと。


「……どうしたのですか、ご主人様」

「あ、あぁ、知り合いが居たんだ。――エヴァ、パーティに誘いたい人がいるんだけど、良い?」


 俺はヴィーネからエヴァへ視線を移す。


「ん、シュウヤの知り合いならいい」


 エヴァは黒猫ロロを撫でながら、了承してくれた。


「分かった、呼んでくる」


 レベッカの近くへ歩いていく。

 彼女は小言をブツブツ言いながら依頼を吟味していた。


「よっ、レベッカ」

「う~ん、この依頼、ああっ、シュウヤっ!」

「今日はソロ?」

「……そ、そうよ。いつもと同じ、シュウヤは?」


 期待が込められているとハッキリわかる視線と高音ボイス。


「パーティ組む予定」

「はぁ、それはそうよねぇ。あれほどの使い手だもの……」


 レベッカは嘆息し、明らかに声のトーンを落して、ガッカリしていた。


「ま、ガンバレ」

「うん……」

「というのは嘘で、俺を含めて三人居るんだが、よかったら、これから一緒にパーティ組まないか?」

「え、えぇぇぇ!? いいの?」


 レベッカは急にガバッと顔を上げて、魚が餌を食うように食い付く。


「いいよ。向こうのメンバーが俺の仲間。それと、こないだ言っていたじゃないか。“また今度”とな。冒険者ギルドでみかけたら声かけようかなとは、思っていたし」

「……嬉しい。ありがちょ」


 よほど嬉しいようだ。言葉を噛んでいる。


「皆に紹介するから、先に依頼木札を取っておいてくれるか? 魔石の収集以外の四つなんだけど……」


 ビッグマッシュルーム、トロント、ロールキルギン、スライム、討伐数や仲間がジグアを別に収集予定のことを話す。


「了解。ちゃっちゃと取っちゃう」


 レベッカは小口から依頼木札を素早く選び取っている。


「選んだわ」


 嬉し顔を浮かべて、トランプカードのように木札を見せるレベッカ。

 ちゃんと俺たちと同じ木札か確認。

 大丈夫。


「行こう。紹介する」

「うん」


 レベッカを皆が居るところへ連れていく。


「皆、お待たせ、連れてきたよ」


 腕を広げて、紹介。


「――どうも、わたしはレベッカ・イブヒンです。冒険者ランクはCの魔法使いです」

「ん、わたしはエヴァ。冒険者ランクB、鋼魔士」

「エヴァさんですね。よろしくお願いします」


 レベッカは軽く頭を下げてから、車椅子に座るエヴァへ向けて丁寧に挨拶していた。


 それより、エヴァは鋼魔士? 初めて聞く戦闘職業。

 あの鋼な義足が関係しているんだろうか。


「ん、よろしく」


 エヴァは優しく微笑む。


「わたしはヴィーネ。シュウヤ・カガリ様、ご主人様の奴隷であります。冒険者ランクはCです」

「はい。えぇっと。ヴィーネさん。よろしくお願いします」


 レベッカは奴隷と聞いて少し驚いている。

 というか、ヴィーネCランクだったのか。


 迷宮も含め、色々と経験を積んでいるのは確実だな。


「レベッカ様。わたしは奴隷なので、ヴィーネだけでいいですよ」

「わかったわ。ヴィーネよろしくね」

「はい」


 その時、周りの冒険者たちの声が聞こえてきた。


「おぃ、あの車椅子に座っているの死神のエヴァだろ? それと、近くにいる小娘エルフ、あの半端な耳と背格好からして、疫病神のレベッカだ……」

「珍しいな。あの個人組がパーティを組むとは、他の二人は知らねぇが……奴隷でも買ったのかねぇ?」

「一人は本当に奴隷のようだぞ。しっかし、朝から縁起わりぃの見ちまったぜ……今日の迷宮、暴走湧きスタンピード擦り付けモンスターキラーに気を付けないとな」


 その言葉に苛ついたので、中傷している冒険者たちへ向けて視線を鋭くして、睨みつけると、彼らは逆に同情する顔を俺に向けてくる。


 癪に障るが、それぞれに依頼木札を持ち彼らは退散していた。


 皆にも、彼らの心ない話が聞こえていたはずだが……。


 気にしてはないようだ。

 気不味くなるのもアレなので、魔石の依頼を、皆へ、投げ掛ける。


「……魔石の依頼はどれを受ける?」

「ん、シュウヤは中型魔石何個欲しいの?」

「そうだな……」


 確か、カレウドスコープ解放まで残り九十個だったはず。


 だから、


「百個は欲しい」

「ん、わたしは構わない」


 エヴァは頷き、納得してくれた。


「えっと、魔石をシュウヤは欲しているの?」


 レベッカが聞いてくる。


「うん。依頼とは別に個人的に欲しいんだ。駄目かな?」

「誘われた身としては、言いにくいけど、本来はパーティとして依頼を優先させてほしいな……」

「わたしはシュウヤ優先で構わない。シュウヤが必要なら、わたしの魔石収集全部シュウヤに渡す」


 エヴァは珍しく少し怒った口調だ。


「えっ、な、なら、わたしも構わないわ」


 レベッカはエヴァの態度に驚いたのか、しどろもどろになって了承している。


「それと、確か向かうのは三階よね?」


 気を取り直すように俺に質問してくるレベッカ。


「うん。その予定だ」

「なら、湧いているモンスターを片っ端から倒していけば、数百個単位で集まると思うから百個はシュウヤの物で、残りは皆の収入にしましょうよ。シュウヤの強さなら余裕だと思うし……」


 数百個か、結構な金になりそう。


「それでいいぞ。四人いれば、もっと大量に簡単に殺れるだろうし」


 ヴィーネにも意見を聞くように視線を向ける。


「わたしはご主人様に従います」

「ん、賛成」


 エヴァも特に不満はないようだ。


「おし、じゃ、選んでくる」


 俺は魔石依頼が並ぶボードに移動。


 これにするか。


 依頼主:迷宮管理局

 依頼内容:Bランク中魔石。品質問わず“二百個”

 応募期間:無期限

 討伐対象:問わず

 生息地域:迷宮第一層~

 報酬:金貨百枚

 討伐証拠:魔石

 注意事項:各種、モンスター。

 備考:主に第二階層から出現するモンスターが持っている。


 比較的大きい依頼紙へ指を当て――皆を見ながら、


「この依頼にするか?」


 依頼を全部合わせたら、皆で分けるとしても、相当な儲けになる。


「……ゴク、うん」


 レベッカは唾を飲み込み、こわごわと頷いている。


「ん」


 エヴァは微笑を浮かべ頷く。


「はい」


 ヴィーネは頭を下げて納得していた。


 皆で、魔石依頼の木札を取っていく。

 討伐依頼四つ、魔石依頼一つの合計五つ。


 パーティメンバーは四人と一匹か。

 俺、魔法戦士系。

 ロロディーヌ、神獣。

 ヴィーネ、魔法戦士系。

 エヴァ、魔法戦士系。

 レベッカ、魔法使い系。


 まだ使うつもりはないが、

 ヘルメ、魔法戦士系。

 沸騎士は騎士系。


 この面子だと遠距離からの攻撃で全て倒せそうだけど、それぞれメイン武器があるから少し違うか。


 名前的にはアンバランスだが、回復は俺が使えるし、ポーションも大量にあるからバランスは良い方と思う。

 魔槍杖を使いたいし、俺とロロが強襲前衛アサルトバンガードという形で良いだろう。


 多数の敵に囲まれたら、鎖を変形させ大盾を作るのも良いだろうし、強敵が出たら、俺が前にでて戦えば大抵は潰せるはず。


「……それじゃ受付で手続きをしよう」


 皆、それぞれに納得した顔を見せて、受付へ歩いていく。

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