百十九話 エヴァの能力

 腕の手首の部分にその黒棒トンファーを確りと装着すると棒の部分が収縮し袖の中へと武器は収まっている。


 魔法の品で伸び縮み可ギミック付きか。

 袖から少し飛び出ている黒いトンファーの先端を魔察眼で凝視すると、微かに魔力の反応がある。


「そのギミック良いね。伸縮性があり棒の武器になるとは」


 武器を褒めると、彼女は嬉しかったのか、紫の瞳を輝かせて細い片腕を上方へ上げる。


 袖奥から綺麗な腋を覗かせたが、指摘はせず、そんなエロい視線にツッコミが来るように、手首に装着されている魔力を帯びた黒棒が袖中からシュッと伸びてきて変形、トンファーになるところを見せてくれた。


「――トンファーになり杖になる。わたしの“武器”であり大切な“足”」

「なるほど。さっきの戦いを少し見てたけど、扱いが上手いね」

「あの時は、済まない、戦い途中だと、スキルや敵に集中しちゃうから」


 エヴァは恥ずかしそうに伏し目がちで答えている。


「あの場はしょうがないさ。敵がわんさかいたし、それで、その棒は特殊な金属なのかな?」

「ん……この武器、錬魔鋼と霊魔鉱を融合、逸品。車椅子と同じ、高名なドワーフ鍛冶師一族たちによって作られた完全オーダーメイド」


 錬魔鋼と霊魔鉱? そういう名前の金属があるのか。

 錬魔鉱を採りたいと言ってたし、関係がありそうだな。


「へぇ、そりゃ凄い。その車椅子も特殊か」

「……そう。わたしの魔力やスキルに呼応する」


 スキル絡みか。


「そういうことか」

「ん」


 エヴァが頷いたところで、俺は銀ヴォルクの頭が転がっているのを確認。


 あの銀ヴォルクの頭も回収しないと。

 他にも蝙蝠蟻の魔石も転がっている。


「……エヴァさんは蝙蝠蟻バットアントの魔石を回収しないで良いのか?」


 エヴァは顔を沈めて小さく声を出す。


「……所有権ない」

「そんなの気にしないで、自由に取りなよ。エヴァさんが倒していた蝙蝠蟻はかなりあるぞ。俺はもう依頼分確保してるし」


 俺の言葉に、エヴァは紫色の瞳を揺らし嬉しそうな顔を浮かべた。


「回収する」

「おう」


 落ちてた銀ヴォルクの頭を拾う。


 しかし、この頭に刺さってるクロスボウの矢、金属製で魔力を帯びている。特殊な矢なんだろうけど、回収しないのか?


 でも、先が曲がってるし入らないのかな。

 聞いてみよ。


「エヴァさん、この特殊な矢、回収はしないでいいの?」


 俺の問いに彼女はかぶりを振る。


「これから新しいの採るから、いらない」


 そのまま、蝙蝠蟻の死骸へ近寄り、ロングな黒髪をシュシュで一纏めにすると、一瞬、俺に視線を向け逡巡している素振りをする。


 ん? 髪型を変えたのが気になるのか?


 そして、エヴァは決意した顔を見せた。


 次の瞬間、全身から紫色の靄を発生させる。

 紫色の魔力を自分の周囲へ円状に放出し、展開。


 その紫魔力に触れた死骸は宙に浮かぶ。


 浮かぶのかよ。


 浮かんでいる死骸はエヴァのもと、車椅子の近くへと運ばれていく。

 車椅子からは長細い刃物が飛び出し、その刃物たちが、死骸を手術するように切り裂いて魔石を取り出していた。


 おぉ、前にも見たが、導魔術系の力か?

 俺の<導想魔手>に近いようで違う。


 さっきの逡巡の間は、あのスキルを見せるかどうかを、考えていたのか。


 俺は感心しながら好奇な視線でエヴァを追った。

 エヴァは無表情で次々に魔石を回収しては、懐からアイテムボックスらしき角ばった小さい銀製筒容器を取り出す。


 おぉ、アイテムボックス持ちか。


 腰ベルトに紐でも結ばれてあるようだ。

 ストラップ的な小さい木製人形もある。


 その中へ魔石を入れていた。


「終わり」


 車椅子の車輪には手をかけていなくとも、車椅子は進む。

 エヴァは太股の上に両手を乗せて、おしとやかな雰囲気。


「あぁ、奥へ行こうか。錬魔鉱が出るとこまで先導してくれ」

「ん」


 エヴァは優しい笑顔を俺に向けて、頷くと進み出す。


 俺とエヴァは凸凹が目立つ空洞の中を行く。

 車椅子は地面に揺られてガタガタ音を立てるが、大丈夫そうだ。


 二十分ぐらい時が経っただろうか……。

 突然に魔力を帯びた山のような壁に到着した。

 周りにはピック系の工具が落ち、鉱石を積んだ状態の荷車が放置されてある。

 鉱山の跡か。急遽逃げたような痕跡があった。

 周囲には魔素の気配は無し。

 だが、油断は出来ない。


「ここ、掘る」

「了解。――ロロ、周りを警戒」

「にゃ」


 黒猫ロロは鉱物の山のような盛り上がった壁際を走り奥へ向かった。


「あまり奥へ行くなよー」


 でも、エヴァはこれを掘るのか?

 そんな疑問の眼差しで見つめていたら、車椅子が変形。


「え? 変形?」


 素で驚いて反応。そんな言葉を呟く。


 エヴァの乗っていた車椅子の背もたれが上方へ移動変形。

 座っていた箇所が足を支える作りになり、エヴァは背中が支えられ、立ち上がったように見える。


 足元は固定されていて、すぅっと前へ素早く車輪駆動で前進していた。

 壁のような鉱山がある側まで移動。


 一瞬、セグウェイですか? と、突っ込みを入れたくなる。


 あんなの、現代の車椅子でも見たことねぇぞ。


 ハンパねぇ、パネェ作りだ。

 まさにあの車椅子はオーダメイドだろうよ。


 そんな感想を抱いてると、また、車椅子を変形させた。

 元に座るバージョンへ戻る。


 車椅子を立たせると速度が出るらしい。


 すると、腰のベルトに紐が繋がった角ばった小さい銀製筒容器から、別の金属製箱容器を取り出していた。

 彼女は真新しい金属容器を、鉱山との車椅子の間である足下へ置いている。


 何をする気だ?


 エヴァは車椅子に座りながらクロスボウ型義足を取り外す。

 鉄槌左足と義足を外した骨がむき出しの右足を、体操でもするように斜め下へ伸ばした。


 ん、両足に魔力を溜めている?

 本当に何をするんだろ……。


 義足と骨先の先端を鉱石に触れさせている。


 その瞬間。


 鉄槌義足が発光。

 同時に、鉄槌を構成していた鋼鉄の部分が溶け出し下へ垂れて落ちていく。

 下に置いた金属製の箱容器の中へ溶けた義足部位だった金属が収まっていた。


 容器の中には、まだまだ金属が入りそう。


 エヴァは息を乱し、辛そうに顔を歪ませる。

 痛みを我慢しているのか、眉間に皺を作り、目を瞑っていた。


 両方の足先が骨足だけになってしまう……。


 金属が溶けて骨が剥き出しになった左足は、脹脛から太い骨が突き出て、歪な骨肉が露となっている。

 その飛び出ている太い骨には幾何学模様の紋章が浮かび黒色に光を帯びていた。


 ミスティとはまた違う魔印か?


 更に、反対の足、右足骨の表面にあった紋章も光を放つ。

 こっちのマークは色は黒ではなく、紫色の光だったけど。


 エヴァは苦痛顔を浮かべた状態で、両足から飛び出た骨の先端を鉱物へ触れさせていた。

 それに伴い、両足の剥き出した太い骨に浮かんでいる紋章は強く輝きを発し、黒と紫の色が周囲を明るくする。


 輝いている紋章から熱でも伝わったのかは、わからないが、その太い足骨が白い光を帯び始めて、やがてオレンジ色へ変色した。


 骨足からは熱したような匂いが漂うと、骨に触れていた部分の鉱物が溶けて穴を空けていく。

 その穴から溶かされた鉱物がオレンジに輝く太い骨に吸着し、骨に肉が付くように、足の形を作っていく。


 おぉぉ、摩訶不思議。


 あの太い骨、まるで強力な磁石のようだ。

 溶けた鉱物を吸い上げて金属を骨に付着させている。

 やがて、太い骨先しか無かった両足が、滑らかな鉄槌足へ変化を遂げていた。


 吸い上げた鉱物は自動的に精錬されたのか、鉄槌の表面は滑らかだ。


 へぇ、あんな風にして鉱物を集めるのか。

 しかし、エヴァはまだ苦しそうな顔を浮かべている。


「苦しそうだ」

「我慢」


 まぁ、その顔色で分かるけどさ……。


『魔力をかなり消費しているようですね、戦っていた時よりも魔力操作が乱れています』

『なるほど』


 ヘルメと念話しながらも、さっきと同様に、彼女の両足にある鉄槌足が溶けて、床に置いた金属製容器へ金属が流れ落ちてゆく。

 金属が収まり満杯になると、大きなインゴットと化した金属の塊が箱の中で出来上がっていた。


 そして、もう一度、顔を歪めては、骨が剥き出し状態の骨足の先を鉱山に触れさせて金属を吸い上げていく。

 右足は普通サイズの金属足になり、左足は鉄槌の形と成っている。

 重そうな金属がたっぷりと入った箱を紫魔力で囲い浮かせては、腰ベルトに装着している銀製筒容器のアイテムボックスへ収納していた。


「終わり……」


 エヴァの顔はどうみても疲労困憊。

 顔は青ざめて、頬が痩けたようにも見える。


 ヘルメが指摘通り、魔力を大量に消費したのだろう。


「……エヴァさん、顔色が悪いけど大丈夫か?」

「金属の回収、いつもこうなる。休憩、よい?」

「良いよ。休もう」

「結界石」


 エヴァは疲れた表情を浮かべながら小さい声質で語ると、アイテムボックスから青い石を数個取り出していた。

 車椅子をゆっくりと動かしながら周囲の地面に石を置いていく。


 その石は青白い光を帯びていた。

 これが結界になるのか?

 掌握察だと石の魔力を感じるだけだが。


「休む」


 エヴァは短く言って、口にパンを含んでから膝上に毛布をかけ目を瞑っていた。


 そこに見回りを終えた黒猫ロロが帰ってくる。


「にゃ」

「おかえり、その様子だと何も居なかったようだな?」

「ンン、にゃお――」


 黒猫ロロは喉声と軽い返事声で鳴き、肩へ跳躍してきた。

 そのまま、背中にある外套頭巾の中へ潜っていく。


 お前も休憩かい。

 それじゃ、俺も休憩しとくか。


 アイテムボックスから、堅いパン、肉、野菜を出し軽いサンドイッチを作っては、口へ運び、もぐもぐと食べていく。

 そして、ロロの分も作り近くに置いてから、横にあった平たい鉱石群の一つに腰掛け、肩に魔槍杖を抱え一応周囲の気配を探りながら、休憩を行った。



 ◇◇◇◇



 黒猫ロロは俺が作り置きしたサンドイッチを食べてから、また頭巾の中に戻っていく。


 休憩して数時間は経っただろうか。

 微動だにしなかったエヴァが懐から大きい懐中時計を取り出していた。


 あんな時計があるのか。

 俺が注目していると、


「これ、魔道具。昔、手に入れた奴」


 魔道具の時計か。

 エヴァさんはそう言うと、毛布を仕舞う。

 そのまま車椅子を前進させて、俺に近寄ってきた。


「……起きていた?」

「少しは寝たよ」


 俺は誤魔化すように腰掛けていたところから立ち上がり、魔槍を仕舞う。


「シュウヤ、済まない」


 エヴァは笑顔を浮かべて、頭を下げてくる。


 お礼のつもりか?

 鉱物の採取を見ていただけなんだけど。


「いえいえ、見てただけだが、役に立てたのなら嬉しいよ。それじゃ地上を目指す?」

「戻る」

「了解」

「にゃ」


 黒猫ロロも頭巾から肩の上に顔を出して、返事を出していた。


「……」


 エヴァは、ちょこんと顔を出す黒猫ロロを見て、微笑んでいた。


「ンン、にゃあん、にゃぁ」

「可愛い」


 彼女は黒猫ロロのことを気に入ってくれたようだ。

 黒猫ロロは口顎を伸ばして欠伸を行い、何とも言えない眠そうな声を鳴いて返事をしていた。


「はは、ロロ、褒められているぞ」

「ンン」


 黒猫ロロはめんどくさそうに喉声のみで返事。

 頭巾から肩へゆっくりと移動すると、前足を肩下の二の腕にかけながら、床へ降り、空洞の出口へトコトコと歩いていく。


 太股のふさふさ黒毛が揺れている。プリティ。


「俺たちも行きますか」

「ん」


 互いに笑顔だ。


 そうして空洞を出て、通路を引き返していく。


 ゲート魔法は使わない。

 使って一緒に戻るのもありだけど、エヴァとはまだ出会ったばかりだし。


 しかし、彼女が乗る車椅子は凄い作りだ。

 車輪の部位はゴム製ではなく木製だが、蓋のようなホイール部分は金属製が多く、丸みを帯びていて精巧な技術だと分かる。


 特殊な金属と木材が混ざりあっているようで滑らかそうだ。


 しかもホイールの内部からも魔力を感じる。背もたれの部位では、丸い金属を中心に木材と特殊な金属が肋骨のように絡み合う機構なので、機械工学でもやってないと作れそうにない仕組み。


 と、特殊な車椅子のことより、帰り道のこと聞かないとな。


 帰りはゲートで帰るつもりだったから、道順、覚えてないし。


「……帰りの通路だけど、地図はある?」

「ん、勿論」

「そか。なら案内頼めるかな?」


 エヴァは車椅子に乗りながら、訝しむ視線を俺に向ける。


「……わかった」


 地図を持っていないの?

 とか思われたかも知れない。

 けど、何も言わず了承してくれた。


「よろしく」


 実は帰り道に不安があるとは言えない。

 十字路の道なんて自信ないよ。


 ま、進んで来た道のある程度は、頭で覚えているけどさ……。


 エヴァが乗る車椅子は速い。

 俺はそのエヴァが進むペースに合わせて走るペースで進む。

 蝙蝠蟻の死骸はもう通路から消えている。


 そして、ゴブリンエリアに突入後、前方から複数の魔素の気配を感じた。


「前に敵だ。複数いる」

「シュウヤ、索敵広い。わたしが前衛?」

「いや、ここは俺とロロに任せろ。休憩したとしても疲労は残っているだろう?」

「ん、わかった」


 エヴァは頷き、にっこりと微笑んでくれた。

 その微笑みに応えるように、俺も笑顔を浮かべ頷く。


 黒猫ロロと一緒にクリーム色の床を踏みしめ通路を走る。


 通路中央にいたモンスターは中型ゴブリン。

 合計、三匹だ。

 いつもの盾持ちが先頭に二匹。

 奥に長柄の戦斧ポールアックス持ちの一匹だ。


 今回は黒猫ロロより、俺が先に仕掛けた。

 外套から腕を出して、前傾姿勢を取り、魔槍を構え持ちながら魔脚で素早く前進。


 中型ゴブリンとの間合いを詰める。

 そして、出会い頭からの<刺突>。


 正面の左から、盾持ちゴブリンを豪快に魔槍の矛で突き破る。小さい丸盾を装着していた腕ごと穿ち、腹を突き破る紅矛と紅斧刃の螺旋回転。


 突きで伸びきった腕に力を入れて、魔槍杖を少し傾ける。

 紅斧刃を右へ傾けてから、横下へ一閃。

 もう一匹いる盾持ちゴブリンの左肩から胸辺りを紅斧刃でざっくりと削ぎ、繋ぎの皮鎧は破り切れ、ぱっくりと開いた切り口から緑の鮮血が迸る。

 じゅあっと紅斧刃に触れた返り血が蒸発した。


「ギャァァァッ」


 前衛の盾持ちゴブリンの悲鳴が響く中、後方から戦斧ポールアックス持ちの大きめの中型ゴブリンが前進しながら真横へ薙ぎ払うように攻撃を繰り出してきた。


 その振るわれた戦斧をバックステップで躱す。


 ゴブリンが薙ぎ払った戦斧は勢いよく真横を通りすぎていく、俺が傷を与え悲鳴をあげていたゴブリンの胸にその戦斧が直撃し、皮鎧を突き破って胸の真ん中に戦斧はめり込んでいた。


 同士討ちとは、苦笑する。

 だが、長柄持ちがメインな俺。戒めにはなる。


 戦斧の刃を振るっていたアホな中型ゴブリンは、ぎゃぎゃーと煩く喚き、仲間の胸にめり込んだ長柄の戦斧を引っ張ろうとしていた。

 死体に嵌まってとれなくなったらしい。


 完全に武器を使いこなせている訳じゃないのか。


 黒猫ロロはそんな一生懸命に長柄武器を引き抜こうとしている間抜けな眉毛が太いゴブリンさんへ向けて、首元から生えている触手を一、二、三、と伸ばしていく。

 先端からにゅるりと伸びた白銀の爪骨剣は、ゴブリンが装着している皮鎧の隙間を縫うように、胸、首、足に突き刺さる。


 ゴブリンは全身から血が溢れ倒れていった。

 倒れても、緑の肉厚な手には長柄な戦斧が握られた状態。


 この武器が気に入っていたのかねぇ?


 戦斧には魔力は感じられない。

 所々に錆色が見えるので古そうだけど。


 そこに拍手音が響く。

 エヴァだ。


「――シュッシュッと、槍斧凄い。シュウヤ強い、ロロちゃんも強い」


 ゴブリンの死骸を確認していると、車椅子に乗ったエヴァが拍手してくれた。

 感心したそぶりで近寄ってくる。


「中型ゴブリン、このゴブリンソルジャーならもう慣れたかも」

「にゃ」


 黒猫ロロも『当たりまえニャ』的に鳴く。


「……倒すの速い、カッコイイ」

「はは、そうは言っても迷宮には慣れてないですよ?」


 気をよくしながら語る。


「ん、でも、しゅしゅっと、槍、びゅあんって、斬っていた、一流、武芸者の動き」


 エヴァは興奮しているのか、紫の瞳孔を少し散大させながら、黒いトンファーを使い槍の技を真似するように動かしていた。


 俺は照れたので話を逸らす。


「でも、鉱山空洞での戦いでは、エヴァさんも車椅子で中型ゴブリンを素早く屠っていましたよね。あれは、凄く華麗な戦いでした」


 エヴァは頭を左右に強く振って否定。

 必死に説明を始めていた。


「……魔導車椅子、魔力を大量消費。迷宮では魔力の温存は常。個人なら尚更。普段はこのトンファー使う。だから、時間が掛かる」


 口下手だけど、だんだんと口数も増えてきた。


 普段はそのトンファーをメインに使っているようだ。

 そんな、エヴァの話を聞いて鉱山空洞に入るまでに倒されていたモンスターたちはどれも撲殺されていたのを思い出す。


「……魔力を消費するんだ」

「ん」


 魔石を回収。

 黒猫ロロは通路の先を歩いて警戒していた。


 もう、俺が言わないでも、黒猫ロロが独自に判断して行動していた。良い子だ。帰ったら丁寧にグルーミングしてやろう。


 俺とエヴァは警戒行動を取る黒猫ロロと合流してから、通路を進み出す。


 歩いていると、エヴァから話しかけられた。


「次、わたしも戦う」


 まぁ、そりゃそうだよな。

 臨時パーティーみたいなもんだし。

 ある程度は情報を流すことに繋がるが、気軽に俺やロロのことを話しておくか。


「わかった。俺はこの通り、――槍使いで近距離から中距離が得意だ。それに魔法もあるので遠距離戦も可能だ。ロロも口牙があり足爪の近近距離戦も出来るし、遠距離も触手骨剣と炎ブレスもある。だから、大抵はエヴァさんに合わせられるよ」


 自己紹介を兼ねて、魔槍杖を持ち防具がない右手の上でペンを回すように魔槍を回転させ遊ぶながら説明。

 すると、エヴァは真剣な顔つきで俺と黒猫ロロを見ていた。


「……シュウヤ、冒険者ランクは?」


 急に怖い顔したと思ったら、また、その質問か。


「Cランクだよ」

「……驚愕」


 はぁ、この辺りの反応は皆と同じだな。


「そうだな。だが、ランク=強さじゃないだろう?」

「……済まない」


 エヴァは俺の顔を見て謝ってきた。

 顔に出ていたらしい。


「気にしなくていい。ただいつも同じようなことを聞かれるんでね。それより、エヴァさんのことを教えてくれ」


 俺の言葉にエヴァは大きく頷く。


「ん、近距離、トンファー、魔導車椅子から金属刃。遠距離、大刃、大針が可能。言語魔法も土と風、使える」


 へぇ、やはり魔法も使えるんだ。

 足の鉄槌やクロスボウのことは話してないが、どうしてなんだろ。


「足の鉄槌による近距離戦や、あのクロスボウの戦いはあまり使いたくないのかな?」

「そう。魔導車椅子が転倒。あれは緊急。……魔力も多大に消費。わたしの“切り札”」


 エヴァは恥ずかしそうに顔を俯かせていた。

 ヘルメが指摘していた通り、切り札、それは冒険者としての、奥の手。


 言いたくなかったのか、単に恥ずかしかったのか分からないが……。


 ま、前者だな。あまり話したくないのが正解と思われる。


 彼女が切り札を話したとみると……。

 “エヴァは俺を信頼している”と受け取っても良いのかな?

 嘘だったのなら、それまでだが……。


「……そうだったのか。教えてくれてありがとう。でも、エヴァさん、俺に教えて良かったのか?」

「良い……見られた」


 うん、見ていたな俺。


「そか、エヴァさん。他の人には黙っとくよ」

「ん、シュウヤ。わたし……名前、エヴァ……エヴァ・ナイトレイ。後、シュウヤと同じ“さん”は、要らない」


 車椅子椅子に乗りながら、指と指を合わせて“もじもじ”と動かしてから、恥ずかしそうに話してくる。

 何か、可愛いかも。


「了解。エヴァよろしくな」

「ん」


 言葉が短いが、笑顔だ。


 結局、前衛は俺と黒猫ロロのツートップ。

 後衛にエヴァ。


 小さい逆三角形の隊列で進むことになった。


 通路や部屋に湧いているモンスターはスムーズに制圧。

 魔石はその場で分けた。


 落とし罠の箇所はどうするんだろう。

 と思っていたが、エヴァは車椅子ごと跳躍、又は浮いて回避している。


 こうして、幾つもの分かれ道を辿り、時間をかけて水晶の間に帰還することが出来た。


 最終的に魔石は依頼分を超えて余分に十個また増えていた。

 合計二十個。提出して金に替えようかと思ってたけど。アイテムボックス用に貯めとくのもいいな。


 どっちにしよ。

 

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