八十七話 蛇竜へスプ

 【フォルトナ】の冒険者ギルド前で止まり外観をチェック。


 木造建築の焦げ茶色で統一された建物だ。

 大きさは【ホルカーバム】にあったギルドと同じぐらいかな。


 入り口も西部劇にありそうな木製の両扉、何人もの冒険者が掌で押した汚れがある扉を押して、そのギルドの床に足を踏み入れた。

 入って横には広い部屋がある。会議が行えそうだ。


 左から中央にかけては、広くもなく狭くもない。

 天井にはクリスタルの魔法の光源があり、室内を明るく照らし、雑貨や飾りなどの光り物が反射して淡い輝きが冒険者ギルドを彩っていた。

 床は板の間、依頼が貼られたボードの前では、まいどの冒険者たちが依頼を物色中で、混雑している。その冒険者たちの種族は人族ばかりで、獣人は少数か。

 

 俺も多数の人族たちに混ざって、ボードに貼られた依頼の紙を見ていった。

 蛇竜退治の依頼があるはず……おっ、早速、見っけ。


 ――蛇竜ヘスプの依頼だ。


 高級そうな大きな羊皮紙に書かれてある。


 緊急依頼らしい。BかAランク以上奨励。


 依頼主:水神アクレシス神殿神官長キュレレ

 依頼内容:“緊急依頼”A++蛇竜ヘスプ退治。

 応募期間:倒されるまで無期限。

 討伐対象:蛇竜ヘスプ

 生息地域:【ゴッデスの森】・アクレシス神像

 報酬:金貨三十枚

 討伐証拠:蛇竜の牙、蛇竜の毒液、蛇竜の卵。普通はこの三つですが、蛇竜ヘスプが倒されれば、神殿の像から清水が溢れるので、今回は特に必要なし。

 注意事項:毒唾と噛み付き、胴体による吹き飛ばし、体当たり、尻尾の棘が要注意。

 備考:冒険者B以上が奨励。ただし、緊急依頼なのでランクは問いません。因みに蛇竜の牙、蛇竜の毒液、蛇竜の卵は高価買い取りの品です。


 依頼番号が書かれた木片を掴んで、受付に持っていく。


 受付嬢は綺麗な子が良いな。

 と言っても、受付係は少数しか居ないんだけど。

 その中で、美人な子がいた。

 明るい茶色の髪に茶色の瞳。

 この受付嬢のとこだけ行列ができている。


 ん~アイドルの握手会じゃねぇんだから……。


 でも、まぁ……分かる。

 髪型も一人だけお洒落だし、耳元にある白花の飾りが似合っていた。

 花が似合う美人だ。

 しかし、わざわざ並ぶのもなぁ。

 かといって、他の受付係の面子を見ると……。

 スキンヘッドの筋肉質な男と頬が痩せた老人、地味な女。


 まぁ良いか、今回は地味な子でいこう。


 あの子にする。暗そうな感じだけど……。

 スキンヘッドの筋肉男な受付よりかは女だよ。

 アイドル受付嬢の行列を無視して、すたすたと歩いていく。

 その地味な受付嬢の前にきた。


「この依頼は俺でも受けられるかな?」


 依頼の番号が書かれた木片とギルドカードを添えて提出。


「えと、えと……」


 地味っ子受付嬢は大きい瞳をカード、木片、俺へ向けて、いったりきたり……この女、逡巡しすぎ……。


「緊急依頼だけど」

「は、はいです。称号をお持ちなのですね。凄いです」


 あぁ、竜の殲滅者たちか。


「たまたまだよ。でも、ありがと。それで、この依頼は受理してくれるのかな?」

「はいです。少しお待ちくださいです」


 受付嬢は水晶玉が付いているいつもの銀盤を持ってくる。

 ただ、持ち方がぎこちない。

 この受付嬢、新人か?

 やっと受付台に銀盤を置いた。


「この水晶に手を乗せてくださいです」

「了解」


 手を置き水晶が光る。すぐに受理された。

 受付嬢はカードを取り出し、そのカードへめいっぱい顔を近づけては確認をしている。

 彼女、斜視気味だし目が悪いのかな……。


「完了です。これが、カードです」


 彼女は眉をぴくぴく動かしながら大袈裟に机にぶつける勢いでお辞儀しては、カードを返してきた。


「確かに」

「依頼頑張ってくださいです。この依頼、死者がたくさん出てますです。それから、Cランククラン【フォルトナの光】同じくCランク【黄金の剣王】クランさんが合同で蛇竜ヘスプ狩りを行うようで、今、右の応接間でクランの方々が集合してるです」


 丁寧に説明してくれた。


「わかった。見にいってくる」

「は、はいです」


 語尾が“です”口調の地味っ子受付嬢とは、そこでわかれる。

 応接間へ向かった。


「ロロ、静かにな?」

「ン」


 黒猫ロロは小さい喉声で短く鳴く。

 頭巾の中に潜ったまま眠りタイムらしい。


 さて、応接間に入るとして、クランと合同で狩りか。

 あまり行動は縛られたくはないが……途中まで集団に紛れるのは良いかも。

 蛇竜ヘスプの詳しい場所の位置は誰かが知っているだろうし。

 そんな都合の良いことを考えながら、部屋の取っ手を押して中へ入る。

 なにやら、作戦会議中であった。


「もっと多数のクランを呼ぶべきだ」


 俺は空いてる椅子に座り、その会議に参加した。


「それはどうだろうか。ここは大都市ではない。これでも被害が大きい割りには集まった方だ。個人参加の方も十数名ここにいるのだろう? それに、我々の【フォルトナの光】には回復魔法が使える魔法使いが三人もいる」

「たったの三人だろう? 俺たち【黄金の剣王】にも二人回復魔法を使える神官系戦闘職を持つ者がいる。だから合計五人の後衛で、蛇竜ヘスプに挑まなければならないということだ」


 そのリーダーらしき男が喋った後、アピールするように女性が立ち上がった。


「少しお待ちを、クランで勝手に話を進めないでください」

「ん、何だ?」

「わたしは個人参加のララァ・ドルカメンという魔法使いです。一応、回復魔法を使えますよ」

「そうか。君はランクは?」

「Dです」

「フッ、それではいささか不安だ。だが、後衛に徹するならば大丈夫だろう。他に回復魔法を使える方は挙手をお願いいたします」


 リーダー格の男は他の参加者へ視線を向けながら話していた。


 俺も釣られて周りを見る。

 手を挙げる者は――誰もいない。


「六人か、まぁ数としては妥当だな。そうなると、弱点となる雷撃魔法が鍵となる」

「雷撃魔法なら、わたしが使えるわ」

「彼女は我がクランの要だ。これで良いだろう? そろそろ、作戦を詰めようじゃないか」


 違うクランの代表格の一人がそう話す。


「……わかった。もう一度確認して、作戦を立ててから、ゴッデスの森へ向かおう。前衛中衛の方はこの場で挙手をお願いします」


 個人参加は俺を含めて前衛が八人。後衛の弓が二人。魔法使いが一人。

 【フォルトナの光】は前衛が四人。後衛の弓が二人。魔法使いが二人。

 【黄金の剣王】は前衛が四人。後衛の魔法使いが二人。


 といった戦力。

 因みに俺は前衛として挙手した。


「ん、一人増えたな? 君は……」


 俺のことらしい。


「Cランク。個人参加のシュウヤ・カガリ。基本は槍使いだ。扱いにはかなりの自信がある。相棒の使い魔もいる」

「ほぅ……よろしく頼む」

「こちらこそ」


 それ以降、目立った反論はなく。

 会議は順調に続いた。


 蛇竜の弱点である雷撃魔法が使える魔法使いが一人いるので、その雷撃を当てながら、弓使いが散開し矢を放つ。

 その間に前衛が突っ込み、ダメージを与えて、すぐに退く。そのタイミングで再度、雷撃を繰り返す。といったパターンで狩りを行おう。という具合に決まった。


 そう都合よくいくかね?

 と思ったが黙っていた。


 会議が終わると、その冒険者たちと共に【ゴッデスの森】へ向かう。


 皆、歩きだ。馬に乗ってる奴はいなかった。

 森林地帯に入るからかな?

 そんな疑問は【ゴッデスの森】に入るとすぐに分かった。


 この森林地帯の地面は凹凸の入り組んだ地形が多い。

 地面には朽ちた灌木なども多く魔獣や馬などの乗り物の移動を阻むのだろう。


 なので、皆、徒歩で進んでいた。


 俺の場合は木々を伝って早く移動できるのだけど、今回は団体行動だ。

 冒険者の皆に歩調を合わせて進む。


 森に入るとゴブリンの集団や人型の針鼠軍団といったモンスターが現れるが、俺を含めた冒険者たちは難なくそれらモンスター集団を撃滅。


 モンスターを倒しながらゴッデスの森を歩いて進む。

 そして、木々の間から青い湖面が見えてきた。


 綺麗な湖だ。

 冒険者の団体はそこでストップ。


 そこで、リーダー格の冒険者が、湖とは違う森林地帯を指差していた。

 目的はあそこだと、指示を出している。

 指示された場所を見ると、確かに神像があるのが見えた。


 神像には大蛇が絡み付いている。

 なるほど。あれが蛇竜ヘスプか。


 確かに大きい蛇だ。竜がつくのがわかる。


 神像は縦に十メートル、幅も数メートルある巨像。

 像を食べるように長く太い胴体を神像へ巻き付いていた。

 巻き付く蛇竜の姿をここから見ると神像のオブジェのようにも見えてくるから不思議だ。


 その神像の回りには蛇竜の卵と見られる物が多数置かれてある。


「では、当初の作戦通りに行動しましょう」

「やるぜ」

「おうよ」

「「おおう」」


 作戦の口火は紫ローブを身に纏う女魔法使いの雷撃魔法から始まった。

 多段の雷撃が蛇竜ヘスプの背中辺りにヒット。

 蛇竜はもんどりうって、像から落ちてひっくりかえった。


 どうやら本当に蛇竜の弱点のようだ。

 蛇竜は痺れて痙攣している。

 その光景に冒険者たちから歓声が上がり、次々に火球や炎の矢の魔法が放たれていく。弓矢も撃ち放たれた。


 火球は蛇竜の鱗に直撃し爆発はするがほぼ無傷だ。

 だが、弓矢は鱗を貫通。突き刺さっている。

 結構簡単にいけそう。

 その後、すぐに前衛の戦士たちが突っ込んでいく。

 だが、胴体から攻めるのか、普通は頭を狙うと思うが……。

 疑問に思いながら魔槍杖を手に出現させる。

 黒猫ロロも肩から地面に降りて、姿をむくむくっと大きくさせていた。


 ま、俺は個人参加、自由にやらせてもらう。

 蛇といったら頭だろう。先に頭を潰す。


「俺たちは見学しながら頭を目指す。ついてこい」

「にゃっ」


 黒猫ロロを連れて前衛集団から離れていく。


 蛇竜の胴体は青鱗に包まれ太く長い。

 前衛たちが、その胴体へ攻撃を開始していた。


 一人の大柄な戦士が鉄槌を勢い良く激突させ、太い蛇竜の胴体を揺らす。


 すげぇ重たそうな一撃だ。


 スキル系と思われる重い一撃で鱗を破壊、中から青肉が千切れ血が周りへ飛んでいく。

 続いて、他の前衛たちからの攻撃が始まった。

 鱗を槌で破壊、剣で肉を切り裂き、槍で中を突く。

 肉に挟まって抜けなくなった槍を鉄槌で打ち込み、鉄槍を傷口深くにのめり込ませていた。


 その時――蛇竜の長い胴体の先、頭部がある方向から大きい咆哮が轟く。


 相当に効いたようだ。痛みの悲鳴にも聞こえる。

 その咆哮を聞いた前衛のグループは調子に乗ったのか、胴体から離れずに、追撃の攻撃を加えていた。


 あれ、雷撃魔法のタイミングじゃねぇのかよ。


 作戦会議とはいったい何だったんだ?

 あれは結局クラン同士の自慢会話だったようだな……無駄な時間だった。

 俺は前衛の彼らには何も言わずに蛇竜ヘスプの頭を目指す。


 蛇竜は怒ったのか、大きい胴体をくねらせ素早く反動を起こしていた。

 うは――ドンッと音を立てた胴体の波が前衛たちを飲み込んだ。

 前衛の殆どが大きい胴体の中へ飲み込まれるように下敷きとなって圧死していく。

 生き残りは何人かいるが、フォローの魔法も雀の涙。

 それを見ていた後方から叫び声が聞こえる。


「作戦は中止っ、撤退を開始しますっ!」


 お~い。雷撃の魔法の追撃はどうしたんだよ。

 前衛を巻き込んでもいいから撃てば良いのに、撤退早すぎだろ。

 ま、最初から作戦無視している俺が言うのも何だけど。


「ロロ、あんな指示には従わない――俺らだけでやるぞ」

「にゃぁ」


 黒猫ロロは傍を追走しながらも、ちゃんと返事をした。

 ヘスプの頭を目指して走る。


 蛇竜ヘスプは胴体を収縮させ尻尾を伸ばし膨らませていた。

 膨らませた尻尾の先から無数の長刺を生み出しては迫撃砲を撃つように次々と空中高く打ち上げている。

 それは数十数百にも及ぶ数の太い刺。

 撤退をしていた人たちの頭上から大針が雨のように降り注ぎ、魔法使いたちは次々と刺され串刺しにされていた。

 弓を使う冒険者は敏捷性が高いのか、巧く避けて大針の攻撃から生き残っていたが背中を見せて逃げていく。


 そこに蛇竜の頭が見えてきた。

 縦に割れた二対の赤紫の眼。

 頭の両サイドが像耳のように盛り上がっている。

 コブラの頭部を横広く巨大化させたとも言えた。


 傍で走る黒猫ロロ視線を飛ばすアイコンタクト

 目が合った黒猫ロロは何も言わずに傍から離れていく。


 蛇竜の正面に立ち、


「コイヤァァ、蛇竜ヘスプッ!! 俺がお前を倒すっ!!」


 わざと怒鳴り声を出す。

 声に釣られたか、どうかわからないが、蛇竜ヘスプは蛇らしい独特の音を発しながら口を広げて応対してきた。

 口には二本の長牙を生やしている。

 牙の先端からは毒々しい液体が溢れ滴り落ちていた。


 見た目的にも、警戒MAX状態。


「ヴァッシャァァァァァァ」


 やはり来たっ、叫音と一緒に毒唾が飛んでくるっ――。

 魔闘脚で素早くソレ毒唾を避ける。


 俺が避けた地点、毒液が当たった地面からはシュアアアっと、酸により化学変化が起こすように異質な嫌な音が鳴り毒々しい紫色の煙が発生していた。

 確実に“毒”と分かる、強烈な硫黄臭も漂う。

 少しでも動きを止めると、また毒唾を吐いてくる。

 魔脚を使いリズムよく反復横飛びを行うようにステップワークを駆使しては、迫りくる毒唾攻撃を避けていく。

 蛇竜は素早く避け続ける俺に向け必死に頭を振りまいては毒を吐き続けてきた。

 毒唾を避け続けているが――臭い。

 また、毒唾を吐いてきたっ――それを避ける。


 喉が焼けそうなぐらい臭い。

 そのタイミングで蛇竜の動きが止まる、毒唾を吐かなくなった。

 おっ、やったか。

 蛇竜ヘスプの頭には黒猫ロロが乗っていた。

 ヘスプの頭へ直接噛み付きを行い、しなる動きの触手骨剣を至るところへ突き刺している。蛇竜は突然な攻撃を受けて混乱しているようだ。


「ロロっ、ナイス」


 蛇竜ヘスプの意識は完全に“俺だけ”を意識していたからな。

 ――毒液により異臭を発生している腐った地面を避けながら、前へ吶喊。

 ヘスプは赤紫の眼を必死に上下左右へ動かして、胴体をくねらせている。

 黒猫ロロは四肢の爪を鱗や皮膚へ喰い込ませ揺れ動く蛇竜の頭にしがみつきながら頭部の肉を食べるように噛み付きを行う。

 傷を負った蛇竜の頭からは勢い良く青紫の血が噴出していた。あの傷具合からして食べているようじゃなく、あれは実際に食べているのだろう。

 そのお陰で、蛇竜は俺に対する注目を完全に失う。

 ――チャンスだ。

 走りながら蛇竜ヘスプへ向け左手を翳し<鎖>射出。

 鎖は宙を勢い良く進みコブラのような蛇竜へスプの頭部に突き刺さった。

 左手首の<鎖の因子刺青マーク>から直に伝わる感触から鎖の先端ピュアドロップが蛇竜ヘスプの肉、骨を裂いて内部に浸透しているのが分かる。

 ヘスプの頭を侵食するように鎖を動かし続けた。


 このまま鎖で脳を破壊するのもありだが、直接、ぶっ叩く! 


 俺は睨みを利かせ、魔槍を右手に構えながら鎖を左手に収斂させる。

 そのまま一気に蛇竜の頭へ身体を運んだ。

 視界に巨大なる蛇竜の頭部が占める。

 その迫力ある頭へぶつかる勢いを一点の右手に握る魔槍に宿し<闇穿>を発動。

 闇を纏う魔槍螺旋の紅矛が蛇竜へスプの眼球を貫いた。


「ギャァァ」


 悲鳴を上げる蛇竜。

 そこに黒猫ロロの触手骨剣が蛇竜の後頭部に突き刺さる。

 蛇竜は胴体ごと痺れたように震わせると動きを鈍らせた。


 俺はそれを見ながら両足で蛇竜の頭に斜めに着地。

 建物から降りていく要領で鎖をラぺリングのように扱い、少し跳躍。

 そのタイミングで眼球に刺さった魔槍を引き抜く。

 紅矛には血塗れの巨大眼球が刺さった状態だが、構わず、蛇竜の眉間へ向けて眼球を縫い付ける勢いで魔槍を突き出した。


 蛇竜の眉間に突き刺さる魔槍。

 潰れた眼球がある種の芸術作品モダンアートのように感じさせる。


 だが――まだだ。鎖を支えにまた跳躍。

 続けて魔槍を引き抜き<闇穿・魔壊槍>ッ!

 闇を纏う<闇穿>の紅矛魔槍螺旋の強烈な突き技が、残っていた錦の色彩眼球を破壊しながら眼窩を突き抜ける。

 そして、コンマ何秒も経たずに壊槍グラドパルスが出現。

 突き出ている魔槍を追い越す勢いで壊槍グラドパルス闇の巨大ランスは唸りを上げながら螺旋吶喊。

 柔らかい豆腐を突き崩すように蛇竜の頭へ侵入してゆく。


 かつて魔竜王にさえ風穴を開けた闇ランスだ。


 凶悪なミキサードリルに巻き込まれたような異音を発生させながら蛇竜の頭肉を周囲へ弾き飛ばす。

 壊槍グラドパルスの螺旋回転は衰えず、蛇竜ヘスプの頭蓋上部を渦を巻くようにくり貫いては後ろの空間へ突き抜けていた。

 楕円状にくり貫かれた頭の断面から、どろりと脳の一部が垂れると、蛇竜ヘスプはガクッと動きを止めて傾き横へ倒れていく。

 頭を半分以上くり貫いた闇ランスこと壊槍グラドパルスは向こう側へ突き抜けてから自然消失した。


 よぉぉっし! 


 スキルを交えた四連突きが上手くいった。

 あくまでも連続で放っているだけで、微妙なタイムラグがあるんだけど。


 黒猫ロロがまだ痙攣している蛇竜の長い胴体に向けて触手骨剣を突き刺しているが、蛇竜ヘスプの痙攣は次第になくなり動きは止まる。


 完全に死んだ。

 蛇竜ヘスプの頭部へ急ぐ。


 この牙、回収するとして、毒液も回収しとくか。

 死骸の蛇口を広げると、牙の先端から毒液が滴っている……。

 この毒を回収するにしても普通の瓶だと溶けちゃいそうだ。

 どうすれば……解体して調べるか。

 頭部を輪切りに喉へ切り込みを入れていく。

 牙の先端の小さい穴から続く毒腺を調べると、その先にある根本に繋がるのが……お、やっぱりあった。毒袋を発見。

 喉の奥に骨の間に内包されていた。これを直接回収しちゃえば良い。

 毒袋にはたっぷりと紫と緑が混ざったような気色悪い毒液が入っている。


 根元に古竜の短剣を使い切り込みを入れて、毒袋と牙を切り離しに成功。

 ……慎重に零さないように毒袋を取り出し、袋の先を結び、その結んだ先端を紅斧で溶かして蓋をした。

 蛇竜の牙は根本から引き抜き、骨に確りと嵌っている牙は古竜の短剣で切り取っていく。


 一通り回収を終えた。


 最後に蛇竜の卵を回収しながら戻るか。

 蛇竜の頭から胴体を辿り、戻る途中で蛇竜の卵をアイテムボックスに回収を行う。


 そして、前衛たちが戦っていた現場へ戻った。


 生き残りの冒険者たちは……たったの二人だけ。

 彼らは地面に座りへたりこんでいる。


「おっ? 生き残りがいたのか……」

「蛇竜が突然動きを止めたのだが、ワケを知ってるか?」


 大柄な男と普通サイズの男たちが俺を見るなり、そんなことを聞いてきた。


「あぁ、俺が倒した」


 と、素直に話す。

 俺の言葉に、額に傷がある大柄な男は驚き、目を見開く。


「な、なんだって?」

「お前が倒したのか……名は、確か……」


 あ、この人、会議でリーダー格だった人だ。

 俺の名前は覚えていないらしい。


 とりあえず、名乗っておくか。


「Cランクのシュウヤだ。それより、後衛のやつらは前衛を見捨てて逃げていたな」

「あぁ……所詮は寄せ集めの烏合の衆。俺の名はサジ・グレフィ。ランクCで個人参加していた者だ。逃げていった奴等の気持ちもわからんでもない。こっちは調子に乗り作戦を無視。反撃を喰らい一気に瓦解したからな。しかし、逃げた奴等も結局は尻尾の攻撃で殺られていたわけで、何とも言えん……」


 あの雨のような大針攻撃か。


「確かに」

「だが、蛇竜を倒すとは、シュウヤはやるな、確か槍には自信があると話していたのを覚えているぞ。凄腕な冒険者と会えて光栄だ」


 サジが俺を褒めると、隣にいた男も口を開く。


「そうだな。俺も名乗っておこう。Cランク【黄金の剣王】クランリーダーのグント・エリブゼン。俺とサジは君に助けられたというわけだ。ありがとう。そして、今後ともに冒険者として、宜しく頼む」


 会議でリーダー的存在だった人か。

 生き残ったのだからそれなりに強いんだろうな。


「助かってよかった。俺の方こそ宜しく頼む」

「それじゃ、俺は先に退散させてもらうぜ。多大な犠牲がでたが、依頼は達成だからな」


 サジはよろよろと立ち上がり、愛用の武器を拾っては肩にかけると足を若干引き摺りながら去っていく。


「了解……仲間の死骸から手荷物とカードを回収したら撤収する」


 【黄金の剣王】のリーダーは仲間の死体を見て悲しげに語っていた。


 なんか気まずいけど……。

 やることは、まだ、あるんでね。


「それじゃ、俺もこの辺の卵を回収してから帰るよ。じゃあな」


 目に見える範囲にあった卵を時間をかけて回収。

 回収を終えて帰ろうとした時には夕方が過ぎて、もう夜になろうとしていた。


 暗い夜になるが帰りは【ゴッデスの森】に生える木々を利用。

 <鎖>と<導想魔手>を使い木々を伝い移動する。


 そうして、素早くギルドへ直帰できた。


 俺がギルドの中へ入ると一気に視線が集まる。

 蛇竜ヘスプ退治の噂はもう広まってるらしい。

 噂は一人歩きするから……厄介の種だが、ま、構わない。


 ここには長居するつもりはない。


 胸を張り堂々と受付まで歩く。

 最初に担当してくれた地味な受付嬢に冒険者カードと蛇竜ヘスプを倒した証拠である牙、毒液、卵をアイテムボックスから取り出しては、受付台の上にどっさりと置いた。


「び、びっくりです。成功したのですね。緊急依頼の達成おめでとうございます。今、精算してきますです」

「よろしく」


 待っていると事務の後ろで、てきぱきと働く地味っこ受付嬢のことを、美人な受付嬢が口の端を歪めて睨んでいた。


 怖、耳元の白い花が一瞬萎れて見える。


 不思議そうに俺がその様子を見ていることに気が付いたのか、睨んでいた美人な受付嬢は表情をすぐに変えてニコっとした笑顔を俺へ返している。


 う~ん、この職場の人間関係が見えてきたりしちゃったかも。

 でも、俺が何をするわけでもないんだけどね。


 地味な受付嬢よ、ガンバレ。と、陰ながら心で呟く。


 そんなことをしていたら、受付嬢が戻ってきた。


「おまたせです。合計金貨四十枚です。カードもどうぞです」


 あれ、いつも見てきた金貨の形と刻まれているデザインが違う。

 あ~、国が違うからか……。

 その辺のことを聞いてみるか。


 アイテムボックスから金貨を一枚出してと、


「この金貨はここで通用する? 国によって価値が変わったりするのかな……」

「その金貨は【オセベリア】の金貨、オセール金貨ですね。ここでも流通してますです。この【ヘスリファート】で流通しているヘス金貨と同価値なので、価値は変わりません。【オセベリア王国】内でもヘス金貨は同価値なはずです」


 なるほど、同価値なら両替とかは必要ない。

 砂漠を越えて国が結構離れていても流通はしているらしい。

 でも、なんで、違う国同士の金貨価値が統一されているんだ?


 何かしら国同士の協定があるのかもなぁ。


 金貨の鋳型とか使った偽金貨や金の含有量が違ったりしたら悪党の第三者が得をしそうだけど、その辺は魔道具とかスキルで本物と偽物が判断ついたりするんだろう。市井に偽金が広まっていたら発見は難しいが……。


 あっ、そういや……。

 宿屋で金払った時も普通にオセベリアの通貨が使えていた。

 【オセベリア王国】は大国だから、ある程度の信用を得ていて、この地域の統一通貨的な感じなのかも……。


 ま、一冒険者に過ぎない俺が小難しいこと考えてもしょうがない。


「……なるほど」


 納得しながら貰った報酬をアイテムボックスに入れて、カードを受けとる。


 冒険者カードを見た。


 名前:シュウヤ・カガリ

 年齢:22

 称号:竜の殲滅者たち

 種族:人族

 職業:冒険者Cランク

 所属:なし

 戦闘職業:槍武奏:鎖使い

 達成依頼:12


 依頼達成数が十二。


 達成数は順調に増えている。

 確か未探索エリア開拓ミッション以外だと、三十回達成しないとBランク昇格の試験は受けられないんだっけか。


 うろ覚えだ。

 いつか三十回達成したら聞いてみよ。


 カードは胸ポケットに仕舞う。


 それじゃ神殿に向かうか。清水が復活していると良いんだが。

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