八十六話 路地裏の吸血鬼
気にせずに港近辺の様子を見ていく。
水の匂いが漂う。
ここが湖畔の街だと分かる海の匂い。
……海とか湖畔とか滝とか、水の匂いってどこか懐かしさがあるんだよなぁ。
港に泊まる船の形はヘカトレイルやホルカーバムで見た船に似ているが小ぶりな漁師船が多い。
神殿らしき建物はどこだろう……。
少し高い建物上へ移動するか。
ついてくる奴等もついでに撒く。
建物の陰を走り、ギザギザの角張った壁から周囲を確認。
視線がないかチェック。誰もいない。
柱や窓の溝彫りと窓台に手と足をかけて、壁を上がる。
そして、まぐさの出っ張りを指をかけて、一気に、クリフハンガー! いや、「崖に宙づりになるもの」になってしまう――。
そんな調子で、屋根の上へ登った。
登りきった直後、下の通路から俺を追跡してきた奴等が姿を見せた。
見た目は冒険者か?
それなりの装備を身に着けている奴等だ。
きょろきょろと左右へ動かして……。
必死に俺の姿を探しているようだ。
目的はなんだ?
アイテムボックスを見せたからか?
あの探しようだと……しつこそうだ。
が、今は放っておく――。
くぅぅ~と、呑気に背伸びを実行――。
屋根上をゆったりモードで歩く。
手を翳しては港の全景を見た。
――あの建物かな。というかアレだろう。
波止場の左端に長い階段が見え多数の人々が登っている様子が見える。
階段の上には石灰岩が削られてできた神殿らしき建物があった。
あそこへ行ってみよう。
屋根を走った――。
四角い石を、跳び箱でも越えるように――。
両手を乗せて一気に石を乗り越えた。
洗濯物を干せる棒を掴んでは、その棒を掌の中で滑らせるように勢いを利用――。
隣の石材の屋根に飛び移った。
相棒が眠る背中を気を付けながら――。
転がりながら着地――。
ステップを踏み、一定のリズムで障害物を越える。
――フランスの芸術移動集団を思いだしながら――。
パルクール、ヤマカシの演者にでもなったかのように――。
更に、武俠の内功的な、魔力を足に軽く溜めては魔脚を使い建物に繋げられた細いロープの上を走り抜け隣の屋根上へ渡りきる。
神殿近くにあった赤い屋根上に到着した。
俺は特に意味もなく側転しながら屋根上を移動していく。
側転終わりの屋根の端先に、鷹が止まりそうな長細板があるのが視界に入る。
少し興味が出たので……長細板へ歩いて進む。
景色が良い。俯瞰で街を見ているようだ。
そして、下には丁度良い、藁が詰まった馬車があるのが見える。
これはあれか、ここから飛び降りろというサインか?
バンジージャンプじゃないが……飛び降りるか。
「ロロ、つかまってろよ。下へ落ちるから衝撃に一応備えてね」
頭巾から肩に移動しているロロへ一応、警告。
「にゃ」
屋根上に突き出た木製の先端から、両腕を鷹の翼に見立てて、飛び降りる――。
地面にある藁が詰まった荷車へ急降下。
股間がきゅんっと縮む感覚と共に“ピュゥ”っと鷹の音が聞こえた気がした。
背中を向けて藁の中に無事に突入。
藁のクッション性は抜群といったところか。
アサシンズクリー○を思い出す。
不安だったのか触手を先に藁の中へ伸ばして着地していた。
「ロロ、神殿へ行くぞ。頭巾の中に戻るか?」
「ンン」
藁の中に潜り込んでいる
前足と触手を使い荷車から降りている。
俺も素早く藁を蹴り上げるように飛び上がり、藁が入った荷車から脱出した。
路地隙間の先に石材の曲がり角があるのが見える。
その曲がり角へ走り近付き、足下からきゅっと音がするぐらいに綺麗な石床を蹴っては角を曲がると、神殿の階段前に到着した。
Uの字のような形をしている階段上に視線を移すと、神殿の外観がハッキリと見える。
古い教会のようで真っ白だ。
建物の材質は石灰岩ではなく、雷文模様の目の粗い大理石に近い。
日本的だとラーメン器の外にある唐草模様。
古代中国だと権力の象徴だったか。
そんなことを考えている間にも、階段を行き来している人々は沢山いる。
薄緑のプラトークをかぶる女冒険者、底金をうった靴を履く商人、浮浪者と思われる古風な巻きスカートを履く老婆、真新しい木綿服を着込む若者、毛織のカフタンを着た老人……流石に神殿というだけあって、信者と思われる薄青の前空きローブで身を包む人も多い。
それらの人々に混ざり長い白階段を上る。
上った先には大きなアーチ状の出入り口が出迎えた。
多数の人々と共にアーチ門を潜り奥へ進む。
中は狭い縦に続く廊下だが、天蓋は高く……廊下の左右には天井を支える大理石の柱が幾つも並ぶ。
廊下の先には、またアーチ状の出入り口があった。
その出入り口を潜り中へ進む。
ここからは信者さんらしき格好をした人たちが増えてきた。
薄青い服に青生地のガウンを重ね着している。
エルフの姿は見かけない。
やはり、ここは【宗教国家ヘスリファート】の勢力圏内なのだろう。
通路を進むと、吹き抜けの大きいホールに出た。
作りはまさに神殿であり教会だ。
大小様々な燭台がシンメトリーを意識するようにホールの隅や手前に設置され、たくさんの火が灯った蝋燭が明るい光源になっていた。
辺りに、鐘と美しい歌音が染み渡る。
厳かだが、泉の中から湧き出るようなボーイソプラノの音色が天国へ誘うかのように不思議な気持ちにさせてくれた。
肩にいる
聞こえてくる音色へ自然と視線が移る。
左辺には雛壇のような場所があり、壇に乗った青い衣を着た少年少女たちの合唱団、聖歌隊と鉄筒楽器を手に持つグループがいた。
ボーイソプラノの子はまだ背が小さいが精一杯歌い上げている。
あの高音は神に与えられた短い時間か。
声変わりしたらアルトに転向するのだろうか。
指揮者の手の動きは俺が知る動きと似ている。
子供たちが持つ楽器はハンドベルに近い楽器?
そんなどうでもいい疑問を考えていると、ボーイソプラノのソロパートが終わりアルトたちと吼えるようなバスの連合歌に発展、メンデルスゾーンのエリヤに似た曲調から変化を遂げていく。
俺はたっぷりと不思議な曲を味わいながら視線を中央へ向ける。
中央奥には巨大な水神アクレシスの像があった。
両手で大きな水瓶を頭上に抱えている女性を象った、まさに
衣の形も、まさに神が身に纏うような意匠が施されてある。
両手で支えられた水瓶からは水が流れた跡があり、像の下方までくっきりと水跡が残っていた。
でも、今は水瓶から水が流れていない。
あの水瓶から流れ出ていた水が清水なのかな?
水瓶を持つ神像前では薄青の衣を着た神官さんが手を組み、水神アクレシスへお祈りを捧げていた。信者の方々も膝を降り神官の動きの真似をしたり、指で十字を切ったり、額にあるプラトークへ指を押し付けて一生懸命にお祈りを行っている。
神官さんのお祈りに合わせる形で合唱団の歌声も小さくなり厳粛なムードが漂う。
でも……この空気感を、ぷぅっと屁の音で壊したくなる。
そんな子供染みた発想の冗談はさておき、ふざけずに真剣な面持ちで神官さんに話しかけた。
「あのぅ、すみません」
「はい?」
「アクレシスの清水は貰えますか?」
「すみません。今はご覧の通り、水瓶から清水がでないのです」
やはり、止まっていたか。
「そうですか……」
「ええ。“蛇竜ヘスプ”が【アクレシス湖】から近い【ゴッデスの森】にあるアクレシス神像の一つを占領してしまい、ここの本殿からの清水がストップしてしまいました」
蛇竜ヘスプ? 神像は複数あるのか。
「神像は他にもあるのですか?」
「はい。そうです。神像は全部で六つあるのですが、各地に散らばる神像の力により、この水神アクレシス神殿の本殿にある神像が支えている“水神の水瓶”から清水が生まれでるのです」
神像の力か。蛇竜がそれを邪魔していると。
「その蛇竜を殺れば清水は復活するのですか?」
「はい。そうです。冒険者ギルドで退治の依頼をお願いしております。……ですが、もう七日近く経ちますが、今回はどういうわけか、まだ誰も討伐を成功させていないのです。冒険者クランでの合同で狩りを行うという話も聞いていますから、もうじき倒されると思うのですが……倒せなければ、蛇竜ヘスプの卵が孵るまで待たないとだめかもしれません」
神像の力は凄いんだな……モンスターの卵にも影響を与えているらしい。
まぁ“枯れた大樹”を復活させるという材料だ。
そういう不思議な力があるのだろう。
「蛇竜ヘスプの卵が孵るまでの期間はどのくらいなのですか?」
「一年は掛かるかと……」
「長いですね……」
「はい。その期間、清水が出ないとなると、飲料や治療だけでなく農作物、薬草作りや、ポーション製作に多大な悪影響が及ぶのです」
色んな効用があるんだ。
清水とはやはり重要アイテム。
「それは……大変ですねぇ。早く倒さなければ」
「はい。それはそうなのですが、光神様以外に関する事柄については、この国の対応は一切の期待ができませんので。冒険者様に頼るしかありません。ですので素早い対応は無理と思っています」
そりゃ、期待はできないよな。
【ヘスリファート】は光神ルロディスの一神教のような感じなんだろ?
それを思えば、よくこの神殿が取り壊されていないな。
「……なるほど、それはそうでしょうね。それと、蛇竜ヘスプについてなのですが、産卵時期は必ず神像を占拠するものなのですか?」
「いえ、必ずではなく森や湖で産む場合もあります。ですが、蛇竜もアクレシスの神像の近くで卵を産めば、その卵が神像の力を吸収し力強い蛇竜となることを知っているのです。ですのでこういったことは年に数回発生してしまうのですよ」
そういうことか。こりゃ倒すしかない。
「なるほど。そうですか。わかりました。では“俺が討伐してきましょう”」
「え? 貴方が、お一人でですか?」
神官さんは長い帽子を被っている。
俺の言葉に驚いたのか、頭を揺らしてその帽子がすこしずれていた。
「にゃぁにゃ」
神官の言葉に俺の肩でじっと話を聞いていた
鳴き声から判断すると、『わたしもいるにゃ』だろうな。
「相棒もいますし、大丈夫ですよ。一応冒険者ギルドで依頼を受ける予定ですが、クランが合同で狩りをするんでしたっけ? それに混ざるかは、まだわかりません」
神官さんは諭すように俺を見る。
「蛇竜ヘスプは巨大で強力なモンスター。悪いことは言いません。狩りをなさるならクランの方々と合同で向かった方が良いでしょう」
「考えておきましょう。それで弱点とか、知ってますか?」
「雷撃が弱点とは聞いたことがあります。ですが、わたしはただの神官。戦ったことはありませんので、これぐらいしか……すみません。詳しいことは冒険者ギルドの方が知っているはずです」
「そうですね。では冒険者ギルドに向かいます。わざわざ質問に答えてくださってありがとうございました」
神官さんに対して尊敬を込めて頭を下げる。
「いえいえ、これも水神アクレシス様のお導き。どうか無事に任務が果たされますように――」
神官は懐から小さいロッドを持ち出し、左右に振ってお祈りを始めた。
俺はもう一度軽く頭を下げてから
さて、冒険者ギルドに向かうとしますか。
階段を降りて目抜き通りを歩いていく。
通りを歩きギルドの建物が見えかけた時、さっき俺を追いかけていた奴等と遭遇した。
「ロロ、準備しとけ。分かってると思うが、基本、待ちだからな」
「ン、にゃ」
遭遇した奴等の背後に走っていく。
待ち構えていたと思われる奴等は六人。
槍を持ったリーダー風の背丈の高い金髪騎士。
二剣を腰に差す中肉中背な中年男。
片手剣と盾を持つ小柄な男。
ハルバードを持つ巨漢な男。
魔法使い系の衣服を着た小さいロッドを持つ茶髪な女。
弓を持ち性格がきつそうな狐目を持つ黒髪の女。
男四名、女二名の合計六人。
一人を除いて魔力を全身に漂わせてはいない。
魔法使いと思われる女が魔力を感じさせるのみだ。
六名で俺を囲うように、道を塞ぐ。
「やっぱり隊長の読みは当たったね」
「あぁ、ここ張っとけば、冒険者なのだからいずれ来るだろうと言っていた。さすがは隊長だ。読みが深い」
六人はそれぞれにアホな感想を述べていた。
何が読みが深いだよ……笑けてくる。
そのアホな連中から背丈の高い革服を着込み長襟を首に立たせる騎士風の男が鷹揚な態度で一歩前に出て話しかけてきた。
「やはり、きましたか。同業の冒険者ですからね。来ると思っていたのですよ」
「だからどうしたんだ? 用件は何だ」
「あなたの、その腕輪、随分と高級そうですね」
「あぁ、そうかもな?」
俺が
そして、槍の穂先を俺へ向けた。
こいつら、武器を向ける意味が分かっているのか?
ここは目抜き通り……。
周りから注目を浴びてる中で、何でそんな行動を取る。
衛兵は少なからずいるだろうに、そこまで、して
「そうですか。ここでは注目を浴びますから、そこの路地裏の奥へ行きませんか?」
槍の穂先をくいくいっと動かして、移動しろと促してくる。
他の五人もそれぞれに武器を抜いていた。
「シャアァァッ」
冒険者たちの背後にいる
怒っているロロと目が合わせ、俺は“まだ”だ。と、僅かに頭を横に振る。
ロロはすぐに威嚇音を出すのをやめてくれた。
さて、路地裏に誘うなら好都合。わざとついていくことにする。
たっぷりと“死”という
「わかった、ついていこう」
「物わかりがよくて助かる。くくく」
何が、くくくだよ。痩せこけた頬で、薄い唇。
その薄ら笑いの冷笑がどこまで続けられるやら……。
路地裏の奥へ進む。
「――ここで、良いでしょう。さて、その腕輪をこちらに渡してください」
隊長と呼ばれていた金髪の青目はニヤついた顔で言ってくる。
……渡すわけないだろうに。
「はぁ? いやだね」
「状況が分かっているのですか?」
金髪の青目が痩せた頬を歪ませて、聞いてきた。
「隊長、殺っちゃいましょうよ。わざわざ人目のつかないとこにきたんですから」
槍持ち金髪男の背後にいる弓持ちの女がそんなことを言っている。
更に、剣を持つ中年男がしゃしゃり出てきた。
「若造。早くその腕輪をこっちによこせ。身のためだぞ?」
もう片方の剣を腰から抜き、二つの剣先を俺に向けて忠告してきた。
今度は盾を持つ小柄の髭男が鋭い視線を向けて、話しかけてくる。
「随分と
「――サウザ隊長。背後から人は誰も来てませんぜ」
ハルバードを持つ巨漢は路地裏の最後尾で狭き道を監視してるようだ。
「サウザぁん、この若いの、渡すの拒んでるけどぉ、どうする? 殺すの?」
「そうだな。素直に渡せば殺さないが」
「隊長、命令するなら、わたしが殺ろうか? 射るよ?」
狐目のオカッパ黒髪女の射手が弓を構えようとしていた。
全く……好き放題だな。
サクッと殺る前にサウザを含め、彼らへ忠告しといてやるか。
三秒、待ってやろう。
「おい、お前ら。相手をよく見て判断できないと、死が待っているだけだぞ? 今なら何もしないから大人しく、逃げておけ」
情けのつもりで話す。腕をシッシっと泳がせた。
コイツらが素直に受けとるか分からないが、暗に“どっかに行け”と示す。
そして、暫しの沈黙が流れる。
「……あはは、うけるぅ」
「ははは、本当に無礼られたもんだ。この六人に勝つつもりか?」
「ぷっははは」
「はぁ、しょうがない、殺るしかない――」
背丈の高いサウザと呼ばれた金髪男は、嘆息を吐き、勝ち誇ったら顔を俺へ向ける。
手に握った槍の穂先を振るわせて吶喊してきた。
はぁ“しょうがない”は俺の台詞だよ。
そんな愚痴を思いながら行動に起こす――瞬時に<投擲>。
槍を持って突撃してくる男ではなく、弓使いの黒髪女の額に短剣が突き刺さるのと同時に――魔闘脚で前に駆けていた。
敢えて、近・近距離戦を挑む。
よーするに実験台だ。
サウザが操る長槍の穂先が俺の胸に迫るが、そんな長槍など軽く左手で往なす。
魔脚を維持した状態で胸ベルトから青銀の刃を持つ短剣を抜きながらの素早い前屈み前進――これはオゼの動きを参考。パクったともいえる。
槍持ちの青目騎士サウザの懐に飛び込み、その長い首襟を利用させてもらうよっ。
「なっ、はや――」
首元にある長襟を片手で掴み、引き寄せる。
前屈みになった首筋へ短剣の青刃を添え当てながら、サウザの首を半回転スイング式ネックブリーカーを喰らわすように短剣の刃を首へ沈め引き裂く。俺は
サウザの切断された首の頸動脈からは血飛沫が勢いよく噴出――隣にいた女へシャワーが振り掛かる。
「きゃぁぁ」
返り血をもろに浴びた女魔法使いは突然の出来事に悲鳴をあげる。
俺はサウザの背後に回り込んで立っているので、返り血は浴びていない。
お? 魔法の短剣による吸い取り効果か、活力がみなぎってくる。
サウザは痙攣してから動かなくなった。
こいつを盾にしよう。
「隊長っ、糞――」
二剣の男は反撃を行ってきた。
だが、焦っているのか無暗やたらに剣突を繰り出してくるだけだ。
盾にした隊長サウザの死体に剣が刺さっていた。
「あっ――」
しまった。という感じに声を出す。
――その隙にサウザの首を斬った短剣を<投擲>。
素早く投擲された青銀の短剣に二剣の男は反応できず、皺が目立つ眉間に青銀の刃が突き刺さった状態で横へ倒れていく。
手から離れると魔力や活力は吸収しないか。
「――何だ? 黒猫? グアァッ、ヒュゥゥッ……ポゴォッ」
そこに、後ろを見張っていた巨漢のかすれ声が響く。
最後尾にいた巨漢は血塗れになり、ハルバードを胸に抱えたままどさりと倒れ伏した。
ロロが触手骨剣で巨漢の首を穿ち倒したらしい。
その間に肉盾にしていたサウザを、まだ生き残っている片手剣と盾を持つ小柄な男へ投げ飛ばす。
「ぐぬぉ、糞っ、どけっ」
左手に持った盾で仲間だったサウザの死体を弾こうとしている。
――その隙を逃さない。
魔脚で近付き、片手剣と盾を持つ男の足を刈り取るように下段回し蹴りを放つ。
バットを折ったかのようにバキッと、骨の折れる音が耳に届く。
「うぎゃぁっ、あ、あぢがぁぁっぁぁぁぁ」
男は痛みに耐えかねて絶叫――地面に転がった。
剣と盾を地面に落とし、足を抱えている。
血を浴びた女は恐慌状態から立ち直ったのか、俺を睨み口を開く。
「アジスまでっ! この化物っ、食ら――」
女は地面に転がる仲間の名前を叫び、つり上がった目を向けて杖を掲げ魔法を撃つかと思われたが、鈍い音が響く。
女魔法使いは小さい杖を落としながら、くの字の体勢になり背後へ運ばれ、壁に衝突。
「ぐぇ」
衝撃で女は口から血を吐く。
壁に縫われたかのように、女はぶら下がりぐったりとしている。
「ロロ、ナイスッ――」
「――ア、アジスが……グ、ガァッハッ……」
女は壁に磔にされても、まだ生きていた。
丁度良い。彼女と少し話をして血と魂を頂こう。
「おぃ――お前の名は?」
彼女へ壁ドンを行う。
「ラ、ラーニャよ」
「ラーニャか。お前らはあの宿屋で俺を見ていたな? 正体はなんだ? この腕輪が目当てで襲いかかってきたのか?」
腕輪を見せながら、この女の背後関係を洗う。
また、この辺の闇ギルドかもしれないからな。
「グゥ、痛い……」
「正直に答えないと、もっと痛い思いをしながら死ぬはめになるが?」
「わ、わかった。いうわよ。わたしたちは、ただの冒険者。貴方の腕輪が目当てよ。隊長が襲って殺してでも奪おう。とか話して、それで追いかけて……」
……本当に冒険者なのか? この辺りの冒険者は質がかなり低いらしい。
【ヘカトレイル】で過ごしていた頃に共闘していた冒険者たちとは雲泥の差だ。
彼らはアイテムボックス持ちを見ても、奪うとかの思考は皆無、そこには尊敬の眼差しもあり、俺も、私もいつかはゲットしてやるという野心という気概をもった冒険者たちだった。
ここの冒険者はモラルがなく盗賊と変わらない……たまたまだと思いたいが。
「……ね、ねぇ、お願い。わたしの体を自由に使っていいから、許して……」
ラーニャは媚を売るように必死な顔を浮かべている。
ま、本人が言ってる通り“体を自由に使わせてもらおう”
「わかった。その前に、さっきお前は“あはは、うけるぅ”と笑っていたが、今もおもしろいか?」
「な、なにを言ってるの? おもしろくないわよっ」
「あっそ――」
俺は邪悪な笑みを浮かべて、女へキスするように顔寄せると、みせかけて、魔法使いの首筋へ噛み付く――血を頂いた。
「エッ、ヒィィィィッ、あっ、ぁぁぁ……」
旨い。やっぱ生き血は旨いな。
女は恍惚の表情を浮かべ失禁、失神。
そのまま魂も頂く。女魔法使いはあっという間に全身が干からびて骨になり、その骨も塵となり消えてゆく。
身に纏っていた服、持っていた装飾品、背嚢、財布が地面に落ちていた。
指紋の捜査がある訳じゃないが……一応、皮布で手を覆い財布代わりの袋を調べる。
袋から銀貨十枚、大銅貨五枚をゲット。
他の死体からも荷物を漁り<投擲>したヤゼカポスの短剣と最初に投げた方の短剣も回収。
青銀の刃に付着した血を拭き胸ベルトに装着しておく。
死体から回収を終えると、合計で金貨一枚、銀貨二五枚、大銅貨十八枚となった。
金はこんな物か。ギルドカードもある。
Dランクやら名前が書かれてあったが、興味はないので回収はしない。
カードはバラバラに砕き路地裏の隅へ投げておく。
この短剣を今回はメインに戦ったが、意外にいける。
槍組手における近・近距離戦は短剣や長剣と相性が良い。
あの首捻りは本来だと槍の棒を使った首落としの技。だが、短剣なら直接斬れるし、あんな風に肉盾にもなる。
最後の肉盾は多少のアドリブを利かせたけど。
それに、二つの武器を扱うオゼの動きがまだ脳裏に残っていた。
見よう見真似だが、短剣を扱う繊細な滑らかな動きを真似てみたつもりだ。
スキルも何も得られていないので、まだまだ本職に比べたら拙く滑稽なのだろうが……そんなことを考えながら、回収した金を仕舞う。
銀貨一枚だけを胸ポケットに入れ残りはアイテムボックスへ入れておいた。
「ロロ、冒険者ギルドへ行くぞ」
「ン、にゃにゃ」
血生臭い路地を抜けて通りに戻り、フォルトナの冒険者ギルドへ向かった。
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