六十六話 ベルトザム神聖教会の忌み子

「ロロ、ここに飛ぶ。少しあの女性と話すつもりだから」

「にゃぁ」


 ロロも『わかった』的に鳴くと、ゲートの光を見つめている。


 よし、行こう。

 ――ゲートを潜り鏡から出た直後、女性はルロディス様と連呼。

 お祈りの最中だった。

 彼女は目を開け、鏡から突然に現れた俺を見ると、目が点となり祈りの言葉を止める。


 そして、目が交わった瞬間――。


「きゃぁ――」

「――ごめん」


 女性が悲鳴の声を上げる。

 急ぎ、前に進み女性の口元を手で押さえてしまった。


「何もしない。騒がないでくれるか?」


 なんか、犯罪者的な言葉だ。

 彼女は震えながらもコクコクと小さく頷いている。

 分かってくれたらしい。


 口を押さえていた手を離してあげた。


「えっと、まずは、挨拶からだな。こんにちは」

「にゃっ」


 彼女は目を瞬かせて黒猫ロロを見やる。


「あ、はい。猫ちゃん? えっと、こんにちはです。貴方は神の御使いですか?」


 神ときたか、まぁ鏡から人が出来たのだし。

 そうなるのは当たり前か。


「……いや、違う。冒険者だ。それと、現在、この鏡を使う持ち主と言えば良いか」

「冒険者様でしたか。失礼をしました。ここのところ鏡が光る現象が続き、ついには中から人が現れたので、てっきり神の奇跡が起こったのかと……光神ルロディス様の御使いが、ご降臨なされたのかと……」


 彼女は教会の関係なのかそんなことを語り不思議そうな顔を浮かべては、俺と黒猫ロロへ視線を行ったり来たりさせていた。


「そんな大層なもんじゃないよ。驚かせてすまない。まずは、名乗っておこう。俺の名前はシュウヤ・カガリ。シュウヤと呼んでくれ。それと、この肩にいる黒猫は使い魔のロロディーヌ。ロロというんだ」

「そうですか。ロロちゃんとシュウヤ様ですね。わたしは忌み子のルビアです」


 忌み子? とりあえず、スルーして俺は頷き、部屋を改めて見渡す。


「ルビア、すまないが、ここがなんの場所でどこにあるか教えてくれないか?」


 彼女は顔を上げて、俺と目線を合わせてくる。

 この子の身長は百五十センチを少し超えるぐらいか?


「良いですよ。ここは【ベルトザムの町】にある神聖教会です。【宗都ヘスリファ】から西南へ離れた地にあります」


 【宗都ヘスリファ】……聞いた覚えがある。


「宗都ヘスリファとは?」

「【宗教国家ヘスリファート】の教皇がお住まいになる神聖なる宗都です」

「あぁ、なるほど」


 その国名で思い出したよ。

 少し前に、俺に襲いかかってきた美人女性ヴァンパイアハンターのことを。

 名前はノーラ・エーグバインだったか。


 ノーラが話していた。

 宗都には大聖堂がありヘカトレイルの教会とは規模が違うと。


 だから教会ここの場所はヘカトレイルから、北の北。

 ゴルディクス大砂漠を越えた先にある地方ということだ。


「……あの、シュウヤ様はご高名な魔術師の方なのですか?」

「いや、その様は止めてくれ。俺もいきなりルビアと馴れ馴れしく呼んでおいてなんだが、俺は様という柄じゃないからな。それと、そんな高名な魔術師ではないよ。多少は魔法も使えるが本職は戦士系だ」

「本当ですか? このような鏡を使う――」


 ルビアは話を途中で中断。

 鏡の上部にある溝から外れた二十四面の小さき物体トラペゾヘドロンが俺の頭上へ戻ってきていた。

 いつものように宙を漂い頭の周りを旋回している。


「また、驚かせたな。すまん」


 俺は遠慮がちに、二十四面物体トラペゾヘドロンを掴み、胸前ベルトに付いてる小さい袋に入れておく。


「い、いえ」

「ところで、この鏡、君の所有物かい?」

「違います。かなり昔に教会へ寄贈されていた物と言われていますが詳細は知らないです」


 ふ~ん。

 それにしても……おかしい。

 さっきから何回も掌握察を行っているが、周りに魔素の反応がない。

 こないだは複数人の反応があったのに、どういうわけだろ。

 ストレートに聞いてみるか。


「……そっか。今、この教会には司祭とかいるの?」

「今はわたし以外誰もいないです。……司祭様は他の助祭を連れて【フォルトナ山】へ向かっています」


 フォルトナ山か。巡礼の旅ということか?

 そういうのもあるとは思うが、普通、一人残していくかね?


「ルビアは何故、一人でここに?」

「わたしは……」


 ルビアは顔を俯かせ、翳を落とす。

 ん? 言いにくいことか。


「嫌なら無理して話さなくていいよ。俺は少しこの町を見学したいので、外を見てくる」


 そう言って、ルビアを置いて部屋を出ようとした。


「あ、待ってください。わたしも行きます。ご案内します」

「では、よろしく頼む」


 教会は前回、偵察に来たときと変わらない。

 廊下から階段を上がり、壇上がある祭壇横へ出た。

 中央にはチャペルがあり長椅子が並ぶ。

 長椅子の外脇を通り、壁沿いに飾ってある宗教画を見ながら出入り口がある扉へ向かった。


 外は変わらずにトウモロコシのような植物が生える畑が見える。

 ロロは肩から跳躍して、畑へ走っていく。


「ロロ、畑にあるもんを食っちゃだめだからな? 荒らすなよ」

「ンンン、にゃ」

「黒猫のロロちゃん、元気ですねぇ。でも、不思議です。あんな鏡から人と猫が現れるなんて……」


 教会から離れ土の道を歩きながら話していく。


「はは、そうだよな、……ところで、ここは【ベルトザムの町】と言ったよね、都があるヘスリファからは遠いの?」

「歩いて、十日以上はかかると思います。【フォルトナ山】のほうが近いですね」


 魔闘術や身体速度を加速させるスキルを用いずに時速四キロで歩くとして、一日に歩ける時間は七時間から十時間ぐらい……だいたい、三百キロぐらいは宗都ヘスリファまであるのか。

 馬ならもっと早く着くが、体力回復スキルもポーションもあるから、一概には言えないな。


「……分かった。ありがと。質問ばかりで悪いんだけど、ここは宿屋とかあるのかな?」

「ありますよ。そこの坂を上がっても続く道の先。町から離れた街道にあります」


 離れたところにあるのか。


「ずいぶんと、遠くにあるんだな」

「シュウヤ様は都会の方なのですか?」


 様づけは決定らしい。


「そういうわけではないと思うけど……どうして?」

「宿屋はこういう田舎では町外れにあるのが当たり前ですから。町に直接街道がありますと、耕作地や放牧地の面積が減ってしまいますし、街道の近くにある田畑は荒らされやすいのです。モンスターや盗賊からの襲撃を守りやすくするためでもあります」


 へぇ、そういうことか。この辺りだとそういう作りなのか。

 【ファダイク】の近くや【ヘカトレイル】の通りは街道沿いに街があったからな。

 あ~、だからあの時、盗賊の被害が多かったのか……。


 あ、俺が勘違いしただけで、この【ベルトザム】のように離れた位置に本格的な町や村が存在していたのかもしれない。


「……ごめん、そういうことか、俺は都会の方だったらしい」

「ふふ、やはりそうでしたか」


 ルビアは笑顔を見せる。

 肩に掛かった髪を直す仕草が素朴で美しい。

 金色の髪と眉に、透き通るような青瞳。

 少し肌が焼けて幼さを感じさせるが、美人だ。

 金の長髪と長耳のコラボが実にエルフらしい。


 だが、頬にはエルフ特有のマークがないな。


 そして、着ている服装は黒染みと汚い垢だらけの質素なワンピース服。

 顔は美人なので勿体ない。王子と出会う前のシンデレラといった印象だ。


「……ルビアは教会でどんな生活をしていたのかな?」

「えっと、司祭様のお手伝いです。わたしは戦闘職業の助祭を持っていますし、回復魔法が得意なので、病気や怪我をした方に回復魔法を使用して癒したりしています。他にも力仕事やモンスター退治のお仕事も手伝ったことがあります」


 結構、多彩だな。

 そんな会話を続けていると、


「司祭さまぁぁぁぁ」


 子供が大声を出して走ってきた。

 ん? 泣きそうな顔を浮かべている。


「フェイ、どうしたのです?」

「あ、司祭様はいないのぅ? でも、でも、魔女っ子でもいいかっ、リットがね、リットが柵からジャンプして頭を怪我しちゃったの」

「わかりました。急ぎましょう。シュウヤ様、では、これで」


 ルビアは真剣な顔付きで話すと、軽く頭を下げてから子供と一緒に走っていく。


 気になるので彼女の後を追った。


 坂を上がり土の街道を走ってついた現場は、トウモロコシ畑とは違う菜の花のような花畑が広がる場所で畑を囲う背丈のある柵がたくさん並んでいる。

 その手前の地面に蹲っている少年がいた。


「リットッ、大丈夫ですか? 今、魔法をかけますからね」

「うぅ……」


 少年は頭から血を流しているが、意識はあるようだ。

 ルビアは少年の頭に手を翳し、魔法が始まった。


大癒グランド・ヒール


 えっ!? 詠唱がない? ルビアの瞳色が青から赤く染まる。

 さらに一瞬だが、彼女の頭上に、血塗れた赤黒色に輝く杖を両手に持った女神が現れていた。

 女神は三つの目を持ち、慈愛の表情を浮かべては消えていく。


 ルビアの翳している細い手が赤く輝き、少年が光に包まれた。

 少年を包むエフェクト光はすぐに消えていく。


 一瞬見えた、あの女神のような姿……どこかで見たような。


「あれ、ここは?」


 少年はその場からすっと何事もなかったように立ち上がり、元気な様子を見せていた。

 頭の傷は完全に回復しているようだ。


「リットのばかぁぁ」


 フェイと呼ばれた小さい女の子は少年リットに抱きつき胸を叩いている。


「あれ、フェイ? あっ、魔女のルビアだ」


 リットと呼ばれた子は怪訝そうにルビアを見る。

 治してやったのに、その目はなんだ?


「リット、頭から落ちて、怪我をしたのですよ? フェイがわたしのところに知らせてくれたのです」


 ルビアは子供から向けられる嫌悪の視線と魔女という言葉は気にしていないようで、回復させてあげた子供を労るように優しい顔を向けている。


「あっ――」


 思い出したようにリットは自分の頭を触り、怪我具合を確認していた。


「リット。もう、この柵には登ってはダメ」

「うん……」

「フェイにお礼を言いなさい」

「――フェイ。ありがとう。助かったよ。魔女のルビアもありがとな」

「助かってよかったぁぁ。魔女っ子、ありがとおお」


 リットにフェイは抱きついている。

 男の子は照れくさそうにやめろよと話していた。


「ふふ、さぁ、わたしに礼は良いから、自分たちの家に戻りなさい」

「はぁ~い」

「またな~、まじょっこ~」


 少年と少女は元気よく走り去っていった。

 魔女っ子というのも、気になるが……。


 ルビアの顔を見る。

 どうして、なんだろ。


 この女性がどうして魔女と呼ばれているか分からない。

 魔女どころか、この満足気な慈愛の表情からは女神や巫女にしか見えないだろうに……。


 何故に魔女なんだ? 

 とは、ストレートに聞けないので、さっきの血濡れた杖を持つ女神も気になるし、無詠唱の魔法に付いて聞いてみることにした。


「ルビアはすごいな。さっきの女神のようなのが一瞬現れたけど、詠唱が無いのと関係あるのかな? 何かの能力か?」

「え、あ、はい。女神ですか? それは分かりませんが、よく魔法使いの方には無詠唱なのか? と、驚かれます。生まれつき回復魔法だけは詠唱が必要なくて出来てしまうのです」

「へぇ、そりゃすごい能力じゃないか。それなのに、なぜ、司祭ではなく助祭をしているんだ?」

「それは……」


 彼女は言いにくそうに目線を変えた。

 気になる。聞いてみるか。


「気を悪くしたら謝る。俺は教会のことを知らないから聞くのだが、そんな凄い能力を持っていたら司祭にだってなれると思うのだが……」

「いいえ。司祭だなんて、とんでもないことです。わたしは忌み子。このベルトザム神聖教会に住まわせて頂くだけでも幸せなものです」


 スルーしていたけど、何なんだ、忌み子って……。


「忌み子? どこが忌み子なんだ?」

「えっ」

「ん? なんだ、その反応は。俺には普通の綺麗な女の子にしか見えないぞ」

「そ、そんな。初めて言われました……さっき瞳が赤く変わったところを見ていたはずですし、この“長耳”を見てもそう思われるのですか?」


 いたって普通の長耳、いや、キッシュ、ベリーズに比べたら少し短いか?


「そうだが。それがどうかしたのか?」

「……」


 ん、俯いて、黙ってしまった。

 頬を紅く染めている。そんな可愛らしい反応より、俺は魔女っ子と忌み子の言葉の方が気になる。


 この子は迫害や中傷が当たり前の地域で暮らしてきたようだ。


「ぁ、ありがとう……」

「いや、そんな礼を言われるほどでは……」


 ありきたりな言葉しか出てこない。


「そんなことありません。今まで生きていてそんな風に話してくれる方はいませんでした」


 気になるので、聞いちゃおっと。


「そうなのか? そうだとしたら、酷いな。でも、なんで瞳の色が変わり、長耳で忌み子なんだ? さっきは子供たちが魔女だなんて言葉を君に投げ掛けていたし」

「事実だからですよ。わたしは物心ついた時から魔女と呼ばれていました。詠唱もしないで回復魔法が使えるので異端児扱いでした。この瞳の色が変わるのは魔族の血を引く者の証拠だそうです。長耳もエルフの証拠ですから、だから、忌み子として、すぐに教会へ預けられました」


 What? 思わず、外国人的な反応をしちゃったヨ

 幼い時から魔女で異端児で忌み子とは……すげぇ差別だな、おい。

 だが、奴隷がある世の中だ、なんでもありなのだろう。

 むしろ、奴隷にならないで教会に預けられてるだけでマシなのか?


「……その瞳や長耳は、そこまで忌み嫌われる物なの?」

「はい。この国では“エルフ”は“魔族の血を引く者”とされますから。【宗教国家ヘスリファート】では禁忌に近い存在として、わたしのような存在は神聖教会が身を預かり光神ルロディス様の裁きを待つ身なのです。そうしない場合は奴隷として売られるか、神聖騎士団によって火炙りの刑にされます」


 おぃおぃ、火炙りとは、中世の魔女狩り……。

 セーラムの魔女や、ジャンヌ・ダルクかよ。


「もしかして、ルビアはハーフエルフなのか?」

「父と母は人族らしいです。なのでハーフではないと思います」


 人? ということは先祖帰り?

 “らしいです”……という言葉からして、実の父や母を知らないのかもな。

 それとも、本当に魔族の血を引く者?

 ユイも魔族の血をひいていると話していたが、彼女のような差別らしき言葉はユイからは聞いていない。

 マハハイム山脈から下の南方諸国は多数の神々を信奉している人々が多いとノーラは言っていたし、このヘスリファートだけの社会制度のようだ。


「……ほぅ、この国じゃエルフは魔族と同じ扱いなんだな」

「えぇ、はい。大昔、エルフたちの国【ベファリッツ大帝国】で戦争が起きた時、この地域に住んでいた人族の多くが、エルフたちによって虐殺されたことが原因らしいです。詳しい経緯は知りません」


 歴史は繰り返す。か。


「他の国ではエルフに寛容な国が殆どと、聞いていますから、遠くから来た旅人の方は皆、驚かれます。国境では領内に入ろうとした何も知らないエルフの冒険者と国の警備隊が小競り合いになることが多いと聞きますし、そして、捕らえられて奴隷にされてしまうエルフの方も多いんです。……わたしのように教会に預けられるのは希なんですよ」


 うへぇ、差別国家か。


「宗教国家は伊達じゃないようだ……」

「嫌になりますよね。でも、わたしを育ててくれた教会の方々は温厚な方ばかりなんです。わたしのこともちゃんと面倒を見てくれていますし」


 教会が面倒を見ている? 温厚? そんなことを言っても、ルビアの服装からは温厚さなんて一欠片も感じさせないんだが……。

 聞いていると可哀想になってきた。


「……それは良かった」


 同情しながらも、ありきたりな言葉しか出てこない。


 例えば、俺が金をやるからこんな国を出ないか? 

 とか、言っても場所が離れすぎて無責任だよな……。


「……はい」

「でも、君を一人で残していくのはどうなんだろう?」

「しょうがないですよ。巡礼の旅は司祭様にとって重要らしいです。わたしにここを任せると言ってくれました。巡礼は永らく掛かるらしいので、ずっと、お留守番らしいですけど」

「なんでだ? ずっと?」

「地方の神聖教会では司祭様が巡礼に出て、誰も居なくなった教会は打ち捨てられる場合もあると。言っていました。だから、ここを守ってくれと……」


 そんな悲しみのようなルビアの笑みを見せる中、黒猫ロロが畑に満足したのか走って戻ってきた。


 俺が知るキリスト教会とは違う。

 普通は地域のコミュニティを大事に、牧師として、日々の毎日を慎ましく皆と分ち合う共同体の一員として頑張るとかのはずだ。


 まぁ、現代的なイメージで考えても仕方ないか。


「にゃぁっ」


 俺がそんな愚考を重ねていると、黒猫ロロが飛び掛かってきた。

 触手を上手に使いながら外套の上、右肩でストップ。

 だんだんと、触手の使い方が達人染みてきたな。

 体操選手の着地より完璧だ。

 ん、というか。汚れが……新品の外套に土跡が。


「……ロロさん。足、肉球、汚れてるだろう」


 そう言って、黒猫ロロの首根っこを掴み、抱っこする。

 そのまま地面に下ろした。


「洗うから、そこの地面にじっとしてろよ?」

「にゃ」


 胸ベルトの背嚢から皮布を取りだし、生活魔法の水を出す。

 もこもこな肉球を洗って片足ずつ拭いてやった。

 ところが、水を放出してる根本が気になるらしく、放出している水に向けてシャドウボクシングのように猫パンチを当て始めてしまい遊び始めてしまう。


「かわいい~、おもしろいです。ロロちゃん」


 そんなこんなで肉球をどうにか拭き終わると、黒猫ロロは腕から肩へ三角飛びをするように渡っていき、頭巾の中へ潜っていく。


「普段はこんな風に拭かないんだけど、実はこの服、外套は新品だったりしたんだ」


 どうせ、汚れるけど、最初の一時間ぐらいは新品の状態を維持したいからな。


「すごい綺麗な品ですね。胸の刺繍はイリアス様の?」

「おっ、そうだよ。流石に知ってるね」

「はい。この国では珍しいですから、光の神様と光の精霊様以外はあまり信仰されていないのです」


 一神教に近いのか。

 キリスト教原理主義ファンダメンタリスト、イスラム教原理主義的に近い教えなのかな?


「……まさか、この外套着ていると、迫害されたり?」

「いえいえ、それはない……と思いますが、あるかもしれません……」


 可能性はあると……そこまで濃いのかよ。

 宗教国家、怖すぎる……。

 ここじゃ神を否定した感じに生活すると、地動説を訴えた、ガリレオガリレイみたいなことになっちゃうのか?


 でも、ありえる。

 教会にエルフっ子、魔女っ子を監視、それ以外は奴隷か火炙りだろ?

 俺の存在が露見されたら、魔族処じゃないな、禁忌に値するとかいって教皇の騎士団がすっ飛んで来そうだ。

 教皇のなんたら部隊だとか、そんな危ない集団も居るし……。


 この国は……嫌だなぁ。


 さて、ひとまず、地名も分かったし、そろそろ帰るか。

 宿屋があるところに行こうと思ったけど、遠いし……。


 ……そう。

 迫害が日常茶飯事な怖い差別国家の話を聞いて、俺の探索やる気スイッチはどこかへ消えたのだ。


「……それじゃ、一旦、教会へ戻ろうか」

「宿屋までいかないで良いんですか?」

「うん、もう、いいや」

「わかりました。戻りましょう」


 そして、教会に戻るため土の道を歩いて戻る。

 だが、その教会近くで、複数の魔素を感じた。

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