六十話 貴重な手掛かり

 老戦士は俺を一睨みしてから、


「はっ、では、突如として都市の中にモンスターが大量発生したことから始まります。希少種を得ることができましたが、それらモンスターを押さえている間に大手の闇ギルドが一つ潰れていたことが分かり、さらには闇ギルド同士の縄張り争いが激化。なので、有象無象な冒険者の中に、あの槍使いが混ざっているとは露知らず……」


 侯爵はわざとらしく、老戦士の言葉に頷いている。

 俺がクナの家から続く地下に捕らえられていたモンスターを逃がしたことが、余計に混乱を招いていたらしい。


「――そうね。まぁ、分かるわ。他にも竜たちの蠱宮襲撃に加え、魔竜王討伐の準備に忙しかったですからね。そして、突然のモンスター大量発生は驚かされました。プレセンテ魔獣商会の事務所から、闇ギルド【茨の尻尾】の本拠地でもある場所からのモンスター発生なので、きっと闇ギルド同士の争いの結果でしょう。更に、幹部であるクナが迷宮で亡くなったのも予想外でした。まだ利用価値はあったというのに……だから――サメは忙しかったのでしょう?」


 侯爵は手に持つふわふわな白羽扇子を拡げては、また畳む。

 また、さっきと同様に扇子の先端を向けていた。

 俺とクナが迷宮にいたことは知らないのか?

 ギルドマスターとは連絡を密にしているわけではないと……。


「はい。背後には、あの【影翼旅団】も関わっていたとか……」

「そうですね。それに、歓楽街での他の闇ギルド同士のいざこざも聞いていますし……今回の情報の差違は仕方ありません。サメは今後も頑張りなさい」

「はっ、ありがとうございます」


 随分とオープンだな。情報をわざと聞かせている?


「それにしても……、貴方はシュウヤさんという名だったわね?」


 一応は調べたのか。


「そうだよ。でも、まさか、ここの侯爵様とはね」

「口を慎めっ、人族。お嬢様に対する態度が不遜すぎるぞ」


 キーキと呼ばれている侍女獣人は、睨みを利かせて言葉を荒らげる。

 また、爪の武器をこちらに向けた。


「キーキ。怒っちゃだめよ。わたくしは別にかまいません。シュウヤさんはあの時の槍使いであり、ヒュアトスの子飼である精鋭中の精鋭である〝ネビュロスの三傑〟をいとも簡単に倒した、あの武力をお持ちなのですよ」

「はい……」


 女獣人は反省したのか、侯爵に頭を下げてから、小声でイジイジと話していく。


「ですから、お嬢様に手を出させないように警戒を……」


 シャルドネはキーキを流し目で見ながら、溜息を吐くと、小さい唇を動かす。


「もう、分かってるわ。でもね、キーキの攻撃をあっさりと躱す動作といい、この方は本物の強者ですわ。それに、グリフォン隊のセシリーが言っていた通り、あの魔竜王を倒したという、お話が本当なら、この【ヘカトレイル】の恩人ということになります。それは同時にオセベリア侯爵の一人、アナハイム家当主である、わたくし、シャルドネの恩人にもあたるのですよ? ですので、武器を何度も向ける行為は許しません」


 シャルドネは身ぶり手振りが金持ちの振舞いだ。

 部下を叱っている姿も様になっている。

 最後には両手を胸に当てる演技っぷりだ。


「お嬢様……」


 キーキは主人にそう言われて、分かりやすく耳を凹ませ顔を沈ませている。

 と言うか、俺が恩人か?

 無理矢理な感じがするが……。

 まぁ、だけど、こっちも大人げない態度だった。


「待ってくれ。そう部下を叱らなくても、俺も不躾で礼儀がなってないのは謝る。すまない。礼が必要な“場”であれば、それに準じた行動を取っているさ。でも、今は大丈夫だろう?」

「フフフ、確かに、ここは個室ですからね。でも、武器を向けていたキーキを庇うなんて、お優しいのですね?」


 シャルドネは上機嫌に笑う。


「そんなことはないさ。それで、単刀直入に聞くが、俺の口止めをしたいのかな?」

「いえいえ、そんなことはしません。それに“できない”ことは重々承知していますのよ。あのヒュアトスが持つ【暗部の右手】からの追撃も意味がないようですしね……できれば、あのファダイクに関連する秘め事・・・は内密に、黙っていて欲しいのですけど……それよりも、わたくしは、シュウヤさん。貴方の腕が欲しいです」


 秘め事かよ。隠語ですかい? 分かりやすい。

 お望み通りアンダーカバーに徹してやろう。

 しかし、俺をスカウトか。それは無理な話だ。


「あぁ、その秘め事・・・は、もう記憶にないから安心していいよ。それと、貴女の部下になるのは無理だ」

「なっ、お嬢様が、わざわざ誘っておられるのにっ」


 俺の断り言葉を聞いた女獣人は、沸点が低いのか、また怒り出す。

 また、ハイダラー的な奇声をあげそうな気配。


「……早いわね。考える暇もないんですの?」


 シャルドネは、女獣人ハイダラ娘に控えなさいといった目で目配せすると、俺にそう言ってきた。


「あぁ、冒険者クランの誘いも断ってるぐらいだからな。俺には一応、目的があるからね」

「そう……その目的を伺っても?」


 ん~話しても大丈夫かな。一応、聞いてみるか。


「いいよ。玄樹の光酒珠、智慧の方樹、この言葉を聞いたことは?」

「聞いたことないですわね。キーキ、サメ。知ってることを、教えてさしあげなさい」

「ハッ、わたしはわかりません」


 女獣人は即答。

 白髪老戦士の方は頷いている。


 知っているようだ。


「……閣下、聞いたことがあります。神々にまつわるお伽噺の話です。色々諸説ありますが……世界樹キュルハという名の大地を覆うほどの巨大樹に生える〝輝ける実〟。命の神アロトシュが宿す生命の木に生えるは〝方樹の酒〟とか。植物の神サデュラが祝福した大樹に生える実が、方樹の酒とも。その酒を飲めば〝力を得られる〟というお伽噺でございます」


 おぉ……このサメとかいう老人。

 さすが、侯爵の防諜組織【鬼聞】の隊長だ。

 色々と知っていた。年季を感じさせる風貌は伊達じゃない。


 言葉には重みが感じられる。

 前にみたときは両手剣を装備していたけど、今は腰に片手剣だけか。


 魔察眼で確認すると……。

 魔力は腹と両手両足に一定の魔力が感じられるだけ。

 魔闘術らしき物は使えるようだが、実力は未知数。


「サメ、そんな物が本当にあるのですか?」

「どうでしょうか……所詮はお伽話の類いでございましょう。ただし【魔鋼都市ホルカーバム】の中心には、都市の名前の由来にもなっているように〝木の精霊ホルカー〟が宿したとされる〝立派な大樹〟があったとされる名残があります。今は枯れた大樹に変わり果てているようですが、もしかしたら関係があるかもしれません」


 おぉ、マジで? 枯れた大樹……これは重要な情報だ。

 ホルカーバムにあるのか、確か、隣の地方だよな。


「それに【迷宮都市ペルネーテ】で行われる地下オークションでは時々そのような摩訶不思議な曰くつきの品が出品されるので……」


 また〝地下オークション〟か。

 こう何度も話に出てくると気になってくる。


「【魔鋼都市ホルカーバム】古くからある小さい都市、古のべファリッツ大帝国の都市でもあったとか、そのエルフとの古戦場、沼地、石場、鉱山、森林、草原、地帯に囲まれた……あぁ、確か三年前に事件があった都市ですわね?」

「はい。政変で、領主が変わっています」

「そのホルカーバムといえば、わたくしの屋敷に揃えた床の綺麗な輝く白乳石もホルカーバム産でしたわね。あの都市の領域は小さいけれど、石工、木工、鉄細工が本当に盛んで、良い家具職人が沢山いるから羨ましい。それに、大蜻蛉から採れる魔鋼アロムはあの都市周りでしか採れない特産品。わたくしの都市にも欲しいわ。あぁ歯痒い……確か、そこの領主は寄子が少ない変わった伯爵だったわよね。ここは脅して……」


 侯爵は素で話しているようだ。

 調度品のような美しい顔を崩し、苦虫を噛み潰すような顔を浮かべ、品の無い野望を口に出している。


「……閣下、あそこの領主は、裏にあの白狸が、ついていると噂があります」

「そう、へぇ、それって白狸、あのマカバイン大商会のエリボル会長かしら?」

「はい」


 侯爵は頷く。


「そういうこと、例の政変絡みかしら? でも、その白狸だけど、所詮、海運の金だけな成り上がり商人でしょ?」

「どうでしょうか、軍閥海軍派の重鎮であり海軍大臣のラングリード侯爵だけでなく、公爵を含めた複数の貴族派閥とエリボルは交遊があるようです。裏稼業もかなりの規模。名目とはいえ八頭輝の名に連なる一人。閣下の陸軍派急先鋒としての力を以ってしても火遊びは危険な相手かと」


 サメが語る言葉に少し動揺する女侯爵。


「……フン、貴族繋がりね。サメがそう言うんだったら、ちょっかい出すのは止めておくわ――ところで、シュウヤさん。話を戻すけど、わたくし、その地下オークションに興味が湧いてきました」


 あんたが興味湧いてどうすんの……。


「あのぅ、俺がそれを探しているんですが……」

「あら、ごめんなさいね。でも、おもしろそうなんだもの。王国が主催するオークションとは違うのでしょうね? 昔、ヒュアトスが得意気に毎年参加していると、話していたことは覚えているのだけど……」


 シャルドネは老戦士に尋ねるように話している。


「はい、ですが、危険な物も出品されますし、なにより、闇ギルドが大きく関わっております。場所も【迷宮都市ペルネーテ】ここからでは出席するのも一苦労です。お勧めはできませぬ」

「でも、わたくしの力があれば可能でしょ?」

「はい、しかし、開催時期も年末年始である厳冬の季節九十日でございます。年明けはこの都市でも色々な行事がございますので、出席は無理です」

「……つまらないわね。でも、シュウヤさんはそんな幻の物を探しておられるのですね」


 話してみるもんだな。

 助けたドワーフ、ハンカイの話と似た感じだが、魔女サジハリの話といい、このサメとか呼ばれている白髪老戦士といい、有意義な情報を聞けた。


 何回も話に出てくる地下オークション。

 【魔鋼都市ホルカーバム】という地名は覚えておこう。

 そこで枯れた大樹に植物の神サデュラや聖域やら大樹に関係する場所を探せば……。


 ん? そういえば……。


 神、聖域、の場所は子精霊デボンチッチが多いとか師匠が言っていた。

 デボンチッチの子精霊がたくさん出現した場所といえば……。

 師匠と修行を行ったあの場所、森があり、大木のようなところ。

 もしかしたら、あそこも関係あるのか?


 でも、大きな木だけで、方樹なんてもんは無かったし……。

 ん~分からない。


「……シュウヤさん。どうかしましたか?」

「いや、そこのサメさんから良い話を聞けたんでね。考え事をしていたんだ」

「そうですか、お役に立てて嬉しいですわ」


 シャルドネは笑顔を見せる。

 よし、思ってもみなかった貴重な情報、手掛かりを得られたし、そろそろ退散するかな。


「うん。それじゃ、俺に用はそれだけかな? そろそろ、戻ってもいい? まだ、あの旨い食事を食べきれてないんだよね」

「あっ、ダメですよ。報酬のこれを差し上げます」


 シャルドネは白色の巾着袋と指輪を持ち、近寄ってきた。


「――閣下っ、直接、お手から渡されるのですか?」

「お嬢様!」

「大丈夫ですわ。この方はそんな敵意はないわよ。ね?」


 シャルドネは下から目線で笑顔を魅せつける。

 豪華な刺繍で飾った穴空きの長手袋から手を伸ばして、俺に巾着袋と指輪を手渡してきた。


 この報酬、さっき皆の前で渡すとか宣言していた物か。

 俺は指輪と袋を受け取る。

 巾着袋の中には白金貨が入っていた。この袋、サラサラで柔らかい。

 小さいけど高級な布が使われていそうだ。


 金は正直ありがたい。

 魔竜王の素材がどこまで高く売れるのか分からないからな。

 それに、ここまで丁寧な対応されると、いくら、ひねくれた俺と言えども礼は返さないと。

 よく見たら美人だし、礼には礼をだ。

 ま、侯爵なりの謝罪なのかもな。

 貴重な手掛かりの情報を教えてくれたし、金も頂いた。素直にころっと態度を変えてやろう。

 それにしても、この指輪は凄い作り。

 紫色の竜を形どった造形。

 一対の蒼い眼がちゃんと表現されてある。

 本当に見事な作りだった。


 俺は背筋に定規を縦に入れたように姿勢正しく、丁寧を心がけて、口を動かす。


「……確かに、ありがとうございます。しかし、これは見事な作りですね」

「それはそうでしょう。わたくしが直接雇っている魔金細工師に急遽作らせたのですからっ」


 褒められたの嬉しいのか、笑顔を浮かべる女侯爵。


「それはそれは……僭越ながら、この指輪、愛用させていただきます」

「ええ、その方が作らせたかいがあるという物。でも、急に畏まってどうしたのです?」


 シャルドネは、俺が急に慇懃な態度へ変えたのが気になったらしい。


「それは礼には礼を返すのが道理と思いまして」

「あら? わたくしはさっきまでの口調のほうが新鮮で楽しくてよ?」

「お嬢様? それはよろしくないかと……」

「もう、キーキ。わかってるわよ。でもね、あんな風につっけんどんな言い方で話してくれる殿方なんて、いないんですもの」

「当たり前でございます。閣下」


 白髪のサメと呼ばれていた老戦士も若干怒った顔を浮かべ、シャルドネをたしなめるように話す。


「もう、二人とも、うるさいわよ。シュウヤさん、お料理がある広間へ戻りましょう。セシリーの報酬と授与式もありますし、それに、わたしが直接、美味しいお料理の案内をするわ」


 素直に頭を下げとこう。


「はっ、わかりました」


 シャルドネはそう言って、広間に案内してくれた。

 後ろを向くと、キーキとサメが怖い顔を俺へ向けてくる。


 俺は微妙な笑顔を返しておいた。

 広間に戻ったシャルドネはセシリーを呼び、手をパンパンと叩く。

 すると、大きな檻が運ばれてきた。


 うはっ、おぉ……セシリーの報酬とはアレかよ。

 周囲も、その檻の中にいたモノを見て、どよめいていた。

 その中身は、黄金色に輝く幼いグリフォン。

 もしかして、あの時のグリフォン? と言うか絶対そうだろう。

 俺が解放させたモンスターたちの中にいたグリフォンに違いない。


 親のグリフォンは逃げたのか?


「では、セシリー、このグリフォンとヘカトレイル領蒼炎勲章を授与します」

「閣下……」


 キャラコの前掛けをつけた小間使いが、大事そうにマフの上に置かれた勲章を運んできていた。

 セシリーへ勲章が渡される。


「少し前に、この稀少種を偶然に手に入れましたの。セシリー? この稀少種ゴールドグリフォンなら受け取ってくれるでしょう?」


 セシリーは困った顔を浮かべて、侯爵を見る。

 あれ、侯爵の顔が……さっきまでの穏やかな表情とは打って変わり、何故か、怒った顔を浮かべていた。


「わ、わかりました。謹んでもらい受けます」


 お、セシリーは侯爵のプレッシャーに負けたらしい。

 女騎士VS侯爵は侯爵に軍配が上がったようだ。

 皆が見てる手前もあるしな。侯爵の顔を立てたと見る。


「よかった、ふふ、ささ、では、運んでちょうだいな――」


 そこで、また、手でパンパンと叩くと大きな檻は運ばれていく。

 侯爵はその後、偉いご機嫌顔になり、俺に話しかけてきた。

 料理の自慢をしたいらしい。

 様々な料理を指摘していく。


 このヘルゼイカの大鳥は山鳥ですが、臭みがなく焼いたのが旨いのですわ。とか、これは迷宮産で、美食アカデミー、王国美食会も唸るほどの一品ですのよ。とか、海運業者と提携してるので鮮度が抜群なのですの、とか、……もうしゃべるしゃべる。

 侯爵というより、嬉しそうに料理のことを話す姿はどこかのお嬢様にしか見えなかった。


 というか、俺、そんな説明より、食いたいのだが?

 とは、面と向かって侯爵に言えないので、適当に作り笑いを浮かべて相手をしていく。


 そんな時、霜で凍ったような髭を蓄えたおっさん貴族がシャルドネに話しかけてきた。


「これはこれは、シャルドネ様、今日もお元気ですな」

「まぁ、フリュード冒険卿」

「こないだ購入していただきました、古代アーゼン朝の虹布をさっそくドレスに?」

「使わせてもらいましたわ、本当に、素晴らしい生地ですわね」


 シャルドネはそう言ってドレスの裾を持ち少し広げる。

 持った部分が虹色に輝いていた。

 へぇ、あの純白、雪のような生地、魔力に反応する生地なのか……。


「はい、それは良かった。……南の大海での激しい厳しい船旅での経験も報われるというもの」

「……よくぞ、ご無事に帰ってきてくださいました。確か、五十は超える大船団が、僅か五船のみでの帰還と聞きましたよ?」


 フリュード冒険卿と呼ばれていたおっさんは顔を僅かに斜めに逸らし、つらい思い出を思い出すかのように語りだす。


「……そうなのです。海賊が可愛く感じるほどのモンスターや気候が、我々アーゼン探検隊の行方を阻みました故に、大半の船が沈むことに……本当に厳しい航海でした。ですが、幻のアーゼン朝と言われる異文明の地を見つけ、様々の品をオセベリア王国に齎したことは誇りに思っております」

「えぇ、本当に、素晴らしいものを齎してくれました。王都でも、わざわざルーク国王様がフリュード冒険卿を出迎えたと聞き及んでいますのよ」

「はい。その際は感動で打ち震えていました……」


 そこから貴族同士の会話が続いたので、助かった。

 ズラかろう。


「では、閣下。これにて」


 と、短く話し、うやうやしく会釈をする。

 俺はそのまま素早く、その席から離れていた。


 侯爵が何か言っていたが、聞こえない振りをする。


 すぐに話しかけてきた貴族のおっさんがシャルドネに話を振り続けていたので、上手く退散できた。


 さて、しっぽりと食うぞ。

 こんな高級料理、初めてだし。

 どれどれっと、さっき目をつけといた……。

 んおっ、これ、この足形といい、蛙の足を焼いた物なのか?


 こんな珍品が高級? 美味いだろうか……。


 まぁ、試しだ。一口、――貰おう。

 蛙足の焼き身を口へ運ぶ。

 最初の歯ごたえは、サクッ。

 おぉ、意外に肉がジューシィだ。

 珍味だと思うが、下味もしっかりと染み込んでいて美味いなぁ。

 ショウガタレに漬け込んだ鶏の胸肉を焼いたフライとは、また違う。

 肉のパサパサした感触がいい、程よい水分と塩分がまろやかな感覚を舌に齎してくれた。


 カエル擬き侮りがたし。


 ロロにも食わせてあげたい。

 あ、そうだ。アイテムボックスがあった。


 机から空皿を持ち、旨そうな料理をその皿上へ適当に盛り込んでいく。


 俺は料理を満載した皿を持ったまま、ホールの端にそそくさと移動。

 そこで腕輪を触り、ボックスを起動。

 素早く料理満載の皿をボックスの中へ格納させる。


 よし。無事に入った。

 さて、料理も食べて満足したし、報酬ももらえた。

 そろそろ撤収しよう。


 会場の端からパーティ会場を退出。

 赤い絨毯の廊下を早歩き。屋敷の外へ出た。

 周りには何十と馬車が停まっているので、適当に手前の馬車へ乗り込みギルドまで運んでもらう。


 ギルドに到着すると、すぐにギルドマスターの部屋へ直行。


「――おっ、はやかったな。帰ったか」


 カルバン爺は机にある書類に何か書いていた。

 手に持っているのは模様付きの高そうなペン。

 白骨の象牙の材質っぽい。


「えぇ、まだ行われていると思いますが、料理と報酬は貰いましたからね」

「にゃお」


 声に反応したのか、箪笥の上で寝ていた黒猫ロロが顔を上げて鳴いている。

 俺に飛びかかってきて抱きついてきた。


 はは、俺の顔をぺろぺろと舐めてくる。

 喜びを爆発させているし、短い間だったのに、可愛い奴だ。


「よしよしっと」


 黒猫ロロを抱き上げながら、話してやる。


「ロロ、おみやげがある。そこに座って待っとけ」

「にゃ~ん」


 ロロは甘えた感じに分かったと鳴くと、机に降りて両前足を揃えた。

 可愛い紅瞳には期待の色も見える。


 はは、可愛い目で訴えやがって、俺は笑顔を浮かべてアイテムボックスから料理を乗せた皿を取りだし、机に置いてやった。


「ロロ、食っていいぞ」

「にゃあにゃお――」


 黒猫ロロはすごい勢いで晩餐会に出されていた料理を食い始める。


「ほぅ、それはアイテムボックスか」

「はい」

「わしも持っている。ほれっ」


 カルバン爺はあまり珍しくもないといった感じに自らのアイテムボックスを見せてきた。

 角が不揃いの厚手のポーチ。ステッキを出し入れしてアピールしている。


「そのポーチは、やはり迷宮都市から?」

「迷宮産と言っていたな、買ったのは知り合いの商会幹部からだ。それより、侯爵様は何か言っていたか?」

「俺を雇おうとしていたよ」

「はは、シャルドネ様らしい」

「断ったぞ?」

「なぬっ、まぁ、冒険者にはそういう奴も居るか」


 そんな会話をしてると、黒猫ロロがあっという間に皿に盛った料理を食べ終わっていた。

 はやい……。


「それじゃ、俺は帰る。あっ、この服返すね」


 そう言って、高級な服を脱いで着替えていく。


「それは進呈しよう」


 素っ裸になりながら、その言葉を聞いた。


「――お? いいのか?」


 くれるのか、とりあえず、新しい皮服を着ていく。

 鎧はボロボロだが装着していった。


「わしからの魔竜王討伐の報酬とでも思ってくれ、まぁ他にもシュウヤには借りがあるのだがな?」


 ん? 借りだって?

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