三十七話 初めてのパーティー※

 朝方の横丁には誰も人が通っていない。

 鶏の鳴き声が響くのみ。

 が、ギルドに面した大通りに出ると、大規模な馬車の往来から始まり、旅人、荷車を引く商人、冒険者の一団が通っていく。


 この辺は朝も夜も関係ないな、さすがに大都市だ。

 んじゃ、安宿へ戻ろ。

 黒猫ロロを肩に乗せて、足早に扉がない部屋に戻った。


 さて、風呂にでも入るかな。

 寝台の横にある大桶へ<生活魔法>のお湯を入れていく。


 名残惜しい匂いだが、洗うか。

 適当に体を洗い終えて、湯に浸かる。

 ――ふぅ、一息つく。

 ロロも気持ちよさそうに風呂に浸かっている。

 ギュザ草で洗ってやろう。

 ごしごしっとして、肉球も揉み揉みっと。


「にゃっ、シャァッ」


 と怒るが、無理矢理綺麗にしてやった。

 黒猫ロロは逃げるように桶から上がり、身体を犬のように震わせて水分を飛ばす。

 そんな濡れた黒猫ロロを皮布で拭いて解放すると、直ぐに外へ出ていく。


 あぁ、せっかく洗ったのに……。


 まぁ良いか。

 俺も皮布で身体の水気を拭いて、普段着の安物の革服を着た。


 そのまま寝台へダイブ。

 腕枕を行い、煤けたような汚れが目立つ天井を見ながらぼうっと過ごす。


 今日はギルドで依頼を探すか。

 転移陣で楽に移動できるし。

 あ、転移陣といえば、おっぱい受付嬢から時空属性を持つ魔法使いのクナさんの店を教えてもらったんだった。

 少し休憩してからクナさんの店へ行ってみるか。


 それと、ステータスっと。


 名前:シュウヤ・カガリ

 年齢:22

 称号:神獣を従エシ者

 種族:光魔ルシヴァル

 戦闘職業:魔槍闇士:鎖使い

 筋力19.0→19.1敏捷19.9体力18.0魔力23.0器用18.0→18.1精神23.4運11.0

 状態:高揚


 スキルステータス。


 取得スキル:<投擲>:<脳脊魔速>:<隠身>:<夜目>:<分泌吸の匂手>:<血鎖の饗宴>:<刺突>:<瞑想>:<魔獣騎乗>:<生活魔法>:<導魔術>:<魔闘術>:<導想魔手>:<仙魔術>:<召喚術>:<古代魔法>:<紋章魔法>:<闇穿>:<闇穿・魔壊槍>


 恒久スキル:<真祖の力>:<天賦の魔才>:<光闇の奔流>:<吸魂>:<不死能力>:<暗者適応>:<血魔力>:<眷族の宗主>:<超脳魔軽・感覚>:<魔闘術の心得>:<導魔術の心得>:<槍組手>:<鎖の念導>:<紋章魔造>


 エクストラスキル:<翻訳即是>:<光の授印>:<鎖の因子>:<脳魔脊髄革命>


 僅かに成長したかな。

 朝方に近いけど、適度に眠気がくるまでぼんやりと過ごす。

 次第に自然と眠りに入っていく。



 ◇◇◇◇



 早朝、いつものように目覚めた。

 顔を洗い歯磨きを済ませてから、パンパンッと顔を叩き気合いを入れる。


 いつもの革服に着替えて装備を装着。

 鏡はないので、手ぐしで適当に髪を整えてから、黒猫ロロを連れて宿を出た。

 クナさんの店の場所はだいたい頭に入ってはいるが、迷うかもしれないので早々に出発する。

 迷ったら迷ったで、この都市を見学だ。

 通りを過ぎて幾つかの横丁を通ると、広い敷地に出た。

 柵で囲われた場所、馬の囲いか。

 敷地の中には大小様々なテントが張られていて、面構えの悪い馬喰たちが馬、魔獣などの騎乗動物たちの販売を行っていた。


 魔獣と言えば、ポポブムをギルドに預けたままだ。

 やることやったら様子を見にいくか。


 馬の囲いの柵は円形に並んでいて、上から見て右上に続いていた。

 柵の側を歩いていると、黒猫ロロが小さい柵の上に飛び乗った。

 幅の狭い柵の上をひょこひょこと歩く。

 両前足を交互に出しながら器用にロープを綱渡りでもするように柵の上を歩いていた。


 相棒に気を付けろ。

 と言おうとしたが、囲いの中に気になる生物を発見。

 一際目立つ魔獣だ。もしかして、あれはグリフォン?

 茶色の嘴はりっぱで、ふさふさの毛だ。


 頭部は茶色と白色の毛。

 胴体は濃い茶色の毛。

 羽毛的な毛だ。胸辺りは筋肉か脂肪が分厚いのか膨らんでいて柔らかそうだった。


 おっ、翼を広げた。可愛い仕草だ。


 翼の色は乳白色だ。

 だんだら模様が美しい。

 首元に密集した茶色の毛に厚みのある胸と筋肉質な下半身。

 まさにグリフォン。


 あんな柔かそうな羽根に埋もれて背中に乗りながら空を飛べたら……。

 どんなに楽しいだろうか。


 おっと、こっちは二本脚の恐竜型だ。

 これはダチョウ型と言ったほうがいいか。

 日本産の某ファンタジーゲームに登場しそうな魔獣だ。


 様々な騎乗魔獣がいるんだな。

 この分じゃドラゴンライダーも存在しているかも。

 柵の右手遠くには大きな屋敷が幾つか見えた。

 屋敷の手前には看板があり、プレセンテ魔獣商会と書かれてあった。


 この魔獣たちを管理している商会か……。


 さて、クナさんの店はこっちだ。

 柵の上を歩く黒猫ロロを撫でてから優しく首根っこを掴み、肩へ移す。


 魔獣たちの囲いの柵から離れて、左手の方へ向かった。

 この辺りにクナさんの店があるはず……。

 お、あったあった。看板だ。クナの魔道具店。

 横には茨の鞭、棘の尻尾? のようなマークが彫られた木造看板があった。

 そして、魔道具店を守る番兵のように、革鎧を身に付けているゴツイ大柄の男とひょろい小柄の男が店の入り口の両サイドに立って厳しい目を周りへ向けている。


 早朝の時間帯だったが、店は開いているようだ。

 魔道具店の中からは魔素の反応がある。

 大きな魔素を感じた。<分泌吸の匂手フェロモンズタッチ>でも匂いを嗅ぎとれた。

 ……女性だと思うが、少し違うな……どういうわけだ?

 分からないが、今気にしても仕方ない。

 手前まで進み、その姿を拝もうと中を覗く。

 入り口の両側にいる凹凸コンビが睨み付けてきたが……。

 そんな視線は無視だ。店の中を確認。

 中には綺麗なピュアブロンドの髪を持つ女性の背中が見えた。

 背には胸ベルトから続く金具に引っ掛けるように収められている大きい杖が目立っていた。

 その女性は机の上にある羊皮紙へ羽根ペンで文字を書く作業を行っていた。

 魔察眼で改めて確認。


「……」


 この女性、やはり魔素が大きい。

 魔素がローブの内から滲むように発散されている。

 俺が店の前で警戒するように女性の背中を見つめていると、その女性が振り返り、笑顔を浮かべながら近寄ってきた。


「……いらっしゃいませ」

「えっと、貴方が時空属性持ちの魔法使いのクナさんですか?」

「そうです」


 抑揚のない声。

 この女性がクナさんか。可愛いし美人だ。

 店内なのに、金色の長髪は黄金の絹のように輝く。

 不思議で綺麗。

 その綺麗な金髪が耳の裏を通り、こぶりな耳が可愛らしく強調されていた。

 そして、細筆で繊細に書かれたような薄い金色の眉から続く切れ長の目の中にある瞳は黄色く、鼻筋がすっと伸びている。

 小ぶりの唇には赤いグロスの口紅がキラリと光る。

 唇の右下にほくろがあり、どこか小悪魔的な印象を抱かせる。


「……どうも、俺は冒険者です」

「にゃ」


 猫の声に反応したクナさんは笑顔を黒猫ロロに向けた。


「あら、かわいい猫ちゃんを連れている冒険者なんて珍しい。でも、そんなとこで見てないで、お店に入ったら?」

「あ、はい」


 と、クナさんは入り口の両側にいる男たちへ鋭い視線を送る。

 視線を受けた店のガードマンだと思われる二人組の男は了解しましたというように頭を下げていた。


 凹凸コンビは何事もなかったようにそれぞれ顔を違う方向へ向ける。

 何かアイコンタクトしたのかな?

 クナさんの態度を訝しみながらも店の中へ入る。


「それで、わたしに何か用なの?」

「えぇ、どのような魔法具が売っているのかなと」


 すると、クナさんの目が光った?

 黄色い目をよく見ると、クナさんの瞳の色彩の形が違う?

 気のせいか……。


「色々な物があるわよ。普通の店に売られている回復ヒールポーションより回復効果の高い回復丸薬とか。高級で高いけど煙草に負けないぐらいの魔力増幅薬もあるし、純度の高い魔力回復リリウムポーションも在庫があるわ。知能の低い魔物の動きを鈍らせる幻影香に、スクロールとか。他にもダンジョン攻略に役に立つものは色々あるわ」


 クナさんは売れているアイテム名を強調して説明してくれた。

 魔法関係の雑貨屋のような雰囲気。


「……色々あるんですね」

「もちろんよ。わたしはこれでも冒険者の一人でもあるし、色々と深いコネクションを持っているから、品揃えには自信があるわ。本当はもっとコレクションがあるの。だけど、高級すぎて店頭に出してないのもあるから」

「なるほど、今ある品物を見せてもらいます」

「えぇ、どうぞ」


 妖艶な笑顔が良い。

 こりゃモテそうな女性だ。

 笑顔に吸い込まれそうになるが、売り物の魔道具を見ていく。


 その中に帰りの石玉というアイテムを発見。


 【魔迷宮サビード・ケンツィル】限定で、魔力を込めれば一瞬で入り口へ戻ってこられるっていう不思議なアイテムだった。

 時空属性なしでも使えるらしい。

 大銅貨五枚で値段も機能のわりに格安ときたもんだ。

 他にも【迷宮都市ペルネーテ】産のロレント鉱を使った岩石タイプの魔法瓶が売っていた。

 ロレント鉱は【迷宮都市ペルネーテ】でしか採れない鉱石らしく、値段も瓶一つで金貨二枚と高かった。


 だけど、保温が利くらしい。

 まさに魔法瓶。これは二つ買っとこう。

 迷宮に挑むときに必要だ。これに血液を入れておけばだいぶ持つ。

 皮水筒からこれにチェンジだ。

 それと、この不思議な帰りの石玉も二つ買っとこ。


「これとこれをください」

「はい」


 金を払い品物を受けとる。

 その際にクナさんの冷たい手が俺の手に触れた。


「なっ……」


 クナさんは俺の手に触れると何かに驚いたのか、そんなあからさまな反応を示す。

 その後も、じっと俺の手を見つめて……動きを止めている。


「ん? どうかしましたか?」


 手に触れ、そんな反応をするとは……。


「あっ、い、いえ、いきなりですが、貴方のお名前を聞かせてもらえないでしょうか」


 どうしたんだろ? ま、名乗っておくか。


「……俺は、シュウヤ・カガリです」

「そうですか。シュウヤさんは帰りの石玉を買ったということは、魔迷宮に挑むんですよね?」

「はい、挑んでみようと思ってます」


 俺の言葉を聞いた瞬間、クナさんは寒気を催すほどの妖艶な笑みを浮かべて頬に笑窪を作った。

 その……なんとも言えない美しさに、一瞬吸い込まれそうになる。


「でしたら、一緒に魔迷宮へ挑まない?」


 クナさんの赤い唇が動き、呪文のような甘い言葉が耳に響く。

 自然とそのアヒル口を見ていた。


「俺はいいですけど、クナさんはお店大丈夫なんですか?」

「わたしは大丈夫。客が来ても表に立っていた二人が対応するわ。それにわたし、さっきも少し言ったけど、これでも冒険者Bランクの端くれだったりするの。今日も昼から魔迷宮へ行くつもりだったし」


 Bランクか……。

 クナさんは次第にさっきの妖艶な雰囲気が和らぎ、小悪魔的な感じに戻っている。

 第六感が疼く。このクナという人には何かあると。

 改めて、掌握察と魔察眼で確認。

 <魔闘術>を纏っているわけじゃないのに、藍色のローブから漏れ出る魔素の量が凄い。

 この滲み出る魔素の量……只者じゃなさそうだ。


「……わかりました。俺は基本ソロ、いや、厳密には、黒猫ロロディーヌ、略してロロが相棒です……いいですか?」

「ええ、いいわ。ロロちゃん、よろしくね」

「にゃぁ」


 黒猫は『よろしくにゃ』的に鳴くと、片足をあげてぽんっと俺の肩を叩いた。


「ふふっ、返事をしてくれたの? かっわいィィ!」


 クナさんは嬉しそうにはしゃぐ。

 俺もテンションが上がってきた。

 他の冒険者とのパーティ。

 これが俺にとって初のパーティだ。

 念のため、聞いておこう。


「それはそうと、俺……魔迷宮は初めてだったりするんですが、大丈夫ですか?」


 クナさんは大きく頷く。


「大丈夫。ソロで慣れっこだから、わたしが魔迷宮を直々に案内してあげるわ」


 背から大杖を取り出し胸の前に持ってくると、ずいっと大杖を突き出して構えるクナさん。


「わたしの戦闘職業は魔法系の上位職業の<闇尾の魔術師>だから、安心して全て任せなさい」


 上位職業ね。

 それに全て任せなさいか……前衛もできると言うことかな。

 疑問だが……ま、自信があるならいいか。


「……わかりました。それで、いつ頃魔迷宮へ向かいます?」

「わたしはいつでも大丈夫。今すぐにでも行きましょう」


 元気の良い言葉。ウィンクまでしてるし。

 クナさんはにこやかな表情を見せると、出発準備なのか、店の奥にあった頑丈そうな扉の鍵を閉めている。

 閉め終わると、くるっと振り返り、笑顔を見せて店を出ていった。


 そのクナさんの後ろ姿を見ながらついていく。

 クナさんは店を出たところで、藍色のローブ系のマントから細くて白い綺麗な手を伸ばし、大杖を器用に回転させながら上空へ翳した。

 腕を上げているので、ローブの裂け目から括れのラインが……藍色のローブは胸元から裂けるように左右に分かれているので、豊かな胸に細い括れが見え隠れしていた。


 スタイルが良いねぇ。


 ローブの下にはノースリーブ系のシャツ。

 下はミニなタイトスカート。

 太股まで及ぶ黒いハイソックスがセクシーだ。

 それに、黄色いブーツが似合っていた。


 俺の視線に気付いたのか、クナさんはまたウィンクしてくる始末。

 これ、普通の男ならころっと落ちて、ほいほい専門の店へ付いていきそうな感じだ。


「ふふ、シュウヤ君ったら、視線がヤラシイぞ」

「あぁ、ごめんなさい、つい……その太股がムチムチしてそうだったんで」

「ははは、ストレートねぇ。シュウヤ君おもしろい!」


 片目を瞑り、頭を掻きながら誤魔化すように笑って、


「はは、では、ギルドに向かいましょうか?」

「……えぇ、そうね」


 なぜか軽い反応だ。

 クナさんは切れ長の目を自分の店へ向けていた。


 店に何かあるのか?

 それとも、店を守ってる番人男たちを見ているのかな?

 そう疑問に思いながらも違うことを言葉にしていた。


「……クナさん。他のパーティメンバーはどうするんです?」

「えっ、ああ、平気平気、いらないわ。後、もうさん付けは止して。気軽に話してくれて結構よ」

「……了解、クナ。俺もシュウヤとかカガリで。君は外してくれ」


 俺の言葉にクナは笑窪の可愛い笑顔を見せる。


「ふふっ、わかったわ、シュウヤ」

「おう」


 こうして、美人魔術師クナとデート気分でギルドへ向かう。


 ギルドで依頼を選ぶためボード前にきた。

 クナと一緒に依頼を見ていく。

 クナは魔迷宮に詳しいらしい。

 俺がDランクの冒険者だと言うと、どの依頼が良いか、検討して選んでくれた。


 優しいじゃないか、ヤヴァイ、惚れちゃうぞこりゃ。

 選んでくれたのはこんな依頼だった。


 依頼主 :プレセンテ魔獣商会

 依頼内容:Cランク討伐ホグツ

 討伐対象:ホグツ五匹

 応募期間:無期限

 生息地域:魔迷宮地下一階~

 報酬:金貨一枚

 討伐証拠:赤毛の尻尾

 注意事項:金属鎧を装着していて爪型の武器を扱い、ある程度の知能を持つ。

 備考:魔迷宮では一般兵士のような存在。一階から二階に多数存在を確認。魔石を心臓の位置に持つ場合がある。


 だが、依頼を選ぶよりもクナに対する視線が凄かった。

 周りの冒険者たちが、ざわざわ……ざわざわ……と騒めいていたのだ。


 クナは金色の髪で顔も可愛くスタイル抜群。

 なので、人気があるんだろう。

 このギルドのアイドル的な存在なのかなと勝手に推察。


 美人は言わねど隠れなし。とも言うからな。


 んお? なんか違うようだ。

 野郎共から来る俺への視線が厳しい。

 嫉妬がいきすぎて殺気を帯びたモノだ。

 掌握察や<分泌吸の匂手フェロモンズタッチ>では判別できない、野郎共の殺気と嫉妬が入り混じった視線は怖かった。


「シュウヤ、あとはこれなんてどう?」


 クナはそんな視線など何処吹く風。

 気にせずに次の依頼を探していたようで、ボードを指差す。


 依頼主:プレセンテ魔獣商会

 依頼内容:Bランク討伐ゴドー

 討伐対象:ゴドー一匹

 応募期間:無期限

 生息地域:魔迷宮地下四階以降~

 報酬:金貨五枚

 討伐証拠:長方形の頭、背にある魔法陣の入れ墨。

 注意事項:知能は低いが剛力なので要注意の存在。四本の手には違う武器を持っているので、冒険者を苦しめるだろう。

 備考:長方形の分裂した特徴的な頭蓋を持ち、その頭と頭の間にある胸の上には歪な口が存在する。胴体は大きく、四本の腕を持つ。


 報酬は一匹で金貨五枚。


「これ、Bだが……」

「わたしがいるから平気よ」

「了解」


 とそっけなく了承し、周りを窺った。


「周りの視線なんて気にしちゃだめ。今は二人だけのパーティなのよ」


 俺の様子を見ていたのか、クナは指をノンノンと動かし、少し怒った顔をみせてくる。

 その顔も可愛く小悪魔的だった。


「あぁ、済まない。こう注目されるのは慣れないんでね」

「そうね。気にしないことだわ――」


 クナはそう言いながら、優しい目から一転、

 厳しく冷たい視線をざわつく冒険者たちへ送る。

 すると、静かになった。

 おぉ、クールビューティを感じさせるっ。


「依頼はこの二つ。――受付に行きましょう」


 そう言って彼女は振り向くと、何事も無かったかのようにふるまう。

 可愛らしい表情だ。

 あの男たちは彼女のこういった二面性に惹かれているのかな? 

 移り変わる表情のギャップがなんともいえない。

 そんなことを考えながらクナを追う。


 受付の人は受付嬢ではなくおっさんだった。

 おっさんに依頼の木札とギルドカードを提出。

 そのおっさんはクナと知り合いらしく、親しげに応対していた。


「いつものパーティー名でよろしく」


 クナは受付のおっさんに目配せしながらそう言っていた。


「わかりました。では【棘の毒針】で登録します。水晶玉にお手を」


 クナは手を水晶玉に乗せた。

 おっさんは俺に振り向く。


「君も水晶玉の上に手を乗せてくれ」

「あぁ」


 言う通りに手を乗せると、水晶玉が光って反応した。


「手を離していいぞ」


 と言われ手を離す。

 クナも同様に水晶玉から手を離していた。


「これで、依頼と共にパーティ受付完了だ。お互いに気を付けてな?」


 依頼の受付はこうして完了。

 ギルドカードを返して貰い、そのカードを確認。


 名前:シュウヤ・カガリ

 年齢:22

 称号:なし

 種族:人族

 職業:冒険者Dランク

 所属:なし

 戦闘職業:槍武奏:鎖使い

 達成依頼:五


「シュウヤ、いくわよ」

「あぁ」


 初めてのパーティ。

 カードには何にも記載はないし、味方のHPバーが見えるわけでもない。

 これ、意味あるんだろうか……。


「少し疑問なんだが、パーティを組むのは何か意味があるの?」

「変なことを聞くのね。勿論意味はあるわよ。依頼を受ける時に誰と誰がパーティを組んだかギルドの魔水晶に記録されるからね。パーティボックスも使えるし、パーティから発展したクランへ誘うために、信頼などのお互いの意思を確認するという意味合いもあるわ。後、モンスターのランクに+が表記されてる依頼があるでしょ?」


 確かに依頼の中に幾つかあったな。


「あったな」

「それにはパーティ奨励の意味もあるのよ。だから冒険者同士が組むのは当たり前。依頼によってはパーティを組むこと前提のこともあるし。他にも魔法使いがパーティメンバーだけに特別な支援魔法を与えたり、パーティメンバーに優先して回復魔法を掛けたりできるわね」

「へぇ、そんな効果があったのか。あ、それとは別なんだが、今さっきパーティ名を決めていたが、あれは?」


 眉をピクリと動かすクナ。


「あぁ、ごめんなさいね。気になったかしら。あれはわたしがパートナーとパーティを組む場合につける名前なんだけど、嫌だったかしらァ?」

「いや、別に嫌じゃないけど」


 俺の問いに少し頬がまだらに赤らんで不機嫌そうに答えるクナ。


「そ、なら別に気にしないことね。それと、依頼によってはパーティを組まない場合もあるわ。特に、護衛依頼、緊急依頼、未探索地域開拓とか。クランで一緒に依頼を受けたのなら話は別だけど」

「ありがと、知らなかった」

「さぁ、もういいでしょ。こっちこっち」


 クナは説明に辟易した顔を見せると、急ぎ足で歩いていく。

 ギルド内に設置されている【魔迷宮サビード・ケンツィル】行きの転移陣の前でとまる。


 【ペル・ヘカ・ライン大回廊】の転移陣と【ヴァライダス蠱宮】の転移陣も隣に設置されており、冒険者たちが次々と転移陣に入って消えたり現れたりしていた。

 こないだと同じように迷宮の説明入りの板を取り、見た。



 □■□■



【魔迷宮サビード・ケンツィル】


 この迷宮は魔族が作ったと言われている。

 迷宮は地下深くまであり、魔族系に死霊系モンスターが発生する。

 迷宮の主は名前通りサビード・ケンツィル。

 その強さは推定ランクA+~S++とされ、知能が高く、戦闘能力も高い。

 このモンスターと戦った冒険者の大半は敗れ、帰らぬ者となるだろう。



 □■□■



「――シュウヤ、そんなの読んだってしょうがないわよ。先に行くからね」


 クナはつまらなそうな顔を浮かべて、さっさと転移陣へ入り消えてしまった。


「そんな急がなくてもいいのに。それじゃ、俺たちも行くか」

「にゃっ」


 黒猫ロロを肩に乗せた状態で、クナの後を追うように【魔迷宮サビード・ケンツィル】の転移陣の上へ足を踏み入れた。

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