十六話 デボンチッチ
アキレス師匠が右手を俺の前に出し「止まれ――」と指示を出した。師匠はそのままジッと地面を見つめている。
「ゼレリの足跡だ」
師匠はそう言って視線を上げ、森を見つめだした。確かに獣の足跡だ。
「あそこにいるんですか?」
師匠は気配を感じているのか、俺の質問には答えず、森を見つめたままだ。俺も<
――獣の濃い臭い。
――虎の形が浮かび上がる。
すると、アキレス師匠が見つめていた先、森の一部が動いた。
森から現れたのは黒と黄色の毛が目立つ大虎。
「あれがゼレリの黒虎だ」
師匠はその
力が強そうな四肢を持ち、双眸の周りだけがパンダのように黄色で縁取られていて特徴のある顔立ちだ。
ふっくらとした胸毛の辺りは段々と盛り上がった筋肉がある。黒色が強調される形だ。黄色の毛が腹回りから伸びて、盛り上がった黒毛と混ざりゼブラ模様を作っていた。
「シュウヤ、向こうがこっちに手を出す前に、わしらで急襲する、いいな?」
アキレス師匠は張り切った口調で言うと、俺が返事を返す間も無く、先に駆け出していく。
仕方なく師匠の後を追う形となった。
そこに――師匠の黒槍が迫った。
吠えた
四脚に力を込め、反射的に横へ跳躍し、師匠の初撃を避ける。
が、
さすがだ。わざと誘導したんだな。
四本の小剣が意識を持つように虎を切り刻んでいく。
――お? 弾く音が聞こえた。
へぇ、
剣が弾かれる独特な硬質音が何度も響く。
しかし、剣刃が虎の腹にまで及ぶと、弾かれる音ではなく肉を斬る音が聞こえてくる。
最後には四本の剣がゼレリの脚一つ一つに突き刺さっていた。
一応、俺も攻撃!
動けない黒虎に黒槍の一撃を与えてやった。
これ、俺の槍突が効いたわけじゃなさそうだ。
既に死んでいる。お前はもう死んでいるって奴だった。
違うか。と俺が『北斗神拳』を思い出していると、
「上手くいった。解体するぞ」
アキレス師匠はそう言って、ナイフで黒毛の皮と肉を切り分けていく。
「後ろ脚を持っていろ」
「はい」
師匠に促される。<導魔術>は使わないらしい。
確かにこれは一人で剥ぐのは難しい。
大きな机に乗せて、色々な器具があれば、一人でも可能だろうけど……。
俺が虎の後ろ脚を持ち上げると、師匠は器用に皮と肉の間にナイフを侵入させていく。
皮を全部剥がすと、今度は肉を細かく切り分けていた。部位毎に切り分けて素早く紐で縛ると、肉を葉っぱで包み袋に入れていく。
すると、「おっ、これは……」と師匠が珍しく呟いて驚いていた。どうやら臓腑の中にあった黒く光る石に驚いたらしい。
「魔晶石だ」
アキレス師匠は黒光りしている魔晶石を丁寧に取り出すと、違う袋に詰め込む。
「何です? 魔晶石?」
「ん? これはだな……モンスターが体内に魔素を溜め込んでできた貴重な石らしい。わしが冒険者だった時は中々の価格で売れたもんだ。魔石や魔晶石と言われている。迷宮都市ならすぐに採れるらしいが」
「もしかして、色々な材料にも使えたりします?」
「そうだ。魔晶石は用途が多様だからな。鍛冶の材料、武器、防具、魔道具の触媒、建材にまで使われる。しまいには飲み込めば自身の成長に繋がる場合があるとか、そんな話が伝わる始末」
飲み込んで成長だって?
まぁ綺麗っちゃ綺麗な石だったが……。
「石で成長を促すんですか?」
「そんな話が伝わっていただけだ。因みにわしは石なぞ飲みたくないので飲んだことはない。飲んだ奴を見たことがあるが、飲んだ奴は誰しもが体調に異変を起こしていたからな。それに成長した風にも見えなかった。だから、わしは成長するって話は信じていない」
そりゃ、こんな石を飲めば胃がおかしくなるだろうに……。
中世でも血を抜いたり鉛が薬として重宝されてたり、近代になっても放射能で肌を綺麗にとかのデマがあったからなぁ。
「……俺も飲みたくはないですね」
アキレス師匠は会話を続けながらも解体作業を続けている。
「ハハ、そりゃそうだ。そんなことより、この毛皮部分を見てみろ。これはわしが着てる上着と同じ素材だったりする。さっきの戦いでも見たと思うが、これは剣刃を弾く。かなり丈夫な毛と皮だ。鞣せば服に使える。それと、ここの背の薄い肉は生のまま食えたりするのだ。この内臓も大切だぞ? 旅の途中、火種もなく獲物だけあるといった場合、生のまま食うこともある。覚えていた方がいいだろう。この心臓やレバーは栄養が豊富だ。それに、水が欲しい場合は胃袋を破り中の物を絞ったりして吸うのだぞ」
「生で食えはわかりますが、吸うんですか?」
生肉に胃袋を破くか……。
臭そうだが、サバイバルでは水分確保は重要だよな。
「そうだ、もしもの時だけだが。あ、シュウヤは水属性か。それに
「いいですよ、俺としては普通に接してもらうだけで十分です」
そんな話をしながら、アキレス師匠の手捌きをしっかりと見ていく。
真似をして、反対側から捌こうとするが、意外に難しく、最後は師匠のやり方を見るだけとなった。
骨は頭部から背骨に大腿部の一部を回収、大型の魔法袋に全部詰め込んでいる。
肉の方は部位ごとに袋分けしたのを専用の魔法袋に入れていく。
「粗方回収できた。皮を洗うから手伝え。それと、この辺りは血の臭いでまた違うのが寄ってくる。離れるぞ」
その言葉に頷き、師匠と共に急流側へと戻り、川沿いを少し南下した。
師匠は、川の勢いが弱まっている場所を見つけると、川の縁に近付いていく。
川は綺麗な水だ。小さい海老や魚が泳いでいるのが見える。
師匠は虎皮を伸ばし、ナイフを器用に使って川の水で毛皮を洗っている。時々薬剤をかけて満遍なく伸ばしていた。
ん~、こりゃ初見じゃ無理だ。結局、殆ど見てるだけだったが、簡単な皮鞣しの勉強にはなった。
師匠は洗い終わると、風の<生活魔法>で毛皮を乾かしてから魔法袋へ詰めていく。そして、森へ向けて出発した。
「さっ、こっちだ」
森林深くへと入っていく。
師匠は細かな木々を伐採しながら、話しかけてきた。
「さきほどの毛皮だが、本当はすぐに張り付けるように干して、まだ残っている脂肪分を削り落としたり特殊な植物油を何重にも塗ったりと、工程が必要な箇所があるのだが、まぁ今回はいいだろう。普通の毛皮と違い耐久性が抜群で腐り難いからな」
へぇ、先ほどの皮鞣しは、本格的な皮鞣しではないのか。
しかし、この魔法袋まだまだ入りそう。
順調に森を進む。
すると、他の樹木とは違う巨樹が見えてくる。
巨樹はバオバブのように太い幹で、背が高かった。
沢山の枝が横や上へ伸びていて、大量の葉っぱが生えている。
それが大きな屋根のように見えて、大いなる自然の豊かさを感じさせた。
巨樹の真下は陽射しを完全に遮断。
――冷んやりとした涼しい風が体を吹き抜けていく。
……大きい。
沈黙しながら、ただ巨樹を眺めていた。
そんな巨樹を見ていると、不思議な音色が聞こえてくる。
何だろう?
「――デッボンッチィ、デッボンチッチィチッチィ」
「――デッボンッチィ、デッボンチッチィチッチィ」
この不思議な音色は……。
さっきから、微かな音だが、繰り返し聴こえてくる……。
俺は解説を求めるように、師匠へと振り向いた。
「ん? どうした?」
「いえ、あの音が……」
「あぁ、あれか、珍しいな。良かったではないか。
不思議なワードが出た。
「
「自然が豊かな場所で起こる稀有な現象と言われている。聞いたところによると、魔素が生まれ出やすい場所ではこういった現象が発生するらしい。それに、その条件下では不思議とモンスターが近寄ってこないことでも有名だ。普通は魔素が生まれ出ると言われる場所は虚ろの魔共振が発生して、原初の光を放ち、精霊や魔素を産み出すだけでなく、モンスターを大量に呼び寄せることになるんだがな」
稀有な現象に、虚ろのなんたらか。
「
「そうだ。正直解らんことだらけだが、わしは、
神の名前が出た。
「なるほど。師匠でも解らないんですね」
「当たり前だ。わしをなんだと思っている」
師匠は眉を寄せ困った顔を見せた。
「すみません。師匠なら何でも知ってそうなので」
リアル百科事典とまでは言わないが、物識りの師匠だから、つい……。
「わしでも分からんことは山ほどあるぞ……」
「そうですよね。先ほどの見解が正解かもしれませんよ」
「まぁな。このような自然豊かな地域には一種の聖域のような場所があるのかも知れん……と、いつも考えていた。もしくは神界セウロスへ通じる道があるとかな……」
神界セウロスか。名前的に神々が住んでいるんだろうな。
「詳しくはそれ系統の神官や魔法大学のお偉いさんにでも聞かないと分からんだろう。ま、誰も解らんと思うが。おっ、また
確かに、まだ聞こえてくる。
「……
「害は全くないぞ。人族たちを驚かせたり笑わせたりするのが好きらしい。大抵は
「へぇ、不思議ですね。音も独特だし数も多い」
「あれほどの音色だ。今もそこの巨樹の根本や枝の上に多数居るんじゃないか?」
「はい。少し興味があるんで見てみます」
そうして師匠から離れて、巨樹の根本近くまで行くと、見えた。
魔察眼で観察すると、よりくっきりと見える。
時々青白い光も発しているなぁ。
小さな手足があり、てるてるぼうずを擬人化させたような見た目だ。
目のところは三日月のような大きい穴と丸い小さな穴の二つ。
こっちのは顔が大きい。あ、あっちは傷のような穴が沢山ある。髭が生えたのも一匹居た。
手足もちっこくて可愛らしい。
しかも、ぴょこぴょこと歩いたり踊ったり、頭をカクカクさせたり飛び上がったりと、忙しなく動いてるし……。
その小さい
視線を巨樹に向け直していたら、師匠が話し出した。
「エルフの領域の辺りにはもっと大きな巨樹が生えている地帯があるぞ?」
これより大きい木が生えているのか。それは見たい。
「ま、とりあえず、今日はここで野営する。乾燥した薪や落ち葉を適当に集めるから手伝え」
師匠に言われた通りに落ち葉や薪を拾い集めながらも、時々視線を上げて見てしまう。
この巨樹を眺めずにはいられなかった。
師匠は集めた落ち葉や薪を巨樹の下にあるちょっとした空き地の中心に置き始めている。
火をつけるのかな。
火をつけるのかと思ったが、師匠はそこから離れ、袋を取り出す。
袋に手を突っ込み、何かを掴むんで取り出すと、周囲へとその何か、白い粉を撒き始めていた。
「その白いのは何ですか?」
「ああ、これは虫避けのカチョの木屑だ。匂いを嗅げば少し分かると思うが、どことなく鼻にツーンとくる涼しい感じの良い匂いがする。これで小さい虫は寄ってこない」
「確かに、匂いが強烈です」
ミント系、ハッカ系の匂いだ。
「うむ、良し、こんなもんで良いだろう。それから、夕食は肉が主力に山菜が少しだ」
「さきほどの猪肉と虎肉ですか?」
「そうだ」
アキレス師匠はにこやかに喋りながら、違う袋へ手を伸ばす。
袋の中から先程切り分けた肉を取り出していた。その肉へナイフを刺して、鼻唄を歌いながら軽く肉を叩き出す。
肉の調理法は現代とあまり変わらんな。叩いた肉をそのまま薪の回りに並べていく。
「火はまだ付けん。もう少し時間が経った後でいいだろう」
「分かりました」
アキレス師匠はそう言った後、何かを探すように周りに視線を向ける。
そして、木の根本にあった窪みを見つけると、手で
因みに
「師匠、それは?」
「これは方角が分からない時や場所を確認したいときに使える技術だ。見ておくといい」
師匠は小さい葉っぱを注いだ水の上に乗せ、次に細い小さい針金を取り出して、両手の掌で針金を挟むと上下に擦りだした。
その擦った針金を浮かせた葉っぱの上に置くと、針金が回転。
その針金の上では
しかし、針金の動きには
それにしても、方位磁石か……この星でも磁力は存在する、ということだ。
「これで方角を知ることができる。回転した先が北だ。反対が南ということになる。しかし、この方法が使えない土地も存在する」
地球だと、磁力を狂わす富士の樹海か。
「なるほど、こりゃ便利ですね、この方法は昔から?」
「そうだ。遠い昔に爺さんに教わったのだ」
先人の知恵、磁力で動くなんて知らなかったはず。
俺が磁力だと思っているだけで、全くの未知の力かもしれないけど。
師匠は巨樹から伸びる根っ子の先に腰掛けると、今後の予定に関する話をし始めた。
これからも、こういう野宿を含めたモンスター狩りや冒険者用の修行を行っていく予定らしい。
話を終える頃にはすっかり辺りは暗くなり、夜になろうとしていた。師匠は放置していたナイフに刺さった肉を取ると、もう一度ナイフの柄で肉を入念に叩き出す。
さっきも叩いてたのに。柔らかくなるのかね。
すると、懐から瓶を出して、何かの粉を肉に振りかけている。
塩もかけているようだ。師匠は肉の下ごしらえが終わると、舌なめずりしながら火打ち石を上下に擦り、火打ち石から発生した火花を乾いた草へ掛けていく。直ぐにぼあっと火がつき、薪にも火がついていた。
火起こしはスムーズだ。この辺は経験がすぐに出る。
それよりさっきの粉が気になる。聞いてみよ。
「……さきほど掛けていた粉は何です?」
「セリュの粉だ。香辛料で肉や魚によく合うぞ。香ばしい香りで肉の臭みも取るしな」
「香り……」
肉が焼けて、良い匂いが漂ってくる。じゅうっと肉汁がナイフの柄の下まで垂れ始めると、師匠は焼けた肉を取った。
「良い感じだ。シュウヤも食え」
香ばしい、良い匂いだ。
俺もナイフを取り、焼けた肉を口へ運ぶ。
美味しい。肉を噛むごとに芳香が漂い、口の中だけで肉の物語が始まりそうだった。
肉厚がジュウシィ過ぎる。民族的というか、野性的な旨さだ。うまうま。でも、セリュの粉とは何だ?
地球にはないアクセントだ……。
山椒、唐辛子、胡椒、胡麻、どれも微妙に違う。
ん、でも、しいていえば山椒に近い?
「肉は本来もっと熟成させないと旨味はでないが、今は必要ないな」
師匠はこの美味しい焼き肉に納得がいかないようで、肉を口に運びながらも、そんなことを言っている。
「今の肉は結構旨かったですけど」
「肉は新鮮なほど旨いというわけじゃない、魚は逆だがな? 肉は熟成させると、極上の肉になる。熟成の仕方にはコツがあるが……だが、生きるのに旨いも不味いも関係ないからな。今は肉をただ食う、それだけだ」
「さすが師匠。年季が違いますね」
アキレス師匠は皺が目立つ法令線の口角をあげてニヤッとする。
「はは、そうは言ってもな? 実はルンガの熟成肉という肉がある。家の地下、ほれ、あの茸を栽培している洞窟があるだろう? あそこには別室が幾つかあるんだが、その一つに熟成させている肉が数十個保管してあるのだ。特別な日以外は食べないんだが、今度食べてみるか?」
「おお、是非」
そんなこんなの会話を繰り返した後、夜も遅くなり寝ることになった。
師匠はこれも修行だぞと、何故か寝る前に念を押すように話してきた。
俺はハイハイ、また修行ですか、と適当に流し、眠っていく。
深夜、まだ焚き火の元が燻っている頃――。
ん? 何か首に感触? 俺は目を開けた。んお? 何でアキレス師匠が傍に……アキレス師匠の目は真剣だった。
あッ、あ”~~~~~~、あぅあーっ、ナイフが首に当てられているし――。
「これでシュウヤは一回死んだことになる」
そう話しながら師匠はナイフを懐にしまい、俺から離れた。
「何故?」
良かった。
師匠が実はホモーおじさんかと……。
俺は尻の心配をしたよ……。
「ん? これも修行と言ったはずだ。冒険者に成るんだろう?」
「はい、そうですが……」
俺がほっと笑顔を浮かべるのを見て、勘違いしたのか師匠は厳しい目付きで喋り出した。
「シュウヤ、おぬしは少し冒険者を舐めとらんか? 冒険者に成るということは、見知らぬ相手と組み仕事をすることが多いということだ。その見知らぬ相手が盗賊や追い剥ぎだったらどうする? もしそうであったのなら、本来今のでシュウヤの命は無い。しかし、シュウヤは
そうだな。確かに気が緩んでいた。
反省するように師匠の厳しい視線にしっかりと答えた。
「確かに気が緩んでました……何か気配を探る技術はあるんでしょうか?」
<
師匠が使っているだろう技術があれば、もっと素早く察知できる。
「あるぞ? 実はな? 今回の修行はそれが目的でもある」
「おお」
やはりあったか。
「それとは<導魔術>の技術の一つで、<仙魔術>に近い技術であり、魔素を察知する方法だ」
魔素を察知か。
でも魔素とは魔力だろ? それを知る技術が<導魔術>にあるのか。
<
「<導魔術>ですか? ……それは俺でもできますかね?」
導魔だから、外へ魔力を放出して探るのだろうけど。
「できる。まず、察眼でわしを見ろ」
指示通り、魔力を目に留め魔察眼でアキレス師匠を見ると、師匠から放出された魔力が辺り一面に円状になって広がり、かなり広い範囲にまで及んでいるのが分かった。
「これ……いつもやってるんですか?」
「いや、森林地帯にいる時や気配を探る時だけだ。因みにこの技は<導魔術>の技術の一つ、掌握察と呼ばれる技術で、範囲内の魔素を探知できる。<導魔術>で最も重要と言ってもいいだろう。これがあるからわしは<導魔術>を専攻したようなものだ」
魔素を探知か。もう少し魔素のことに突っ込んで質問してみよ。
「掌握察で魔素を探知? 魔素とはそもそも何ですか? それと、俺には普通の魔力放出にしか……見えないのですが」
俺の疑問の言葉に、アキレス師匠は驚きの表情を一瞬浮かべる。
「何っ? 魔素まで忘れているのか? 魔素とは普遍の原理原則だ。この世全てに遍在している。生物はもちろんだが、精霊だろうが不死のモンスターだろうが、動く物は全て魔素を持ち魔力を持つ。そして、人族を含めた全ての生物が息を吸うように魔素を吸収して生きていると言われている。これはモンスターも含む話だぞ?」
原理原則……大気には魔素が遍在するってことか。
「例えば、さっき
「ええ、確かに」
「それだけではなく、言語魔法などでも、精霊と魔素が大いに関係しているという話だ」
「魔法か、魔素は深いですねぇ」
俺の言葉に、師匠はしょうがないな、という顔つきを見せる。
「深いも何も、当たり前のことなんだが……更に説明しておくぞ。モンスターを倒せば、倒した本人がそのモンスターの魔素を吸収して成長を若干早めることができると言われている。相手が人でも同じだ」
「魔素を吸収……」
ということは、人を殺しても成長するのか……。
だが、その魔素を探知できるのは重要だ。
「その魔素を探知するのが掌握察なのだ。先ほどシュウヤが言った、魔力の放出に見えるだったな? 確かにその通りなのだが……わしがやっているのは自らの魔力を円状に意識した、<導魔術>による魔力の放出だ。とりあえず、今やってみるがいい」
意識したか。
「はい」
魔力の放出を開始する。
俺は全身から魔力を放出させた。
魔力は円を描くように広がっていく。
「そのまま自分のできる範囲まで<導魔術>で魔力を放出して行け。円を描くことを意識するのも忘れるな? ただし薄く伸ばしていくのは駄目だ。それだと<仙魔術>に成ってしまう」
「はい」
円、薄く延ばすのは駄目……。
まぁ師匠が言うように、魔力を意識する。
魔力を広げていく、ん?
俺の魔力が師匠に触れた瞬間――不思議な感覚を得る。
思わず頬がぴくっと動き反応してしまった。
アキレス師匠の存在を感じた。
――それは大きな丸い感覚。目で見ればそこに師匠がいると分かるが、目を瞑りこの掌握察で師匠を感じ視ると、何か未知の違う感覚を感じた。
これが魔素か。
周りの森の木々にもアキレス師匠とは違う感覚で極々小さい感覚を得られる。
不思議すぎる……。
俺の放出した魔力はそのまま広がり、アキレス師匠を越えて森の手前辺りで魔力は止まる。
おっ、ここまでか。
どうやら俺の<導魔術>の掌握察は半径三十メートル~五十メートル辺りが現時点で限界らしい。
俺の掌握察の範囲は師匠よりだいぶ小さいみたいだな。
当たり前だが。
「ふむ。魔力を放出して、わしの存在を感じただろう?」
「掌握察。これが、<導魔術>の技術の一つなんですね」
スキルとしてありそうだけど、スキルではない。
<導魔術>の範疇なんだな。
「そうだ。魔素を探知できる。ただ、魔素を探知しても、それが何かまでは実際に目で見るまでは分からんからな? 移動している速度や大きさで、大概のことは分かるが」
「覚えておきます」
「それと、かなりの魔力を消費する。<仙魔術>ほどではないが」
そう言われ、すぐに魔力放出をやめて掌握察を止める。
なるほど……少し脱力感がある。
言われたとおり魔力消費が高い。
「脱力感がありますね……だいぶ消費したようです」
「そうだな……コツは魔力を即座に絶つことだ。掌握察を維持せずにな? 魔力を放出し、すぐに絶つ。これなら維持するよりも魔力消費は少なくて済む。これは熟練が求められるだろう。数をこなしていけば、どんどん感覚が鋭くなり掌握察の範囲も広がる。やればやるほど魔力消費も抑えられ精度も増すというわけだ。何事も経験だ」
熟練度的な掌握察か。それと<
これで、俺の索敵能力は格段に跳ね上がる。
「分かりました。何回も何回もやります」
アキレス師匠は納得したように何回も頷いている。
「うむうむ。今日はここまでにして、もう夜も遅いし寝るぞ」
「はい、お休みです、師匠」
次の日から、遠出野宿の修行は増えていく。
こうした訓練は頻繁に行われ、確実に奇襲に対する備えが身についていった。
遠出の修行以外にも武術の修行をせずに座学めいた授業を行うこともあった。
師匠は貴重な新しい羊皮紙へ簡単に地図を描き出していく。
その地図を指しながら、まわりの国々や地形について語り出した。
山脈に囲われたゴルディーバ族が暮らす高原地帯の位置に、南はエルフの領域【テラメイ王国】があり、その更に南には【魔霧の渦森】や人族の王国【オセベリア王国】が存在する。
そして、竜が住むと言われる標高が高い【バルドーク山】、その北東と東南には【レフテン王国】と【サーマリア王国】がある。
北のマハハイム山脈を越えた先には【ゴルディクス大砂漠】が広がっており、隊商や旅人には困難な砂漠の旅が待っている。砂漠の中には幾つかのオアシスが存在し【アーメフ教主国】が国として存在しているとか、更にその北には【宗教国家ヘスリファート】と【アーカムネリス聖王国】があり、大砂漠の北東には【ベファリッツ大帝国】だった大森林があるらしい。
師匠なりに分かりやすく解説してくれた。
基本的な季節である、春、夏、秋、冬。
その季節が九十日ずつあり、一年が三百六十日ある事や、様々な種族、神々、精霊、宗教、人族の神聖教会についても軽く教わった。
真面目に聞いていたが……。
正直、情報量がありすぎて、すぐに忘れると思う。
最後は奴隷制度についても軽く説明をしてくれて、珍しい座学の授業は終了となった。
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