第23話 接触 -Fate- 04

 革命団ネフ・ヴィジオンの隠れ家となっている屋敷の最奥、《テルミドール》の私室があるそこには、4人の男女が集まっていた。

 《テルミドール》、《ヴァントーズ》、《メスィドール》。『最初の十二人』、そう呼ばれるレジスタンスの初期メンバー達。そして、もう一人は、黒ずくめの衣装に身を包んだ、性別さえも分からない人物だった。


「──報告は以上」

「コルベール男爵……元老院の末席にある道化か」


 そうつぶやいたのは、《テルミドール》だった。貴族院のその上、一般には公開されていない、元老院の存在を認知しているのは、レジスタンスの中でもわずかなメンバーだけだ。

 そして、その席に座る貴族達の名は、議長を務めるのが、三公筆頭、セレーネ家の当主であることを除けば、本来ならば、貴族院にさえ秘匿されている情報だ。

 それをこうもやすやすと入手できるとは到底思えなかった。


「なるほど、なにやら臭いますね。セレナ、他にはなにかありませんか?」

「……残念。ない」


 《メスィドール》にセレナと呼ばれた黒ずくめは、ボイスチェンジャーでも使っているのか、どこか機械的な声で、短く答えた。


「連中の情報操作の可能性は?」

「どうでしょうねえー、男爵とはいえ、元老を務めるほどの家です。怨みは買っていることでしょうが……」

「元老の情報に触れられる貴族など限られている」


 《メスィドール》の言葉を引き取った、《テルミドール》が、悩ましげなため息と共に、言葉を吐き出した。

 貴族、それも、士爵を除いて最下級の男爵ながら、元老になるほどの力を持つ貴族を、わずかな情報を頼りに攻めるにはリスクが高過ぎた。革命団ネフ・ヴィジオンの戦力はそこまで大規模なものではないのだ。

 確かに、彼らはすでに二度、元老院議長であるセレーネ家の領内に攻め込んでいるが、その成功は入念な準備はもちろんのこと、メンバーの死を賭した戦いと、若い力が起こした奇跡に因るところが大きい。

 今度は、全員が作戦に参加するとしても、あまりにリスクが高い。割に合わない攻め手を安く打てば、間違いなく、その代償は彼らに最悪の形で跳ね返ってくる。

 リーダーとして断固としてそれは阻止せねばならなかった。


「他の貴族の動向は?」

「……いつも通り。はっきりとは探れていない」

「他に打つべき手もなしというわけか」

「どうしますか、《テルミドール》? 私としては、今回は見送るのが吉だと思いますがねえ」

「私も同意だ。ただでさえ、博打を打った後だ、今度も成功するとは限らんだろう」


 水を向けられた《テルミドール》は、執務机に肘を付き、口元を覆うようにして、手を組み、目を閉じている。

 しばしの沈黙の後、《テルミドール》は口を開いた。


「各員に通達、新たな作戦を開始する。メンバーに招集をかけろ。目標は、コルベール男爵家配下の騎士団。作戦開始は5日後とする」

「《テルミドール》! 貴様!」

「いいでしょう。私はあなたの判断に従いましょう」

「《メスィドール》まで……おまえ達、どれだけ危険かわかっているのか!」


 《ヴァントーズ》が怒声を浴びせるが、《テルミドール》は、動じた様子もなく、返答する。


「リスクは承知だ。しかし、我々を意図的に動かそうとするものがいるのならば、その思惑を知らねばなるまい。それに──」

「なんだ?」

「ここで我々が動かねば、相手も手段を選ばなくなる可能性もある。そうなれば、我々の敗北は確定的だ。ならば、あえて思惑に乗ってでも、誰が本当の敵なのか、見極めなければなるまい」

「確かにそうだが……」

「どちらにせよ、手は打たねばなるまい。どのような目的であれ、我々には選択肢がない。先の快勝で高まった士気を下げるわけにもいかないだろう」

「いいでしょう。情報を元に作戦を組み立てます」

「了解した。だが、《テルミドール》、分かっているな?」


 鋭い眼差しを《テルミドール》に向け、凄んでみせる《ヴァントーズ》に、《テルミドール》は、笑みで答える。


「さて諸君、我々が貴族かれらの思い通りにはならぬことを証明してやらねばなるまい。では、叛逆の時間を始めよう」


 《テルミドール》の言葉に、部屋に集まった三人は思い思いにうなずき、行動を開始した。

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