第9話 蜂起 -rebellion- 08
「むう、暇だねー」
作戦開始から150分。既に狙撃ポイントを確保した《フェンリル》──ティナは、そうつぶやいた。
彼女がいるのは、入り組んだ工業都市の一角。複数のパイプラインが絡み合う施設の陰である。
監視カメラの回避と上空からの発見を防げるパイプラインがあるという理由で選んだ場所だったが、暑いし空気が悪いしで、一時間弱でティナは辟易していた。
その上、狙撃手である以上、下手に
まあ、そういったことは差し引いたとしても、彼女の役割は、〈ガウェイン〉の奪取に成功するまでなにもない。要するに暇だった。
しかし、その退屈も突然の事態で終わりを告げた。スコープの向こう側に移るのは、動き出した12機、一個中隊規模のMC。しかも、その全てが最新鋭機の〈ファルシオン〉である。
「あれ? 誰かまずった?」
しかし、まずったのが、ジン達、潜入部隊であれば、MCを警戒する動きはとらないはずだ。MCでは人には過剰戦力であり、サイズの違いもあって対応し辛いのだ。
つまり、警戒しているのは同じレジスタンスでも、潜入部隊ではなく、MC部隊。もっとも、今回の作戦に
だとすれば、気付かれたのは一人しかいない。カエデ。彼の輸送ヘリだ。
「ああもう! 一番最初にミスってさ」
文句を言いつつも、ティナは動かない。彼女が動くのは、ジンが〈ガウェイン〉の奪取に成功してからだ。
もちろん、スコープから目を離したりはしない。
『こちら、《グレイプニル》。《フェンリル》、聞こえるかい?』
「なに? あんたのせいで面倒なことになってるんだけど」
『それはこっちも把握してるよ。上から見てるからね。それと、兵士の動きが騒がしくなった。たぶん、中も気付かれたね』
「潜入部隊も回収部隊も気付かれたって、ほとんど作戦失敗でしょうが!」
『僕に言われてもねぇ。細心の注意は払ってたはずなんだけど』
もちろん、カエデだけの責任ではない、ジン、ティナ、ファレル、《プレリアル》、四人全員をそれぞれ別の場所に下ろしたのだ。気付かれる可能性はその分高くなるに決まっている。
だが、これでは撤退すら危うい状況だ。〈ガウェイン〉の奪取と、隠密行動、その両方に失敗したら、全員仲良く貴族に捕まって、拷問なりなんなりを受けた後にギロチン行きだ。
「私、ギロチンだけは避けたいんだけど」
『それには同意するよ。どうする?』
「どうするって何を?」
『失敗したのなら、人的損害は最小限にしたい。君と僕だけで撤退するのも視野に入れるべきなんだよね」
「……まだ作戦は終わってない。輸送車出発まで後25分。希望を捨てる気はないから」
『まあ、そうだよね。正直、君だけ連れって帰っても仕方ないし』
いちいち一言多い男だ。ティナが何か文句を言ってやろうとしたまさにその時、彼女の目に、それは映った。
定刻になれば、輸送車が現れるはずの格納庫。そのシャッターがバラバラに砕かれ、吹き飛んだのだ。
粉砕したシャッターの破片を、行き過ぎた装飾のように纏い、その手に剣を握って飛び出してくるのは、かの少年の瞳を思わせる透き通った真紅のMC。
そして、コンクリートの地面と火花を散らしながら、そのMCは静止した。
東から太陽に照らされ、
「来た!」
『あの派手な登場、《フリズスヴェルク》だね。オペレーション・グングニル、第二フェイズに移行。行くよ!』
「了解!
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