第6話 蜂起 -rebellion-05

「全員集まったか」


 《ヴァントーズ》は集まったメンバーを見回してそう言った。

 《テルミドール》の私室、そこに集められたのはジン達だけではなかった。いや、思いの外ホスト側が多かっただけといえよう。

 今、ここにいるのは、革命団ネフ・ヴィジオンのリーダーである《テルミドール》、作戦立案を担当する参謀たる《メスィドール》、実行部隊の指揮官である《ヴァントーズ》、歩兵部隊の隊長を務める《プレリアル》の4名。いずれも、革命団ネフ・ヴィジオンの中で、『始まりの12人』と呼ばれ、革命暦のコードネームを持つ、組織の創立メンバー達だ。

 対して、集められたのは、MC部隊所属のジンとティナ、歩兵部隊所属のファレル、輸送ヘリのパイロットであるカエデの4人だけだ。

 戸惑う彼らを他所に、まず初め《テルミドール》が口火を切った。


「では諸君、まず初めに、君達にはこれから話すことについて、一切口外しないことを約束してもらわねばならない。構わないかね?」

「それは極秘作戦、という事ですか? それも、仲間にも隠して行うような」


 この中では最年長であるファレルが全員の疑問を代表して尋ねた。

 革命団ネフ・ヴィジオンのメンバーは、ジンの例にもあるように、信念こそ違えど、同じ道を歩む同志達である。《テルミドール》自身、そう口にしていたにも関わらず、舌の根も乾かない内に、極秘作戦などと言われては、多少の懐疑を抱くのも当然と言えた。


「君達の疑念は理解する。しかし、私はこの作戦を確実に成功に導くには、こうするしかないと考えている」


 作戦の確実な成功。このために、味方の信頼を犠牲にするというのだから、相当重要な任務なのだろう。そして、それは同時にあることを意味している。


「つまり、組織の中に裏切り者がいると? おまえの理想とやらもずいぶんと安いな」

「ジン・ルクスハイト。貴様、発言には気を付けろ」

「《ヴァントーズ》、落ち着け。ジンの言うことも事実ではある。しかし、明確に裏切っていたかについては分からない」


 ジンの突っかかるような発言を《ヴァントーズ》が咎めるが、《テルミドール》は気にした風もなく、言葉を続けた。


「メンバーの中には表で生きるものもいる。不慮の事態から情報を漏らした可能性もないわけでははない」

「さすがにそいつは無理があるってもんだぜ、《テルミドール》。連中に情報を流してる奴は間違いなく存在する。それが俺たちの結論だろうが」


 《テルミドール》の発言に口を挟んだのは、《プレリアル》だった。さすがに前線の兵士というべきか、《テルミドール》の発言は希望的観測だと断ずるのに躊躇はないらしい。


「……そうだな。ただ、情報提供を行っているものが誰かは分からない。そこで、今回の作戦を始めるにあたって、外部との接触がなかった君達を招集した、というわけだ」


 あくまで裏切り者という言葉を使わない《テルミドール》だったが、他の幹部の渋い顔付きを見るに、裏切り者がいるのは間違いないのだろう。

 確かに、《テルミドール》の言う通り、招集された4人は全員が、革命団ネフ・ヴィジオンの拠点で生活しており、少なくとも、作戦の内容が公開されてから、外部と接触を持っている人物はいなかった。

 そして、貴族によって、長距離通信技術が軒並み独占されている現在の状況では、情報を発信するには、今回の作戦のように、貴族側の拠点が保持する大規模通信施設を使うか、貴族側のメッセンジャーに接触するしかない。

 となると、可能性ゼロ、間違いなくシロであり、作戦に参加できる実働メンバーであるのは彼らを含む数名だけであるということになる。


「理由は納得しました。それで、作戦の内容については?」

「それについては、君達の意志確認が必要だ。この作戦の参加するということは、成功するにせよ失敗するにせよ、作戦行動について口外することは許されない。無論、死亡しても責任はとれない。それでも、いいというなら、君達の作戦への参加を認める」


 《テルミドール》の問いかけに対し、集められた4人はすぐに頷いて肯定を返した。

 命がかかっているなどというのは、いつものことであり、たとえそれが極秘作戦であってもあえて躊躇する理由はなかった。

 それを見た《テルミドール》は他の幹部へと視線を送る。すると、その意味を理解したのか、ここまで一言も口を開かなかった《メスィドール》が答えた。


「問題ありませんよ、《テルミドール》。そちらの対策は万全です。無論、確認済みでもあります」


「そうか。感謝する」


 《メスィドール》に対して短く礼を言うと、《テルミドール》はジン達の方に向き直って、重々しく口を開いた。


「よろしい。諸君の答えは受け取った。作戦の概要を説明する。

 目標は、セレーネ家傘下の工業都市『レイヴァース』で開発された新型の円卓の騎士ナイツ・オブ・ラウンズ機、開発コード〈ガウェイン〉の奪取だ」

「へ?」


 つい、間の抜けた声を漏らしたティナは、全員から注がれた視線で正気に戻り、慌てて咳払いで誤魔化した。

 とはいえ、声に出したのがティナだけだったというだけで、驚愕の度合いは大きく差はないらしいのは、彼らの表情を見れば分かる。無表情が常のジンですら驚きを隠しきれていないのだから相当だ。

 円卓の騎士ナイツ・オブ・ラウンズとは、最精鋭の貴族騎士のことであり、かつて伝説上で円卓の騎士に名を連ねた騎士の名を戴くワンオフ機を与えられている。その戦闘能力は、騎士の技量と機体の性能の双方が飛び抜けているが故に圧倒的だ。

 その強さは、たった一人の円卓の騎士ナイツ・オブ・ラウンズによって、100機以上のMCで構成された部隊が全滅したという逸話さえ残っているほどである。

 そんな円卓の騎士が駆るMCを奪取しようというのだから、常識的に考えれば正気の沙汰ではない。彼らの驚愕は当然と言えた。


「驚くのも無理はない。無論、今までの任務と比べれば危険度も桁違いだ。しかし、その力の象徴を我々の手中に収めるのは何よりも価値のあることだと、私は考えている。さて、詳しい作戦について話そう。《メスィドール》、君の作戦を説明してくれたまえ」

「では、今回の作戦を説明しましょう」


 説明を引き取った《メスィドール》がスイッチを押すと、部屋が暗くなり、スクリーンが降りてきて、詳細な地図が表示された。


「我々の目標である〈ガウェイン〉が保管されているのは、第3格納庫ですが、明後日の9時より、セレーネ家本家の屋敷へと運ばれる予定となっています。

 護衛にあたるのは、MC部隊一個中隊。また、道中の警護に他複数の部隊が配置されています」


 《メスィドール》の説明を聞く限り、この少人数で成功するとは到底思えない状況である。

 確かにジン・ルクスハイトという個人戦力は、第一世代のMC1機で第二世代機を6機撃墜可能なレベルの戦闘能力を持つが、所詮は個人である。大局を見れば大した戦力ではない。


「もちろん、不用意にMC部隊での襲撃をかければ、増援を呼ばれて全滅するのがオチでしょう。その上、敵は精鋭部隊、第三世代機である《ファルシオン》が配備されているとのことです。我が革命団ネフ・ヴィジオンのMC部隊は確かに優秀ですが、これでは話にならないでしょう」


 事実は事実なのだが、ちょっと腹がたつ。そんな風に思ったティナが若干むくれていると、気付かれたのか、《プレリアル》が苦笑する。

 現場の軍人だけにティナの不満も理解できるのだろう。ただ、いつまでも不満を見せるわけにもいかないので、慌てて表情を取り繕った。

 その時、ジンが冷たい声で割り込んだ。その声は不満げなように聞こえるが、ティナとは違い、話が長いことに苛立っているようだ。


「前置きはいい。どうする気だ?」

「ジン、落ち着こうか。話は最後まで聞かないと」


 黙っていた《グレイプニル》ーーカエデがジンを取りなすが、《メスィドール》は気にした様子もなく続けた。


「いえ、気にしませんよ。彼の言う通り、ここまでは前置きに過ぎませんから。

 では、本題に入りましょう。本作戦において重要なのは、〈ガウェイン〉の奪取であって、敵MCの撃破ではありません。

 そこで、今回は、《フリズスヴェルク》、《グルファクシ》、《プレリアル》の3名で格納庫に侵入。直接、〈ガウェイン〉を起動し、奪取します」


 想像以上に大胆不敵な作戦だった。わずかな人員のみで敵の本拠地に侵入するなど、常識では考えられない。

 先ほどから驚愕から覚めないメンバー達を他所に、《メスィドール》は続けた。


「そして、《フェンリル》及び《グレイプニル》が後方より発煙弾を前線に撃ち込み、その隙に《グレイプニル》が輸送ヘリで〈ガウェイン〉を回収します。

 無論、正規パイロットである《フリズスヴェルク》が〈ガウェイン〉に辿り着くのが理想ですが、他のメンバーしか辿り着けなかった場合は、起動させ離脱してください」

「つまりおれは、なんとしてでも、ジンを送り届ければいいわけですね?」

「そうなります。とはいえ、別方向からの侵入になりますから、合流はできませんし、情報漏洩を防ぐためか、各所にジャミングが施されています。通信も使えないでしょう」

「それだけ分かれば十分です」


 ファレルと《メスィドール》は普通に会話しているが、ティナはこの作戦の致命的な点に気が付いていた。


「ちょっと待ってください! 潜入するって言いましたけど、〈ガウェイン〉の搭乗者以外の回収はどうするんですか!?」


 そう、失敗したら潜入部隊が全滅するのは当然だが、この作戦は〈ガウェイン〉の奪取に成功した場合でも、〈ガウェイン〉に辿り着けなかったメンバーを回収する手段がない。すなわち、潜入部隊の内、最低三分のニの人員が失われるということだ。

 それは、革命団ネフ・ヴィジオンという組織にとっても大きな損失であるし、ティナも感情として認めがたい。


「潜入部隊の侵入と離脱については、あちら側の内通者を使います。幸いにして〈ガウェイン〉は納期を早められたとのことで、ギリギリまで作業が行われています。作業員に紛れれば、侵入は容易いでしょう」

「そういうこと聞いてるんじゃありません!」


 はぐらかすような言い方をする《メスィドール》の態度に、我慢できなくなったティナが声を荒げる。

 どうして人的損害について度外視しているのか。いや、どうして、この中の誰かがいなくなることを、皆なんでもないことのように扱えるのか、ティナには理解できなかった。


「あなたは何も分かっていませんねえ。《テルミドール》、《フェンリル》の作戦への参加は撤回すべきでは?」

「……しかし、これ以上の人員は集められない。君の諜報部隊は確かに優秀だが、このタイミングで感づかれる訳にもいくまい」

「ならば私が出よう。確かに《フェンリル》に射撃の腕は及ばんが、今回ならば代役に足りるはずだ」

「いやこれ以上、『始まりの十二人』を減らすわけにもいかねぇだろ。ファレルを下げる。ジンはオレがなんとしてでも〈ガウェイン〉に送り届けるそれでいいだろ?」

「待ってください! 私は──」


 《テルミドール》達が、ティナを作戦に参加させない方針を固めようとしているのが我慢ならなくなって、ティナが口を挟もうとする。


「ティナ」


 しかし、自分の名前を呼ぶ冷たい声で、その意図は妨げられた。その声に、深い谷底にティナを引きずり込むような深淵を感じ、ティナは身を震わせた。


「……ジン」

「おまえは出るな。今のおまえでは邪魔になる」

「ジン! そんな言い方はないだろう」

「ファレル。おまえは今のこいつが使い物になると思うのか? こいつのミスで作戦自体が瓦解する可能性がないと? おまえは言い切れるのか?」

「それは……」

「覚悟のないやつが戦場に立つ意味はない。殺す以上殺される覚悟はすべきだ。それに、俺達はそもそもの戦力で劣っている。メンバーの誰かが死ぬ程度、いつでも起こり得る話だ。その程度の覚悟もないこいつをこの作戦に参加させる意義はない」

「だけど、言い方ってものがあるだろう!」

「言い方? 現実を現実として認識させただけだ。それがこいつのためにもなる」

「ジン!」


 ジンはあくまで冷静に、冷徹にティナを追い詰めていくが、ファレルはそんなジンのやり方が気に食わないらしく、どんどんヒートアップしていく。対するジンも苛立っているのか、口数が多くなってきていた。


「静粛に!」


 《テルミドール》の放ったその一言で、部屋に張り詰めた緊張感と静寂が戻る。

 皆が気まずそうに表情を歪める中、ただ一人、我観せずという態度を取っていたカエデだけは、巻き込まれたくないのか、あらぬ方向を見ていた。ある意味、ジンより冷たいかもしれない。


「諸君の言いたいことは私も理解している。しかし、同時に、私はティナの思いも理解できる。

 確かに、作戦の前に多少の犠牲は覚悟しなければならないだろう。しかし、諸君に犠牲を覚悟してもらうのは早計だと私は考えている。

 無論、最初に言った通り、今までとは格が違うほど危険な任務だ。だが、それでもあえて私はこう言いたい。生き残れ、と。

 以上を踏まえて、もう一度作戦への参加を考えて欲しい。無論、全員だ」


 その言葉は全員を黙らせるに十分な威力を持っていた。『それでも、生き残れ』、これ以上なく希望的観測でしかない言葉だ。

 しかし、それは同時に誰もが願うことであり、ティナが何より望むことである。

 そんな凪いだ静寂を破ったのは、やはり、《テルミドール》腹心の軍師、《メスィドール》だった。


「《テルミドール》、作戦の変更は不可能でしょう。それでも、ですか?」

「勿論だ」

「いいでしょう。《テルミドール》、あなたの賭けに乗りましょう。ただし、失敗した際の被害は拡大することを覚悟してください。その時は、我々は十三年前と同じく、大きな後退を強いられるでしょう」


 『始まりの十二人』、そう呼ばれる彼らは、十三年前というフレーズに表情を固くする。集められた若いメンバーには分からないはずの符丁だったが、ただ一人、ジンだけが、獲物を見つけた肉食獣めいた鋭い目で彼らを睨みつけていた。

 その視線を知って知らずか、《テルミドール》は、何かに祈るように目を閉じ、しばらくしてから口を開いた。


「分かっている。もうあのような悲劇を起こすわけにはいかん」


 一度言葉を切った《テルミドール》は、ゆっくりとその目を開き、ジンに、ティナに、ファレルに、カエデに、全員に対して、その姿を焼き付けるように目を合わせ、決然とその言葉を口にした。


「諸君、最後の問いだ。君達は、死す覚悟を持ってこの作戦に臨み、生還という絶対の命令のために死力を尽くすことを誓えるかね?」


 それはおそらく、荒唐無稽な夢物語だ。その上、リスキーな賭け事でもある。普通の軍ならば、普通のレジスタンスならばそんな選択は取らないだろう。

 しかし、彼らは、それを選択した。


「今更だな。俺は死ぬ気はない」


 ジンは表情一つ変えずに言った。いつものように、気負いのない口調。彼は自分に自信を持っているのだろう。

 死を覚悟して戦い、それでも生き残るために足掻ける自信が。


「それにはおれも同意。こんなとこで死ねるかっての」


 ファレルもおちゃらけた口調で同意した。しかし、その目はどこまでも真剣だ。


「僕はいつも通り仕事をするだけだよ」


 場の雰囲気が真面目になったのを察して、先ほどの騒ぎを見て見ぬふりしていたカエデも同じように肯定した。やはり、彼も特別、気負った様子はない。


「私は──」


 今になってようやく分かった。皆がなぜ、犠牲の可能性を気に留めなかったのか、そして、《メスィドール》やジンに覚悟が足りないと言われたのかを。

 別に死を恐れていないわけではない。別に誰かが助けてくれると、他人を信用しているわけではない。

 死ぬ可能性を十分に考慮した上で、それでも自分は生き残る、そのためにあらゆる手段を講ずる。そういう自信があるのだ。

 そして、その覚悟があるから、どんな苦境の中でも戦える。

 一方のティナはどうだろう。

 誰かが死ぬことを、自分が死ぬことを、恐れているだけだった。この居心地のいい場所が、関係が失われることに怯えていた。

 必要なのは、何よりも生き抜く覚悟だというのに。


「私は生き抜いてみせます。みんなで帰って来るために」


 ティナは固い決意と共に告げる。すると、《テルミドール》は満足げに笑んだ。


「よろしい。諸君の決意は見せてもらった。全員を生還させるための作戦について説明しよう」


 《テルミドール》は初めからもう一つの作戦を考えていたということらしい。その上で、ティナ達の覚悟を問い、全員生還を目指す場合のみ、その作戦を公開する気だったということだろう。

 革命団ネフ・ヴィジオンのリーダーだけあって、なんとも食えない男である。


「この作戦は、先ほどの作戦以上に失敗が許されません。失敗すれば、我々は貴重なメンバーを失うだけになってしまいますから。始めにその点は理解しておいてください。さて、この作戦には、いくつかの前提条件があります。

 一つ、〈ガウェイン〉に搭乗するのが《フリズスヴェルク》であること。彼以上の技量を持つ者は、現状の我々の戦力にはいません。よって、必然的に彼がそこまで辿り着かなければなりません。これに失敗した場合、この作戦は成立しませんから、これは絶対条件とないます。

 二つ、〈ガウェイン〉が、護衛のために配置されたMC部隊に対して一定以上の時間を稼ぎ得ること。確かに〈ガウェイン〉は円卓の騎士ナイツ・オブ・ラウンズの一機ですが、その戦闘能力は未知数かつ、未調整の部分も残っているでしょう。これを押さえ込み、敵部隊を釘付けにすること。

 できますか、ジン・ルクスハイト?」

「可能不可能は関係ないな。俺は奴らを駆逐するだけだ」


 責任重大であるはずのジンにその重みへの動揺は感じられない。ただ、それが必要ならば成し遂げる、そういう軍人として返答しただけだ。

 《メスィドール》は、一つうなずいて話を続けた。


「この前提条件が満たされた場合、〈ガウェイン〉が戦闘を開始した時点で、《フェンリル》は、中枢基地に攻撃を仕掛けてください。狙撃は得意でしたよね?」

「は、はい」

「情報ではいくつかの資源プラントがあります。そこに焼夷弾を撃ち込んでください。この間に、《プレリアル》、《グルファクシ》の両名は離脱。《フェンリル》と合流後、《グレイプニル》が回収。

 そして、最後に〈ガウェイン〉を回収して離脱します。人員の回収に成功していれば、3人分の煙幕を張ることができますから、脱出も容易になることでしょう。

 その後は指定ポイントでヘリを隠し、輸送車を使って撹乱し、ここまで運びます。

 ただし、ここで被弾しては元も子もありませんが。できますね?」

「勿論だよ」

「以上が今回の作戦です。無論、穴もあります。しかし、全員の回収を前提条件とすれば、これ以上は不確定要素が邪魔をして予想できませんでした。つまり、後は個々人の鋭意努力にかかっています。よろしいですね?」


 一人一人の確認しつつ、《メスィドール》が作戦の説明を終える。確かに、乱雑な部分も、不確定要素も、多い。しかし、それでも全員で帰ってくる作戦だ。


「以後、本作戦をオペレーション・グングニルと呼称する」


 グングニル。それは北欧神話の主神、オーディンの投槍の名だ。絶対に外れず、敵に致命の一撃を与え、その手に戻る。そんな能力を有した投槍だ。

 《テルミドール》はその伝説にあやかったのだ。〈ガウェイン〉の奪取という致命の一撃を貴族に与え、ここに戻って来るために。


「作戦開始は明後日の明朝6時。出発は4時間後だ。諸君の健闘と生還を祈っている。以上だ」

「「「「了解」」」」


 最早挟む疑問はない。全員がそれぞれの思いを胸に、返礼する。

 作戦参加人数はわずかに5名──

 標的ターゲットは、貴族の象徴たる最強の刃──

 戦いが始まる──

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