御伽噺を翔ける魔女
山本 風碧
第一話 迷子のお姫様
序 脱出ゲームのルール
1、君にはばらばらになった童話の特有の特徴的な要素をかき集めて、再構成し、物語の完結を目指してもらう。
2、
3、君がどの物語に迷い込むかは、僕にもわからない。だけど、ここに書かれているのはすべて有名な童話だし、すぐにわかると思う。
4、君がどの登場人物の役割を担っているかも決まっていない。何者になるのかは君次第だけど、その判断で物語は大きく色を変えると思う。
5、物語がどの部分から始まるかもわからない。ひょっとしたら話の順番が入れ替わっていて別の物語になっているかもしれないけれど、時間自体は君の世界と同じく、巻き戻すことは出来ないから注意して。
6、出会ったすべての人物に意味がある。彼らはすべて物語の鍵となるから、しっかり
7、世界には欠損がある。これは君という異物が入ったがための
8、ああ、それから、物語がその物語の色を失わない程度の
ほら――案外、簡単だろう?
*
森というのは、広範囲にわたって樹木が密集している場所だと、その昔辞書を引いた時に書いてあった。林との違いを答えさせられたような覚えがある。要は木の本数だと思っていたけれど、実際に目の当たりにすると、違うのは場所の持つ力なのではないかなどと、柄にもなくスピリチュアルなことをユウキは考えた。
森なんて、今の世の中、そうそう行けるもんじゃない。たしかに日本には山が多いし森も多いのだろう。だけど人が住むのは平野であって、山や森に行くには電車に乗って田舎に出かけないといけない。そうして辿り着いたとしても、そこにあるのは整備された里山であって、人の手が入っていない本来の意味での森ではないのだと思う。
(富士山の麓の樹海ってこんなだろうか。それとも屋久島とか?)
生まれて十七年間、そこそこ都会に住んでいたため、行ったことがないし、森というものがわかららない。ユウキにあるのはテレビのドキュメンタリー番組での知識のみ。
だけど、たぶん、今ユウキがいるのは森だった。
あちこちで、うねりにうねった樹木がぶつかり合って一つの巨木になっている。柔らかい色の日差しが、ところどころから漏れているけれど、直射日光が降り注がないため薄暗い。空気は水分をたっぷり含んでいて、とにかく樹木と土の香りが濃厚だ。そして何となく肌寒い。
A6サイズの古めかしい大学ノートは、この幻想的な森のなかで確実に浮いている。
ノートを開くと最初のページだけに日本語の文章がびっしりと書かれていた。ここ数時間、あまりに非現実的な状況が続いたので、普通にこれが読めることがありがたかった。説明書はたいてい読まない。だけど、今はこれに頼るしか無いと思って、藁にもすがる思いで目を通した。
だけど……その内容がひどすぎた。
そこには八つのルールが手書きで書かれている。
「冗談だよね。じゃないと、これ……あんまりじゃない」
彼は手順書と言っていたけれど、このルールはひどすぎる。
(わからないって、この短い文の中で何回出てきた? 自分で考えろって、つまり丸投げじゃない!?)
たしかにあの本を壊したのはユウキだった。壊したものは直さないとだめだというのはわかる。代わりがないから修繕しろってのもわかる。だけど、いくらなんでも、これはあんまりだ。
「せめてね」
ユウキは空を見上げて叫ぶ。
「せめて、このお話が何かくらい教えてよ――――!」
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