第14話 その光の中で
「え、れ、連絡先ですか⁉︎」
優花は今、もしかしたら今日一番動揺しているかもしれない。まさか景の口からそんな言葉が出るとは思いもしなかったのだ。
確かに、優花は景と知り合ってまだ一週間しか経っていないし、言葉を交わした回数も数えられるくらいだ。それでも、その言葉は優花を動揺させるには十分すぎるほど意外なものだった。
「あぁ、まあ、これは俺の要望だ。お前は盾宮一族だから親でも頼ればいいんだろうができれば何かあったら俺を呼んでほしい。少し考えがあるんだ」
景は真っ直ぐ優花の目を見てそう言った。優花は、景の提案に、驚きはしていたが、それよりも一つ不思議に思うことがあった。
それは、何故そこまで自分を助けようとするのか、ということだ。
優花自身、今自分の身が危険に晒されていることは重々承知している。あの謎の悪霊、あの悪霊は確実に優花を狙っている。それはあの場にいて、あの声を聞いた優花だからこそ分かる。艶やかで、凍えるような声、あの悪霊は危険だ。
しかしながら、景は何故そんな危険な悪霊に一人で立ち向かうようなことをしようとするのだろうか?日向は、景は困ってる人は放っておけない性格だ、と言っていたが、それにしても今回の件は明らかに景には荷が重いだろう。
「なんでそんな……私なんかのために」
優花は今の気持ちをそっくりそのまま景に伝えた。すると景は、
「もう一度言うが、これは俺の要望だ。何もお前が気に病むようなことじゃない。それにちゃんと勝算はある。そうでもなかったらこんなことは言わない」
淡々としながらも、優しさのこもった口調で優花に語りかける。
「だから、少し俺を頼ってみてはくれないか?」
その言葉に、優花は眩しさを感じた。優花は今まで皆の迷惑にならないようにだとか、皆の力になりたいだとか、そのようなことを思って生きてきた。それは親や兄、身近な人に対しても同じで、優花はその分窮屈な人生を歩んできたのかもしれない。
だからこそ景のこの言葉に、優花は光を見出した。細く淡い、柔らかな光。儚く脆い、微かな光。
そう、まるで三日月のような——
「……分かりました。じゃあ、私からも一つお願いしてもいいですか?」
「何だ?」
「その……私、陰陽師として活動するには監督役を付けろって父に言われたんです。だから、お暇な時で構いません。私の監督役になってくれませんか?」
出すぎた願いだと思った。優花は断られることを覚悟して、景に自らの監督役になってくれないかと頼んだのだ。
最初にその言葉に反応したのは、意外にも景ではなかった。
「ちょ、ちょっと! 監督役なら私がいるじゃない!」
そう。早苗である。早苗はてっきり、優花の監督役は自分に決定したと思い込んでいたのだ。その言葉に、優花は気恥ずかしそうに答えた。
「いや、早苗ちゃんには……その、またパートナーとして一緒に戦って欲しいなって思ってて……ダメ、かな?」
優花は早苗の方を振り返り、少し頬を赤らめて、早苗に自分の想いを伝えた。
その申し訳なさそうで愛らしい申し出に、早苗は断われるはずもなく、
「わ、分かったわよ。パートナーも……悪くないしね」
顔を真っ赤にしながらそう言い、プイッとそっぽを向いてしまった。
優花は心のなかで早苗にお礼を言うと、再び景の方を向く。
「それで……どうでしょうか?」
おずおずとそう聞く優花に、景は先ほど早苗に見せたような、柔らかな微笑を顔に浮かべ、
「あぁ、その申し出、ありがたく受けさせてもらおう」
優花はその言葉に、満面の笑みを浮かべ、
「はい、よろしくお願いします!」
そう返したのだった。
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時刻は午前2時。
場所は私立多々良高校。
優花と景が連絡先を交換し、ついでに優花と早苗も互いの連絡先を教えあい、各々の帰路に着いた日の夜中のことだ。
誰もいないはずの静まり返った校舎に、コツコツと足音が響き渡る。それは、女性が履くヒールの音に間違いなかった。この高校の廊下では、スリッパを履くことを教師、生徒共に義務付けている。そのため、この音は明らかにおかしい。
静寂の中、ヒールの音は廊下に反響し、空虚な響きを奏でている。持ち主に似たのかもしれない。その音は、氷のように固く、冷たい印象を与える。
「楽しくなってきたわね。さぁ、どう可愛がってあげましょうか」
誰もいないはずの静まり返った校舎に、艶かしい女の声が響き渡った。
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