『情報』を記憶すると言う事 ー届かない、記憶されない情報は存在しないも同じー

「『情報』において、一番大事な話をしますね。」


A看板を書くのに苦労しなくなり、インスタやフェイスブックにも毎日欠かさず投稿し、少しだけ『情報』を出すことに慣れてきた頃、三木がこう切り出した。


「今までずっと『情報を出す』という話をしてきましたが、『情報』は出すだけではなく『届いて』『記憶』される必要があります。以前、一郎さんは家電の会社から送られてくるダイレクトメールを封も開けずに捨てたりすることがあるって仰ってましたよね?」


「うん、あるね。」


「それはつまり、自分の『情報』もそう扱われている可能性があるわけです。届かない情報は記憶されない。今は『情報』が捨てられる時代なので、『情報』が届いて【記憶される】ということはとても重要な意味を持ちます。」


三木は鞄からノートとサインペンを取り出しすと、何かを2ページにわけて書き始め、書き終えるとそのページを切り取り、こちらの方に向けて差し出した。その紙の1枚目にはこう書かれていた。


【情報と購入の関係】

1存在を知らせる

2興味を持たせる

3検討させる

4購入させる

5リピートさせる

6ファンにする


書かれた文字に目を落とす。読み終えたのを確認したのか、三木はゆっくりと話し始めた。


「情報と購入の関係にはそこに書かれた通り1から6までの流れがあります。


以前から何度もお話ししているとおり、情報はPUSH情報とPULL情報があります。

なので、1番と2番の状態ではホームページは役に立たないというのはお判りいただけると思います。【知らない情報は探せないし、思い出さない事は探さない】ので、検索されません。」


これは何度も言われたのでわかるよと言うと、そのまま三木は続けた。


「現在このお店で行っているA看板。それは主に『1存在を知らせる』と『2興味を持たせる』のお客様に向けて行っています。


いままでこのお店の前を素通りしていた人達が、看板が置いてあることに気づく、これはお店の存在を知らない人に、もしくは人は意識しないことは目に入らないので、お店の存在を知っていても目に入っていない人へ1存在を知ってもらうためです。」


「ふーん、なるほどねえ、、」


「そして、A看板に書いてある内容が昨日違うということに気づく。初めてのお店に入るのって勇気がいります。

それが洋服屋であれ、パン屋であれ、最初は勇気がいると思います。


A看板を書くのに慣れた頃、【身近なことで楽しいとかうれしい感じたこと】『今日はパンが上手に出来た』とか『商店街の後輩に赤ん坊が生まれてうれしい』などを書いてくれという指示を出したのは、一郎さんという人となりに2の『興味持たせる』ためです。


こんな事ですが、入店の一つの動機にはなると思います。

一郎さんが『こんにちは、ハゲです。』の居酒屋にいったのと同じ理屈です。

この人に会ってみたいという感想を持つ人も、一人や二人ではないと思います。


そしてフェイスブック、ツイッター、インスタグラムでも『情報』を発信していました。


時にはA看板を写真に撮って投稿されてましたよね。そうすることで、この商店街を通る人だけでなく、インターネットを通じてこの商店街を通らない人にも『情報』が届きました。


もちろん、この段階ではお店の中の雰囲気や、値段がどれくらいか、、とか知りたい事は山積みですが、存在を知られていない0の状態から最高で2の『興味を持たせる』までは来ていると考えることができます。



1~6の動きのなかで、数字が小さければ小さいほど多くの『情報量』が必要となります。


1『存在を知らせる』と2『興味を持たせる』は心情的にはかなり近いものです。アプリの時に話しましたが、あの大量に流れるTVCMはこの1と2を狙っての事です。


CMの作り方が上手で『興味』までを持ってもらえれば大成功。それが出来なければ『こんなのがあるんだ』という1の『存在を知る』止まりでしょうね。

でも存在を知られていれば、いつの日かひょんなきっかけで『興味』を持ってもらえるかもしれません。


1『存在を知らせる』があってこその2『興味を持たせる』です。


2の『興味を持たせる』の段階を過ぎて、3番の『検討させる』、複数のお店が比べられるのがこの時です。ここからホームページも役に立ち始めます。


なぜなら、不足情報を補おうとして検索される可能性が高くなるからです。


ここみたいにパン屋さんの場合は少ないですが、この段階は電化製品や洋服なんかだと顕著ですね。


それでも、お店の雰囲気だったり、だいたいの価格帯だったりを知りたい人は沢山いると思います。

さらにいうと、今日のお昼はパンにしたいけれど、どんなパンが売っているか気になってオフィスから検索する人もいるかもしれません。


このお店にあるPOPに書いた内容、『あずき好きに買ってもらいたいあんパン!当店のあんこは、北海道の~~』と同じ物をホームページに載せてあるのもこの為です。


また、仕事帰りに買いたいけれど、営業時間は何時までかとか調べる人もいると思います。

飲食店なら、お店の広さはどうなのか?とか、子どもが入れる雰囲気なのかなどもあるでしょうね。


『情報』がなければ味の『記憶』という『情報』を持っているコンビニのパンを選ばれてしまうかもしれません。


この時ホームページがなければお客様を逃してしまいますし、『ホームページがあれば全てが解決する』というのは間違いですが、なくていいということはありません。」


なるほどといってゆっくりと頷く。


「4番の『購入させる』情報。これはこのお店でいうと店内の商品一つ一つにつけられたPOPたちです。

もうお店に来ているわけですから、POPの時話しましたがあとは納得させるだけです。

言い換えると『最後に背中を押す情報』でもあります。


店の外に置いてあるフォトフレームで流しているパンを作っている動画は、1『存在を知らせる』を促すものではありますが、この4番の『購入させる』の一面もになっています。


5番の『リピートさせる』ですがこれは主に『思い出してもらう』ために行うことです。

人って忘れるんですよ。今日買ってくれた人も『情報』をださなかったら、明日には忘れる。

だから『情報』を出し続けなければいけません。

毎日、毎日、情報を出すのは1番『存在を知らせる』ためでもありますし、5番の『リピートさせる』ためでもあります。


ただ、1番『存在を知らせる』とちょっとニュアンスが違うところは『存在をしらせる情報』は『思い出してもらう』にも役立ちますが、


もう、5番の方は一度購入している。味、お店の雰囲気、接客、それら全て一度は体験している。ここは選ぶ価値があると一度は思って頂いた方です。


これは大きな違いです。


少しぐらい文字数が多くても読んでもらえます。

このお店でいうと購入していただいた方に入れるチラシ。

あれは、いろいろかいてありますよね。それぐらいは読んでもらえるという自信があるからです。


よく1番『存在を知らせる』段階のチラシでやたらと情報を詰め込んであるものを見かけます。


自分達のことを知ってもらいたいという気持はわかりますが、

あれは逆効果だと思いますね。


興味を持ってもらってから、細かい情報を載せるべきだと思います。」


もう、なるほどしか言えない。


「続いていきます。

6番『ファンにする』への『情報』ですが、ここまでくるとお客様はこのお店を勧めてくれます。

スタンプカードの時話しましたが、スタンプカードを貯めるというのは、このレベルの人になります。わかりますよね?


5番を越えてくる。味、お店の雰囲気、接客全部解っていて、数あるパン屋の中でここが、、、柳原ベーカリーがいいと思っている。もしくは選択肢の一つとして入っている。


一郎さん、ビールといって思い浮かぶ銘柄は?」


「え?プレミアムモルツに、黒ラベル、一番絞り?」

急な質問に戸惑ったがなんとか答えた。


「なるほど、それを『エボークド・セット』といいます。」


「エボークド・セット?」


「はい、消費者の頭の中には、今までの購入経験から『買って良い』と思ういくつかのブランドがあるという話です。


ビールはバドワイザーも、ハイネケンも、ヨナヨナエールも、オリオンも、コロナもあります。

言われれば、それらを思い出すでしょうが、何も無い状態で思い出すのが『エボークド・セット』


これをお店に置き換えると、例えばパンの『エボークド・セット』の中に『柳原ベーカリー』は入っているでしょうか?

パンだと、頭の中に入っているのはだいたい『コンビニ』『スーバー』が多いと思います。


これはパンを売っているということを知っているというのと、なによりも距離が近いというのがあると思います。


一般的に距離が遠いほど強烈な動機が必要になるのです。

それは先日、同質化、差別化の時に体験したからわかりますよね。


あの鬼と金棒のパンは距離の遠さを感じさせない動機を産みました。


しかしながら、日常だと、遠くの専門店より、近くのコンビニ。

そこに目に触れる機会が絡んで来ます。


以前お話ししましたが、最初の情報に触れる場所が多いのはコンビニ


新商品にしろ、既存の商品で『エボークド・セット』に入っていない商品にしろ、目に触れるというのは『情報』なので、購入されるきっかけが出来るばかりではなく、新たに『エボークド・セット』に入る可能性があります。


そもそも論として『エボークド・セット』の中に入るには、存在を知られていないといけません。購入経験もなければいけません。

コンビニやスーパーに商品を卸しているところを除けば『目に触れる機会が低い』ということで、それは認知される機会が低いということになります。


なので、数あるパン屋の中で『柳原ベーカリー』がいいと思っている。『エボークド・セット』の中に入っている、この人達を最も大切にすることは大事です。

アプリの時にいいましたが、季節の手紙だったり、この方達だけ割引きをするセールを行ったり、『あなたたちは特別ですよ』と伝える情報はとても大きな意味を持ちます。

ファンになれば自分たちの代わりに宣伝もしてくれます。」


「なるほどねえ、しかしなんか、いきなりレベルが上がった話になったな、、」

「そうですね、でもまだまだです。次に行きます。二枚目の紙をみて下さい。」

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