フェイスブックの活用法1 ー一人一人が発信者になるとどんなメディアもかなわないー

ある日、超大手のホームページを指さしながら、


「最近どのホームページを見てもこういったのボタンがついているのをご覧になると思います。」


と、三木が言った。


そこにはfのマークの横に『いいね!』と書かれたボタン、その隣は青い鳥のマークに「ツイート」と書いてある


「これは、『フェイスブック』と『ツイッター』のボタンなんですが、なんで大手企業はじめ、みんながこんなに必死になってると思います?」


全然わからない。名前は聞いたことがある。流行っていることは何となく感じるが、『デジタル』は門外漢なのだ。


いつもの様に返事を期待していないのか、三木は淡々と話しを続けた。


「ツイッター、フェイスブック、LINE、インスタグラム、代表的なところはこんなところなんですが、総称してSNSと呼ばれます。

ソーシャルネットワーキングサービスという意味なのですが、そんな呼び名なんていうのはどうでもよくてですね、これらの影響力の大きいところは一人一人が発信者になっているという所です。」


「一人一人が?」


「はい、そうです。一人一人が発信者になると、どんなメディアもかないません。

たとえば、一人が10人づつしか情報を届けられなくても、それが35,000人いたとします。この街の市の人口だけでも約7万人。決して不可能な数字ではないと思います。そうすると35万の情報をとどけることができます。これはもう雑誌以上の数字ですよ。」


「またまた、冗談でしょ。」


突拍子もない話しに思わずこう言った。


すると、三木はブラウザを切り替え、ある画面を出した。

そこには「一般社団法人 日本雑紙協会」とかかれたサイトで、画面には有名情報紙の名前の横に発行部数74,167部と出ていた。


「マジかよ」


「本当です。しかも雑紙は早くても週に一回とかですが、フェイスブックやツイッターは極端な話し一秒に一回でも発信できます。情報の面ではもう雑紙は絶対ではないんですよ」


「一郎さんは東京の方に行かれることあります?」


「たまにね、勉強がてら」


「そうしたら今度電車の中で乗客の方を見て下さい。スマホとにらめっこしている人を沢山目にする事があると思います。その方達の大半はこのフェイスブックはじめ、ツイッター等、SNSと言われる情報ツールを使っています。」


そういえばこの間東京に行った時、昔みたいに雑紙や本を見ている人はほとんどいなかった。スマホやタブレットを一心にみんな見つめていた。本を読んでいる人も数人いたがかつての姿とは全く違っていた。


三木は話しを続ける。


「全部出来るのが理想なのですが、仕事を持っている人は中々全部は無理だと思います。どれか一つだけということだったら、今は間違い無く『フェイスブック』になります。特に一郎さんの世代は絶対ですね。」


「フェイスブック?」


「はい、そうです。『フェイスブック』は今、日本で2800万人以上が使用している情報ツールです。フェイブックの基本は『個人と個人』です。『個人と個人』はお互いの『情報』を行き交わせるため、フェイスブック上での『友達』になります。

そうするとお互いの『情報』が行き来します。百の理屈より見てもらった方が早いですね。とりあえず、登録してみましょう。」


三木はPCに向かったかと思うとチャッチャと登録を済ませた。すると、メールアドレスから自動で判別したようで、何人かとすぐ『友達』になった。


「これが『フェイスブック』の最初の画面です」


三木の指さす方向を見る。


画面のまん中の部分に、沢山の記事が並んでいる。

記事は基本、【顔写真】【投稿者の名前】【文章】の組み合わせ。

【写真】は付いている記事と、付いていない記事があった。

その画面の一つに寛和さんが飲んでいる写真があった。


「あはっ、なにこれ、寛和さんじゃん、飲んでる」


「フェイスブック上で『友達』になると、こういった感じで『友達の情報』が流れてきます。


その下に【○○さん、他43人が『いいね!』と言っています。】って書いてありますよね。これは少なくとも44人が見たという意味でもあります。まあ『いいね!』ボタンを押さない人もいるので、実際はもっと多いと思います。」


「『いいね!』ボタン?」


「その写真の下にある『いいね!』って所を押してみて下さい。」


言われたとおりにすると画面が【あなたと○○さん、他43人が『いいね!』と言っています。】に変わった。


「ああ、なるほど、こういう言う事、、」


「こうやって『いいね!』が押されたり、コメントが書かれたりすると、まず、寛和さんに『いいね!』をしたよとか、『コメントが書かれたよ』と言う事が伝わり、そして全てではないのですが、さらにこの寛和さんの情報が『一郎さんの友達』に表示されます。解りますか?」


そういうと三木はノートを鞄から取り出し、一連の流れを書いて見せた。


【寛和さんの投稿→一郎さんが『いいね!』やコメント→『一郎さんの友達』】


「ということです。これって凄いことなんですよ。


いままでの情報ツールって、基本的には伝えたい相手に伝えるだけでおしまいだったんですよ。しかし『フェイスブック』はそこから一つ先まで『情報』を届ける事が出来ます。


『フェイスブック』は前回ホームページの時にお話しした情報の分け方で言うとPUSH情報です。『知らない情報』が入ってきます。ちょとと画面をスクロールしてみてください。」


言われたままに画面をスクロールすると

いろいろな人が食事に行っている写真が出て来た。


「へえ~、こんな店あるんだ」


さらにスクロールすると、イベントの写真。


「このイベント出た事ないけど、こんな感じなんだ、、、」


と、ついつい見入ってしまった。


「面白いですよね。人間って『身近な情報』って楽しいんですよ。」


「いや、結構知らないもんだね、自分の街なのにこんなに知らない事があるのかと思い知らされたよ。」


「個人に対して、法人やコミュニティのページというのも存在します。人ではないので、『フェイスブックページ』と呼ばれます。これも作っちゃいましょう。」


と、いうとぱっぱと、柳原ベーカリーの『フェイスブックページ』を作った。


「一応、お店としての発信はこの『フェイスブックページ』で発信していただいて、個人の話しは個人で発信してもらうのですが、まわりの人は個人の『柳原一郎』を通じて、『柳原ベーカリー』を見るようになります。

必ず、自分とお店は一体視されているということを意識してください。

フェイスブックも実社会と変わらないので、ちゃんとやれば『信用』っていう価値を手に入れることができます。


『儲かる』とか、『儲からない』とかお金ばかりみてる人は結局うまく使えません。そもそも【信用できない人に仕事を頼みません。】


それが実社会なら一対一ですが、まわりのみんなから見ることが出来るフェイスブックはさらに危険です。


【信用】が拡散するのも【不信】が拡散するのも早い。

コメントの先には人がいます。かならず真摯に対応してください。

その姿勢はかならず、『コメントをした方以外』にも伝わります。


【信用】は一番の価値だということを忘れないでください。フェイスブックは今までのインターネット広告と根本から違います。ホームページやメーリングリストと同じような使い方をしたら、すごいしっぺ返しをくらいます。


そして、これが一番難しいところなんですが、『広告できる』と思っているうちは絶対うまくいきません。」


「なんじゃそりゃ?」


「『フェイスブック』の1つのキーワードとして『コミュニケーション』というのがあります。コミュニケーションは人が取るものです。法人は人であって人でありません。『自分がこの会社の全て』だと言い切れる人は社長以外は中々いないでしょうし、もしかしたら社長だってそう言い切れたものではないかもしれません。


担当者に任せても上手くいかないという話は良く聞きますし、実際自分が教えている所でも担当者は攻めあぐねています。


『ここまで書いていいのか?』と思ってしまうからです。


そういう意味ではこれは自分=お店である一郎さんにとっては、とてもよいツールという事になります。


かつて、『情報に飢えた時代』は確かにありました。

しかしもはや人は情報に『飢えていません』逆に捨てに入っています。


一郎さん、家電量販店や通販会社のダイレクトメールなど、目を通さずに、封を開けずに、捨ててしまった経験のありませんか?」


「あるある!」


「ですよね。これからも『情報』は捨てられる時代に入っているというのがお判りいただけると思います。


しかし、『フェイスブック』に関していえば、『本名』であること、『友達』になるといったことから『信用性の高い捨てられない情報』であるといわれています。【信用している人間】の情報は捨てられません。


それと余り知られていないことですが、『フェイスブック』には、あまりやりとりのない『友達』や、『フェイズブックページ』の情報を出さない様になっています。それを計算するアルゴリズム、、、計算式って意味ですね、が存在します。


なので、『コメント』も『いいね!』もつかないと、それは、同時に相手に表示されなくなっていく事を意味します。

宣伝ばかりの投稿に『いいね!』がつくと思いますか?」


「そりゃ、つかないだろうね。俺だってイヤだもの」


「ですよね。PCの向こうには必ず人がいます。実社会だと思ってコミュニケーションを取って下さい。必ず『ファン』になってくれます。『ファン』は定価で買います。『ファン』は自分に変わってお店の宣伝もしてくれます。


一昔前はCMや雑誌等で『大量に情報を出すことでリターンを得る方法』が絶対とされてきました。


でもそれは今は通用しません。SNS時代の情報の出し方において【信用】は一番の宝です。今は何のことか解らないかもしれませんが、一応覚えておいてください。」


珍しく熱のこもった感じで三木が話した。

重要なことなんだろうと思う。


「あとは、フェイスブックからメールが送られる設定を解除して、、、これを解除しないと年がら年中メールがおくられてきますからね、、、、、、、これでよしっと、、、。あとはしばらくの間、毎日一回必ず、フェイスブックを見て下さい。ブックマークしておきますので。」


そう言うと三木はフェイスブックをブックマークして、まあ、今日のところはこんな感じですかね、と帰っていた。


しばらく、三木は来なかった。

その間も言われたとおり、フェイスブックを見ていた。

三木が置いていった使い方の資料にしたがって投稿もしてみた。


何日かすると段々フェイスブックを見るのが楽しくなってきた。

思っていたことを投稿するとコメントが返ってくる。


コメントのやりとりを通じて、その人となりが見えてくる。

三木の言うとおり、確かにこれは実社会の延長だと思った。

時間と空間を越えてどんどん近づいていった。

中でもどうしても気になる人がいた。


必ず『こんにちは、ハゲです。』のフレーズから始まる居酒屋の主人だ。

いつも軽い自虐の入った投稿でついつい笑ってしまう。

場所を見ると歩いて10分とかからない所にお店があった。


「こんなところに居酒屋があったんだなあ、、、」


自分の街の事なのに知らない事があるのに我ながら驚く、しかし、この街は昭和は沢山の団体で賑わった温泉街なので、駅近辺の飲食店がすごく多いのだ。


休みの日に行く店もついつい同じ店ばかりになるし、知らず知らずの内に自分でこの街の全てを知った気になっていたのかもしれない。


投稿にコメントをすると、ウィットに富んだ返事が返ってくる。

そんなのを何度か繰り返す内に興味がどんどん沸いてきた。


会いたい。いてもたってもいられず、次の休みにそのお店に向かった。


――――昨日はずいぶん飲んだみたいですねえ。


二日酔いで頭を抱えながらなんとかパンを作りきったある日の朝、三木が入ってくるなり開口一番言った。


「いや、フェイスブックで知り合った人のお店なんだけど、どうしても会いに行きたくなってね、、街のこととか、商店街の事とか、いろいろ話したよ。楽しかった。ホント近所なのにあんな店があるなんて知らなかったよ。」


三木は笑顔を浮かべながらそれが『情報がまわる』って事です。と言った。


「ちなみにそのお店は新しかったですか?」


「いや、うちと同じかそれよりも古いかな、、、雑居ビルの2階にあるし、細い階段をあがるし、店の中も見えないし、中々入りにくい雰囲気だよ。実際、一瞬入るのためらったもの。」


「でも、一郎さんは入った。なぜかというと、それを越える魅力をそのご主人に、お店に、感じていたから。

そして昨日一郎さんが投稿した料理や店の写真、それは一郎さんの『友達』も見ている。そうすると、その古い入りにくいお店が入り易くなる。」


「それって、、」


「はい、一郎さんの投稿がそのままお店の宣伝になっているという意味です。」


続けて三木は言う。


「飲食店に関して言うと、昔は商売屋の人も多く、そういう人達は必ず商工会議所等の団体に所属し、仲間内のお店に後輩を連れていきました。先輩から紹介は『この店は安心である』というお墨付きであり、一見入りにくそうなお店でも、お客さんは入ってきました。


ところが、この商店街もそうでしょうが、商売をやっている人も減り、ほとんどがサラリーマン化してきました。


『自分達でお店を開拓する人』が増えてきました。

そして、その瞬間、それらのお店は『得体の知れない店』になりました。


特に80年代、90年代に出来たお店は『中が見えないつくり』になっています。

メニューも表に出ておらず、出ていても文字のみ。


ファミレスや大手の居酒屋のメニューは当然逆を行っています。メニューは必ず写真付き。大きな窓で中が見えるようになっている。

どちらが初めてのお客にとって安心感を与えるか一目瞭然ですよね。


一度満足してしまった人は中々店を変えない。大手の居酒屋で満足した人は他のお店に行こうとはなかなかしない。今は『食べてもらうチャンスさえもらえない』状態になっているのです。そして、その問題をこの『フェイスブック』はクリアしてくれるのです。」


俺一人でも昨日二十人ぐらいの『いいね!』がついていた。つまり最低でも二十人は見ていたわけだ。


これがもし、三十人、四十人って発信する人が増えたら、、、、、

三木が最初にいった『一人一人が発信者になっている』の意味が分かってきた。


「、、、、なあ、もしよかったら、商店街の人間にもフェイスブックを教えてくれないかな?」


「はい、出来るのならそうしたいと思っていました。願ったり叶ったりです。」

メガネの奥の目がキラリと光ったような気がした。


三木は「これからのキーワードの二つ目は『仲間』になります。」

と言った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る