day12:いとしのエリー

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彼女と別れるまで後46日


十二日目



今日はバレンタイン。


彼女と会える。


でも・・・

どんな顔して会えばいいのか。


彼女と過ごす4度目のバレンタイン。


これが最後のバレンタインになるかと思うと、怖くて、怖くてしょうがなかった。

外に目をやると、大粒の雨。


なんて日だ。


3/31に別れる約束をした。

しかし、それが3/31じゃなく、今日だって可能性はある。

こんな雨の、悲しげな日。

不幸になるにはお誂え向きのシチュエーション。


でも、でも・・・


彼女に会いたい。


会って、愛してるって言えるなら・・・別に今日が最後の日でもいいじゃないか。


ちゃんと最後まで、愛してるって言えれば。


あの子を愛し抜くことができるなら。


決心がついた。


時計に目をやると、待ち合わせの時間に、遅れていた。



唯一、良かったこと。

気付けば雨は止んでいた。




彼女は笑顔でやって来た。


バレンタインのプレゼントは、手作りのラスクと、サンドイッチ。

初めてのバレンタインも、手作りのお菓子だった。


焦げたラスクの味がよくわからなかったのは内緒。

心がもやもやし過ぎて、舌がまともじゃなくなっちゃっただけだから。


そこからは心を半分殺しながら車の中の時間を過ごす。


彼女は他愛もない話をいつまでもいつまでもしゃべってくれた。

後で知るが、彼女は彼女で私の雰囲気を察し、気を使ったようだ。


どうでもいい話なのに、聞いているだけで心地が良い。

どんな名曲とも、どんな名作映画とも違う、私だけが感じることができる感動と、美しい旋律がそこにある。


これが愛の成せる業だと言うなれば、なんとお手軽で、そして素晴らしい幸せの秘訣なのだろうか。


改めて、そんなことに気付く。


今日の目的地は両国。

レオナルド・ダ・ビンチの「糸巻きの聖母」の初来日の特別展。


彼女は、美術館が好きだ。

「どこに行きたい?」と聞くと、大概が都内の美術館で行われている美術展だった。


美術館は好きだ。

でも、美術館に行くほどではない。


どちらかと言うと映像や建築、そして現代アートや、歴史が好みだった。


素養があって良かった。


おかげで、彼女の美術館巡りは最初から苦だと感じたことはなかった。



その日見た「糸巻きの聖母」は美しかった。


でももっと美しかったのは、それを眺めているあなたの横顔だったよ。


名画に魅せられる観客の方が、その名画より美しい。


私はそうやって、美術館が好きになった。



帰り道、彼女に訊いた。


「約束したけれど、やっぱり破ってもいいですか?」

「どんな約束を破るんですか?」


一つ目は「やっぱり別れたくない」

二つ目は「自分もまだ結婚したくない」


ちゃんと言えた。


私の言葉を聞きながら、彼女の頬を涙が伝う。

その涙の理由がわからなかった。


そして約束の反故も叶わなかった。


きっと彼女の気持ちは覆らない。


3/31、私と彼女はやっぱり別れる。



夕方、卒業論文の発表の準備をしたいと申し出る彼女を家に帰し、彼女との4度目のバレンタインは幕を閉じた。


目を閉じ、今日の幸せを頭の中でなぞる。


彼女の言葉。

彼女の表情。

彼女の肌。

彼女の体温。


いっぱい見て、いっぱい触れた一日を丁寧になぞる。


ドラマ「最高の離婚」で激しく心が締め付けられたシーンを思い出した。

主人公の尾野真千子が家を出ていく話です。

一話で早々に離婚する主人公たち。

しかしその後もなんだかんだで生活を共にし、様々な出来事がありながら、少し互いが大事なものを思い出しかける矢先の出来事だった。


そこでは本心を手紙に書き綴りながら、結局はその手紙を破り捨てる尾野真千子がいた。


“あなたの言うことやすることにはなにひとつ同意できないけれど、でも好きなんですね”


別れを決意したのに、すごく温かく、愛に溢れた言葉たち。



「今のままじゃあなたの有難味がわからなくなるから、別れたい」


今日、彼女の口から出た言葉だった。


どれが嘘で、どれが本当か、聞いてもきっと教えてくれないだろう。


この言葉から、彼女が届かせたかった想いは何なんだろうか?



ここで別れることが、彼女にとって幸せなら、私の彼女への愛は報われる。



あなたがもしもどこかの遠くに行きうせても

今までしてくれたことを忘れずにいたいよ



そう言い聞かせながら、一人布団の中で泣いた。

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