day2:ソラニン
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彼女と別れるまで後56日
別れ話の翌朝。
夢じゃない。
この嫌な気持ちは、夢じゃなかったんだ。
不安と悲しみで、寝ても寝ても寝ても楽にならない。
気付けば、彼女に電話をかけていた。
電話口の彼女の声は、昨日の別れ際の気怠さが残っていて、心臓が締め付けられる。
「夢じゃないんだよね」
電話口でそう聞いてしまう情けない自分。
冷静に、彼女は自分を守る言葉を選んで出しながら、破裂してしまった思いを再び私に伝えた。
不意に「愛してる」と投げかけても、彼女は応えることはなかった。
「普通に過ごす」
そう約束したことを確認すると、彼女もそれは承知しているようだった。
しかし「時間が欲しい」という。
2/14のバレンタインまで、逢うことは控えること。
日にちが、大幅に消えた。
仕事も何も手につかない、その日の夕方・・・打ち合わせで訪問した先で、思わず、このことについて話をする。
今まで、こんなことはなかった。
今までになく、追い込まれたのだろう。
今までになく、苦しかったのだろう。
誰かと別れたり、揉めたりした後、全て全て終わった後に、慰めてもらったり、笑い話として話したことはあった。
今回は、まだ別れていない・・・多分。
それは、今回の自分の、狼狽ぶりを象徴しているようだった。
苦しくて、思わず話をした。
そう表現して間違いないだろう。
話をしたのは、仕事も含めて、10年の付き合いの、姉のような存在の女性だった。
売れない歌手で、大病を患いながらも、不死鳥のように復帰を果たした、ポジティブの塊のような女性である。
ちょっと滑らした口からは、次から次へと言葉が止まらなくなってしまった。
涙は流れなかったが、喋りながら、止まれない自分がわかった。
それはまるで「彼女と別れた自分」を誰かに話すことで、自分に言い聞かすように。
彼女が「別れる」という選択を遂行するために、必死にできることをする自分がそこにいた気がする。
だって、それが愛する人の望みなんだから。
悔しい。
悲しい。
虚しい。
ほんの少しの未来は見えたのに、さよならなんだ。
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