黄昏の境界線
ランプライト
第1話「黄昏の境界線」
どこか遠くから、誰かが呼んでいる様な気がした、
渚:「どうしたの、ぼおっとして」
振り返ると「渚」が、何だかちょっと心配そうに、俺の事を見つめていた。
夕刻の海風が彼女の髪を悪戯に梳いて、…彼女は少し照れくさそうに、はにかむ。
永遠に続くかと思われる様な黄昏の水平線、
鏡の様に凪いだ水面には、あんなにも賑やかだったサーファー達の影も見られない。
ゆっくりと踏切を渡って行くガラガラの二両編成、
渋滞で有名な海岸沿いの国道には、不思議な事に見渡す限り一台の車も走っていなかった。
翔:「こんな日にバイクで走ったら気持ちいいだろうな、」
まるで二人きり貸し切りの風景の中で、俺は、彼女の赤く染まった頬に見蕩れて、
思わず照れ隠しにそっぽを向いて、…他愛のない事を呟く。
渚:「翔ちゃん!」
それなのに彼女は、俺の頬っぺたを可愛らしい両の掌に包み込んで、上目づかいに、…膨れっ面をする、
渚:「気を付けないと駄目だぞ、…もう、あんな怖い思いはさせないって、約束しなさい!」
俺は、為す術も無く毒気を抜かれて、しなやかに冷たい彼女の指先に触れて、
彼女から伝わってくる安らぎに、これまでの人生の全てを赦されて、
自分でも気づかない内に、…唇を重ねていた。
蕩ける様な二人の視線の奥には、何物にも代えがたい慈しみが溢れて、
俺は、華奢な彼女の身体を、両腕の中に抱きしめる。
翔:「ごめん、」
何処か遠くで、誰かが呼んでいる様な気がした。
ガラガラの二両編成が、ゆっくりと踏切を渡って行く、
渚:「翔ちゃん、」
振り返ると「渚」は、何だかちょっと寂しそうに、俺の事を見つめながら、…微笑んで、
渚:「ありがとう、此処で良いよ、もう、…」
それなのに彼女の長い睫毛は、溢れる雫に濡れていて、…
渚:「…私の事は、早く忘れてね、」
気が付くと、俺は、自分でも気づかない内に、…涙を流していたらしい。
身動きの取れないベッドの上で、わずかに自由になる首から上をずらして、…
姉:「翔、起きたのか、」
3こ上の姉貴が、電動ベッドの背もたれを起こして、俺の唇に、水差しを当ててくれる。
姉:「さっき電話が有った、…」
姉:「渚ちゃん、今朝、…亡くなったって、」
俺は、汗だくの後悔に締め付けられながら、
黙ったまま、…頷いた。
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