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 サッカーグラウンドはバー・フォールズを出て、土手を越えたところにある。歩いておよそ5分、といったところだろうか。季節は秋の面影を残した夏、とでも形容できる時期で、この時間になるとうっすらと冷たい風がそよいていく。しかし長袖を着る、というところまではいかない。夏がその役割を終え、新しくやってくる隣人と久方ぶりの立ち話をしている、といった季節だ。夏の始まりから今まで、何にも考えずに高揚していく気持ちと、体に身を任せる僕は、この、夏と秋の変わり目がとても好きであると同時に、ものすごい寂しさを感じる。ようやく一呼吸入れられる、とほっとすると同時に、おい、また、やってきてくれるんだろうな、と、夏に問いかけている自分がいる。どんなに大きな声を出しても、夏はその役目を終えて、何の返事もなく静かに去っていく。そして(おそらくは)またいつかバトンをもらって、僕らの目の前に現れるんだろう。

 ボールは、すぐに見つけることが出来た。だいたい茂みの多い場所だし、小学生たちは練習後の掃除とか、ボール探しを嫌うのだ。ちょっと歩けば2,3個のボールが落ちている。

 阿部は、高校時代、少しだけ名の知れたサッカー・プレイヤーだった。といっても高校自体がそれほど有名ではなかったし、阿部自身もサッカーよりは読書に夢中だったため、チームとしても成績は振るわなかった。たしか、県の準決勝くらいだっただろうか。僕はベンチから、阿部の動きを見るともなく見ていたが、彼は我々のチームにあって、明らかにその居場所を見つけられないでいた。出すパスはほとんどチーム・メイトに届かないから、しょうがなくひとりで持ち込むしかない。結局のところ、突出した才能はどこかで壁にぶち当たるのだ。

 その、空気のやや抜けたボールでリフティングをしながら、そんな昔のことを思い出していた。派手さこそ無いが、リフティングは得意なのだ。どんなに強いボールでも足元にトラップできる。

「卒業したら、どうするんだ?」阿部は僕に無い華麗な足技を使ってボールと踊りながら、たずねてきた。

 「まだ、決めてないんだ。いや、決めようとしていないのかもしれない。なんだか、わからなくて。社会に出る、ってのがどういうことか。」

 「俺は、アメリカに行くことにした。アメリカの広い農園で農業をやるんだ。」

 正直なところ、僕は本当にびっくりして、危うくボールを地面に落としかけた。大学を出て海外に行くなんて考えもしないし、阿部が農業に興味を持っていたなんて聞いたことが無い。だいたい、僕は彼が大学で何を勉強しているのかさえ、知らないのだ。

 「なぁ、俺は、いろんな人と話がしてみたいんだよ。年齢や国籍、そんなものを超えたところで。なんでもいいんだ。たわいも無い話。それで、俺はその人たちの中に入っていけるのか、試してみたいんだ。」

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