第五章「失恋王 vs アイアン・メイデン」

エピ053「プロローグ」

森口:「好きです!」


夏休みを二週間後に控えたとある昼休み、

俺は呼び出された校舎裏で、…トランジスタグラマーな後輩から、突然の告白を受けていた。


彼女の名前は「森口仁美」、同じ写真部の後輩「鐘森麗美」の同級生で、「鐘森」のお世話係?的・優等生女子である。


最近、ちょくちょく昼休みに俺の教室を訪ねて来るようになった「鐘森」の付添で、俺と「鐘森」とのやり取りを傍で見ている内に、どうやら「何か」を感じてしまったらしい。



勿論、それが一時の気の迷い、勘違いだったとしても、俺はそんな彼女の気持ちを、絶対に馬鹿にしたり、煙たがったり、ましてや都合よく利用しよう等とは考えない。 何故なら、こういう状況に持ち込む迄の苦悩と、勇気と、覚悟に、一体どれ程のエネルギーを要するかを、俺は知っているからだ。



しかし、彼女の「望み」は、…俺の理解の範疇を、二三歩、…飛び越えていた。



森口:「私の、…お兄ちゃんになってください!」





宗次朗:「おにい、ちゃん?」


ギュッと目を瞑った侭、俺の答えを待つこの可愛らしい女の子に、俺は、何と言ってあげれば良かったのだろうか、…







宗次朗:「お兄ちゃんって、具体的に、…どういう事かな?」


余りにも「素」な質問返しに、…慌てふためく「優等生後輩女子」!!



森口:「あ、ごめんなさい、お兄ちゃんって言っても、先輩の家の養子になりたいとか、先輩のお父さんとうちのお母さんに再婚してもらいたいとか、そう言う親族関係的なお兄ちゃんじゃなくて、…」


宗次朗:「森口さん、ちょっと落ち着こうか、」


俺は、何だか可愛らしくパニクッて湯気を立てる「優等生後輩女子」の小さな手を取って、…



森口:「ふひゃぁ…、」


初心うぶな彼女は、それだけで真っ赤に蕩けて、俯いてしまう、…



宗次朗:「俺も森口さんの事好きだよ、その、友達としてナ、…」


宗次朗:「「鐘森」がクラスで授業を受けられるようになったのも、寝癖や服装の身形がまともになったのも、クラスの友達と打ち解けてきたのも、最近よく話す様になったのも、みんな森口さんのお蔭だと思う。 そんな風に誰かに「優しく」「親切に」接する事が出来る森口さんは、とっても素敵な、魅力的な女の子だと思う。」


彼女は、息を止めた侭、俯いた侭、凍りつく、…



森口:「私、そんな良い子じゃない、…」


確かに、自分の本心を他人に晒せる人間など、皆無に等しい、本当の自分の事は本当の自分にしか解らない、…でも、何時だって「全てを解って受け入れてくれる誰か」を求めている事を、…俺は知っている。



宗次朗:「だから俺は、出来る限り森口さんの期待に応えたいとは思うのだけど、…お兄ちゃんって、具体的に何をすれば良いのかな?」







俺達は、何年か前の卒業制作でこしらえて放置された「呪いのベンチ」(注、カップルが座ると必ず別れると言う噂あり)に腰かけて、…やがて彼女はポツポツと、語り出す。



森口:「私、鐘森さん良いなあって、思っちゃったんです。 うち、一人っ子だから、兄弟とかいなくて、先輩に優しくしてもらっている鐘森さんを見ていて、もしもお兄ちゃんとか居たらこんな風に優しくしてもらえるのかなって、…でも先輩は「鐘森さんの彼氏」だから、付き合うのは無理だから、それならお兄ちゃんなら良いかなって思って、…鐘森さんにも相談したら、「良いよ」って言ってくれて、…」



何時の間に、俺と「鐘森」が、…付き合っている?…まあ、100%否定できないのは確かだが、…「鐘森」の中では、そういう事になっているのだろうか?!


それで「お兄ちゃんなら良いよ」って、一体、何が、どう良いんだ?



チラリと視線を感じた先に、校舎の影からジト目で覗く、…「鐘森麗美」の姿、




宗次朗:「つまり、森口さんは、鐘森みたいに俺に構ってもらいたいと、そういう事なのかな?」


森口:「勿論「一線」を越えるつもりはありません! 何しろお兄ちゃんですから!」


一線って、…アイツ、何処まで喋ったんだ~?


俺が睨み付けた先から、三白眼で睨み返す、…「鐘森麗美」の姿、




宗次朗:「しかしな、「鐘森」はあんな(注、どうしようもない後輩)だから、まあ、仕方なく鼻噛んでやったり、小言言ったり、中途半端なボケに突っ込み入れてやったりしてるけど、…「森口さん」はあんな風(注、駄目駄目)になりたい訳じゃ無いだろ、」


森口:「でも、ちょっと、って欲しいかもです、…私、駄目な子になろうかな、」


それから「森口」は悪戯そうに笑いながら、自分で自分のおでこをコツンと叩く、



宗次朗:「止めときな、森口さんは今の侭が可愛いんだから、…それにこれ以上変な子が増えると、いい加減俺も面倒見きれなくなって困る。」


ふと見た校舎の影から、既に「鐘森」の姿は消えていて、…何処へ行った?




森口:「じゃあ、私が、先輩のお世話するのは、駄目ですか?」


宗次朗:「お世話って、何?」


まさか下の世話?…って、ついつい卑猥な妄想が湧いてくる俺の頭の膿み具合が、…悔しい。



森口:「お弁当、作ってきたりとか、…」


宗次朗:「まあ、それ位なら良いかな、毎日は大変だから曜日を決めようか、…材料代はちゃんと払うよ。」


途端に、ぱあっと、分かり易く明るくなる「優等生後輩女子」、




森口:「それで、先輩の事、…お兄ちゃんって、呼んでも良いですか?」


宗次朗:「それはどうかな、…森口さんが変な子だと思われちゃうぞ、」


いや、正直嫌では無い、そもそもこういうシチュエーションは生まれて初めてで、年下の女の子に懐かれると言うのも、悪い気はしないモノだナ、…



森口:「じゃあ、先輩が私の事「仁美」って、下の名前で呼び捨てにするのは良いですか?」


宗次朗:「まあ、それは、良いかな。」


俺が本人了解で下の名前で呼んで良い女子とか、もしかして生まれて初めてかも知れない。…当然心の奥でうるっと何かがこみあげてくる訳で、…




鐘森:「お腹すいた、…」


ベンチの後ろから、突然顔を出す、…「鐘森麗美」



宗次朗:「じゃあ「鐘森」は一番下の「妹」って事で、良いよな。」


鐘森:「なんでぇ?」

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