エピ041「新入部員」

博美:「皆、明日が何の日か知ってる?」


何時になく「博美先輩」がアタフタしている、…珍しい。



宗次朗:「眼科検診?でしたっけ?」


博美:「もう!宗ちゃん、…「入部届」の締切日だよ。」


うちの学校では、何かしら部活に参加する事を義務付けられている、理由は不明、というか意味不明。



宗次朗:「ああ、もうそんな時期ですか、懐かしいですね。」


博美:「じゃなくって、まだ誰も入部希望者が来ていない!」


宗次朗:「そう言えば、」


博美:「このままだと、6月に私が抜けちゃったら、必要部員数の4名に満たなくなって、廃部になっちゃうんだよ。」


うちの学校では3年生は6月いっぱいで部活や生徒会活動から抜けて、受験勉強に集中する事になっていた。


そうすると写真部の部員は、俺と「早美都」と最近はめっきり顔を出さない「相田」の三人だけになってしまう。


元はと言えば「相田」に頼まれて部存続の数合わせの為に入部した写真部だが、一年も過ごしてみると愛着も湧くし、廃部になって「アカリ先生」の紅茶が飲めなくなってしまうのも何だか寂しい、…



宗次朗:「どうしましょう?」





そこへ、アカリ先生が一年生の女子を連れてきた。



アカリ:「彼女は鐘森麗美かねもりれみさん、新入部員よ、仲よくしてあげてね。」


早美都:「よかった、これで問題解決だね。」


「鐘森麗美」、地味目で、無表情な一年生。 どちらかと言うと女子にしては身形みなりは、…だらしない? 髪の毛もボサボサっぽくて、今年から導入された新しい制服は、…何だかもうヨレヨレ?になっている。



博美:「こんにちは、部長の菅原博美です。 よろしくね。」

宗次朗:「京本です。 よろしく。」

早美都:「高野早美都です。」


鐘森:「……、」


まるで脅える様な目つきで、アカリ先生の後ろに隠れてしまう、新入部員、



アカリ:「彼女は人とおしゃべりするのが苦手なの、…」





どうやらこの新入部員「鐘森麗美」が、昨日、副会長から聞いた「天才児」らしい。


テレビでも取り上げられた事が有る超人的な記憶力、まるで写真の様な絵画表現力、


ところが入試は全科目NG、応用問題がまるっきり出来ない、特例として入学を許可したが、入学早々に問題発生、…全く口を利かなくって、教師お手上げ状態。


学校としては、才能の取り扱い方、育て方が分からない。 天才の才能を潰したと世間から言われたくないが、思った以上に扱いにくい生徒、はっきり言えば問題児、


但し、自閉症やアスペルガー症候群やサヴァン症候群とか言った発達障害ではなく、極端な人見知り、恥ずかしがり屋、と言う事、…らしい。



博美:「そうなんだ、でも心配しなくていいよ、…皆、優しい先輩ばかりだからね。」


宗次朗:「でも、どうして写真部に入る事になったんですか?」


アカリ:「彼女には模写の才能が有るの、それで「美術部」で引き取ると言う事になって、私の所に来たのだけれど、…私は、きっとコッチの方が良いと思う。」







次の日の昼休み、俺は久しぶりに「相田美咲」から空き教室に呼び出しを喰らった。



相田:「ふーん、何だか大変そうね、その子、」


宗次朗:「お前、まるで他人事ミタイだが、もう、部活には来ないつもりなのか?」


相田:「そう言うつもりじゃないけどさ、何だかんだクラスの行事が有って大変なのよさ、」


「相田」は言いながら、俺の弁当箱から「キンピラ」を指で摘まむ。



宗次朗:「お行儀悪いな。 …自分の弁当はどうしたんだ?」


相田:「昨日の晩食べ過ぎたから、絶食中。」


「相田」は言いながら、俺の弁当箱から「ゴボウ」を指で摘まむ。



宗次朗:「だから、指で摘まむな。」



相田:「アンタ、もしかしてアタシに、…「あーん」させたい訳?」


「相田」は、まるで汚いモノでも見る様な目つきで、…俺の事を睨み付ける。





宗次朗:「それで、一体何の用なんだよ。」


相田:「GWに旅行行くからアンタも一緒に連れてきなさいって、お母さんが、」


宗次朗:「またお前の父ちゃんにしごかれるのか? …勘弁だナ。」


相田:「だって、ちゃんとお付き合いが続いてるかチェックするって言うから。」


「相田」は言いながら、俺の弁当箱から「から揚げ」を指で摘まむ。



宗次朗:「こういう状態は「お付き合い」とは言わないと思うぞ。…て言うか、お前食べ過ぎ! 俺のから揚げが無くなった!」


相田:「けち臭い男だな、だからモテないのよ。」


宗次朗:「ほっとけ、モテないのはデフォルトだ、…別にモテたいとも思わんしな。」


「相田」は何の断りも無く、俺のペットボトルのお茶を、…奪い取る。





相田:「なんだか知らないけどさ、お父さんがアンタの事、気に入っちゃったミタイなのよ。」


宗次朗:「気に入られる様な事をした覚えがまるで無いんだがな、」


それで、「相田」が「あーん」と口を開ける。



宗次朗:「何だよ、その馬鹿面は?」


相田:「ご飯ちょっと頂戴、…あーん、」


流石の「相田」も白米を指で摘まむのは諦めたらしい。…が、



宗次朗:「そんなに腹減ってんなら、弁当持ってこいよ。」


と、俺が箸の上に乗っけたご飯を「相田」の口に入れた所で、…


急に、空き教室の後ろの扉が開いて、…それから、誰かが廊下を走って逃げていく足音、



宗次朗:「誰かに、見られたかな?」


相田:「あちゃー、どうしよう、…」


「相田」は、俺と友達である事を部活の仲間以外には隠している。 俺と居るとついつい「地」を出してしまうので、それを見られるのが恥ずかしいと言う事らしいが、…



宗次朗:「別に、…誰かに何か言われたら、俺に無理矢理呼び出されたって、言っとけば良い。」

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