エピ026「エピローグ」

桜木町にある小洒落たカフェ、

俺は一人きりで窓際の席に座って、文庫本を捲りながら人を待っていた。


やがて、待ち人来りて、ドアの鈴を鳴らし、

アカラサマな綺麗顔に、一瞬、店内の視線が集中する。


女A:「見てみて、あの子モデルとかじゃないかな?」

女B:「ほんと!可愛いぃ、…」




待ち人は、暫し店内を見回して、それから漸く、俺に気付いた。

俺は、苦笑いしながら小さく手を振って、…


やがて「彼」が、俺のテーブルに近づいて来た。



時任:「こんにちは。」

宗次朗:「やあ、…まあ、座れよ。」


長身美貌の細マッチョな「転校生」は、静かに言われたとおりに席に着く。




時任:「美咲に、呼ばれたと思ったんだけど、」

宗次朗:「悪いな、アイツは来ないよ。俺に「丸投げ」だ。伝言は「ごめんね、いけなくなった。」…以上だ。」


時任:「「丸投げ」って?どういう意味かな?」

宗次朗:「自分で誘っておきながら、今になって面倒臭くなって、俺に代わりに謝りに行くように命令した訳だ。」


時任:「都合が悪くなったのなら、メールで連絡してくれても良かったのに。」

宗次朗:「そうじゃない、「もう「恋愛ごっこ」が嫌になった」、「お前とは付き合えない」って自分で言うのが恥ずかしいって、そういう事だ。」


「時任」は、気分を害した様子も無く、あくまでも爽やかに、一寸苦笑いする。



時任:「そうか、分かった。 わざわざ君が伝えに来てくれたのか、ありがとう。」

宗次朗:「怒らないのか?」


時任:「美咲が「その方」が良いのなら、僕は構わないよ。」


ウェイトレスが水とお手拭を持ってきて、…



時任:「ああ、ごめんなさい。 僕は直ぐに帰ります。」

宗次朗:「まあ、そう言わずにちょっと付き合えよ。」


紅茶を一つ注文した。







宗次朗:「すまないな、実は俺が、お前と話したかったんだ。」

時任:「話って?」


宗次朗:「お前、女だろう。」


「時任マサト」は、きょとんとした顔で、小首を傾げて、…




時任:「どうして、解ったの?」


あっさりと、認めた。




宗次朗:「いや、カマを掛けただけだったんだが、…本当にそうなのか?」


俺は実際、椅子から半分ずっこけて、…

「時任マサト」が、初めて気の抜けた「薄ら笑い」を見せる。



時任:「そうか、これはやられたな。」

時任:「此処暫く、君の視線が気になっていたからね、てっきりバレていたのかと思ったよ。」


宗次朗:「どうして、男の振りをしているんだ?」

時任:「その前に一つ教えてくれないか、…この事を皆にばらすつもりなの?」


宗次朗:「まあ、事情にもよるが、俺は常識的に、結構口は堅い方だぜ。」







「時任」は、運ばれてきた紅茶のカップを、指で、弄ぶ。



時任:「若い女の一人暮らしなんて危ないからね、…ウチの父が学校の校長に頼んで特別に許可してもらったんだ。 この事を知っているのはごく少数の教師だけだよ。」


宗次朗:「お前の親父、すげえな、一体何もんなんだ?」

時任:「まあ、色々と顔が利くみたい。」


そういう「時任」の顔は、何処か少し、寂しげな様にも見えた。



宗次朗:「それで、片っ端から女に手を出していたのは、男の振りをする為なのか?」

時任:「うーん、それも有るけど、…実は、僕は「女の子」が好きなんだ。」


宗次朗:「成程な。」

時任:「勿論、誰とでも一線を越える訳じゃ無いさ、それに、相手に「その気」が無いのなら、無理矢理に求めたりはしない。」


時任:「これで、合格かな?」

宗次朗:「まあ、良いんじゃないか、恋愛は人それぞれだからな。」


宗次朗:「判った、誰にも言わないで置いてやるよ。」

時任:「ありがとう、助かる。」


そう言って、「時任」は俺に右手を差し出して、…

俺の胸元を、…指差した。


そこには、緑色のレーザーポインターの光????



時任:「ウチの父は極度の心配性でね、…常に「娘」と、その「要注意関係者」を監視下に置いておきたいミタイなんだ。」


誰かが、どこかから、俺の事を? 見張っている??…狙ってる!?



時任:「僕も「ある日突然クラスメイトが一人居なくなりました、」ミタイナ面倒臭い事態は出来れば避けたいんでね、協力してくれるかな。」


宗次朗:「全面的に、…バックアップさせて、いただきます。…」


「時任」はにっこりと微笑んで、




時任:「真理弥マリア、…」

宗次朗:「え?」


「時任」は、差し出したその右手で、僕の手を取り、…



時任:「僕の本当の名前だ、…」

時任:「よろしくね、宗次朗クン。」



固く、…握手した。

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