エピ021「典型的な失恋の一つのパターン」

「西野敦子」と再開してから半月ほど経ったある日の昼休み、俺は突然「相田美咲」から呼び止められた。



相田:「ちょっと、相談したい事が有るんだけど、」

宗次朗:「何だよ改まって、…別にいいけど、それじゃ今日、部室くるか?」


相田:「二人きりになれるとこが良いんだけど、…」

宗次朗:「って言ってもな、お前何処にいても目立つじゃん。」


相田:「他の人に聞かれたくないのよさ。」

宗次朗:「じゃあ、お前んち?」


相田:「無理無理!…部屋片付けてないもん。…じゃあ、アンタんち、」

宗次朗:「俺だって散らかったまんまだよ、それに親も居ないし。」


相田:「男なんだから気にしなくても良いでしょ、」

宗次朗:「行き成り過ぎんだよ、」


相田:「良いから、住所メールしといて、」




と言う流れで、放課後、「相田美咲」が、家を訪ねて来た。

女子を家に呼ぶなんて事は、当然、初めてだったりする、



相田:「おじゃましまーす、」

相田:「なんだ、結構片付いてんじゃん、つまんないの。」


必死に片付けたんだよ!



宗次朗:「それで、相談って何なんだよ。」

相田:「お茶も出ないの?」




間に合わせのカルピスを飲みながら、「相田」は多分、頭の中を整理しているのだろう。

「相田」の匂いが、俺の部屋に充満していく間、俺は黙って待つ事にする。



相田:「この間、デートしたの、」


俺は、口に含んだカルピスを、噴き出しそうになって、必死に堪えた。



相田:「時任君、結構積極的でさ、私も別に良いかなって思って、だんだん良い雰囲気になって来て、…」


其処まで言ってから、口籠った。



相田:「それなのに、いよいよってなって、…」


相田:「…拒否っちゃった、」




宗次朗:「お前ら、付き合ってるのか?」


その言葉を、発する喉が、妙に苦しい、…



相田:「解んない、…」

宗次朗:「解んないって、…それなのに「そういう事」までしようとしてきたのか、奴は?」


相田:「「そういう事」って? いや、ちょっと違うから!「そういう事」って、キスだけだからね、」


それにしたって、…



相田:「普通、いい感じになったら、キス位するよね、それで、だんだん友達から、恋人になって、段階進んでいくんだよね、」


いや、どのステージでどこ迄とか、俺知らないから、…



相田:「それなのに、私、何時もそこで、つまずいちゃう。」


相田:「私、何処かおかしいのかな? …何か欠陥有るのかな?」


「相田」は、暫し俯いて、…

判決を待つ被告人の様な、脅えた眼差しで、俺の事を上目遣いする。



宗次朗:「好、きなのか? …アイツの事、」


その言葉を、発する舌が、妙に苦い、…



相田:「どうなんだろう?…」


何故? 疑問形?



相田:「ねえ、好きって、何なのかな?」

相田:「触られるのとか、キスとか、怖いのは、出来ないのは、本当は好きじゃないって事なのかな?」




こいつは、多分、本気で悩んでいるのだろう。


こいつにとって、俺は「特別」なのだろう、それは、きっと恋愛とは違う感情に違いないのだが、…

だから、俺は、友達として、少しでもこいつの力になってやりたい。と、思う。


それが、俺の胃下垂をどんなに悪化させる事になろうとも、だ



宗次朗:「単純な事実として、」


俺は、大きく一度、深呼吸してから、言葉を紡ぐ…



宗次朗:「キスは、単なる口と口の接触に過ぎない。」

宗次朗:「他人に裸を見られたり、胸を触られる事で人間の価値が下がるなら、医者になんて掛かれない事になる。」

宗次朗:「セックスなんて、一生の内に何十回、中には何百回もする奴だっている。」


宗次朗:「つまりそんな事を恐れる必要なんて、…何処にも無いんだ。」


だからと言って、「相田」がそんな事をするのは、…絶対に想像したくない、



宗次朗:「それなのに、そういう行為に嫌悪感や恐怖を覚えると言うのは、…一般的には、無意識にそういう事をされても良い人間と、されたくない人間を分けているからだ。」


宗次朗:「要するに、痴漢に触られれば恐怖でも、自分が好きな相手に触られれば快感になる。…同じ事をされても、相手によって受け取り方が異なるという事だ。」


宗次朗:「この場合の「好き」と言うのは、突き詰めれば「信頼」だ、…究極的には、自分の命を預けられるか、そこまで相手を信用できるか、という事に他ならない。」


宗次朗:「もともと、セックスは生き物にとって不可欠ではあるが、もっとも危険な行為だからな、外敵に対して無防備になり、相手パートナーに対して無防備になる、女の場合はその後の妊娠・出産・育児と、更に生存に対するリスクが続く、その間、自分を守ってくれる保証が必要になる。」


宗次朗:「だから、相手が絶対に自分を裏切らないと納得する必要が有る、それが、「好き」という事の本質だ。」


宗次朗:「だからお前が、今は未だキスを怖いと思ったとしても、そんなのは異常でも何でもない。」



相田:「ちょっと、飛躍しすぎな気もするけど、…でも、皆そこまで考えて、してる訳? キスとか、」


宗次朗:「勿論、個人差はあるんだろう。…」

宗次朗:「多分、お前が人一倍にキスを怖がるのは、お前が人よりも強く洗脳されているからだ、」


相田:「なんなのよ? 洗脳って?」


宗次朗:「つまり「そういう事」は「イケナイ事」だと、「お前の価値を下げる事」だと、教育されて、思い込まされていると言う事だ。」


宗次朗:「それはある意味正しい、間違ってはいない。…誰だって、中古よりは新品の方が良い、誰かの使い古しとか、おさがりとかは、特例を除けば価値は下がるからな。 未使用の侭の身体の方が、一般的には価値は高い。つまり貞操を守ると言うのは、そういう事だ。 結婚は元々家と家との経済活動だからな、少しでも良い費用対効果を得る為に、少しでも「売り物」の価値を高めて置こうとするのは、ごく普通の発想な訳だ。」


相田:「「売り物」って、…なんか嫌だ、」


宗次朗:「でも、その場合、洗脳を解くのはそんなに難しい事では無いだろう。 お前に洗脳を掛けたお前の親に、了解を得られれば、多分それで大丈夫になる。 つまり、親公認の、正式な結婚前提の仲になればそれで良いと言う事だ。」


相田:「なんか、そんな気もするけど、…親公認だなんて、重すぎるよ。」

相田:「そんな直ぐに、結婚とか、決められる訳ないじゃない。」


相田:「そういうのは、もっと、付き合って、いろいろあってから、決めるもんじゃないの?」


宗次朗:「そもそも、お前は、あいつの事が、本当に、好きなのか?」


相田:「だから、好きかどうかなんて、最初からわかる訳、無いじゃん。って言ってんの!」


つまりお前は、この俺に、…

お前がアイツの事を好きになる手伝いをしろって、…つまりそう言っているのか?



宗次朗:「じゃあ、一体、お前はどうしたいんだ!?…アイツに、キスしてもらいたいのか!? 触ってもらいたいのか!? 何の為に?…」


自分でもどうにもならない内に、俺は、…声を荒げていた。



相田:「もう、なんかいい、…」

相田:「何でアンタ切れてる訳?」

相田:「私、何かアンタの気分を害する様な事したかな?」

相田:「何でアンタに、そんな悪い事して責められるみたいに、怒鳴られなきゃいけない訳?」

相田:「私、アンタなら、…」


宗次朗:「俺なら、何なんだよ!」


何で、俺は、こんなにイラついているんだ?



宗次朗:「俺なら安全だと思ったのか?」

宗次朗:「恋愛恐怖症のヘタレだから、何言っても勘違いしないとでも思ったのか!?」


宗次朗:「だからって俺が、…」



宗次朗:「人を好きにならないとでも、…思ってたのかよ。」


しまった、…



それで、「相田」が、固まってしまった。

俺が、心底から後悔したのは、多分この10分位後になってからだ。


でも、言っちまったもんは、もう、取り返しがつかなかった。

まるで時間は止まった侭、…もう、二度と巻き戻せない。







宗次朗:「帰れ、」

宗次朗:「早く、…出て行ってくれ。」


それで、まるで逃げるように、「相田」は俺の部屋から出て行った。




大丈夫だ、

こんなのは、…大した事じゃない。


また一人友達を無くした、ただ、…それだけの事だ。

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