第044話「ラポールの醸成」
カスミ:「ええっ!」
カスミ:「どうしよう、こんな格好で来ちゃった、」
「カスミさん」はヒラヒラと舞い翻りながら、…着て来た服のファッション・チェック、
カスミ:「やっぱり駄目、…一回家に帰ってから、着替えてから行くね、…お店決まったらメールしてくれる?」
「カスミさん」は瞳を潤ませて、何故だか意味も無く「シオン」の手を取って
シオン:「あの、藤沢さん、…就業時間中ですので、どうか自重して下さい、」
普段は容姿で人の事を差別しない「シオン」から見ても、「カスミさん」は規格外の完璧美人、…瑠璃色がかった濡烏の髪と憂いを帯びた切れ長の瞳は、見る度に「シオン」の胸の奥に切ない疼きを響かせる、
それなのに、…
カスミ:「自重って?」
そんな「カスミさん」の想い人は「国府津さん」、あの見るからに冴えない
シオン:「だから、国府津さんが絡むと行成り「乙女」に成るのは勘弁して下さい、」
カスミ:「なっ、何言ってんのよぉ!」
普段は部長も恐れる氷の女王、もとい経理の女王、隙の無いロジカルシンキングとゴーゴンの如き眼差しであらゆる規定外申請を退け続ける我らが「藤沢・カスミさん」が、……フニャフニャ、
「シオン」、深く溜息を一つ、…
シオン:「この際はっきり言わせて貰いますけど、…藤沢さんが国府津さんの事好きなの、丸わかりですから、」
カスミ:「うううぅ……、」
「カスミさん」、まるで借りて来た子猫の様な眼差しで、…頬を染める、
シオン:「だから、そんな可愛い顔しない!」
「シオン」達は、中華街でご飯を食べる事に決めて、…
渋る「ナギト」を強引にさらって、「ホノカさん」の車で山下町へ向う、
それで「シオン」達の乗ったオレンジのハッチバックの後を、一台の黒塗りワゴンがピッタリと付けて来る、…
実は此のワゴン車は「アリアン・アイギス」の基地だったりする、…運転するのは、ひょろっと背が高くてやせ形のおじさん=「佐伯・サダヨシさん」
ところで「アリアン・アイギス」とは、…
警察と「アリア」が共同開発した(注、仕事もしないで)、「シオン」を守る為の自律式上空警戒ヘリコプター型ドローンである、
その形状は直径30cm位の円盤形で、12機がワンセットに成っていてその内の3機が常に保護対象(注、「シオン」)の上空を警戒飛行して、レーダーやアンテナ、カメラ、集音機等で周辺に危険因子が無いか監視し続ける、
もしも危険を察知した場合は保護対象(注、「シオン」)の携帯に警告を発信すると共に、大音響のサイレンで周囲に緊急事態を告知する、更に銃撃された場合には、特殊チタン製の装甲を盾にして保護対象(注、「シオン」)を守る事も可能、
連続飛行可能時間は約1時間、警戒飛行していない9機は基地になっている黒塗りワゴン車のドックで待機・充電しており、電池がキレそうになった機体から次々交替して、切れ間無く保護対象(注、「シオン」)を監視し続ける事が出来る、
と言う代物だ、
「ホノカさん」のオレンジ・ハッチバックは「東門」の近くで皆を降ろし、自律走行で最寄りの駐車場に向う、…黒塗りワゴンの「佐伯さん」は皆に軽く敬礼して、付近に路上駐車して待機する、(注、特別許可を得た警察車両なので駐車違反に問われない)
ホノカ:「相変わらず凄い人ねぇ、」
そして直ちに三機の円盤型ヘリコプターが「シオン」の上空を
シオン:「建物にぶつかんなきゃ良いけど、…」
一行は大通りを一本脇道に入った少し年季の入ったレストランへ入り、…二階の席に腰を落ち着ける、
ホノカ:「私、紹興酒、…」
ナギト:「行成り飛ばしますね、」
他の皆は「取り敢えずチンタオ」を注文して、…暫しメニューと睨めっこ、
やがて気合の入った「カスミさん」が登場、…
襟元の大きく開いた黒のサマーニットに、まるでインカの宝物を彷彿とさせる沢山の楔型飾り付き金のネックレス、
ホノカ:「うわあ、…横に座りたくない、」
カスミ:「変かなぁ?」
「ナギト」が、珍しく赤面している、…
それで意外に早く「国府津さん」が合流する、…
国府津:「お待たせぇ、…」
ナギト:「どうも初めまして、川崎です、」
何だかちょっと緊張気味の「ナギト」
国府津:「成る程イケメンだなぁ、芸能人と間違えられたりしない?」
ナギト:「たまに、シオンと一緒に歩いていると、…」
「シオン」は負けず劣らずの「可愛い系男子」である、
国府津:「二宮クンと同期だって?」
ナギト:「はい、第2プロマネで予算と日程管理を担当してます、」
国府津:「おお、第6世代の頭出し部署か、大変だなあ、…」
また、他人事みたいに、…
ナギト:「節目会議の設定とか各部の調整事とか、車両原価の見積もりとか内製投資とか、ベンツリとか、何だか金と日程の管理ばかりで、実際の開発って言う感じがしないんですよね、」
ナギト:「その上、第6世代対応AIの開発が遅れ気味で、毎週スケジュール再調整が必要になってて、…」
ぎくりと肩をすぼめる「リョウコ」、
国府津:「まあ、総務も似た様なモノだけどな、…それで結局予算は最新のに直ったんだろ?」
カスミ:「はい、でも追加予算の内、プロジェクトに充当されたのは5億だけで、結局開発部門全体では7億の赤字状態です、」
国府津:「ああ、聞いた、…」
国府津:「まあ、でも大変だから人間が雁首揃えて知恵を絞ってるんだよな、楽な仕事なら外注か計算機に任せておけばいいって訳だ、」
ナギト:「国府津さんは以前プロマネやられた事が有るんですか?」
国府津:「いや無いよ、どうして?」
ナギト:「ウチのプロジェクト・リーダーが、時々国府津さんの名前出す事が有るんで、」
国府津:「はは、あんまり良い噂じゃないだろ、…木梨だっけ、アイツとは昔からウマが合わないんだよな、」
ソレで甲斐甲斐しく「国府津さん」の世話を焼く「カスミさん」、…
肉付き北京ダックとキュウリとハーブを、春巻きの皮に撒いて、…食べ易い様に「国府津さん」の取り皿の上に並べて行く、
その割には一言も喋らない侭で、真横に座っているからまともに顔も見てもらえない、…それなのに何故だか、そんなにも満足そう?
リョウコ:「シオン、殻剥けない、」
「リョウコ」はソフトシェルクラブと格闘中、…
シオン:「それは殻ごと食べられるんだよ、」
言われて「リョウコ」は齧ってみるが、…あんまりお気に召さなかったらしい、
リョウコ:「あげる、」
それで「シオン」は「リョウコ」の食べかけの蟹を齧りながら、チラリと「ナギト」の様子を伺う、…何だか「ナギト」は「国府津さん」に懐いたミタイ?
ナギト:「木梨さんは何だか、良い物を作ろうって言うよりは、方針とガイドに従ってきっちりタスクを時間通りに完了させる事を重視するんですよね、…時々管理の為に仕事やってんじゃないのかって不思議に思う事があるんですよ、」
ナギト:「良い商品になるかならないかは商品企画が決める事、開発は決められた通りにモノを作る事が大事、売れる売れないは開発は気にするな、って言う感じなんです、」
「国府津さん」が飲み干したグラスに、間髪置かずビールを注ぎ足す「カスミさん」、
国府津:「現実的に商品企画が本当に売れる製品を予測できるかって言うと、残念ながら難しいな、…タイムマシンが有る訳じゃ無いから100%な予測は不可能だし、コンペティターもマーケットも日々変化するしね、」
国府津:「それに、実際にモノに触れて、モノの音を聞いている内に、大切な事に気付く事もあるだろう、だとすると、そんな精緻可憐に計画通りに開発なんて出来る訳がない、…そもそも得体の知れない面白そうなアイデアを形にするのが開発だからな、」
ナギト:「シオンは良いな、…こんな良い上司が居てさ、」
「シオン」、ははは、…と苦笑い、
国府津:「二宮クン、其処は同意してくんなきゃだな、…」
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