第二章「アリア」

プロローグ「机の上の瞳」

人はどうしてこんなにも、誰かを呪わずには居られないのだろう、…


ふと気がつくと、目覚まし時計は既に止まった後だった(注、自分で止めた後二度寝した)、


今日は「ナギト」が一人早出だから、僕が「平塚さん」と「新橋さん」の分も含めて朝ご飯を用意する約束になっていたのだが、…何でこんな事に???


まあ、後悔先に立たず覆水盆に返らず、済んだ事を何時迄もクヨクヨしても仕方が無い、…兎に角、後15分以内に寮を出なければ、入社して初めての遅刻となってしまう!


勿論、NAVEにもフレックス勤務制度があるので、予め上司に申告しておけば9時プラスマイナス2時間の範囲で出勤時刻を調整可能なのだが(注、その分退勤時刻も連れ周りで変動)、基本、余程の事情が無い限り当日申請は受け付けられない事になっていた、


少なくとも「平塚さん」の上司の「節川」がそんな規則違反を承認する筈が無い、



僕は5分で自分の身支度を整えて「平塚さん」の部屋へ、…多分、未だ寝てると思われる、



シオン:「平塚さん、平塚さん! 起きてる?」


呼び鈴にも、インターフォンにも反応しない、…

携帯に電話を掛けてみるが、矢張り反応無し、…



シオン:「困ったな、どうしよう?」

アリア:「リョウコの部屋に入りたいのですか?」


突然スマホが、無駄に綺麗な女性の声で喋り出す、…



シオン:「未だ寝てるのかな?」

アリア:「その様ですね、昨日は夜遅く迄深夜アニメを見てましたから、」


シオン:「ちゃんと12時前には寝かさなきゃ駄目だよ、」


最近、この「超常現象?」に慣れて来た自分が怖い、



アリア:「ドアを解錠しますか?」

シオン:「うーん、仕方ないか、…出来る?」


僕は一瞬だけ躊躇して、



アリア:「お易い御用ですよ、」


果たして、最新式生体認証型電子キーは、モノのコンマ1秒で、


鍵の開く音:「カシャン!」







シオン:「平塚さん、入るよぉ…、」


勝手知ったるナントやら、で、僕は恐る恐るベッドルームへ、…


案の定「平塚・リョウコさん」は薄い夏がけに包まって熟睡中、



シオン:「平塚さん、起きないと遅刻するよ、」


僕は、そっと掛け布団を剥いで、…



シオン:「わぁ!」


急いで元に戻す、…「平塚さん」は全裸だった、



シオン:「もう! ちゃんとパジャマ着て寝てよ!」

アリア:「昨日の夜は暑かったですから、」


僕は隣のリビングダイニングに退避して、背中を向けた侭で叫ぶ、



シオン:「平塚さん! いい加減に起きて!」


…って、余り大声で騒ぐと、僕がここに居る事が隣の女子社員達にバレてしまう! (注、一応、女子が住んでいる5階には、男子は用事がない限り矢鱈立ち入ってはいけない事になっていた、)


それにしても反応が無い、…

もしかしたら、聞こえていない?




「平塚さん」は後天性重度聴覚障害者支援ICT補聴器を使っている、…これはイヤフォン型のマイクで捕えた音声を電気信号に変えて内耳に埋め込んだ電極から聴神経に伝える機械なのだが、…


見ると、コンタクトレンズ型カメラとイヤフォン型マイク、それらを脳神経に伝える為のブレスレッド型送信機は、机の上で充電中、…


補聴器を外した侭だとしたら、揺すって起こさない限り気付かない、が、全裸の女の子を揺すって起こすなんて事、…出来る訳が無い!







僕は仕方なく、隣の「新橋さん」の部屋の呼び鈴を押す、…が、コレマタ返事が無い、



シオン:「まさか、新橋さん迄寝坊してるって事は、有り得ないよな、」


何の躊躇も無く、「アリア」がドアを解錠する、…


鍵の開く音:「カシャン!」



シオン:「すみませーん、新橋さーん、」


恐る恐る部屋の中を覗きながら、声を掛けるが、…気配がない?


まさか、S.P.(注、セキュリティポリス)の「新橋さん」が、僕達を置いた侭出社する事は有り得ないが、



シオン:「もしもーし、」


他の部屋の女子社員に気取られない様に、囁く様な声で呼びかけるが、…行成り、二つ隣の部屋のドアが開いて! 僕は急いで「新橋さん」の部屋に身を隠す!


そこへ、…トイレから出てきたパンツ一丁の「新橋さん」が、

真っ赤になって悲鳴を上げる!



ホノカ:「キャアアアっ…!」







15分後、オレンジ色のBセグメント・ハッチバックの車中、



シオン:「本当にごめんなさい、」

ホノカ:「まあ、御相子だよね、」


僕は、全裸で椅子に縛り付けられていた所を「新橋さん」に見られた事が有った、



ホノカ:「でもね、…女には時と場合が重要なのよ、」

ホノカ:「せめて寝癖を直してから来て欲しかったわ、」

シオン:「そこですか、…」


リョウコ:「私はシオンになら何処を触られても平気、」

シオン:「いや、その前にちゃんと時間通りに起きようね、…」



勿論、僕だって人の事を言えたギリではないのは重々承知している、


つまり人を呪うと言う事はそう言う事なのだ、

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