第50話〔TONIGHT〕

地球の自転とは逆方向にステルスは飛び続けた。夜が後ろから追

い掛けてきた。操縦稈を一杯に引きながらジーンはいつかうをの

ことを考えていた。思えば不思議な運命と言えるかも知れなかっ

た。敵対するコンピューター企業の最前線で張り合ってきたふた

りが今は共通の敵と戦うために力を合わせている。今となっては

富痔痛もYBMもなかった。

「うをか・・・すてたもんでもないな・・・」ジーンは記憶を探

ってみた。いつも背中を見せてしゃべるのが得意だったうを。新

しいことにすぐ手を出すのにすぐ飽きてしまううを。(スペイン

語はとうとうなげだしてしまったっけ。)ひどくけちで2トーク

ン以上サイフから出すのを見たことがなかったうを。でも・・・

かわいいじゃないか。今となってはこのふたりが新世界のアダム

とイブになるしかないのだ。

「まるでウエストサイド物語だね。敵対する集団のメンバーに芽

生えた愛。」

ARMYジーンはコックピットのドデカホンにCDをセットした

。曲はウエストサイド物語のサウンドトラックからTONIGH

Tだった。

「Tonight Tonight♪♪♪~♪There is only you tonight♪~♪

Tonight Tonight ♪♪♪~♪I will meet my love tonight♪」


やがてステルスは日本列島上空に到着した。海側から東京湾に進

入し望遠レンズで新宿副都心をサーチする。いた!富痔痛ビルの

屋上でマウスを握りしめて立つ巨大な猿が。

「TONIGHT!さあ決着を付けるよ。高速で運動しレーダー

でとらえられないステルスはカーソルで追えないだろう。GET

コマンドは無効だ。さあ・・・」

その時黄昏時の東京の街に一斉にネオンが灯った。それは地の果

てまで広がる巨大な一面のディスプレーだった。そしてその輝き

の中に、闇のまま残る帯状の街々があった。それは高空から見る

と巨大なPUTの黒抜き文字に見えるのだった。

急にステルスは方向を変えた。ジーンがコントロールしようとし

ても出来なかった。

「しまった!GETコマンドは動くオブジェクトにカーソルを合

わせなければならないけど、PUTコマンドは静止した場所の指

定でもいいんだ!」

電霊のカーソルは尾瀬の湿原を指示していた。コントロールを失

ったステルスは核兵器をかかえたまま、水芭蕉の咲き乱れる湿原

につっこんでいった。うをの待つ湿原に・・・。

ちゅどん!

核爆発が起こった。うをとジーンが死んだ。そして夜が地球を一

周すると人類は跡形もなく居なくなった。

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