第9話〔世界をポケットに入れて〕
文書番号1をクリックしてうをは秘密文書の一部を覗いてみた。
それは富痔痛の産業スパイ網が手に入れた、宿敵YBMの機密
だった。富痔痛の産業スパイ衛星「なんの1号」はアメリカ大陸
を宇宙から探査し、YBM社員の動向をリアルタイムで報告する。
同時に富痔痛のハッカーはCOMPUSURVEの回線を通じて
YBMの社内回線に入り込み、社内メールを傍受する。文書1に
は、YBM社長が業績の低迷を怒って、社員を叱りつけている、
品のない社内メールだった。罵声が山のようにつまっていた。
「・・・・・・FUCK YOU!・・・・・SUN OF A BITCH!・・・・・MOTHER FUCKER! 」
今やYBMの世界に占めるシェアは、10年まえの40%から
20%に落ちていた。そのあせりが社長をいらだたせているのだ。
「YBMも長くない」と、うをはつぶやいた。
次に文書番号2をクリックした。それは国内シェアをめぐって
宿敵無知電と死闘を繰り広げていたときの機密だった。個人ユー
ザーにとって無知電98シリーズの力は圧倒的で、電気店の店頭
に並んでいるパソコンの9割は98シリーズだった。富痔痛のR
シリーズは影もなかった。それでもRシリーズが業界2位のシェ
アを保つことができるのは、スーパーコンピューターに強い富痔
痛が企業向けに納入したホストコンピュータの端末として、Rシ
リーズが使われるからだった。そのためスパコンの入札は絶対
ライバルには負けられない生命線だった。
文書番号2は愛知県三河郡蒲郡村の村役場にスパコンを納入する
時ライバルを蹴落とすために一円入札をした時の領収書だった。
文書番号3は埼玉県秩父郡寄居村の村役場にスパコンを納入した
ときの一円入札の領収書だった。
文書番号4は岡山県笠岡郡矢掛村の村役場にスパコンを納入した
ときの一円入札の領収書だった。
このように一円入札の嵐で、富痔痛は無知電を圧倒したのだった。
「無知電もYBMも恐れるに足りず。」
とうをは思った。
「日本語プログラミング言語KINDが32ビット100メガバ
イトの環境でGUIで動く無敵のソフトKINDOWS。これさ
えあれば富痔痛の世界制覇は目の前だ。世界は今や僕のポケット
の中にある。」
つぶやきながらうをは書き込みをはじめた。これでまたハビタッ
トの掲示板が重くなることを、アバタたちは知らない。
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