第2話 〔KINDOWS〕

汎田部長は情熱的に続けた。

 「互換性の壁が崩れ、全世界のメーカーが同じ規格の上で技術を

競うようになること。それはユーザーにとって望ましいことでは

ないのか?そして、ユーザーにとって望ましいことは、我々にと

っても望ましいことではないのか?

 自社製品にしか繋げられない周辺機器やソフトを後生大事にかか

えこんで、それでユーザーを逃がすまいとするセコイ勝負はもう

しまいだ。

 我々は既にスーパーコンピューターの世界では、YBMをはる

かに上回る技術力を持っている。パソコンでも、YBMの準備し

た土俵で、YBMと競いあい、追いつき追い越すことは2~3年

以内に可能だ。

 一時的には苦しくても、2~3年の辛抱で世界のトップをとる。

これこそが我々の正しい夢の形ではないのか。」


 俊一は感動した。そうか、部長はそこまで決意しているのか。

汎田部長は続けた。

「しかし、そのためには、言葉の壁を突破しなければならない。

知ってのとおり、プログラミング言語はすべて英語の語彙と文法

をもとにして作られている。これではどうしても日本人の作る

ソフトは英語圏のプログラマーの作るソフトを越えられない。

何故なら、言語は思考パターンを決定する。外国語で小説を書い

て本国人の小説家を越えることは不可能だ。今のプログラミング

言語をそのままにしておいて、世界のトップをとることはできな

い。」


 ではついにあの計画が実行されるのか、と俊一は思った。

 「君も知っているだろう。我が社が開発した日本語プログラミ

ング言語KIND。日本語の語彙と文法で書かれたDOS互換の

言語だ。これを32ビット、100メガのハードディスク上で

走らせる新しいバージョンが出来たのだ。WINDOWSと同じ

操作で動かせる究極の日本語OS。その名をKINDOWSと

言う。

 今やハイテクでは日本は世界をリードしている。世界を制する

言語は、その分野でトップに立っている民族の言語であるべきだ。

この計画が成功すれば、ハイテクに関わる全世界の技術者が、日

本語を学び、日本語でプログラミングするようになるだろう。

 しかし・・・」

汎田部長は声をひそめた。

「計画が事前に漏れることを、絶対にふせがなければならない。

特にYBMに漏れてはならない。」


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