浪人生活
こまいくみ(20代 男性)
第1話 浪人生の息抜き
「なぁ、アサノって息抜きに何してんの?」
「ん?」
アサノはスマートフォンの画面に釘付けで質問に答える気配はない。
数秒ののち、
「いやもうええわ。」
とタチバナが突き放すと、
「いやいや、聞いてるから!息抜きやろ?
せやなぁ、しいて言うなら城銅鑼かなぁ。」
城銅鑼とは「城と銅鑼」の略で一世を風靡しているスマートフォンゲームである。
タワーディフェンス系のゲームで、銅鑼によって自軍を鼓舞する。
そして、強化した軍で相手の城を攻略するというものである。
いまアサノがスマートフォンに釘付けになっているのも、このためだ。
「いや、おまえの城銅鑼は息抜きの域超えてるやろ。
休憩時間とか常にやってるやんけ。」
タチバナは呆れた様子だ。
なぜあんなゲームが売れているのか全くわからない。
「じゃあ、タチバナはどうやねん。」
「いや、特にないから聞いてんねんて。」
「は?じゃあ、城銅鑼やるしかないな。」
アサノはニヤニヤしている。
「それだけはないわ。」
「ノリの悪いヤツやなぁ。」
そうこうしているうちに昼休みが終わった。
次の授業は現代文である。
「うへぇ、現代文の人苦手やねんけど。」
「あれは暑苦しいわ。」
しかし、授業に行かないというわけにもいかず、渋々教室へ向かった。
「はーい、今日も一日お疲れさまでしたー。」
最後の授業が終わり、アサノはやり切った感で溢れかえっている。
「やべっ、さっきの授業中にスタミナいっぱいになってるんやった!」
「おまえ授業中も城銅鑼のこと考えてんの?」
「当たり前田のクラッカーですよ。」
タチバナはもはや返す言葉も見つからなかったが、
「もうおまえ城銅鑼大学に進学しろよ。」
と皮肉をしぼりだした。
しかし、
「あぁ、それもいいね。」
と適当な返事をする。
一階に着き、フロントで自習席を確保する。
「うわ、6階やん。エレベーター使お。」
すると、タチバナが
「浪人したての頃は運動不足なるから、
階段しか使わんとか言ってたん誰やっけなぁ?」
と言いながら、アサノのプヨっとしたお腹をつついた。
「もぅわかったって、階段で行けばええんやろ?」
アサノはブスっとした顔で階段を登り始めた。
3階ほど登ったとき、突然タチバナが口を開いた。
「俺も城銅鑼やってみよかな。」
と思いもよらない言葉が。
「おっ、マジで!?」
アサノはすでに息が切れている。
「ちょ、ケータイ貸してみ。俺がダウンロードしたるわ!」
とタチバナのポケットを探ろうとした。
「自分でやるわ、あほ!
てか、家でやらな通信量食うやんけ。」
タチバナはアサノの手をはたいた。
「んー、でもなんで急にやるとか言い出したん?」
アサノが率直な疑問を投げかける。
「まぁ、世の中にはやってみんとわからんことがあるからな。」
「おっ、良いこと言うねぇ。」
アサノはニヤニヤしている。
つられてタチバナもついニヤっとしてしまった。
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