オニゴト

田久 洋

第1章 縁 ‐エニシ‐

1

     ◆   ◆   ◆



 目を開けると、一面のやみ

 うるしのような、質感のある暗闇の中に、一人たたずんでいた。


 ずる…………り。

 う音が耳に届き、少女は我に返る。

「逃げないと……」

 ささやいた声は思いのほか大きく響き、その大きさに息をんだ。


 ――見つかってしまう。


 ねっとりと、からみつくような濃密な漆黒しっこく陰影いんえいの中を少女は歩き出す。

 悟られないように、ゆっくりと。

 少女が通り過ぎた場所に、ずるりと這いずる重い音が立つ。


 ずる………り。ずる……り。


 少しずつ足を運ぶスピードが早くなる。

 追いかける気配けはいに追い立てられるように、少女は走り出した。

 必死に逃げる。


 ずる、り…。


 ゆっくりと、確実に、追いすがる。

 狙いを定め、近づてくる。

 追いつかれる。


 コワ、イ――


 背筋を氷塊ひょうかいすべり落ちた。

 ――っっ!!



     ◆   ◆   ◆

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