22

     ◇   ◇   ◇     



「夢を見ている?」

 問いただす声は、柊のもの。


 八瀬高校の理事長室。


 薄闇の中、月明かりが室内に入り、窓際に佇む柊の輪郭を浮かび上がらせている。

「ああ」

 短く答えたのは、抑揚よくようのない男の声。

 長い黒髪を後ろでひとつにたばねた、黒ずくめの後ろ姿。

「いつから?」

「多分、ここに来てからずっとだろう」

 柊の難詰なんきつに、柊より背の高い男性は淡々と答える。


 ――眠りが浅いみたいです。


 以前、枝折の傍につかせている水木から報告があった時は、慣れない環境のせいだろうと、柊は思った。

 それだけではない、ということだろうか。

「水鬼は?」

「まだ様子を見ている」

「そうか――」

 月光の届かない位置で控える形で立つ男の言葉に、柊は思案するように押し黙る。

 今朝の窓ガラスの落下は、明らかに枝折をねらっていた。

「どうする?」

 短い問いかけに背後を振り返り、

「夢の方は水鬼に任せる。隠形鬼、枝折の周囲を見張れ」

 柊ははがねのように張った声で告げた。



     ◇   ◇   ◇    

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