71
郷里から来た三人が、静かに去っていくのを見送った直後。警官が一人、小走りで駆け寄ってきて。
「……ん、そういうことなら。では、これから。」
そう言って通話を切るハートさんから、警官は何かを受け取って。そのまま走って行った。そして――
「スムーズに行ってよかった。あとは
ハートさんが、僕にそう言うので。あれ?……と思って、パトカーの方を見たところ。警官たちは、既に全員が乗り込んでいて。ドアを閉める音が、バン、バンッ――と響き渡った後に。その二台のうち、街道に近い側のセダンが、ハンドルを切りながらバックを始め。パーキングを後ろ向きに旋回して、お尻をこちらに向けて停止したので。残るワゴンが同様に旋回し終わるまで、後部座席の……護送される狙撃者の様子を。リアウィンドウ越しに眺めることができた――……の、だが。
(?……何で、左右を固められていないんだ?)
初老の狙撃者は、セダンの後部座席で右側に陣取って、左側に座った警官と談笑しているかのようで。「現行犯」にも「容疑者」にも見えないのだ。どちらかと言えば――
「ん。……殺意はなかったんだ。署では、身柄を登録されるかもしれないが……
僕の表情を読んで、ハートさんはそう尋ねた。二台のパトカーは、セダン型に続き、ワゴン型のも動き始めたが。その後ろ側……の、リアゲート越しに。
「あの……方は、要人なのでしょうか? まるで……」
「この州の警察として、無下にはできない人物……とだけ言っておくよ。むろん君は被害者だから、告発しようと思えばできる。そうするか?」
静かな話し方ではあったが。何か、既視感のある選択肢……を、つきつけられて。僕はむっとした。
「僕から調書をとらなかったのも、そういうことですか。」
「それは違う。ずっと録画していたレコーダを、彼に渡しておいたから。後で呼ばれて、署の方で起こした調書に、サインを求められるだろう。」
成程。さっき渡したのは、アクションカムだったのか。とはいえ……
「ただ。とうぜん君には、事情を聴く権利がある。警察ではない、わたしたちからね。」
そう言うハート氏の背後に、ぬっ……という感じで現れた長身の中年男を見て、重要なことを忘れてたぁ!と気付いて。思わず大声が出てしまった。
「貴方……いったい何なんです? 以前からこの周りをうろうろしていましたよね? 僕に何の御用ですか?」
「……。」
男の顔は、僕の方を向いてはいたが。目を伏せて、何も言おうとしない。ただ、少なくとも。僕のことをよぅく知っているらしい――ことだけは、充分に伝わってきた。なのに、何故……。
結局は、ハート氏が。ご自身の頭越しに続いている重苦しい沈黙――を破り、助け舟を出してきた。
「うむ。この……彼の事も含めて、車の中で話そう。この後、何か予定があるかね?」
「いいえ。」
僕がそう答えるなり、長身の男は走り出し。隣の――プリズモダールの方に消え。おいおい、逃げたのか?……と思う間もなく、運転手となって戻ってきた。
まったく見覚えのない、ミニバンで。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。