冬の詩

@cos


「守」

俺は守を呼び止めた

「ん?」

「日直、忘れてるだろ」

「ああ!そうだった!!」

急いで教室に戻る守の後を追った


六時間目の数学の板書がそのままにしてある黒板には、秋の始めである九月のと守の苗字である簒河(さんが)の文字が書かれている。




放課後の教室には俺と守しかいない。

「しっかしさぁ、九月も中盤だってのにあっついよねぇ…」

おもむろに守が話しかける。

「まあな、」

適当に返した

「祐希ぃ!」

甘ったるい声が3人いる教室に響く。




こいつは上原美緒、付き合って二ヶ月になる俺の彼女だ。守とは同じ中学の同級生だったらしい




「待ってるって言ったのにぜーんぜん来ないんだもーん!LINEも送ったのに既読にならないしー!」

美緒が続けた。

「ごめんね、僕が日直だったのを忘れてたんだ。」

守は黒板を消しながら美緒に謝った。


「にしたって…祐希も待つ事無いじゃない、MINE位送ってくれてもいいでしょ?」


俺はスマホを確認した、36件の通知…愛されてる証なのか。



「悪い悪い、そんなに時間がかかるとは思わなかったんだよ。」

スマホの時計を見る

ホームルームが終わってから1時間は経っていた



「未提出のプリントを出すのにさ、青木がちょろちょろ移動して場所が掴めなくてさ。」

俺は提出物に疎い。



だから今日未提出の物を出そうとしたのだが、青木の行方がわからず途方に暮れていた時にこいつと会った。



守だ。

事情を話すと嫌な顔一つせず青木の捜索を手伝ってくれた。

守が探し始めるとすぐに見つかり、未提出の課題を提出する事が出来た。




「そんな訳だから、俺だけ帰るのも悪いかなって思ったんだよ。」

俺が事情を説明すると美緒が


「もー、それならそうと言ってくれれば良かったのに!」

と頬を膨らませて俺をたしなめた



「ごめんごめん、もう終わるからさ。」

消し終わった綺麗な黒板に明日の日付と斉藤の字を書きながら守は美緒に謝った。



「守はそんなに謝ることないのー!祐希が悪いんだから!!」



「悪かったって、パフェでも奢るからファミレスにでも行こうぜ。折角の午前授業が台無しになっちまう。」

俺は守の方を見ながら続けた



「お前も来いよ、俺が出すからさ」

不意に美緒の顔が曇った



「本当!?じゃあお言葉に甘えようかな。」

守が嬉しそうに言うと俺達はファミレスに足を運んだ。










この時にもうすでに事は始まっていた事に、俺は気づかなかった

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