第26話 そうかえん!本番編③

 総火演実施に伴う宿営2日目。

武村は糧食班の天幕でくつろいでいた。

出入りする前後の幕は大きく開放して、通気を良くすることで天幕内を涼しくさせる。こうすれば日が当たらなければ案外天幕でも快適に過ごせるのだ。

簡易ベットの上に横たわり、武村は中澤2曹から配られた紙を見ていた。そこには糧食班全員の名前と、演習間のシフトが書かれている。約2週間のうち、2ないし3勤1休が各班員に割り振られていた。

その割り振りで武村は幸運にも今日は非番となっていた。安部1士には羨ましがられたが、非番だからといって外出できる訳ではないのだ。

『これって軟禁じゃね?』と思いつつも、クソ暑い中での仕事も願い下げなので天幕で引き籠るしかない。因みに、スマホは充電器さえ持ってくれば演習間不自由なく使える。


アプリゲームにも飽き、眠気に襲われ始めた頃に「おい武村」という声で意識が覚醒した。声の主は先任の神田こうだ曹長だ。

「お前、今日非番だろ?休みのところ悪いんだけど、弾薬班と一緒に弾薬受領に行って来てくれ」

「はぁ、それは良いんすけど、駐屯地まで行くんです?」

「いや、連隊の弾薬受け渡しだから演習場内だ」

「了解っす。準備したら弾薬班の天幕に行けば良いっすよね」

「おう、頼んだぞ。休みで本当に悪いけども」

申し訳なさそうに頼まれたら、無下にはできない(申し訳なさそうでなくともだが)。武村は簡易ベットの下にしまってあった鉄帽てっぱちと迷彩革手を持って弾薬班のいる天幕まで向かった。


「お疲れ~す。先任に言われて支援に来たんすけど」

弾薬班の天幕を覗くが、誰もいなかった。おかしいな、と思っていると「おーい、こっちこっち」という声が聞こえた。見るとここから少し離れた所に有刺鉄線に囲まれた業天があり、そこから声の主は手招きして武村を呼んでいた。

声の主、清水きよみず1曹は中隊で火器陸曹を担当している。不発弾処理のMOS(特技区分)も持っているので、不発弾清掃で弾着地域に入るときは必ず同行するほどの、いわば弾薬のスペシャリスト。

「武村は今日は非番だったって?ふふ、お疲れちゃんですねぇ」

しゃべり方に特徴があるが、決して作っている訳では無い。

「非番でもする事がないんで、ちょうど良かったっすよ」

「そお?じゃ武村士長にはバリバリ動いてもらいますかねぇ」

(笑)が見える位にニヤニヤする清水きよみず1曹の陰で平本士長が同じようにニヤニヤしていた。

「貴重な非番を潰しての支援、痛み入ります」

平本は口を両手で覆ってはいるが、言葉とは裏腹に目と眉毛はVの字を描いていた。


平本は弾薬班に配属されていた。

弾薬班の主な仕事は実施部隊(実射)への弾薬配布と薬莢回収、及び弾薬受領だ。

今回武村は弾薬受領の支援に加わる。総火演中の弾薬受領は1~2回ある。弾種、弾数にもよるが、1tトレーラー1車分で収まる部隊もあれば、特大型とくおおがたと呼ばれる3t半よりも大きい車両で目一杯積載する部隊もあるのだ。

どの弾薬も木箱に入っており、5,56㎜NATO弾でも1箱あたりの重さは10キロ以上を有に超える。79式対舟艇対戦車誘導弾(通称:重MAT)に至っては30キロオーバーだ。

何事も人力で賄う自衛隊。民間ではトラックに貨物を積載する時はフォークリフトを使用するが、生憎自衛隊(陸のみか?)はそんな文明の利器は使わない。

すべて手搬送、己のパワーのみが求められるのだ。

「武村士長。今日はですねぇ、小銃の弾が〇×発と連装の弾が×〇発、他にも✇🔣±¶・・と、たくさんありますのでぇ、頑張って下さいねぇっふっふっふ」

清水きよみず1曹から聞く限り、とても1tトレーラーで収まる量ではなかった。


「そうそう、武村士長は3t半の運転もお願いしちゃいますねぇ」


断れば良かったかな?と軽く後悔する武村だった。

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