第25話 そうかえん!本番編②
総火演中の糧食班の主な任務は、宿営地での調理は勿論、駐屯地糧食班での温食、携行食の受領等がある。
【等】が付くのは理由があるが、それは追い追い分かるだろう。
中澤2曹率いる糧食班の面々は調理・・ではなく、
屋根型天幕【通称:
「安部ぇ、もう少し引っ張れ」
屋根天の各角の先にはロープが付いており、引っ張る事で幕を緊張させる。
そして、ロープの付け根にある穴に支柱を通す事で屋根の形を保つのだ。
今回は2張りの屋根天を繋げる。その下には野外炊事車1号と、食器用棚、それに長机を置く。
「これでどうだ?」
「うーん、雨が降ると屋根天と屋根天の間から水がバシャバシャ落ちて調理台濡れちゃいません?」
「そうだなぁ」
「中澤班長!埋まってる石が邪魔で食器棚の足場が安定しません!」
「んなもん、掘り起こして取っちまえ」
糧食班の陣地を、あーでもないこーでもないと試行錯誤してレイアウトを完成させていく。
「おー、武村。水トレ【1tタンク水トレーラー】をこっちに引っ張って来てくれ」
「了解っす」
武村は一昨年に部内の教習所でけん引免許を取得して以降、1tトレーラーや水トレを使用する訓練に頻繁に駆り出されるようになった。
総火演前、演習間の編成も達されていない時期から中澤2曹に『お前けん引取ったんなら糧食な』と事前予告されていたのだ。
【パーク】と呼ばれる装輪駐車場から水トレの付いた3t半を乗り入れ、中澤2曹が
『ここ』と指さす位置まで【けん引バック】で水トレを誘導する。
けん引バックは通常の車両の後退とは違い、左右が反転する操縦となる。例えば、トレーラーを右に振りたい時はハンドルは左に回す、といった具合。
これも技術が必要で、切れ込み過ぎると【ジャック】と呼ばれる状態になる。これは車体とトレーラーの角度が【ジャックナイフ】のように鋭角になり、お互いが接触し損傷してしまうのだ。
しかも、トレーラーの角度は路面状況にも左右される。アスファルトなどの整地された路面なら素直に誘導できるのだが、轍や凹凸のある不整地では切れ込みに緩急が伴うので要注意だ。
ピッ、とホーンを鳴らし、ギアをバックに入れる。ピーッピーッと後退の警告音が鳴り、武村は左右のミラーを交互に見ながらクラッチを繋げる。ミラーに映る中澤2曹は右腕を横に伸ばして停止ラインを表し、左手で手招きをしている。
「よっ、はっ、ほっ」
小刻みにハンドルを振り、車体と水トレを真っ直ぐに後退させていく。
武村を誘導する中澤2曹以外はジッと水トレの動きを見つめている。中でも免許を持たない陸士はけん引バックに興味があるようだ。しかし、武村はギャラリーがいるとプレッシャーを感じてしまうチキンなので、いつ緊張でミスをしないか冷や冷やしていた。
「オーライ、オーライ、オーライ、・・・停止!」
中澤2曹が両掌を重ねて停止の合図をすると同時にクラッチとブレーキを踏む。窓から身を乗り出し「どーです?位置合ってますか?」と聞くと「おー。水トレ外すから待ってろ」との返事。
パークに3t半を駐車して戻ると、糧食班の面々は水トレの脇に
「あとは他に置くものってあります?」
「中隊から持ってきた調理器具を棚に並べるくらいだけど、まぁ飯食ってからで良いな」
武村の腕時計は1143を刻んでいた。この後の指示を伝えるため、中澤2曹は糧食班に集合をかけた。
「作業お疲れさん。少し長めに休憩を摂って・・1310集合。以上、質問は?」
「「「なぁし!」」」
「じゃ、わかれて休憩、わかれ!」
「「「わかれます!!」」」
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