第8話 行けなかった者【中編】

 ピンポ~ン。

みんなが食べ終わった頃、家のチャイムが鳴った。

こんな時に来客か?かみさんが応対に出ると、すかさず子供たちも後を追った。

暫くすると、子供たちのはしゃぐ声が聞こえて来た。

どうやら近所のママ友さんが子供を連れて見に来てくれたらしい。

時間も18時をまわり、停電で明かりが一つもない庭先を子供たちは追いかけっこをしていた。注意しようかとも思ったが、この特殊な状況でブルブルと不安そうになられるよりはマシと思い直し、やめた。


「内田さんからロウソク貰えたよ」

かみさんが嬉しそうに戻ってきた。内田さんとは、先ほど来たママ友さんのことだ。ロウソクは10本以上ありそうだ。

「かわりに自衛隊の携行食を渡したけど、良いよね?」

全然構いません。こういった物々交換は、日頃の関係性が成り立っていないと出来ないものなので、ありがたいとも思う。


時刻は19時を過ぎている。いつもなら晩飯が終わり風呂の時間だが、それも出来ないので子供たちに「寝ろ」の命令を下した。

「あんたはどうするの?」

「俺は、ラジオを聴きながら起きてるよ」

「え、寝ないつもり?」

私は寝るつもりはサラサラなかった。電話やネットも使えない、おまけにパトカーも巡回してそうにないとなると、この状況に乗じて犯罪を犯す輩がないとは言い切れない。

なので、私は不寝番に就いて警戒に当たろうと思っていたのだ。

「そう、あまり無理しないでね」

かみさんが床に就くと、私はイヤホンをしてラジオを聴き始めた。


雑音ばかりだったが、どうやらデカい地震があったというのは分かった。

『・・は、火の海となっています。・・・も、建物が多く倒壊し・・』

アナウンサーの、叫びにも近い実況に事態の深刻さが伝わった。

再びiPhoneを手に取りネットへの接続を試みるも、やはり出来なかった。

時刻は2210。

外に出て外周警戒をすることにした。

ちっとも春らしくない夜の寒さに加え、しんっと静まり返った街灯一つ灯らない真っ暗な住宅街に、思わず身震いした。

こんな状況が続いたら、たまんねえな。


「おはよう。ずっと起きてたの?」

かみさんに揺すられて、目が覚める。何回かの外周警戒の後に寝てしまったようだ。時刻は0630。電力はまだ復旧していない。

「朝はコーンポタージュとパンで良い?」

「あぁ、頼むよ」

朝食が出来る前にタバコを吸おうと外に出る時だった。

パチパチパチ!っと、家にある家電類の電源が一斉に入り始めた。

電力が復旧したのだ。

「良かった。これでまともな料理が作れるわ」

かみさんがホッと安堵していた。

私は、それよりも今の状況が気になり真っ先にテレビをつけた。

画面の向こうでは、キャスターが被害状況を説明していた。

「三陸沖を震源とする地震により、東北地方は沿岸部を中心に甚大な被害を受けています!」

ここまではラジオで聞いた通りだった。しかし、次に映し出された映像に、私たち家族は言葉を失った。

そこにあるはずの家々が、跡形もなく消えている。

森林火災かと思わせるくらいに、燃え続ける街。

あまりの惨状に私は思わず、

「これは、どこかの国が爆撃でもしたのか?」

と呟いてしまった。それほど酷い状況に見えたのだ。

ニュースでは、すでに自衛隊に災害派遣命令が下達されており、順次部隊が被災地へ向かっている事を伝えていた。

映像は、先に到着した部隊の活動の様子に切り替わる。

ゴムズボンを履き、ヘドロまみれの瓦礫を手作業で撤去する隊員たち。

表情こそ分からないものの、その作業する動きから「絶対救助する!」という士気の高さが伝わってきた。

それを見て、私はかみさんに宣言した。

「もし、俺の部隊から招集命令が出たら、迷わず応じるから」




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る