第126話 祈り
神様に祈ったことがある。けれど神様は答えない。考えられる理由は三つ。
一つ目は、私の祈りが聞こえていない。きっと、私の声が小さすぎたのだろう。もっと大きい声で祈ればいいのか。声が枯れるほど叫んだというのに。握りしめた拳に爪が食い込み、血が落ちるほど声を張り上げたのだけれど。
二つ目は、祈りの内容が悪かった。私はただ、幸せを祈っただけだというのに。幸せを願うのが罪ならば、一体何を願えばいいのか。他人の死でも願えばいいのか。それならば、全員死んでしまえばいい。
三つ目は、祈りは届いていたけれど、その様を眺めて笑っていた。それならば、さぞかし愉快な見世物だろう。どれだけ尊厳を踏みにじられようと、祈り続けていたのだから。鞭うたれて絶叫する私の心が流す血は、さぞかし美味しいぶどう酒だろう。苦痛でえぐられた心臓は、どんな味がするのか知らないが。
祈りとは、時間を止める魔法である。
あるいは、未来を指向する希望である。
それは神でなく、人類による最大の発明のうちのひとつである。
そして、それは人類を神に隷属させるための鎖であり、虚構に対する永遠の盟約であり、決してとける事のない呪いでもある。
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