第101話~第110話

第101話 教室

教室にはすでに私より先に登校した生徒たちがいて、それぞれ談笑を続けている。他愛もない会話。それこそが教室へやってきた理由であるような様子ですらある。私たちは、ここに何かを学びに来たはずだが、それが何なのかは、おそらく重要ではないのだろう。教師がやってきて、各々が自分の席へつく。教師が出席を取る。私たちは返事をする。そして一日が始まる。一人欠けたことには、誰一人、触れることもなく。


ある時を境に、この教室から人がいなくなった。一人、また一人と。だけれど、私以外にはそのことを気にかける様子もなく、誰かがいなくなったことに気づいてすらいないようだった。友人だったはずの者も、毎日出席を取っているはずの教師すら何もおかしいと思わないようで、 一人ずつ人間がいなくなってゆくのがこの教室の新たな日常になっていた。私たちは談笑する。教師は出席を取る。人がひとり、いなくなる。そして、私たちは談笑する。


私はいなくなってしまった者の事を覚えている。彼らはどこかへ消えてしまった。跡形もなく。誰にも告げることなく。いったい、どこへ行ってしまったのだろうか。答えはない。私たちは談笑を続ける。教師は出席を取り続ける。そしてまた、人がひとり、いなくなる。


誰もいなくなった教室で、私は虚空を見つめたまま過ごす。いなくなった彼らの笑い声を、ときおり思い出しながら。そして、いなくなった彼らが本当にここにいたことを、ときおり、忘れそうになりながら。

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