第088話 首、鎖

雑踏を歩いていた時に、地面から伸びた鎖が左足に絡みついてきた。絶対に離さないとでもいうような強い力で私の足を締め付け、私をどこへも行かせまいとする。私は左足を取り外し、鎖にくれてやった。私は左手でショーウインドーに手をつきながら、片足のまま歩き始めた。道行く人々は時折、奇異なものを見るような眼を向けては、特に何をするでもなくどこかへ歩いて行った。新しい鎖が右足に絡みついた。私は右足も外して鎖にやった。私は這って進んだ。


右腕と左腕も鎖に絡みつかれ、同様に私はそれらを取り外した。鎖に巻き付かれた右手を何とか動かし、左腕を外し、右手は顎を使って取り外した。私は地を這いずり回る芋虫と大差ない。顔を上げても、映るのは見知らぬ誰かの足、足、足。それらはピンポン玉のように地面を蹴り、辺りを跳ね回った。


私の首に、鎖が巻き付いた。激しく締め付けられた拍子に、私の首が胴体から外れて転がった。私は空を見上げていた。首だけになった私には、誰ひとり興味を示すものはいなかった。忙しそうに行き交う足の一つが、私の頭を踏み抜いて、私の首はトマトのように潰れて、勢いよく、辺りに鮮血をまき散らした。

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