第5話 天然アイドル

「あっつ!!」

 ソラの入れた紅茶は熱湯並みに熱くて舌がヒリヒリする。これを、風雅みたいなやつがやると嫌がらせにしか感じないんだけど……。

 キッチンでお菓子を用意しているソラを見やってため息をつく。

 憎めない性格とはこのようなことなんだろうか。


 よくよく見れば、やはりアイドルとい

うだけあって容姿もかなり整っている。先程までは、怒られる!消される!としか考えられずにソラをみていたからな。 

 白い肌にはらりと落ちるサラサラした色素の薄い髪に優しくおっとりとした雰囲気の薄茶の瞳。SUNNY'Sの中で一番背が高いということもあって足も長い。

揃いも揃ってイケメンか!と内心ツッコんでいると、ソラがこちらにやって来る。

「この前、ファンの子に貰ったんだあ。すごく美味しいよお」

 間延びした口調でソラが差し出してきたのは、お皿に並べられた色とりどりの美味しそうなクッキー達。

 ピンクと白のマーブル模様のクッキーを一口頬張る。

「んーっ!めっちゃ美味しい!!」

 なんだろ、これ。桜みたいな風味と甘いミルクみたいな。

 思っていた以上に美味しくて、またお皿に手を伸ばそうとするけど……。

「うっ。なにこっちみてるのさ……」

 目の前に座るソラがジーッとこちらを見ていることに気づいて動きも止まる。

「ううん。ただ、うさぎさんみたいにモグモグ食べるから可愛いな、って」

 爽やかスマイルでそういってくるソラにそっぽを向く。

「もう食べない」

「え〜!なんでえ?」

「それより、本題だよ!マーメイドプリンスってどういう意味?」

 そうたずねた瞬間、ソラから放たれていた柔らかい雰囲気が弱くなり強い瞳でこちらをみてくる。

「莉音ちゃんはさあ、SUNNY'Sの魅力ってなんだと思う?」

「は、はあ?……」

 てっきり、人魚関係の話がくると思っていたので拍子抜けしてしまう。

「答えて?」

 優しく強い声にゴクリとつばを飲む。答えてと言われても……

「ま、まあ、みんなイケメンだし。個性あるし。なにより、全員があの歌唱力ってのはすごいと思う。」

 早口で無愛想にそういったのに、ソラはニコニコしてる。

「でしょ、でしょ〜。莉音ちゃん、よく分かってるねえ」

「……自分でいうなよ……」

「あっ、ごめんね?でも、今のは僕達が人魚だって分かってるねえ、って意味」

 あんぐりと口をあけてかたまってしまう。

 唐突に人魚の話に!?天然、末恐ろしいわ……

 プルルルル

 ソラのスマホがなる。

「はーい。うん、うん。分かったあ。今行くう」

 話終わったソラは困ったような顔で、

「これから、お仕事なんだ。あとから、お話するからね」

「え?ああ、うん」

 そうだよね。ソラだって国民的アイドルグループの一員。

 こうやって、話せているのだってきっと、私がナギの秘密を知っちゃったからで⋯⋯

「じゃ、帰るね」

 立ち上がり、傘とリュックを持つ。結局わかったのはSUNNY'Sはみんなマーメイドプリンスだってことぐらいか。

 まあ、それだけでも結構な収穫だし。

 普通だったら信じられないんだろうけど。ナギのあの姿をみてしまったからな……。

 そんなことを思いながら部屋をでて、私は玄関でローファーを履く。

「あっ、ごめんね!莉音!」

 慌ててかけてきた感じのソラは、ジャケットに手をいれてる。別に見送りとかしなくていいのに、なんて思いながら

「じゃあ、さよなら」

 そういって、ソラに背を向ける。

「なっ!……」

 唐突に手を掴まれてびっくりしている間に恋人つなぎになる。

「な、ななな、なにすんの!?」

 これでもまだ男子怖いのに、なんてことをするんだ!

「また会えるおまじない!」

 え?そうなんだ……。

 初めて知った……。リア充が恋人つなぎするのってそんな意味あったの?……そう思ったのもつかの間。

 ソラはニッコニコのスマイルで

「さっき考えた!」

という。

「……」

 やっぱり天然は苦手かもしれない。

 危うくソラの雰囲気に呑まれるところだった。

「じゃあ、ほんとにさよなら」

 強くそういって、ソラの手を振り払う。


 戸を開けると、外はかなりの晴天になっている。さっきまでの雨が嘘みたい。

「あっ……」

 そこで、風雅のことを思い出す。

 スマホを見れば、番組が始まってもう十分ほど時間は経っているが⋯⋯

 あきらめないんだからなーー!

 心の中で叫びながら、私は駆け出した。

 そんな私をソラがとても優しい瞳で見つめていたのなんて、もちろん知らない話。





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