怪味、フルーツアタック

赤井 昭

第1話始まり

とりあえず、始まりだ。 何から話そうか。

まず、僕は今年の春に入学した、高校生の陽斗はるとだ。 隣にアイスを食べているのが、幼なじみの快晴こころだ。 僕が、どうにか受かった学校をすべり止めにし、余裕で受かっている。 腹立たしい。 けれど、うらやましい。

しかし、彼女は、妄想が激しくたまに現実とごちゃ混ぜになっている。 悪い癖である。

今も、何かしら妄想している。 で、僕にあれこれ言ってくる。

その欠点を早く、治せと思う反面、何が楽しいかと心の中で叫ぶ僕。

そもそも、快晴はもう少し上の学校を狙っていた。 別に途中で成績が、落ちたわけでもない。 確か、去年の秋頃にトラブルがおきたとかで受験できなくなったと聞いている。

本当かは、実は、知らない。 クラスは別だったし、今日みたいに一緒にいたのは・・・

そうだ、去年の僕は成績上げるのに必死でほとんど会っていなかったと記憶している。

塾通いに忙しくて挨拶程度の会話、だったはずだ。 でも、うちの親がすごく心配して快晴に頼んで冬休み、マンツーマンで教えてもらった。 感謝は、している。 人に教えていても、あっさり同じ学校に受かった彼女には、やっぱりすごいな、と尊敬の念で見ている。 何が違うというのか。

あ! そう言えば福知もいたな。

家から左に曲がって3軒目の所に住んでいる。

小学4年生の夏に転校してきた、短気でケンカっ早いのが、欠点の少年だ。 理由は、教えてくれないが、下の名前、しげるで言わしてくれない。 だから、今も名字で呼んでいる。

ちなみに僕の近所(少し歩く)には、快晴の友達、天野千由ちゆが住んでいる。詳しくは、知らないが、小6の時に母親が家出したらしい。 それ以来、弟と共に父親を支えていると聞いている。

とは言え、家計が苦しく結局、進学を断念した。 父親からは、せめて高校は行ってほしいと言われていたらしい。 快晴の話しだと、半ば父親を説得して、働くことを決めた。 今、午前中は、家の事をやって午後は、駅前の食堂で働いている。 同い年で偉いと思う。

僕なんか、本当はバイトしないといけないんだが、まだ探してもいない。

その本人は、15分くらい前にベンチに座っている僕らの前を右から左へ、自転車で颯爽と通り過ぎた。 こっちには、気付いてはいなかったようだ。 だが、油断はできない。 あとから、メールで「ラブラブね、うらやましい(笑)」などとくるかもしれない。

ん? 15分? もう、そんなに時間が、経っているのか! 15分! 快晴こころの妄想話しにそんなに付き合ってるのか。

ある意味、僕は偉い。

彼女のつじつまの合わない、妄想話しにこうして付き合える。 素晴らしい、スキルだ。

快晴は、アイスのコーンまで食べると立ちあがる。 ゆっくりと伸びをする。

真新しい制服が、夕陽で眩しく見えた。

とりあえず、お開きだ。

作り笑いで僕は、返事をする。

ここまでは、いつもと変わらない日常だった。 あの時、余計な事をしなければ!

あれが、全ての始まりだったんだ。

彼女の妄想が、ある意味で悲劇をもたらしたのだ。

あれさえ、あれさえなければもう少し、平和な日常を過ごすことが、できたはずなのだ。


僕は、夢とも現実ともつかないまどろみのなか、なぜかそう思った。

あの時、何がおきたのか思いだせない。

トギレトギレの意識のなかでもがく。

まるで、海の底で必死に両手を動かして頭を海上に突き出したい。

とにかく、新しい空気を胸いっぱいに吸いたいのだ。

でも、足をつかまれたかのように全く、進まない。

もがけば、もがくほどに引きずりこまれていく。

誰も助けてくれない。

苦しい‼

助けてくれ!


こうして僕は、底に沈んでいくのを確かに感じたのだ。

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