D-Petシンドローム!

鬼影スパナ

第1話 購入・セットアップ


 『D-Petディーペット』。

 それは、2050年において爆発的ベストセラーを記録した電子ペット……一言で言えば、オモチャだ。

 電子ペットといえば、手のひらに収まるキーホルダーサイズのオモチャで、卵型や箱型の専用機器を想像する人も居るだろう。最も古いタイプの電子ペットで、一番有名なタイプだ。俺が生まれる前の話だが社会現象になったという話もあり、教科書にも載っている。

 他にも犬のロボットや喋るぬいぐるみが少しだけ流行ったこともある。電機以外のエサを与える必要のない、臭くて汚い排泄物の処理も必要ないロボットペット。これも電子ペットと言っていいだろう。


 そして今、2050年において。新たな電子ペットブームが起きていた。

 その火付け役となった製品が『D-Pet』だ。正式名称は「DigitalPratformExplorerToken」……電子の探検家、という意味らしい。


 小型3Dホログラムディスプレイを利用した、動く電子フィギュア……当初はそう呼ばれていたD-Pet。犬型、猫型、ロボット型……人型のモデルなんてものもある。2010年頃に流行した電子歌姫の影響もあり、むしろ人型の方が主流だ。

 しかしD-Petは単なる喋れるだけの愛玩用のオモチャではない。ネットワーク電子家電全盛期ともいえる現代において、D-Petは様々なデバイスを渡り歩き、探検家の名に恥じぬ活躍をする。


 具体的にさらっと言えば、冷蔵庫の残りの食材の情報を教えてもらったり、ロボット掃除機で部屋を掃除してもらったり、TVのチャンネルを変えてもらったり、電動カーテンを閉めてもらったりと色々できるってわけだ。

 応用として、冷蔵庫の食材で作れるおススメの晩御飯レシピをネットから検索してきてくれたり、クローゼットと連動して今日のおすすめコーデとかを天気予報から算出してくれたり、と、生活にお役立ちする機能がたくさんある。


 もちろん、冷蔵庫やクローゼットがネットワークに対応している必要はある。しかし最近の家電や家具はネットワーク非対応の物を探す方が困難だ。

 古いクローゼットなんかでも、カードみたいなデバイス一個を張り付けるだけでネットワーク対応にできるんだから。


 そして、D-Petは本体からスマホへ移動させて連れ歩けて、外にある公共施設でも使用できる。D-Petを使ったゲームもあり、育てたD-Petを使って戦うゲーム筐体なんてのもゲームセンターにあるくらいだ。


 で、そんなD-Pet、外見は高さ20センチのコップみたいな六角柱だ。下から3センチくらいが黒くなっており、ここに本体機能が詰まっている。上の17センチは3Dホログラムディスプレイだ。

 お値段は29800円。小学生には高すぎるこのオモチャのコンセプトは、『一家に一台、新時代の家族』だ。


  *


「さて、ついに買ってしまったぞ、D-Pet」


 俺は手元の箱を眺めた。D-Petは発売から3年経った今でも大人気で、そんな流行を俺は横目で見ていた。所詮電子データだ、何が楽しいのかって。

 けど、最近の生活はD-Petが前提になっている施設とかもあり、コンビニでDLC……追加オプションを売ってたり、電車でもスマホにD-Petを入れている人をよく見かける。D-Pet専用の販売店なんてのもあるくらいだ。


 切符の代わりにICカードが登場していつの間にか切符が廃れていったかのように、ネットワーク対応クローゼットが産まれて普通のクローゼットが無くなっていったように、今や生活にはD-Petが無ければ時代遅れなのだ。どこぞのベンチャー企業では、自分の育てたD-Petを面接に持ってこさせてD-Petと併せて面接をする、という所もあるくらいだった。


 まぁそれはさておき、箱を空ける。高さ20センチほどの6角柱。これがD-Petの本体となる。コンセントにつなげて、電源を確保だ。

 次はPCと接続。ユーザー登録をして、セットアップをするのだ。D-Pet本体の底にあるボタンを押して無線ネットワークをつなげると、俺のノートPCに専用のソフトがインストールされる。本体だけでもセットアップできるのだが、PCでセットアップしたほうがより細かい設定ができる――と、初期ロットからD-Petを持っている友人に教えてもらった。

 個人情報を入力し、パスワードを設定して、網膜認証登録、静脈認証登録……よし、これでユーザー登録は完了だ。

 次はD-Petのセットアップ。まずは見た目……3Dモデルと、AIの設定だ。犬、猫に始まり、ライオンや像などの大型獣、魚類、ドラゴンのような非実在生物やロボットのようなSFのモデルの他、別ゲームやアニメとコラボしている項目すらある。様々な項目に心揺れたが、俺は前から決めていたスタンダードな人型モデル、女の子型を選んだ。AIもそれに合わせた女の子型ベースだ。……男の1人暮らしなんだ、これくらいの潤い、求めてもいいだろう。さらに趣味全開でオプションを設定していく。

 AIの設定が完了すると、「ポーン♪」と電子音が鳴り、本体の3Dホログラムディスプレイにマネキンのような素体が表示された。サイバーチックな可愛い衣装を着ている。髪の毛の色、目の色とかも選べるのか……っと、それは本体だけの簡易セットアップでも同じだった。PCならではの、よりより細かい設定をしよう。

 設定は一応後から変更できるんだけど、発売元の本社サーバーに3Dモデルのバックアップがあるからだとかなんとかで、後々の変更には登録料がかかるんだとか。1回の変更で100円程度だけど。あ、着せ替えは無料だ。


 まずボディ。標準より少し低い身長にして、肉付きを良く健康的な感じに……胸のサイズ? 大事だよな、ここは。……大きくしよう。いや、実際に触れるわけではないんだけど。いやいやだからこそ観賞用には理想を追求すべきだ。どーん、たゆーんってのは良いよね。

 え、ちょっとまって、どこまで大きく出来るのコレ。え、まって、人の体よりおっぱいの方が大きいのにまだ大きく設定できるの? 需要あるのコレ?

 ……えーっと、G……いやFカップくらいでいいか。

 髪の毛の色は、デフォルトが青……うーん、髪型と併せて決めよう。100円かかるけど後々変更もできなくもないんだし、ここは気楽に決めるか。

 茶色い髪で、ボブカット。……おお、PCセットアップ専用のオプションでケモ耳なんてのもあるのか。ペットらしいというか、オタク的というか。耳の位置も調整できる。犬耳とうさ耳を足して2で割ったようないぬうさ耳なんてのがあったので、それを設定。頭の横に着ける感じで。

 おっ、いいな。ならあとは顔を可愛い系に弄って……うん、これならAIの方もちょっと直そうかな。AI設定の詳細を表示して操作する。

 よし、できた。最後にD-Petの名前を付けて完成……これは前から決めていた。『セツナ』と入力し、決定ボタンを押す。


 これで初期設定は終了だ。次は起動してみよう。

 





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