ロボコンガールズ

蒼原悠

0章 ──人間は考えるロボットである

Prologue







 その会場は、熱狂に包まれていた。



 巨大な空間いっぱいに満ちる、応援や歓喜の叫び声。

 そこに時折混じる、いや押し退けるように劈く、崩壊音。

 平坦に続く中央のフィールドに、たくさんの箱が積み上げられた塔が吸い込まれるように崩れ落ちていった。辺り一面には木片の残骸や、振り落とされた細かな金属部品が散らばっている。

 そんな荒涼とした景色の中を、さっきから何人もの人影が行き交っていた。そしてその先頭にいるのは、ヒトの身体の数分の一程度しかない直線的な姿の物体。


──ロボットだ。


 彼らは操縦者と、或いは動作プログラムと共にフィールド内を駆け巡り、与えられた任務をこなしていく。

 大型のハンマーのような道具を備えたロボットが塔に接近するや、その強力な腕力をそのまま塔の横腹にぶち当てた。塔が崩れ去る凄まじい轟音に、歓喜から再びわっと歓声が上がる。塔を所有していたチームががっくりと項垂れる一方、塔を崩したロボットの操縦チームは喜びに沸いている。ハンマーロボットはさらに新たな獲物を見つけ出し、守りを固めるロボットを蹴散らして塔に駆け寄ろうとした。

 ここは強いロボット、そして強いチームだけが生き残る戦場なのだ。既に多くのチームは敗北し、無念にもこのフィールドを立ち去っている。選ばれた者たちも、いつここを追い出されるか分からない焦燥感に背中を撫でられ続けている。


《おおっと! 倒れない、倒れないぞ! 無敵かと思われた『YKSK-Perry』の攻撃ロボットの攻撃を凌ぎました! あの塔はいったいどうなっているのか、傍目には全く分かりません!》


 白熱するスピーカーから、実況の怒鳴り声が鳴り響いている。

 しかしその時、声色がはっきりと変化していた。

 その声にふと耳を傾けていたフィールド上の少女は、きっと視界を前に向けた。大きくしなりながらも倒れない、かなりの高さに達した巨大な塔が、目の前にそびえていた。そこが少女の牙城だった。ハンマーロボットが攻撃を当てたが、他の塔のようには崩れはしない。

 少女の足元をロボットが何台も駆け抜ける。今は祈る事しかできないその少女は、再び塔を見上げた。




 その瞳に宿る光はゆらゆらと、燃え盛る焔のように。




 実況はまだ続いている。


《多重攻撃を必死に耐え抜く姿は、さながら不死鳥フェニックスの格闘のようです! さぁ『山手女子PHOENIX』、今度は我々にどんな打ち手を魅せてくれるのでしょうか────!》



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