第9話「わたしメリーさん……大富豪のルールは多種多様だけど「階段革命」だけは認めないの」


 ブラド領、べグラードの城下町。

 レンガ造りの家屋と工房が並ぶ街には、怒りと絶望が満ちていた。

 領主は何をやっている。暴落したアルミ通貨の補填をしろ。このままでは飢饉だ。

 街中の店から商品は消えており、主産業のガラス工房の仕事も消えつつある。


 立て続けに起きた不幸で、ブラド領は崩壊寸前。

 通貨危機と食糧危機を乗り切るには、とにかく金が必要だった。

 だが、ヴラド領には金を稼ぐ方法がない。

 主要通貨のアルミは暴落し、独占技術のアルミ錬金もクソになり、主産業のガラスは風前の灯。

 おまけに食料の在庫はゼロで、食料輸入のあてもない。

 このままでは、冬場に餓死者が出る。


 つまり、なりふり構っていられない。

 領主の幼女「ヴラ・ヴララ」は、手段を選べる余裕がなかった。

 

「ククク……九條殿、よくぞお越し下さったのじゃ」


 怒れる民衆のデモが吹き荒れる、城下町の中心にそびえ立つ古城。

 その1室に、冥介たちは案内された。

 現れた領主は、ゴスロリのドレスを着込んだ、黒髪ツインテールの幼女だった。

 城の主が現れるも、冥介の傲岸不遜な態度は変わらない。

 深々と椅子に腰掛けて、足を組んだ姿勢で言った。


「貴様が、ヴラド領の領主、ヴラ・ヴララか?」

「いかにもじゃ。もう3年、ヴラドを切り盛りしておる。じゃが――」

「ふん。終わりも近いな」


 偉そうな冥介は、純白の学ランを着ている。

 メリーさんはブレザーの制服で、井戸娘はセーラー服だ。

 それを見て、転生者のヴララは察した。


 ――こいつら、地球から来やがったに違いないっ!


 しかも、服装から察するにジャパニーズ!

 転生前の自分と同じ日本人で、しかも学生と見受けられる。

 これは……イケる。

 日本の学生は基本的に、悪人を断罪して、善人を助ける、物語展開を好む。

 単純な悪には染まらず、正義の名のもとに優越感と欲望を満たす。

 だから……きっと。

 羨望の眼差しで冥介を眺めながら、幼女な領主のヴララは言葉を紡いだ。


「お願いじゃ! どうかヴラドに融資を! 領民を救うには金がいるのじゃ!」

「ほぉ? その様子では、だいぶ金に困っているようだな」

「不甲斐ないのじゃ……山岳森林地帯と渓谷が領地の多くを占めるヴラドの財政は、アルミ錬金とガラス製品に大きく頼っておった。じゃが、それらは」

「不幸であったな。アルミの価値は暴落し、ガラス産業は壊滅し、食料倉庫街は不審火で焼け落ち、謎の商人集団に買い占められた食料価格は高騰している」

「まさに外道ね……」


 メリーさんがボソッと呟いたが、冥介も井戸娘もスルーした。

 誰が周辺一帯の食料を買い占め、誰がアルミの価値を暴落させ、誰がガラス産業をぶち壊し、誰が食料倉庫に火を放ったかなんて言わせない。

 そう、全ては不幸な偶然の積み重ねなのだ。

 まさか領地をひとつ潰すため仕掛けた、経済戦争の可能性なんてゼロだ。

 そう、たぶん、きっと。

 冥介は、井戸娘が作成した資料をめくりながら言った。


「ヴラド領をこちらで調査した結果、今年の冬はだいぶ厳しいらしいな」

「そうじゃ。食糧不足は深刻で、何の手も打てなければ万単位の餓死者が出るじゃろう」

「だろうな。成功した自治領経営で知られたヴラドは、一転して人が人を喰らうこの世の地獄に変化するだろう」

「九條殿の提示した、融資案件を拝見させて頂いた。近隣の港湾都市国家に輸送中の先物買いした食料、それら食料を運ぶ数百台の馬車、そして……」

「資金はこちらに用意した。井戸娘、見せてやれ」

「はいです」


 井戸娘が前に出て、アルミ製のアタッシュケースを開く。

 中に収められていたのは、純金とよく似た光沢を持つ金属の延べ棒だった。

 ヴララは、瞳を驚愕に見開いて言った。


「ま、まさか……」

「ヒヒイロカネの地金である。市場価値は同質量の金の300倍だ。各種金属と合金化することで様々な材料特性を持たせられるオリハルコンや、比類なき硬度を誇るアダマンタイトに並ぶ、異世界において最も希少な金属のひとつだ」

「こちらのアタッシュケースには、ヒヒイロカネの地金が10kg収められています」

「ごくり……」


 頭脳明晰な幼女は、すみやかに暗算する。

 ヴラド領の人口は60万人で、領民1人を冬の間食わすには18000G必要だ。

 つまり、108億ゴールドあれば冬を乗り切れる。


 金の相場は1g=5000Gの価値だが、アルミの暴落で若干の高騰が予想される。

 ヒヒイロカネも同水準で高騰するから、今回はグラム=5000Gで計算。


 5000×10000×300=150億G


 150億G――絶妙な融資額だ。

 暴騰した食料を買い集め、焼けた倉庫も再建し、崩壊した産業の再生費用。

 それが、推定で150億G。

 希望が見えてきたヴララは、救世主の冥介に叫んだ。


「その融資、是非と――」

ひざまずけ」


 冥介は、椅子に座って足を組んだまま言った。


「はい?」

「俺の声が聞こえなかったのか。俺にひざまずけと命じたのだ」

「……ククク」


 プライドを捨てた幼女は、床に膝をついた。

 そして、土下座でもしようと思ったら。


 椅子の上でクソ偉そうに足を組んでいる冥介は、懐からあるモノを取り出した。

 それは――

 メリーさんが言った。


「それ……練乳のチューブよね?」

「くくくっ」


 嗜虐混じりに哄笑しながら、冥介は自らの靴に練乳を垂らした。

 とろとろ、チューブから絞られた練乳が落ちていく。

 冥介の靴が、白くてドロドロとした粘液状の物体で穢されていく。

 上から目線で、幼女を見下ろす冥介は。

 床に正座した幼女に、サダスティックな声音で命じるのだ。


「舐めろ」

「……クククッ、九條殿。なにを御戯ごたわむれを……」

「俺の靴が練乳で汚れてしまった。貴様の舌で舐めて綺麗に掃除しろ」

「……できるわけないのじゃ」

「井戸娘。こたびの融資はなかったことに――」

「な、舐めさせて頂くのじゃ!」


 涙目で叫ぶヴララが、四つん這いで冥介の靴に舌を這わせる。

 白くてドロドロとした液体を、かわいい舌先でペロペロと舐めとる。


 ――んじゅる、

 ――ぺろぺろ、

 ――ちゅぴちゅぴ。


 メリーさんは、ドン引きしていた。

 井戸娘は、ニコニコそれを眺めていた。

 愉悦混じりの哄笑を浮かべる冥介は、さらなる練乳を上から注ぐ。


 上から練乳が注がれ、ヴララの黒髪と幼い顔が、白濁ミルクで汚辱される。

 恥辱に耐えるヴララは、頬を染めながらペロペロ。

 愉しげに足をペロらせる冥介に、井戸娘は柔和な笑みはそのまま言った。


「ふふふ――冥介君、ダメですよ。おイタが過ぎます」

「井戸娘よ。貴様も参加したいか?」

「はい。こんな幼い美少女を独り占めするのはズルいです」

「井戸ちゃん……どんだけ百合好きなのよ」


 メリーさんがドン引きする中で、井戸娘はヴララの前に進んで言うのだ。

 そう、パンツを脱ぎながら。

 繰り返す、セーラー服を着た井戸娘が、パンツを脱ぎながら!

 四つん這いで靴をペロる幼女の前に、パンツを膝まで下ろしながら歩み寄って!


「ヴララさん。おもてを上げなさい」

「ペロペロ……顔を上げる……………………」


 動きが「ピタッ」と止まった。

 下から見上げるように、井戸娘のスカートの中を見てしまったから。

 両性具有の都市伝説、呪いのビデオの怨霊の『アレ』を。

 ヴララは、小さなお口で絶叫した。


「な、なんか生えてるのじゃ―っ!?」


 ヴララは見た!

 井戸娘の股間から伸びる、チクワめいたモノを!

 柔らかな笑みを湛える井戸娘は、スカートの裾に手をやりながら言った。


「しゃぶりな」

「ストォォォォォ――ップ!」


 メリーさんのドロップキックが炸裂して、井戸娘は3メートルぐらい吹っ飛ぶ。


「井戸ちゃん! やっていいことと、悪いことを考えなさいよ!」

「イタタ……えへっ☆」

「井戸柄パンツを履きなさい……つーか、それどこで買ったのよ?」

「この井戸柄パンツですか? ガールズ下着メーカーを買収して、採算度外視で作らせたんですよ」

「また金の暴力を使ったのね……」

「てへっ☆ しゃぶらせるのは自重するけど、少しは楽しませてもらおー♪」


 そう言いながら、井戸娘が取り出したのは。


「……ちくわ?」

「はい。真鯛のすり身を贅沢に使った最高級品です」

「それ、どうするのよ……」

「ふふふ、こうですよ」

「も、もごっ!?」


 井戸娘は、幼女の小さなお口にちくわを突っ込んだ。

 そして、


「井戸ちゃんも、練乳のチューブを……」

「はい。北海道産の生乳を贅沢に用いた、特濃白濁の最高級ミルクです」

「その練乳、今度はどうするのよ……」

「ふふふ、こうするんですよ」

「も、もにゅふっ!?」


 井戸娘は、練乳を注ぎこむ。

 ヴララが咥えたちくわの穴に、トロトロの練乳を。


 ちくわの穴を滑り落ちる練乳は、ヴララの口内に達する。

 笑顔をそのままの井戸娘は、丸い瞳を嗜虐の楕円に細めながら言った。


「ヴララさん。練乳は飲み込まず、おくちに貯めなさい」

「むごっ……もごごっ///」


 涙目で耐えるのは、お口にちくわを咥えて、床に這いつくばる幼女。

 その円筒形の穴に、井戸娘は濃厚コクまろ白濁練乳をどんどん注いでいく。

 飲み込むなと命じたので、小さな口に練乳が溜まっていく。

 涙を流しながら、必死で耐えるヴラドは。


「べげほっ、げほっ!?」

「あらあら。はしたない領主様ですわ。床に練乳をこぼしてしまうなんて」

「うぅぅ……ひっぐ」


 黒髪ツインテールの幼女が、全身を練乳まみれにしながら泣きじゃくる。

 逃げ出したいが、逃げる訳にはいかない。

 飢えた民衆のため、ヴララは自分の心に言い聞かせた。


 耐えてやる。どんな恥辱にも耐えてやる。

 練乳なんかに負けない。白濁ミルクなんて甘くない。

 どんな辱めを受けても、どんなに穢されても、心だけは屈しない。

 ペロペロ……練乳おいひいれす。


 甘いモノには目がない幼女が、練乳に屈しかけていたとき。


 やっぱり椅子の上で足を組む冥介は、懐からあるモノを取り出した。

 ガサガサと音を立てるのは、地球産のスナック菓子。

 商品名は「にんにくチップス」、キャッチコピーは「人前で食べないで」。

 濃厚なにんにく臭を放つソレを、冥介は床にぶち撒ける。

 そして、命じるのだ。


「餌をくれてやろう。喰らうがよい」

「ひっぐ……た、食べさせて頂きますのじゃ……」


 練乳まみれのヴララは、床に散らばるハート型のポテチをパリパリ。

 美味しかったのか、嬉しそうに頬を緩める。

 パリパリ、パリパリ。


「――って、ちょっと待ってよっ!?」

「おかしいですねっ? 吸血鬼は、にんにくに弱いはずでは?」

「不可解だな。メリー、あれを使え」

「イヤよ!」

「九條冥介が重ねて命じる。アレを使え」

「イ・ヤ・!」

「井戸娘。メリーを拘束しろ」

「はいです」

「ちょっっっ!? 井戸ちゃんに抱きつか……ぎゃぁぁ! 当たってるからぁぁ! 井戸ちゃんの『ビデオ棒』がァァって、九條君っ!? あたしのスカートに手を添えて、ひぃぃぃぃぃっ!?」


 ――スカートめくりなど、花拳繍腿!

 ――スカート下ろしこそ、王者のセクハラぞ!


 冥介は、メリーさんのスカートを掴む。

 チェック柄のソレを――ザッ

 一気に足首まで、情け無用と引きずり下ろした。


「…………」

「どうだ、領主ヴララよ。メリーの『十字架柄のパンツ』を見た感想は?」

「いや、特に感想はないのじゃ……」


 おかしい。絶対におかしい。

 ヴラド領の領主「ヴラ・ヴララ」は、処女を城に集めているという話なのに。

 剣と魔法のファンタジーな世界では、吸血鬼じゃないとおかしいのに。

 でも、にんにくは食べるし、十字架は怖がらないし、ツインテールの幼女だし。

 スカートを引き上げながら。

 頬をピンクに染めたメリーさんは、幼女な領主のヴララに言った。


「ヴララさんって、吸血鬼じゃなかったの?」

「ば、馬鹿を言うでない! わっちは、高貴なる純血種オリジナルで夜を支配する吸血種の中でも誉れ高い、13公爵家で一番目の位にあるルシファード家の姫君で……」


 吸血鬼じゃないと言われて、ヴララは全力で否定する。

 顔を真っ赤に染めながら、ツインテールが揺れるぐらい全身で否定をする。


「わっちはバンパイアじゃ! それも高貴なる血統の――」

「でも、にんにく食べて――」

「わっちは数少ない古代血種オールドブラッドじゃからな……にんにくなど克服済みなのじゃ!」

「あと、よく考えたら昼間に――」

「のじゃっ!? そりは……クククッ! 聞くがよい、愚かな人間風情よ! 栄光の夜を支配するわっちは、忌まわしい陽の光を取り込むことで、英気を養う奥義を身につけ――」

「ひなたぼっこが大好きなのね。それと、十字架模様のパンツを見ても――」

「クククッ……矮小なる下僕とは異なり、高等吸血種ハイ・ブラッドのわっちは、神々のシンボルなど恐れるに……」

「ヴララさん」


 冷めた瞳のメリーさんが、とある結論を投げかけた


「あなた、中二病患者よね?」

「ギクッ!? ま、まさか」

「おもいっきし、中二病を発症してるわよね?」

「ククク……脆弱な人間には」

「思春期に発症した中二病が後に引けなくなって、今も吸血鬼のフリを――」

「ふぇぇぇ~ん!」


 メリーさんの追求で、ヴララが泣き出してしまった。

 涙を流すヴララは、領内の処女を集めていた真相を語り始めた。

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