第二章「異世界トリップの疲れからか、メリーさんは黒塗りの高級車に追突してしまう。後輩をかばい全ての責任を負った三浦に対し、車の主谷岡に言い渡された示談の条件は「この章は『なろうテンプレ』を意識しろ」で

第1話「わたしメリーさん……お兄ちゃんのヒゲ剃りで脇毛を剃ってるのは内緒なの」

「ふーん。なるほどね」


 お昼休み、高校の屋上で。

 平凡な女子高生の都市伝説――二宮にのみや 芽里メリーは、首をウンウンと上下した。


 相槌を打ちながら食べるのは、新発売の「異世界パン」だ。

 異世界原産の酵母で発酵させたパン生地が、甘酸っぱい風味の秘訣。

 甘くてちょっと酸っぱくて、まるで恋の味みたい。

 二宮にのみや芽里メリーことメリーさんは、同じクラスの男子生徒に問いかけた。


守屋もりや君が影森かげもりさんに惚れてるのは分かった。けど、なんであたしに恋のキューピットなんて頼んじゃうの?」

「二宮は、誰とでも仲良くなれるタイプだろ?」

「あの子は苦手かも。ほら、自分の殻に閉じこもってるタイプじゃん」

「あいつは素直になれない女だからな」


 メリーさんと会話する守屋は、同じクラスの男子生徒。

 守屋に呼び出されたメリーさんは、二人っきりの屋上で「影森かげもり 未央みお」の手助けをして欲しいと相談されたのだ。


 影森未央は、同じクラスの女子生徒だ。

 教室で浮き気味のクラスメイトで、どの女子グループにも属していない。


 基本的に群れる傾向にある女子の中で、一匹狼の影森かげもりはいじめの対象になっているが、タフな影森は無視や陰口を気にしてる様子はない。

 ただ孤独で、ひとりぼっちなだけだ。


 守屋に相談されたのは、そんな捻くれ女の手助けだった。

 相談内容を聞いたメリーさんは、アハハと笑いながら言った。


 ――もしかして、守屋君って影森さんのことが好きとか?

 ――片想いだけどな


 その瞬間、メリーさんの頭は真っ暗になった。

 晴れ渡った青空の下で、メリーさんは心の中で思うのだ。


 ――どうして、自分が好きになった男はバカなんだろう

 ――どうして、自分が好きになった男は気づいてくれないんだろう。

 ――どうして、自分に惚れてる女に恋愛相談なんてするんだろう。


 バカバカ、守屋君のバカ。

 だけど、


「二宮。影森の件だけど、手伝ってくれるか?」

「いいよ」


 ウソ。全部ウソだった。

 守屋君のお願いなんて、絶対に聞きたくなかった。

 影森かげもり未央みおじゃなくて、二宮にのみや芽里メリーを見て欲しかった。


 でも、言えるわけない。

 メリーさんが、今ここで守屋に愛を告白しても……彼を苦しめるだけ。

 だから、


「恋愛成就の達人、メリーさんに任せて!」


 ……嘘をつく。


 青空を眺めながら、メリーさんは「異世界パン」をかじる。

 味は甘くて酸っぱくて、だけど恋はほろ苦い。


 無理やり作った笑顔を浮かべて、制服姿のメリーさんは守屋に言った。


「守屋君。わた――」


  ――PLLLLLLL


「……ちょっと待ってね。スマフォが鳴って――もしもし、わたしメリーさん……うん。異世界の九條君だよね。分かってた……ごめんね、いま取り込み中というか青春の修羅場というか……えっ!? いきなりそんな……制服なら着てるけど……行けばいいんでしょ! つーか、ありがとう! リアルから逃げる口実ができたわ!」


 ツーツー。

 無機質な通話終了音が鳴り響く中、メリーさんは言った。


「ごめん。ちょっと異世界、行ってくるわ」

「えっ!?」


 まぶたを閉じると、涙がぽろり。

 まぶたを閉じれば、異能発動。


 ターゲットがどこにいようと、必ず背後に出現できる異能を使って。


 メリーさんは、

 九條冥介が待っている、異世界に瞬間移動した。

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