第4話「わたしメリーさん……ブラジャーを外したらハエの死体が出てきたの」


 冥介と井戸娘は、王都の市街地に到着した。

 いかにも剣と魔法のファンタジーな市街地で、それは爆走していた。


「ヒャッハァァァ! 処女はいねぇぇぇぇかァァァ!」


 上半身だけのモヒカンの美少女が、トラックを乗り回していた。

 露天が立ち並ぶ市街地の大通りを、白い軽トラックが爆走していく。

 買い物途中の庶民たちは、悲鳴を上げた。


「キャァァ! モヒカンのテケテケよ!」

「クッ、顔は美少女なのに髪型をモヒカンにするなんて……ッ!」

「下半身がないテケテケがアクセルを踏めるのは、異能とかソレ系の奇跡よ!」

「処女を店の奥に隠せ! テケテケに下半身を奪われるぞ!」


 世紀末な光景だった。

 爆走する軽トラに続いて、少女の下半身だけがまたがったバイク軍団が追走する。

 ぱらりら、ぱらりら。

 首なしライダーとか、デュラハンとか、それ系の足りない運転手ジャンルを超越していた。

 少女の下半身が運転するハーレータイプの改造バイク軍団、アクセルの操作とかゼッタイできねぇだろ!

 つーか、剣と魔法のファンタジーな世界観はどうしたっ!?


「冥介さん。あれは」

「どうやら、地球から個人輸入したオートバイのようだな」

「川崎のバルカン、ホンダのマグナ、ヤマハのドラッグスター、アメリカンバイク風の国産バイクですね……」

「信頼と実績の国産だからな」

「ただしkawary」


 冥介と井戸娘が見守る中。

 上半身だけの世紀末モヒカン美少女都市伝説――

 テケテケの狼藉は続いていた。


「ヒャッハッハッハッ! そこの露天商のお嬢ちゃん、てめぇ処女だなぁ!」

「ちっ違います! わ、わたしは、中三の時……家庭教師で大学生のお兄さんに合格祝いで……」

「うるせぇ処女! 見栄はってんじゃねぇよ!」

「バレた!?」

「てめぇの下半身、あたいが頂くぜェェ!」

「待て!」


 颯爽と現れたのは、容姿端麗な少年だった。

 腰から日本刀を引き抜いて、真っ直ぐ伸びた切っ先をテケテケに突きつける。

 群衆のざわめきにも負けない透き通った美声で、冥介は宣言した。


「貴様の悪行三昧は看過できん! 俺こと九條冥介が成敗してくれよう!」

「ギャハハハっ! あたいに歯向か」

「目標は軽トラック! 井戸娘――RPG-7対戦車ロケットをぶち込め!」

「はいです」


 井戸娘が、よいしょと円筒形の道具を肩に担ぐ。

 その円筒形の道具の先端から、


 <>― ←こんな感じの、


 対戦車榴弾が「シュボッ」と打ち出されて、

 空中に射出された弾頭は、格納された安定翼が風圧で展開して、


 <>+ ←こんな感じ


 になって、

 弾頭尾部に搭載された推進薬が燃焼をはじめて、


 <>∈- ←こんな風に


 びゅーんと、飛翔を始める。

 緩やかに回転して突き進む弾頭は、軽トラックのフロントガラスに衝突する。

 圧電素子を用いた信管が作動する。

 どかーんと、派手に軽トラは吹き飛んでしまった。

 冥介は、無感情に言った。


「片付いたか?」

「いいえ。仕留め損ないました」


 淡々と戦果を確認する二人の足元には、モヒカンのほどけた上半身だけの美少女が転がっていた。

 テケテケの脇腹に蹴りを入れながら、冥介は質問を投げかけた。


「貴様に尋ねよう。なぜ、処女の下半身を集めていた?」

「ヒャッハァ……い、言えるわけ」

「言わぬなら、貴様の爪を一枚ずつ剥がす。それでも吐かぬなら歯を一本ずつ抜く。それでも――」

「喋ります! テケテケのわたし、ぜんぶ喋ります!」


 聞き分けのいいテケテケは、恥じらいに頬を染めながらもソレを叫んだ。


「わたし、男の人とエッチがしたかったんですっっっ!!」


 しーん、と。

 大勢の庶民で溢れた露店街に、そよ風が吹き抜ける音だけが響いた。

 えんえんと泣きじゃくるテケテケは、上半身だけの体を震わせながらソレを語った。


「ひぇっぐ……テケテケだって女の子なんです……男の人に抱かれたいんです……」

「いや、無理ですよ」


 イド娘の冷めた視線は、テケテケの下腹部に向けられていた。

 おへその高さで真っ二つ、下半身はどこにも見当たらない、つまり穴がない。

 大勢の人が見守る前で、男性とエロいことがしたいと告白してしまい、穴があったら入りたいという感じで赤面するテケテケには、入れるための穴がそもそも存在しなかった。

 しくしくと泣き続けるテケテケは、悲しみに満ちた声で告白を続けた。


「ひっぐ……処女を捨てるには……わたしに適合する女の子の下半身が必要だったんです……でも、どれもイマイチで……なかなか見つからないし……学校では親友に裏切られていじめの対象にされるし……両親は喧嘩してばかりだし……先生は問題児の私をのけ者にするし……あたしが悩んでるのに誰も気づいてくれないし……だから心が荒んで……グレちゃって……レディース暴走族に参加して……異世界にトリップして……」

「処女の下半身を集めていたのか」

「はい……」

「テケテケに問おう。貴様は反省してるか?」

「ひっぐ……はい」

「さらに問おう。もう二度と悪いことはしないと誓えるか?」

「えっぐ……はい」

「なら、俺からテケテケに素敵な御褒美をくれてやる」

「え? 褒美――むぎゅっっ!?」


 タイムストップ。

 大勢の民衆で溢れた、昼間の露店街の時間が停止した。


 はっと息を呑む群衆が見つめるのは、テケテケの唇を奪った冥介。

 テケテケの上半身だけの体を抱きしめて、ディープな接吻を行った冥介の姿だった。


 まさに奇襲、一瞬の奪還作戦。

 驚きに見開かれたテケテケの瞳は、やがてエロティックにとろけていく。

 燃えそうなほど紅潮した頬は、情欲の汗で濡れていく。

 

 突然のキスは、十数秒ほど続いた。

 繋がった二つの唇が、やがて銀の唾液を糸引いて離れていく。

 はぁはぁと荒い息遣いで、テケテケは言った。


「も、もしかして……」

「今夜、テケテケを女にしてやる」

「きゅんっっっ!」


 イケメンに誘われて、純情乙女(処女)のテケテケは舞い上がった。

 どうしよう、きゃぁイケメン、マジでうそちょっっ、王子様ってほんとにいるんだぁ!

 テケテケを抱きしめる冥介は、耳元で甘く囁くのだ。


 ――今夜はお前がシンデレラだ。

 ――淫らな童話で濡らしてやろう。

 ――何度でも妊娠させてやる。

 ――細胞のひとつひとつを孕ませる。

 ――イタズラ好きの都市伝説におしおきだ。

 ――大きなちくわが欲しいんだろ。

 ――卑しいお口でおねだりしてみろよ。


「はひ……王子様のちくわ……いっぱい欲しいれす……」

「なら、城に来るんだ」


 冥介がテケテケを堕とした、その頃。

 入念にベッドルームをセッティングして、冥介の帰りを待ちわびる美少女がいた。

 この国の王女――キャロルであった。

 今夜は最高のナイトにトゥギャザーと、タンスの中で一番エロい下着を身に着けていた。

 ドキドキ気分でハートがキュンキュン☆のキャロルは知らない。

 シワを伸ばしたシーツが、自分とは別の女を満たすために使われることを。

 

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