第28話 VS.お父様でございます
あたりは張り詰めた空気に変わる_____
私はとりあえず魔流の気を纏い、補助魔法全てを一通り一回ずつ自分にかけ、拳を構える。
相手はあの二人のお父さん……それにさっきは元Sランク冒険者だとも言っていた。
その気になれば、Dランクの私なんぞ瞬殺…極至種だということを計算に入れても、少し傷を負わせられれば良い程度だと思う。
それ程に、あの人は強い。
しびれを切らしたのか、なんの合図もなしに、向こうから一気に私との間合いを詰めつつ、剣を素早く振るってきた。
剣は明らかに実戦用の剣……私がミスリルでできているとしても、この剣がもしミスリル以上でできていた場合、私は大きな傷を負わせられるだろうね。いや、技量によっては斬られる。
だが、いくら素早いと言っても私の動体視力は追いついていた。
たぶん、全速力じゃないんだね。
だからその剣の軌道から体を反らし、少々雑な姿勢から左拳を振るう。
しかし、彼は驚くべきことに空中を蹴り上げ身を翻しその拳を回避した。
何もない場所を蹴り上げられるとか、超人としか言いようがない。
そのまま空中で横に一回転した彼は、その勢いで下から上げるように斬りあげようとしてくる。
私はその剣撃を地面を転がって回避し、即座に立ち上がって体勢を立て直す。
やっと地面に着地した彼は、まるでつなぎ目がないような動きで地面を駆け、一瞬で私のが拳で攻撃しにくい場所まで潜り込んできた。
だけれど、私には足がある。
私はその懐で私の脇腹から斬ろうとしていた彼に膝蹴りをお見舞いした。
だが彼は素早く対応し、剣で直接当たるのを回避しながわざと後ろに攻撃を逃すことにより、ダメージを抑えたみたいだった。
彼と私は互いに距離をとる。
「へぇ……まさかゴーレムが脚を使うなんてな」
【私も驚きました。まさか空中を蹴るとは】
だが、今の動きは全て記憶した。
あの空中を蹴り上げる方法をリンネちゃんに教えることができるかもしれない。
「じゃ…続きだ」
【はい】
お父さんは再度、最初と同じように地面を駆け、こちらへの間合いを詰める。
しかし、先ほどよりスピードが高い。
目では追えて入るけれど、身体が対応できないかもしれない。
そう考えつつ、前に注意を向けていた矢先、突如瞬間的にさらにスピードを上げ、完全に私の視界から外れた……と、彼は思っていたんだろうか。
後ろに回り込んできているのはわかっている。
なんせ、『小石視点』があるからね。
私は彼に向かってすかさず裏拳をした。
お父さんはその裏拳を即座に剣を交差させ、ガードすることにより衝撃を抑える。
私はそのままの勢いを殺さず、彼の飛び上がっている足にめがけて蹴りを入れようとする。
だが、彼はまた空中で体勢を変更し、蹴りを回避しつつ私の頭めがけて剣を振り下ろしてきた。
仕方がない。これはかわすことは無理だ。
私は咄嗟に左手を操作し剣と頭の隙間に潜り込ませガードをした。
驚くべきことに、ミスリルでできている手に大きな傷がついた。
が、私もただやられたわけじゃない。
その剣を、操作している手で掴んだんだ。
そして剣を掴んだまま操作して、私の前方に振り下ろす。
何故か、お父さんは剣を手放なさなかった。
なんでだろ? そう私が一瞬考えた矢先の出来事だ。
彼は身をひねり、掴まれていない方の剣を私に振り下ろしながらこう言った。
「断裂鬼斬! ……………あ。」
私は咄嗟に剣を掴んでる方の手を爆発させ、彼の体の軸を動かし、少しだけその剣の軌道をずらした。
ズドシュッ_____
そう音がしたと思ったら、私の左肩は、身体から切り離されていた。
もしかしたら、初めてダメージらしいダメージ
を負ったかもしれない。
私は片腕が重く、バランスが取れなくなり膝と残っている手を地面に着いた。
お父さんはあからさまに『やっちまった』とでも言いたげな顔をしている。
「「アイリスちゃん!」」
双子は私の元に慌てて駆け寄ってくる。
二人が私の元に着いた時、お父さんは私達3人に向かって腰を低く曲げて謝った。
「ああ……す、すまない……つい、歯止めが効かなくなってしまい……お父さん……」
顔を青くして若干震えている。
このまま責任を感じさせてもかわいそうだし、少しだけ私がいかに不死身かを見せてあげよう。
【すいません、二人とも。腕を生やすので少し離れててください】
「あれをやるんだね? わかった」
「ほら、お父さんも、もう少し離れて離れて」
「ん……あ、あぁ……」
3人を私から2歩程距離を置かせ、私は地面に腰を置き、残った片手で斬られてなくなっている肩があったであろう場所に手をかざす。
そして魔流の気を纏い、リペアムを唱えた。
そこから、まるで植物の成長を何倍速にもしたかのように私の腕と手がまた復活したんだよ。
これは、昨日森の中を探索してた時に見つけたこと。
私の回復魔法に対する特技と、魔流の気と、リペアムを併用することにより、失った部位でさえ生やすことができるんだ。
骨折が治せるとかもはやその程度のレベルじゃないのは確か。
因みにその被験体はセントピーね。
腕が生えてきた様子を見て、お父さんは口を開けて驚き、お母さんはまたメモを取っている。
生えた腕と手の稼働が正常に動くかを確認し、私は立ち上がった。
【お父様、お強いですね。まだ互いに本気を出していなかったとはいえ_____】
私がそう話している最中にロモンちゃんは喋り出す。
「お父さん、相手がアイリスちゃんで何とかなったから良いけど、アイリスちゃんがもし腕を生やせないんだったら、私、お父さんのこと許さなかったから」
お父さんは娘にそうかなり冷酷に言われ、さらに肩をガクッと落とし、シュンとなった。
「ご……ごめんなさい……」
「もういいって、お父さん。アイリスちゃんはなんともなかったんだから」
【そうですよ。気にすることはございません】
「お…う」
その言葉をあとに、彼はトボトボとお母さんの元に戻って言った。
お母さんは何やら、お父さんに耳打ちをしている。
読唇を少ししてみたところ、お母さんはお父さんに『好感度だださがりね』と言っているようで、案の定、お父さんはその場で塞ぎこんでしまった。
その様子を見ていた二人は、お父さんを慰めに行った。
リンネちゃんはお父さんに飛びかかって抱きついている。
そんなことは置いといて次だ、次。
【では、次はお母様の番ですね】
「え? もう大丈夫なの? 私は別に今すぐでなくとも良いんだけど?」
MP的にも、HP的にも、今の私にはなんら問題はないだろう。
他者からしたら問題ありまくりなのかもしれないけどね。
【いえ、私のヤル気の問題でして。今だったら万全です!】
「そうなの? じゃあお願いしようかしら。ベル!」
お母さんがベルさんを呼ぶと、すぐに彼女はお母さんの元に来た。
三つの頭の大犬に戻っている。
【ン? ヤット アタシタチノ バンカ。 コムスメヨ、シヌナヨ?】
【殺しちゃダメよ……この娘はロモンの仲魔なんだから】
【アア、ソウダッタナ】
そう言いながら、彼女達は私から一定の距離をとる。
私も少しだけ移動する。
「魔人対融!」
お母さんはそう唱える。
この特技は『魔人精合』の強化番。
このシリーズの魔法は、仲魔のステータスが上がり、いちいち念話をしなくてもその通りに魔物が動くようになる代わりに、術者にも、仲魔が喰らったダメージの一部を負う技だ。
だから私は、ロモンちゃんにはこの技を一度も使わせていない。
私も先ほどと同様に、魔流の気を纏い補助魔法を1回ずつ唱える。
双方、準備は万端だ。
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