第24話 さぁ、勉強をするのでございます

 二人が眠ったから、私は家の中で、明日から二人に教える勉強の内容を決めたり、今どんな状況かを、あの娘達が使ってるという書物を見て把握したい。


 早速、計5冊の書物、いわゆる教科書の内容を見てみた。

 大まかな科目は数術、この世界の国語、歴史、地理、魔法史。


 一通り目を通しただけだけど、やっぱり特技のおかげか、書物の内容全てをすぐに理解してしまった。

 これすごいわ…頭が良くなるの効果、伊達じゃなかったね。


 それにしても、数術の内容が13歳、つまりあの子達の年齢に合ってない。

 おそらく、この世界自体の教育が遅れてるんだろうね……。大体小学3年生前半レベルだったよ。

 これで一年進んでるだって……!?


 私は、中学校2年生の前半に習うレベルの問題を、試しにまだ起きているウォルクおじいさんの前で出してみた。

 ちなみに方程式だ。

 これが本来のあの娘達のレベルの問題なんだよね、日本では。でもおそらく遅れているであろうこの世界ではどうなんだろ?

 すると、彼はそれを見てこう言った。



「ふむ……これは中々に難しい。昔、ワシの友人が数術の学者になるために受けた試験の問題の一部を見せてくれたんだが、こんな感じだったな……数字の代わりに文字を使うなど、わけがわからぬの」



 こりゃあれだよ。

 あの娘達に学者を超えさせるのも面白いかもしれない……うん、そうしよう。

 最悪、日本での義務教育終了の範囲は教えようかな。


 あと、その5つの科目以外に教えるべきものは……魔物学、植物学、人体の構造、…倫理を教えるのも面白いかもしれない。

 日常的につかえそうな物や、知っておくと世渡りが上手くいく物とかも、教えるといいかも。

 経済学とかね。


 なぜかわかんないけど、人間だった頃の記憶から、ポンポンと見た、聞いた、学んだ内容が溢れ出てくる。

 記憶力の強化や復活も特技のおかげかな?

 まぁ、これであの二人に教えるネタには困らないや。


 でも、これだけ教えたら二人とも勉強嫌いになっちゃうかもしれない。

 面白くなるように…やる気が出るように工夫もしなくっちゃ。


 じゃあ早速、この世界の事についての知識を豊富に集めないとね。

 私は、おじいさんにこの家にある本を全て見せてもらえないか頼んでみた。



「はぁ……別に良いが……一体アイリスちゃんは何になる気かね?」


 

 その問いに対する返答は適当に答えておいて、おじいさんが研究者や学者としてかき集めていた本や、まだとってあるという、二人の両親が使っていたこの世界の歴史等の教科書を全て読んで理解する作業にうつった。


 一度みただけで理解し、忘れないのはとてもいい。人類全員がこうであればいいのに。

 私は、スフェル という素早さを上げる魔法を自分に4回重ねし、読む速度を上げていった………。

 


◆◆◆



「「おはよーー」」



 私が大体、この家の蔵書を1/5近く読み終わった頃に、例の二人が起きてきた。

 私は書室から出て二人を迎える。



【おはようございます、二人とも。今日からまた、鍛錬を励みましょうね!】

「「うん!」」

【あとお勉強も。ふふふ】

「「ヒィ……」」



 鍛錬と聞いて、一瞬テンションが高くなった二人だが、勉強の二文字を提示した途端に萎縮してしまったみたい。

 そんなんじゃいかんなー。



 おじいさんが作った朝食を食べたあと、私とリンネちゃんは外に出て、木の模擬剣を両手に手にした。



「よし! アイリスちゃんが大きくなってからの初めての鍛錬だ!」



 私は、ここで昨日から考えていた一つの訓練方法を提示することにした。



【はい、では今日からもっとより技術が上がり、強さを手に入れましょう。そういうわけで……」


  

 私は自分の両手に『リンネちゃんに怪我をさせない程度でうまく剣を振るってくれ』と命令を記憶させる。


 その途端、木の剣を持った二つの手は、私を目安に、まるでリンネちゃんを囲むような陣営を取り構えた。



「えっ? えっ?えっ?」



 かなり戸惑っているリンネちゃん。

 私は説明をしてあげた。



【よろしいですか? 私の手は自分の意思とは関係なしに動かすことができるんです。つまりは私一人で片手剣二人、武闘家一人の3人分の動きができると言っても過言ではない。ですから、大人数でなおかつ強い敵を想定してこれからはこのように練習しましょう。早くうまくなるはずです】



 ふと、そう説明しながら彼女の顔を見ると、リンネちゃんはあの時のように目をキラキラと輝かせてこちらを見ていた。



「本当? 本当に強くなれる? ぼく……もっと」

【ええ、私の特技の効果も合わさって、たった3〜5日でまるで1年は毎日鍛錬し続けたかのようになるかと思われます】



 まぁ、今の言葉の半分は暗示の為に言ってるようなものだけど、実際でも数日で何年分にはなると、感覚でわかっている。



「うん……ぼく、がんばるよ!」

【その意気です! では早速始めましょう!】

「うん!」



◆◆◆



「はぁ……はぁ……すごい……」



 確かにリンネちゃんの言う通り。

 上達速度が恐ろしい……。

 昨日までのリンネちゃんとは全く違う、すでにこの1日目で。

 思ったよりも『教授の叡知』って半端がないのかもしれないよ…。


 お昼ご飯を食べた後はいつも通り、ロモンちゃんと後方支援・魔物使いとしての訓練をする。



「アイリスちゃん、私も、上級回復魔法……覚えたい!」



 ロモンちゃんがそう頼み込んできたから、私は『リペアム』『スペアラ』を教えることにした。



「ふぬ……あれ? 今までコツも何もつかめなかったのに、分かる気がする!」



 ロモンちゃんまでそう言いだしたか。

 うん、やっぱり、『教授の叡知』は割とヤバい特技なのかもしれない。


 私はロモンちゃんにわかりやすくなるように、なるように、教えていく。


 そして、夕飯前には_____



「やったー! 『スペアラ』を覚えたよ!」

「なんじゃと!?」



 リペアムは残念ながら覚えることはできなかったけれど、たった数時間でロモンちゃんは スペアラ を習得してしまった。

 これにはウォルクおじいさんも非常に驚き、『教授の叡知』の効果の凄さを認識したようだった。


 ウォルクおじいさんによれば普通、スペアラは13歳なんかじゃ覚えられるものではなく、魔物使いの中でも秀でて優秀だと言われていたらしい。

 ロモンちゃん達の母親……つまり、おじいさんの娘さんでもスペアラを習得したのは18歳の時で、それでも相当凄いらしい。

 普通の魔物使いは覚えたくても覚えられないか、習得できてもかなり頑張って20代後半なのだとか。

 さらに、回復専門の『僧侶』という職業を目指している人でも習得に半年以上はかかるらしく、13歳で習得しようものなら、そんな専門職の方々の間でも天才だと言われるのだとか。


 ロモンちゃんは飛び跳ねて喜んでいた。


 

 この日の夕飯は、私が作った。

 何故だか料理の腕が上がった気がする。


 あの二つの頭が良くなる特技……料理の腕にまで影響するのか……。

 ゆえに、今日の料理を全員が、ほっぺたを落として嬉しそうに食べていた。


 

 そして、お風呂に入り終わったら早速勉強に取り掛かった。

 密かにスフェルを二人と私に重ねがけして時間を短縮し、より多く学べるようにしてあるのは内緒。


 

「アイリスちゃん……いや、アイリス先生。お願いします!」

「今日で進化したアイリスちゃん…いや、アイリス先生の凄さが見にしみてわかりました! だから、勉強もアイリス先生の元で頑張ります!」



 二人の意気込みが今朝とはまるで違う。

 私の特技の効果をこの娘達は実感したからだね。


 先生だってさ! なんだか懐かしいような、懐かしくないような………。

 ……懐かしいってことは、私、前世は何かしらの先生とか講師とかだったのかな?


 まぁ、とにかく。

 二人には頭を良くしてもらおう!



 数分後_____



【え、嘘……】



 そう、私は思わず呟いてしまった。

 何故ならば。



「読んだだけで理解できる……」

「あれ、ここ3日かけても覚えられなかったのに…」



 二人はこの2時間半の間で、私が教えるつもりだった全15科目くらいの内、10科目を本を読ませたり私が説明するだけで1年はかかるような範囲を完璧に覚え、5科目……数術、魔物学、地理、歴史、人体の構造については一気に数年分は進んだ。

 たった2時間半でだよ?

 スフェル4回がけ、ページをめくる速さや頭の柔らかさらを上げるためにエフェルも追加で4回がけしただけなのに、ありえない速度でドンドンドンドン吸収していったの。


 義務教育レベルか、生活に役立つものまでだと考えてたんだけど、この調子だと、私達が城下町に行く前に、もしかしたら高校卒業レベル、専門分野終了レベルにはなってしまうかもしれない。


 改めて、私の知能が上がる特技、計3つを恐怖だと感じる。



「勉強って思ったより楽しいね!」

「ねー! わかんないと楽しくないけど、ここまでスイスイわかるとやる気でちゃうよ」



 私も、それはなによりだと思う。

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