第3話 探索でございます

 

 魔物を見つけ次第、殴り倒すと決めたはいいもののもう暗いんだよね。


 眠気も何もないけど、雲でそらが隠れてしまって暗くなっちゃったし、何も見えないからこれ以上移動しないほうが念のためいいかもしれない。

 道が見えなくて、踏み込んだ場所が実は崖だったなんてシャレにならないもの。


 私はとりあえず、道の端で魔物に囲まれない程度には目立たないようにしながら、長い腕になれるため、格闘技の感覚をより引き出すためにシャドウをすることにした。


 なかなかに動体視力と反射速度はついてると思うんだよね。

 私が小石のときに、わざと視界をぐるぐるさせたり、移動速度が速い物を見るようにして時間潰してたから。


 とりあえず、攻撃できる術を探すとして…。

 まず、私の身体は今は、蹴り技なんてできるようなバランスがとりやすい体じゃない。

 そのかわりに拳はすごく使いやすく、足が短いくせに、なぜか正拳突きもできちゃった。

 正直、こんな短い足でどうやって正拳突きしたかは自分でもわからないよ。蹴り技はできないのにね。


 私はそこらへんの土や石をつまみつつ、ずっと仮想の敵に向け、身体に対して長すぎる腕と大きい手を素早く振るっていた。

 なぜか体をうまくひねって勢いをつけ、ちゃんとした人間みたいに技の威力を上げることにも成功したから不思議な身体だわ、ほんとうに。


 しばらくシャドウをしてから、私は訓練(暇つぶし)の一環として岩壁を自分の全力で殴ってみる。

 ドゴッと鈍い音がして、恐る恐るその場所からてを放したら、その殴った部分がよく漫画とかである、小さなクレーターみたいなひび割れみたいな感じになっていた。

 す……スゲー!

 でも、ポロっと私の手も壊れてしまった。


 すぐにそこらへんの石と土を摂取して補強できたんだ、なんと便利な身体なんだろう。

 もう少し頑丈なら言うことなし!



 私は何時間一体腕を振り回し続けただろう。

 だんだんとあたりが明るくなってきたから、再びえっちらおっちらと歩くのを始める。


 道中、スライムに合計3匹遭遇。

 無論、昨日のシャドウと格闘技の記憶を生かして殴り飛ばす。

 私のレベルが3に上がった。


 私と同じトゥーンゴーレムともすれ違ったけど、トゥーンゴーレムは襲いかかってこなかったね、同種だからだろうけど、その温厚な性格に、思わずイイコイイコってナデナデしてあげたくなっちゃう。


 ところで、移動速度がレベルが上がって素早さが増えたからかもしれない、少し早くなってるよーな気する。


 そんな感じで魔物と石をつまみつつ暇つぶししながら歩いていたんだけど…。

 夕方少し前くらいかな?

 この脆く、動きにくい身体でも森に進入できそうなロッククライミングしたら登れそうな岩の入り組んだ壁を一面だけみつけた。


 森の中には入れば、もっと敵と遭遇できて、もっとレベルが上げられるかもしれない。

 私はその期待を込めて、必死にそのロッククライミングようにうまく配置されている岩の壁を、腕の力だけで必死に登りあがろうとする。

 5回落ち、3回身体が欠けて、6回目の挑戦でなんとか登れた。



 うーん、登ったはいいけどやっぱ高い場所だったからね、もう下には降りれない。

 しょうがないからこのままこの深く暗い、植物生い茂る森の中を進むことにするよ、



◆◆◆



 森に入って数十分。

 私はじょじょに、入ったことに後悔しつつあるんだ。


 全く、東西南北、方向がわからない。

 別に帰る場所があるわけじゃないから気にしてないんだけど、せめて方位磁石くらいはあったほうが気持ち的には楽だったかもしれない。

 同じ場所を何回もグルグル回る羽目に、いつかなっちゃいそう。

 そんな、ネガティブなことを考えながら、緑と木が生い茂るこの森の中を、暗くなる道すがら、えっちらおっちらと歩いてたんだよ。


 そしたら木の上から何者かの不意打ちがきたの。

 私は咄嗟に身体を、柔道の受け身の要領で転がして落ちてくる何かを避け、その襲ってきた何かをすぐに確認した。

 それは、大きな黒い肌をしたムカデだった。


 なんとなくなんだけど、そのでかいムカデが『なんで避けれたの!?』みたいな、驚いた顔をしてるのが面白い。

 私はすぐさま、自分の射程距離まで詰め寄り、そいつの頭部にむかって、右のフックで殴る。

 ムカデは私の攻撃を避けられず、もろにくらってノックダウンした。

 でも、経験値が表示されないからまだ死んでない。だから私はそのままそのムカデの頭に、トンカチのように拳を思いっきり振り落として潰した。



【セントピーを倒した! 経験値8を取得】

【行動ボーナス! 素早さが上がりやすくなった】


 

 ついに脳内の反応が、私が素早いことを認めてくれたみたいだね、ふっふーん!

 こうしてゴーレムらしからぬ行動をしていれば、なにかしらのステータスがあがるシステムなのかな…がんばろーっと。

 

 私はその大きなムカデの頭が潰れた気持ち悪い死体を放置して、さらに森の中を彷徨った。

 くらい……。大きな木の葉っぱが茂っているせいで、月明かりすら見えない。

 私はしょうがなく、暇だから、その場でシャドウ、あるいは鍛錬を始めた。


 数時間後、鍛錬をしている最中に、木の陰から何者かに襲撃を受けた。

 なにやら棍棒のような物で殴られそうになったけど、なんとかさばいて受け流すことができたよ。


 私はその棍棒が振るってきた敵を見てみた。

 尖った耳に長い鼻、赤い肌に小さい身体…そう、ゲームでおなじみのゴブリンさんだ。

 ゴブリンも驚いた様子で私から距離をとる。


 スライムやら、セントピーとかいうムカデやら、このゴブリンも、なんでみんなして、私を狙うんだろう……もしかして、ゴーレムって動き遅いから経験値の肥やしにされてるとか?


 あー、それだわ、多分。


 でも、私をそんじゃそこらのゴーレムと同じにしないでほしい。

 こちとら元小石だった、生粋の石なのさ!

 いや、生粋の石が他の生命体の意思を奪えるかどうかはかなり謎なところなんだけどさ。


 それにしても……こいつ、私より身長たかいなぁ…。仮にゴブリンが身長1メートルだとしたら、私の身長は80センチくらいかな?

 20センチも離れてるなんて、すこし部が悪いなー。

 

 ゴブリンは私が攻撃してこないと踏んだのか、大ぶりで手に持っていた棍棒を横打ちでかましてしてきたよ。

 ノンノン、そんな大ぶりじゃ、私は簡単に見切れちゃうんだよねん。


 素早くゴブリンの、棍棒を持っている右手首を左手でつかみ、そのまま外側にひねる。


 無理な方向に腕が捻られたことによって、ゴブリンは大勢を崩した。

 その瞬間を私は逃さず、残っている右手のフックでゴブリンの顎を撃ち抜いた。


 人型だし、人間と弱点は同じだろうと考えて、顎を狙ったんだ。

 案の定、ゴブリンは白目をむいて倒れた、

 まさか、本当に同じだとは思わなかった。


 しかし、経験値が入らない。

 私はムカデと同じようにゴブリンの喉にむかって、自分の拳を槌のように二度ほど勢いよく振り下ろした。



【ゴブリンを倒した! 経験値11を取得】

【行動ボーナス! 器用が上がりやすくなった】

【レベルが1あがり、4になった】



 せっかくだしステータスも見てみよう。



==============

トゥーンゴーレム

Lv.4


HP: 25/25

MP: 11/11

攻撃:25

魔力:9

防御:23

器用:12

素早:12

==============



 うむ、2レベルの時と比べると、中々の上昇具合だね。

 MPの使いどきが未だにわからないけど、そのうち魔法やらなんやらで使うでしょうから、放置しておこう。

 

 ゴブリンの死体は放置。

 私の目当ては彼が持っていた棍棒だよ、棍棒。

 

 私はその棍棒を手に取って素振りをし、剣のようになにか意味ありげに扱うことをしてみた。

 なかなか有用そうだし、次の実戦で使ってみようかな。


 さらに暇だった私は、棍棒を投げて遊ぶ。

 そこらへんの木を的にして、ブーメランのような投げ方で兎に角投げまくった。

 投げてるうちにだんだんと上手くなっていって、今じゃ的としていた木には、10発中9発はちゃんと当たるようになったんだよ。


 そんなこんなして、暇つぶし兼自己鍛錬をしているうちに、夜が明けて、お日様がでて明るくなって、また歩けるようになった。


 私は棍棒を手に持ったまま、風のゆくまま気のゆくままに、来た道を戻るふことにならないよう気をつけながら、先に進んでいった。

 こんな気持ちいい風がひいてるのなら、鼻歌を歌ってもいいかもしれない……あ、鼻がないから歌えないんだったちくしょう。


 昨日みたいにこのまま進んで行くと、またゴブリンに遭遇した。

 なんとなくだけど『え、なんでお前が棍棒持ってるの?』的な顔してるような気がする。


 私はそいつを棍棒で殴り飛ばした。

 ふむふむ、私も中々の棍棒さばきですな。

 武器があるのとないのとじゃそこそこ違うね。


 えっちらおっちらと、私はあてもなく進んでく。

 魔物退治楽しい。

 まぁ襲ってきたやつしか倒してないけど。



◆◆◆



 丁度お昼頃かな?

 二匹同時に現れたゴブリンを殴り倒して、レベルが5に上がった数分後、なにやら少し先から、人の声が聞こえてきたの。


 主に男の人…二人くらいの怒鳴ったり、脅したりしているような声だね。

 私は興味本意でその声がする方に行ってみた。

 今だったら人間の一人か二人くらい、不意打ちすれば倒せそうだし、襲われても大丈夫。


 好奇心は猫をも殺すって言うけれど、私はゴーレムだし、大丈夫だよね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る